320 場所が無いからこんな形にしたんだよ
「あー、お母さん。お父さんたち、帰ってきたよ」
僕とお父さんが石を持って帰ると、キャリーナ姉ちゃんが両手を振りながら笑顔でお出迎えしてくれたんだ。
「おかえり! ルディーン、これが階段の石?」
「そうだよ、キャリーナ姉ちゃん。今から作るから、待っててね」
「うん! 楽しみだなぁ」
僕はお父さんに運んできた石をベニオウの木のそばまで持ってきてもらうと、フロートボードの魔法を解除したんだ。
でね、僕はそのおっきな石にクリエイト魔法をかけて、いくつかの石の塊に分けて行ったんだよ。
「あれ? ルディーン、階段を作るんじゃないの?」
そしたら、それを見たキャリーナ姉ちゃんがなんでそんな事をしてるの? って聞いてきたもんだから、僕はその理由を教えてあげたんだ。
「そうだけど僕、おっきな階段なんていっぺんに作れないんだ。だから下から順番に作れるように、石をこうやって分けとかないとダメなんだよ」
「そっか。じゃあ、さいしょは何するの?」
「えっとね、まずはこの石を使って」
僕はそう言うと、目の前の石と近くの地面に向かってクリエイト魔法をかけて細めの丸い柱にする。
でね、それとおんなじ事を木のすぐ近くであと3回、そして木からちょとだけ離れたとこでも4回繰り返して8本の丸柱を立てたんだ。
「あれ? ルディーン。階段を作るのなら、4本の柱を四方に立てないといけないんじゃないの?」
そしたらね、それを見てたお母さんがそう聞いてきたんだ。
「大丈夫! 今から作る階段の柱はこれでいいんだよ」
「そう? 間違ってるんじゃないならいいけど……」
だから大丈夫だよって僕は教えてあげたんだよ?
なのにお母さんは、ほんとに大丈夫なのかなぁ? って顔してるんだよね。
でも今から作るのをどう教えたらいいか解んないし、出来上がったのを見ればきっと解ってくれると思うから僕はそのまま次の作業に移ったんだ。
柱が立ったって事で、今度は登るための階段に取り掛かる。
でも今の僕じゃいっぺんに上までは作れないから、下からちょっと作っては新しい材料の石をフロートボードに載っけてできたばっかりの階段をのぼり、その石を使ってはどんどん続きを作っていったんだ。
「わぁ、お母さん。ルディーンの階段、くるくるしてるよ」
そしたら出来上がってく階段を見て、キャリーナ姉ちゃんが大はしゃぎ。
そりゃそうだよね。だって今作ってるのはまっすぐに伸びてる普通の階段と違って、ベニオウの木の周りをくるくると回るように登ってくって言う変な形をしてるんだもん。
そう、僕が作ってるのは螺旋階段なんだ。
だってこれだったら普通のと違って階段の幅だけの場所があれば作る事ができるでしょ?
だから僕、この形にする事にしたんだよ。
「なるほど。こんな形にするつもりだったから、柱をあんな形に建てたのね」
「確かにこんな階段を作るのなら、あれが正解なんだろうな」
さっきは大丈夫かなぁ? って顔してたお母さんもこれを見て解ってくれたみたい。
だって確かにこんな形の階段を作るんだったら柱はあの位置じゃないとねって、お父さんと二人してお話してるのが聞こえてきたもん。
下からちょっとずつ作って行った階段も、何度かクリエイト魔法を繰り返しているうちにベニオウの実がなってる枝のとこに登れるまで出来上がったんだ。
それを見たキャリーナ姉ちゃんは、僕が下まで降りてくと早速階段をのぼろうとしたんだよね。
でもそれを見た僕は、そんなお姉ちゃんを慌てて止めたんだ。
「待って! キャリーナ姉ちゃん。まだダメだよ」
「なんで? あれならもう私でも手が届くよ」
「そうだけど、あのままだと危ないもん。だからもうちょっとだけ待ってて」
確かに階段はもう、キャリーナ姉ちゃんでも手を伸ばせばベニオウの実が採れそうなくらいの場所まで伸びてるんだよ?
でもただ伸びてるだけだから、もしベニオウの実を取る事に夢中になって落っこちちゃったら大変だもん。
だからね、この階段にはまだ作んなきゃいけないものがあるんだ。
と言うわけで、僕は最後の仕上げに取り掛かる事に。
フロートボードに2個の石の塊を載っけると、出来上がったばっかりの階段をのぼって一番上へ。
そこでクリエイト魔法を使ってベニオウの木を一周する形の床を作ると、それから最後に残った石の塊にも魔法をかけてその床の周りと階段の両脇に僕の胸のあたりの高さの手すりを通したら完成だ。
「お姉ちゃん。もう大丈夫だよ」
「やったぁ!」
と言うわけでもういいよ~って上からみんなに教えてあげたんだけど、そしたらキャリーナ姉ちゃんが大喜びで階段を駆け上がってきたんだよね。
「わぁ、ここってすっごく高いんだねぇ」
でもお姉ちゃんはね、一番上までのぼってくると僕がいる場所が思ったより高くてびっくりしたのか、ベニオウの実を採るのも忘れて周りをきょろきょろ。
そして手すりの近くまで行って下をのぞき込むと、
「見て見て、ルディーン。お父さんとお母さんがあんなにちっちゃいよ。すごいね」
そう言って、まだ階段の下にいるお父さんたちに手を振ったんだ。
でもそれを見たお母さんは大慌て。
「キャリーナ。身を乗り出して手を振ったりしたら、危ないじゃないの」
「大丈夫だよ。ちゃんと落ちないように、ルディーンが手すりを作ってくれたもん」
手すりは僕の胸の辺りの高さだけど、キャリーナ姉ちゃんからするとおへそよりちょっと上のとこだから、下で見てるお母さんからすると上から手を振ってるお姉ちゃんは今にも落ちそうですっごく怖かったんだって。
だからお母さんは大慌てで登ってきて、キャリーナ姉ちゃんにダメでしょ! って怒ったんだよね。
でもそんなお母さんに、キャリーナ姉ちゃんは僕が落ちないようにしてくれたから大丈夫だよって。
でね、そんな事より早くベニオウの実を採ろうよってお母さんの袖を引っ張ったんだよね。
「もう。仕方がないわね」
それにはお母さんもちょっとあきれ顔。
でもそうしているうちにお父さんたちも階段をのぼってきたもんだから、キャリーナ姉ちゃんの言う通りベニオウの実を採る事にしたんだ。
「誰も採りに来ない場所だから、下から見ても実が多くなってるのには驚かなかったが」
「ええ。この大きさにはちょっとびっくりね」
このベニオウの木には僕が一番反応が多いとこを探して来たんだから、すっごくいっぱい実がなってるのは当たり前だよね?
でも階段をのぼって近くまで来てみたら、そのなってる実がすっごくおっきくてお父さんもお母さんもびっくりしちゃったんだ。
だってさ、商業ギルドの天幕で買ったベニオウの実はお母さんのげんこつくらいの大きさだったのに、ここになってるのは小さいのでもお父さんのげんこつよりおっきかったんだもん。
「今まで何度かベニオウの実を買った事があるけど、こんな大きいのは見た事が無いわね。もしかして入り口近くの実はある程度の大きさになると採ってしまうから、あの大きさなのかしら?」
「いや、多分違うと思うぞ。ほら見てみろ、この実はまだ熟していないようだが、それでも商業ギルドで食べたのよりはるかに大きいだろ」
お母さんは早く採っちゃうから売ってるのはちっちゃいのかなぁ? って思ったみたいなんだけど、ここになってるベニオウの実はお父さんの言う通りまだ採っちゃダメなくらい早いのでもすっごく大きいんだもん。
って事は別の理由があるはずなんだけど、それが何でなのかはお父さんもお母さんも解んないみたい。
だから二人して、ずっとお話してるんだよね。
ちっちゃいよりおっきい方がいいんだから、そんなのどうでもいいのになぁ。
それを見て僕はそう思ったんだけど、でもお父さんたちがこんな風だと気になって折角のベニオウの実がおいしくないでしょ?
だから僕、この場所を探すために食べずに持ってきた実をお母さんからもらって、それが何でなのかを両方の実に鑑定解析をかけて調べてみる事にしたんだ。
でもね、鑑定解析をかけてもこの実が売ってるのよりすっごく甘くておっきいって事しか解んなかったんだよね。
「という事は木の大きさなのかしら?」
「なるほど。確かに俺たちは森の入口にある木を見た事が無いからな」
だから僕、ちょっとがっかりしたんだけど、そしたら今度はこの木がすっごくおっきいから実もおっきいんじゃないのかなぁ? ってお母さんが言ったんだ。
そっか! こんなおっきな木だから、このベニオウの実もこんなにおっきいのかも。
お母さんの話を聞いた僕は、きっとそうだよって思って今度はベニオウの木の方に鑑定解析をかけてみたんだよ?
ベニオウの木
吸収した魔力を養分にして実をつける魔木。
その実は生育する場所の魔力が強いほど大きく育つ上に甘さや栄養価もより高くなり、また内包する魔力量もそれに比例して大きくなるので、その実を取り込んだ生物の体を強くする作用も魔力が強い場所で育ったものほど高くなる。
「えっ!?」
そしたらその結果を見た僕は、すっごくびっくりしちゃったんだよね。
だってさ、このベニオウの木は普通の植物じゃなかったんだもん。
でもそっか。ここは森の入口より魔力が強いはずだもん。
だからこの木には、こんなにおっきな実がいっぱいなってたんだね。
読んで頂いてありがとうございます。
ベニオウの木の説明に魔木と出ていますが、別にこれはトレントなどのような木の魔物と言うわけではありません。
魔力というものは動物を魔物に変えるだけじゃなく、生えている薬草をさらに薬効の高いものに変えたり、より生命力の強い植物に変えたりします。
要はこのベニオウの木の場合、本来は桃や李のような実をつけるはずの木が魔力を長期間浴びる事でより甘い実をつける植物に変質していると言うだけだったりします。
まぁ簡単に言うと、魔木は魔力によって強制的に品種改良されてしまった植物と言ったところかな?




