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28 冒険者ギルドの賑わい


 次の日、僕たちは朝食を取った後、冒険者ギルドへと向かった。

 昨日はもう遅かったからする事ができなかった、僕の冒険者ギルド登録のためだ。


「ふわぁぁぁぁぁ」


 とその途中、僕は歩きながらつい大きなあくびをしてしまった。前日、錬金術の事で普段より遅くまで起きていたから少し眠いんだよね。


 僕、本当はもうちょっと寝ていたかったんだけど、お父さんが言うには昼からは何かやる事があるらしいからあんまり遅くなるわけにもいかないんだって。




 外の防護壁近くにある冒険者ギルドは僕たちが泊まっている宿から結構遠くて、着くまでの間に町の様子を見る事ができた。


 僕たちが住んでいる村では日が昇ったらすぐにみんなが動き出すんだけど、どうやら街はそうでもないらしくて、宿の周りの殆どのお店が閉まっている上に通りを歩く人や行き交う馬車も殆ど無くてちょっとびっくり。


「おとうさん。まちのひとって、みんなおねぼうさんなんだね」


「はははっ、ルディーンにはそう見えるか。でもな、そんな事はないんだぞ」


 お父さんが言うには、この辺りの店がまだ開いていないのは店の人たちが仕入れの為に出かけているからなんだって。


「へぇ、そうなんだ」


「ああ。もうしばらく行けば商業地域を抜けるからな。そこまで行けばこの町の人たちも早起きして働いていると言う事がルディーンにも解ると思うぞ」


 そんなお父さんの言葉を肯定するかのように、外壁に近づいて行くほど人通りが多くなって行く。

 と同時に野菜やフルーツ、朝食を提供する露店が増えて行って街がにぎやかになり、そしてそれは僕たちが目的地に着くと同時にピークに達した。


 そのあまりの賑わいと活気に、村での生活しかしらない僕は目を白黒させる事になったんだ。


「どうだ、凄い人だろ。ここにいる人たちはみんな冒険者ギルドに仕入れに来た人たちなんだぞ」


 お父さんが言うように、冒険者ギルド周辺には多くの人たちが色々な物を買い求める為に忙しそうに動き回っている。


「昨日俺たちも村で取れた素材をギルドに売っただろう? ああして色々な所から持ち込まれた素材をギルド職員が夜の内に仕分けたり、魔物や獲物の肉を買いに来た人たちが仕入れやすい大きさや部位ごとに切り分けたりして朝に備え、それらを目当てに早朝から街の人たちが集まる。このように冒険者ギルドは依頼を斡旋していると言う役割とは別に、冒険者が持ち込んだ色々な物を街の人たちに売る拠点の一つと言う一面を持っているんだ」


 農作物や街で作られる工業製品などは商業ギルドで仕入れる事になるそうだけど、街の外から持ち込まれた一部の物や魔物なんかの素材や肉は冒険者ギルドが一手に扱っているからこんなに賑わっているんだそうな。


 要するにギルドそのものが大きな市場みたいなもので、いろいろなものが手に入るからこの人たちはここに集まってると言うわけか。


 そしてそんな人たちの相手をしているのは昨日ギルドの裏手で見た制服を来た人たちで、彼らがギルド入り口周辺に机を並べて接客し、買いに来た人たちはその場所でお金を払うと、なにやら数字が書かれた札を受け取って裏手へ向かって行く。


「ほら、仕入れに来た人たちはああして注文と支払いを済ませてから裏手に回り、そこで商品を受け取ると言う方法をとる事でこれだけ多くの人が押しかけてきてもスムーズに買い物ができるようになってるんだ」


 なるほど。お父さんの話からすると、たぶん札を持ってギルド裏にいくと準備ができた順に番号を呼ばれて品物を受け取れるんだと思う。


 でもさぁ、別にわざわざ裏に回らなくても、ここで直接渡せば良いんじゃないかな? 街での買い物って普通、そうだよね。

 昨日行った本屋さんでも、その場で受け取れたし。


「うらにいくの? ここでわたせばいいのに」


 何故そんな二度手間をするのか解らない僕は素直にそんな質問をしたんだけど、お父さんは苦笑しながらその疑問に答えてくれた。


「ここに来るのはみんな商店や商会、後は市場の大店くらいだからな。ルディーン、想像してごらん。もしここにいっぱいの荷物が詰まれて、その上目の前のこの人たちがみんな馬車でギルド前に乗りつけたとしたらどうなる? みんな大口の買い物だから品物を置く場所も無ければ、それを積み込む場所も無いからそんな面倒な事をしているんだよ」


「そっか。だからみんな、ここではおふだだけをもらってるんだね」


 そう言えば昨日行ったギルドの裏には馬車置き場もあったから、みんなそこに馬車を止めてからギルド正面まで来て買い物をしてるのか。


 それなら札を渡しての買い物と言うのも納得だね。




 そんな商人たちの戦争のような光景をしばらく見物した後、僕たちは本来の目的を果す為に冒険者ギルドの門をくぐる。

 するとそこは外の喧騒とはうって変わって静か……なんて事は無く、そこもまた別の喧騒に包まれてたんだ。


 ああ別によくラノベとかのテンプレ展開である、入って来た僕たちに誰かが絡んできたりしたって訳でも、仲の悪い冒険者パーティー同士の諍いが起こってるなんてわけでもないよ。


 喧騒が起こっているのは冒険者ギルド内の一角、壁になにやらべたべたと貼られている場所周辺で多くの人たちがああでもない、こうでもないと騒いでたんだ。


「ねぇ、おとうさん。みんな、あそこでなにしてるの?」


「ああ、あそこにはギルドからの依頼書が貼られていてな、昨日受理した依頼は今日の朝張り出されるから、少しでも良い依頼を受けようと冒険者たちが集まってるんだ」


 ああなるほど、少しでも儲かる仕事を得ようと早起きして集まってるって訳か。


 僕のイメージでは冒険者って昼間からギルドに併設してある酒場でお酒を呑んでいたり、朝は遅くまで寝ていて昼ごろから行動するような人たちだと思っていたんだけど、確かにそんな生活を送っていたら良い依頼は全部人に取られて辛い仕事しか受けられなくなっちゃうか。


「薬草採取とか街の雑用、それに動物を狩ってその素材を持ってくると言うのなら常時依頼でいつもあるけど、採取は知識が無ければ儲からないし雑用はそもそも依頼料が安くて仕事もきつい。それに狩りをするにしても鳥やウサギではたいした金にならないからな」


 そっか、確かに魔物とかを狩って来て欲しいって依頼を受けたほうが、いっぱいお金もらえるだろうからなぁ。


 そう思いながら僕はなんとなく依頼書周辺の冒険者たちのステータスを調べた。

 きっとこんな大きな町の冒険者をしているくらいだから、みんな強いんだろうなぁなんて思いながらね。


「えっ?」


 ところがそこで僕は物凄くびっくりする事になる。

 だって今掲示板の前にいる人たちはそれ程強くない。いやむしろ弱いと言った方が良いような人たちばかりだったからなんだ。


 何せ結構な人数が群がっているにもかかわらずその殆どがジョブを持っていない上に、中には見習い系戦闘職でさえ2~3レベルしか持っていない人たちまでいたんだからね。

 おまけに数少ないジョブ持ちも、なんと戦士1レベルの人が二人いただけなんだよ。


 その上魔法使いや神官は見習いさえ一人もいないのだから僕が驚くのも無理はないよね? だってと言う事はだよ、あそこにいる人たちの殆どは僕はもちろん、グランリルの村に住んでいる10歳くらいの子供たちより弱いって事なんだから。


「おっ、おとうさん。あそこにいるひとたちって、もしかしてあんまりつよくないひとたちなの?」


「ん? ルディーン、よく解ったな。そうだよ、掲示板に張り付いてるのは新人やランクが低い、比較的弱い連中ばかりだな」


 お父さんがそう言うと、その声が聞こえたのか依頼書を見ていた人の内、数人が此方に振り向いて睨んできた。

 でも、すぐに壁の張り紙の方に目を向けたところを見ると、喧嘩をするよりも良い依頼を得る方が大事だって思いなおしたんだろう。


 そして睨まれたお父さんも、別にそちらを気にするでもなく話を続けたんだ。


「それにな、ランクの高い冒険者の数は少ないからそういう奴ら向けの依頼はたとえ張り出されても取り合いになる事はないし、何よりその殆どが指名依頼だからそもそもあそこに張り出される事もない。だからあの場に高ランク冒険者が足を向ける事はまずないよ」


 そっか、道理でみんな弱いわけだ。


 グランリルの村ではみんな将来魔物と戦う事になるからって8歳になると戦闘訓練を受け始めるけど、普通の村ではそんな事はやってないだろうから大人になっても弱いままでもおかしくないよね。


 前世でも空手や柔道をやっている中学生の方が、何も格闘技をやってない大人より強かったもん、あれと同じ事なんだろう。


「そういえば、おとうさんってなにランクなの?」


「ん、俺か? えっと何ランクだったっけか?」


 そう言うと、お父さんはごそごそと腰のポーチを漁って冒険者ギルドカードを取り出した。


「ああ、どうやらEランクみたいだ」


「そっか、おとうさんでもEランクなんだね」


 お父さんの戦士レベルは前に見た時から2つ上がって16レベルになっているのに、それでも冒険者ランクで言うと下から3番目なのか。


 だとするとAとかBランクの人たちって物凄く強いんだろうなぁ。

 その上のSランクの人なんか僕、どれくらいの強さなのか想像もつかないや。


 まだ見ぬ上位ランク者を想像して、僕は一度で良いから会ってみたいなぁなんて考えるのだった。



 ■



「あの親父、俺たちの事弱いだの低ランクだのと言いたい放題だったのに、自分だって駆けだしに毛が生えた程度のEランクなんじゃねえか。馬鹿にしやがって」


「おいおい、お前知らないのか? あれ、グランリルのカールフェルトだぞ」


「グランリル? って、ギルマスがいつもぼやいてるあのグランリルか!」


「ああ。この町は高ランクが少なくてこんなに苦労してるのに何故! とギルマスが酔っていつもぼやいてる、あのグランリルだ。それもあそこにいるカールフェルトはその中でも上位に入る強さらしいぞ」


「マジか。俺、喧嘩売らなくて良かった……」


 実はグランリルの大人たちは全員がCランク程度の実力を持っていて、その村の中でも上位に入るカールフェルト夫妻は近所の村人と一緒に組んでいるPTがAランク相当、ソロでもBランクに匹敵するほどの力を持っている。


 それだけに所属している高ランクが少ないイーノックカウのギルドマスターは、彼らにランク試験を受けて欲しいと度々依頼をするのだが、試験なんて面倒くさいし村での狩りには必要ないからといつも断られていた。



 冒険者ギルドではランクが二つ上の依頼までしか受ける事ができない規則になっている。


 これは冒険者が無謀な挑戦をして死んでしまうのを防ぐ為なのだが、この安全性を重視した規則がグランリルの村の者たちにB以上の指名依頼を受けさせようと考えるギルドマスターの障害になっていた。


 それだけに彼は酒を呑むたび、いつもぼやくのだ。


「あの村の奴ら、初期登録上限のEランクからまったく上げる気がねぇ。せめて後1ランク、Dランクまでで良いから上げてくれねぇかなぁ。今回なんてBどころかAランクの魔物であるブラウンボアの素材まで売りに来たってのに、Eランクって何の冗談だよ……」

 

 溜まって行く高ランクの依頼を前に、今日もギルドマスターの苦悩は続く。


読んで頂いてありがとうございます。


少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。

もし気に入ってもらえたら、続きを書くモチベーションになるので入れてもらえるとありがたいです。

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