321 そっか。お口は無いけどやっぱりご飯を食べるんだね
「どうしたの? ルディーン。お腹、いたくなったの?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだもん」
なんでここの実がこんなにおっきいんだろう? って調べたら、このベニオウの木が普通の植物じゃないって解ったでしょ?
だからその事を考えてて僕、ちょっとの間ぼ~っとしちゃったんだよね。
でもそれを見たキャリーナ姉ちゃんが、心配して大丈夫? って聞いてくれたんだ。
「びっくりしたの? 何に?」
「あのね、このベニオウの木は周りの魔力を吸うんだって。だからここになってる実は普通のよりおっきいし、甘くておいしいんだよ」
「魔力を吸うと甘くなるですって!?」
心配してるキャリーナ姉ちゃんを安心させるために、僕はこのベニオウの木が周りの魔力を吸って美味しい実をつけてるんだよって教えてあげたんだ。
でもね、そしたらそれを聞いたお姉ちゃんより、横でお父さんとお話してたお母さんの方がびっくりしちゃったみたい。
だからそれはどういう事なのか教えてって、僕に聞いてきたんだ。
「このベニオウの木はね、魔物とかとおんなじで魔力溜まりから出てる魔力で普通の木から魔木ってのに変わっちゃってるんだって。でもそのおかげで、魔力がいっぱいあるところほど甘くておっきな実をつけるんだってさ」
「そうだったの。だからこの木になってる実がこんなに大きかったのね」
僕のお話を聞いて、お母さんはなんでこんなにおっきな実ができてるのか解ったみたい。
だから、そっかそっかってうんうん頷いてるんだよね。
でもその横に居たお父さんは僕の話を聞いて、ベニオウの実と全然関係ない事を考えてたみたいなんだ。
「なるほど。もしかするとあれは、それが理由だったのかもしれないなぁ」
「どうしたの? お父さん。何か解ったの?」
「ん? ああ。この間俺たちが狩った幻獣だけど、最初に見つけた時はこの近くにいただろ? それが何故か、ルディーンの話を聞いてなんとなく解った気がするんだ」
「え~、どうして?」
僕たちはベニオウの実が何でおっきいのかってお話をしてただけだよ?
なのにお父さんはそのお話を聞いて、この間やっつけた幻獣を思い出しちゃったみたいなんだ。
でも何で僕たちのお話からそんなのを思い出したのか全然解んなかったもんだから、お父さんに何で? って聞いてみたんだよね。
そしたらこの場所を探知魔法で見つけた時に僕が、幻獣もお母さんとと一緒で、もしかしたらベニオウの実が大好きなのかもしれないねって言ってたのをさっきのお話を聞いて思い出したんだよって教えてくれたんだ。
「幻獣は口が無いからベニオウの実を食べるはずがない。でも攻撃を防げるって事は幽霊などと違って幻獣にはちゃんと体が、実体があるという事であり、そして実体がそこに存在している以上は、それを維持するために何かを食べなければいけないはずだろ? だから俺は、もしかすると幻獣はこのベニオウの木と同じように周りの魔力を食べていたんじゃないかと考えたんだ」
「そっか! ベニオウの実が周りの魔力を吸って大きくなるんだったら、幻獣だっておんなじように魔力で大きくなるのかもしれないもんね」
この、もしかしたら幻獣は魔力をご飯にしてるんじゃないかってお話なんだけど、それがほんとならそれはすごい発見なんだって。
魔力溜まりの穴から出てくる魔獣と幻獣だけど、このうち魔獣の方は獲物を取ってそのお肉を食べるでしょ?
だからもし一度見失っても、近くにいる魔物とか動物が普段どこにいるのかが解ってればまた見つけるのはそんなに難しくなかったんだって。
でもね、幻獣の方はご飯を食べないって思われてたから、一度見失ってどっかに行っちゃうと今まではもういっぺん見つけるのがすっごく大変だったそうなんだ。
だけどもしお父さんが考えてる通り幻獣のご飯が魔力なら、魔力が強いとこさえ解ってればまた見つける事ができるようになるかもしれないんだよってお父さんは僕たちに教えてくれたんだ。
「これに関しては、一度冒険者ギルドに報告しないといけないかもなぁ」
「確かにそうね」
もしこれがほんとだったらすっごい事だよね。
だからお父さんとお母さんは、二人して街に帰ったらギルドに行って教えてあげないとって話してるんだけど、
「ねぇ、お母さん。魔力って、魔力溜まりから出てくるんだよね?」
「そうよ、キャリーナ」
「じゃあさ、どこにもいかないでずっと魔力溜まりの近くにいればいいのに。だって魔力溜まりのとこなら、幻獣さんのご飯が一番いっぱいあるはずだもん」
「そっ、そう言えばそうよねぇ」
ところがお話を聞いてたキャリーナ姉ちゃんが、だったらなんで他の場所に行っちゃうんだろうね? って言いだしたもんだから、お父さんの考えたのは違うんじゃないかなぁ? って雰囲気に。
でもさ、僕はお父さんが言ってる事が当たってるんじゃないかなぁ? って思うんだよね。
何でかって言うと、穴から出てきた幻獣は絶対そこから離れるはずって僕は思ったからなんだ。
だってもし魔力が強いとこにずっといたいんだったら、別にこっちの世界に出てくる必要無いもん。
でもわざわざこっちに来るって事は何か理由があるからだよね?
だったらずっとあいた穴の近くにいるはずないよね? って、僕は思うんだ。
そしてこれは僕だけがそう考えたわけじゃないみたい。
「いや、例え本当に魔力を食べているとしても、出てきた穴からは離れると思うぞ」
「そうなの? お父さん」
「そうだよ、キャリーナ。幻獣はな、動物や魔物を食べる魔獣と違ってこちらの世界を探るために来ているんじゃないかと言う説があるんだ」
僕はこのお話を前にお父さんから聞いた事あるんだけど、幻獣ってホントはもっとおっきくて強い魔獣なのかもしれないんだって。
でもそんなにおっきな魔獣だと、ちっちゃな穴が開いたってこっちに来る事はできないでしょ?
だから体の一部を魔力にしてこっちに送ってるんじゃないかなぁ? って偉い学者さんたちは考えてるんだってさ。
だってそうすればちっちゃな穴だって通れるし、こないだ居たフライングアイっぽいのみたいに目ん玉だけのでも、こっちの世界を見る事はできるもんね。
「と言うわけで、こっちで存在し続けるために幻獣は周りの魔力を吸収しているんじゃないかって俺は思うんだ」
「そっか。じゃあ幻獣さんのご飯は、やっぱり魔力なんだね」
絶対にこの話が本当だって言えるわけじゃないけど、そう考えるともう一つ納得できることが出てくるんだ。
僕たちがやっつけた幻獣って、最初に見つけた時は時間をかけて歩いて行ったのにその場所から全く動いて無かったよね?
なのに次の日になったら全然違うとこに行っちゃってたからびっくりしたんだけど、あれって最初にいたこの辺りのをいっぱい食べて魔力が薄くなったもんだから、もっと濃い別のとこに移動したんじゃないかなぁ?
だってこのベニオウの木が一番いっぱい実をつけてるって事は、いつもだったらこの木の近くがこの辺りで一番魔力があるって事だもん。
だから幻獣も、ご飯がいっぱいあるここにしばらくいたんじゃないのかなぁ? って僕は思ったんだ。
「もしかしたら間違っているかもしれないが、もし幻獣が魔力を吸収して体を維持していると言うのが事実なら、これから多くの人が助かる事になる」
「そうね。ホントかウソかはきっとギルドの人たちが調べてくれるだろうし、とにかく報告だけはしなければだめよね」
こないだは僕がいたからすぐ見つかったけど、そうじゃなかったら私たちもきっと幻獣を探して森の中を歩き回らなければいけなかったものねって笑うお母さん。
でもこれを報告する事で、これからはそんな思いをする人が居なくなるかもしれない。
その可能性が出てくるだけでも、これを報告する意味はあるんだよって、お父さんも笑顔で僕たちにそう教えてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
幻獣が魔力を吸収しているかどうかは解りませんが、魔力が濃い場所を好むのは事実だったりします。
なのでこの後、この報告は事実として広く知られて行くことになり、この発見の功績としてカールフェルト家には国から報奨金が贈られることになるのはまた別のお話。
そう言えばルディーン君以外が国から報奨金をもらえるのはこれが初めてだなぁ。まぁカールフェルト家が貰うんだから、その名簿の中にはルディーン君も当然も含まれてるんですけどね。




