314 そんなに高い果物があるんだ……
「これよこれ、これを探してたのよ」
露天商のおじさんに、ベニオウの実が商業ギルドの天幕で買えるよって教えてもらった僕たちは、さっそく買いに行ったんだよね。
そしたらほんとに売ってたもんだから、お母さんはすっごく嬉しそう。
「それを頂きたいんですけど、おいくらですか?」
「ベニオウの実ですか? こちらでは単品では扱っていないので、6個1組になりますが、よろしいでしょうか?」
と言うわけで、さっそくお母さんは商業ギルドのお姉さんに、これいくら? って聞いてみたんだけど、そしたら6個ずつでしか買えないけどいい? って逆に聞かれちゃったんだ。
「ええ、いいですよ。で、おいくらです?」
「えっと、本当によろしいのですか? 7人でお越しのようですが?」
どうやら商業ギルドのお姉さんは、6個からしか買えない事より、僕たちが7人いるから1個足らないんじゃないの? って思って聞いてきたみたいなんだよね。
でもそう言えば、確かに6個だと一人食べられなくなっちゃうよね?
だから僕、1人1個じゃなくって、6個を切ってからみんなで分けるのかなぁ? って思ったんだ。
「ああ、大丈夫ですよ。12個買いますから」
ところがお母さんはそんな気、全くなかったみたいなんだよね。
だって僕たち7人しかいないのに、12個も買うって言いだしたんだもん。
これには商業ギルドのお姉さんもびっくり。
「12個も買われるのですか? あまり安いものではありませんけど?」
「ええ、解ってますよ。それで、おいくらなんです?」
どうやらベニオウの実はちょっと高いらしくって、商業ギルドのお姉さんはホントにそんないっぱい買うの? って思ったみたい。
でもお母さんが高くても買うよって言ったもんだから、お姉さんはいくらなのか僕たちに教えてくれたんだ。
「6個で銀貨12枚ですから、2セット買われるという事で銀貨24枚になります」
でもね、これを聞いた僕やお兄ちゃん、お姉ちゃんたちはすっごくびっくりしちゃったんだよね。
だってさ、6個で銀貨12枚って事は1個で銀貨2枚、200セントもするって事だよ? いっくら高いって言ったって、まさかそんなにするなんて僕たちは思ってなかったんだもん。
だからそんなびっくりしてる僕たちを見て、商業ギルドの姉さんはちっちゃな声で、
「やっぱり驚くわよねぇ」
なんて言ってたんだよ。
「解りました。支払いは冒険者ギルドのギルドカードでいいですか? それとも金貨で払った方がいいですか?」
けどお母さんがそれでいいから買うよってあっさり言ったもんだから、今度は商業ギルドのお姉さんがびっくりしちゃったんだ。
僕たちや商業ギルドのお姉さんがびっくりしてるのは、普通に考えたら当たり前なんだ。
だってそんな高い食べ物なんて僕、お母さんたちと周った露店街や前にお父さんと行った商会が並んでるとこでも売ってるとこ見た事ないもん。
例えばそうだなぁ、セリアナの実ってあるでしょ?
あれを露店で買うと、1個で50セント、銅貨5枚で買えちゃうんだ。
でもね、それだって普段お家で食べてるご飯より高いんだよ?
そう考えると、このベニオウの実がどんだけ高いか解るよね。
「お母さん、そんなに高いの、買っていいの!?」
「あら、買うためにここに来たんだから、当たり前じゃない」
「でも、1個銀貨2枚って……それって確か、大きなチーズの塊が1個買えるくらいの値段じゃないか!」
僕やお姉ちゃんたちはびっくりして固まってたんだけど、お兄ちゃんたちは違ったみたい。
ベニオウの実のお値段を聞いたディック兄ちゃんは、それがどれくらいの価値があるのか解ってるの? ってお母さんに言ったんだよね。
でも、お母さんはそのために来たんだから、買うに決まってるでしょ? だって。
そしたら今度はテオドル兄ちゃんが、ベニオウの実1つでおっきなチーズが買えちゃうよ? って言ったんだけど、
「値段を聞いて驚いたのは解るが、別に払えない金額でもないだろ?」
それを横で聞いてたお父さんが、お兄ちゃんたち二人に不思議そうな顔して聞いてきたんだ。
「それに村でお前たちが食べてるルディーンのお菓子、あれだってもし金を払って食べたらそんな値段じゃ買えないからな」
その上、こんな事を言い出したもんだから、みんなの目が一斉に僕の方へ。
だけど、そんなの僕だって初めて聞いたんだよ?
だからほんとにそうなの? ってお母さんに聞いてみたんだけど、そしたらそんなの当たり前じゃないのって言われちゃった。
「ルディーン。あなたの作るお菓子にはすべてお砂糖が使われてるでしょ? 確か前にお砂糖がいくらするか教えたはずだから、そんなの解ってると思ってたのに」
「そう言えば、ルディーンのお菓子ってみんなとっても甘くておいしいもんね。おさとうだっていっぱい使ってないとおかしいよ」
そのお話を聞いたキャリーナ姉ちゃんも、そう言えば僕のお菓子はお砂糖をいっぱい使ってるね、だって。
でもそっか。
僕、魔法で魔石からお砂糖を作れるからあんまり考えてなかったけど、お店で買うとお砂糖って1キロで金貨2枚もするんだっけ。
でね、どうやらお兄ちゃんたちもお砂糖の値段を知ってたみたいで、それを聞いたら、
「確かにそう考えると、お母さんなら果物にこれくらいのお金を出してもおかしくはないか」
「そうだね。お母さん、甘いものが大好きだし、前にルディーンが雲のお菓子を作る魔道具をお母さんでも使えるようにしちゃったもんだから、今じゃルディーンがいない時でも作ってスティナちゃんと一緒に食べてるもんなぁ」
こんなこと言って納得しちゃった。
「そう言えばこないだ行ったお菓子屋さんで食べたのだってもっと高かったわよね」
「そうなの? わたし、おいしそうなお菓子ばっかり見てたから知らなかった」
それにね、お姉ちゃんたちも前に食べたお菓子の方が高いんだから、お母さんならこんなの買って当たり前だよねってニコニコ。
「そうでしょ? だからハンスの言う通り、驚くような事じゃないのよ」
でね、そんなみんなを見て、お母さんもそう言って笑ったんだよね。
でもそんな中で、
「冒険者みたいな恰好してるのに、お砂糖を使ったお菓子を普段から家で食べてるなんて……この人たち、何者なの?」
商業ギルドのお姉さん一人だけが、最後までずっとびっくりしたお顔のまんまだったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
おかしい? もうちょっと違う話になるはずだったのに。
と言うか、ベニオウの実なんかさっさと手に入れて森へ戻るはずだったのに、商業ギルドの天幕からさえ出てないよ……。
まぁ、話が先に進まないのはいつもの事なんですけどね。
さて、せっかく話題に出てきたので物価についてちょっと説明を。
この世界では食べ物の値段がそれほど高くありません。
と言うのも、もしルディーン君たちの住んでいるグランリルの村の人たちの生活水準に合わせてしまうと、ほとんどの人たちが食べ物を買えなくて飢えて死んでしまうからなんですよね。
だから代表的なものの値段で表すと、
露店で売られている卵を産まなくなった
鶏の串焼き 鉄貨3枚
エール一杯 銅貨3枚
パン一塊 銅貨5枚
チーズ一塊 銀貨2枚
こんな感じになります。
だいたいパン一塊あれば、食べ盛りのお兄ちゃんズやハンスお父さんがいるルディーン君ちでも1日分が賄えるくらいかな?
この世界のパンは我々が食べているものと違って、ぎっしり詰まっているのでこれくらいで済んでしまうんですよ。
そう考えると、ベニオウの実がいかに高いかが解りますよね。




