27 錬金術と新たなスキル
僕は錬金術と言うものは鍛冶や裁縫などと同じく、技術の一種なんじゃないかって思っていた。
でも、この本を開いてそれが間違いだって気が付いたんだ。
これは技術と言うより魔法だ。
それは攻撃でも治癒でもない、どちらかと言うとドラゴン&マジック・オンライン時代に設定魔法と呼ばれていた一般魔法の一つとして考えた方が良さそうなものだった。
この本の最初に書かれていた歴史によると、錬金術と言うのはどうやらこの世界の物の全ては魔力でできていると言う考えから生まれた学問らしくて、それならばそこに含まれている魔力を動かす事により、その形を変えるのではないかと考えられ研究された過程で生まれたものらしい。
そう言えば一般魔法には魔石があれば色々な物が生み出せる創造魔法なんて物があったけど、あれもこの思想に近いんじゃないかな?
と言う事は創造魔法は錬金術の亜流と言う事なのかなぁ? いや、あっちは魔石さえあればいろいろな物が生み出せるから、向こうの方が本流なんだろうか?
まぁどちらにしても、もうちょっとレベルが上がらないと使う事ができない創造魔法と違って、低レベルでもある程度は使う事ができる錬金術の方が簡単ではあるんだけど。
話がちょっとそれちゃったね。
この世界でも錬金術はドラゴン&マジック・オンラインの時同様、物質の中に含まれる魔力を動かす事によって抽出、分解、結合、付与などを行っていろいろな事ができるらしい。
代表的なところでは植物から成分を抽出したり物から不純物を取り出したりできるし、逆に物質に別の物質を混ぜて違う性質のものを作り出したり魔力の適応性が高いものに色々な魔法を籠めたりなんて事ができるんだそうな。
今あげた方法でできる事の代表例を挙げると、ポーション作成、赤錆から酸素を取り出して鉄の塊を作る、鉄に炭素を結合して鋼を作る、魔石に色々な属性を付与して属性魔石を作ると言った所かな。
まぁ簡単に幾つかの例を挙げてはみたんだけど、当然のごとくそのどれもが同じ難易度だって訳じゃないよ。
例えば簡単な傷薬程度の下級ポーションならそれ程作るのは難しくはないけど、赤錆から鉄を作るなんてのはかなり精密に魔力を動かさないといけないから、相当熟練しないとできないんだって。
後ね、この本によると魔道具を作ったり使ったりする時にいる魔道リキッドも錬金術で作れるらしくて、その製法もこの本には書かれていたんだ。
これによると作るのは意外と簡単らしくて、魔石に魔力を流し込むと液体状になるらしいんだけど、それを錬金術ギルドで売られている溶解液で解いた後に水で一定の濃度まで薄めれば出来上がるんだって。
錬金術ギルドで買えると言う事はなんとなくこの溶解液も錬金術で作れそうなんだけど、これの作り方に関しては本には何も書いてなかったところを見るとギルドの大事な収入源だから秘密にしてるんだろうね。
まぁそれ以前にそれ程高くはないみたいだから、わざわざ自分で作るよりは買った方が早いだろうけど。
魔道リキッドは魔道具の作成にも使うし、この溶解液も錬金術でその他の物を作る時にも結構使用するみたいだから村に帰る前に錬金術ギルドによって少し買っていった方が良さそうだ。
なにせ次は何時、この町に来れるか解らないからなぁ。
いけない、また話がそれた。
この本によると錬金術を使うには自分の体の中にある魔力だけじゃなく外部の魔力を動かさなければいけないから、まずはその練習から始めるといいらしい。
その一番最初のステップとして自分の周りにある魔力を動かしてみようって書いてあるんだけど……。
「これって、ぼくがたんちにつかってるやつだよね?」
これに関してはすでに日常的に使っているくらい問題なくできるからパス。
と言う訳で次の段階へと進んだんだけど、それ以降に書かれている内容も、これって魔法使いなら誰でもできるんじゃないかな? ってくらいどれもこれも簡単だった。
だから、僕はそこで気付いたんだ。
「そういえばヒュランデルさんが、れんきんじゅつはまほうのれんしゅうになるっていってたっけ」
何の事はない、魔法使いになるための練習方法と錬金術の練習方法は殆ど同じだったと言う訳なんだ。
で、これが僕が錬金術は技術では無く魔法の一種だと考えた理由だったりする。
これならいきなり使用方法を読んでもできそうだなぁと思った僕は練習方法を全部飛ばして、錬金術を実際に使用する方法のページを読み始めた。
するとそこに書かれている内容を読んで僕はあることに気がついたんだ。
錬金術って物の中の魔力を分類してそれぞれに干渉する事によって変化させる物なんだけど、これってもしかして鑑定の一種なんじゃないかな? って。
例えば薬草には薬になる成分もあるけど、その他にも当然水分や色素などの他の成分も色々と存在するよね。
その中から薬の成分を取り出そうとすると、どの魔力がその薬の成分なのかを見極める必要があるんだ。
そしてその見分ける方法を読み進めて行くうちに、この見極める方法が僕がいつも使っている魔力を使った探知と同じ様なものなんじゃないかって考えたんだよね。
あれも当たった相手によって帰ってくる魔力が違っているからその魔力でウサギとか鳥とかの判別をしてるんだけど、これはそれを少し精密にしているだけのものだと気が付いた時に、なら探知をこの錬金術の本に書かれているような精密さで目の前のものに放ったら? って思いついちゃったんだ。
思いついたら即実行。
僕は部屋の隅に飾られている花に向かって放ってみたところ、頭にその花の成分が浮かんだ。
そう、僕がその花の名前が解らないからなのか名前の部分は????だったけど、その他の部分はまるでドラゴン&マジック・オンラインで鑑定解析スキルを使った時並みに詳しく解ったんだ。
そして。
「びっくり、スキルがついちゃった」
その状況からもしかしてと思ってステータスを開いてみた所、なんとステータスの所に鑑定解析の文字が浮かんでいた。
ゲームの知識のせいで今までスキルはそれぞれ習得できるジョブのレベルを上げないと付かないものだと思い込んでいたけど、この世界ではそうじゃないみたい。
ならもしかすると他にもスキルを得るヒントがあるんじゃないかって考えた僕は、それから錬金術の本の色々な所を斜め読みし続けたんだ。
そしてある時、ふと思い立つ。
うがぁ、僕はなんでこんなに錬金術の探求をしてるんだよ。
僕がしたいのは錬金術で植物油を手に入れてマヨネーズを作りたいだけなのに。
我に返った僕はその方法を求めて抽出のやり方が書かれた場所を部分を熱心に読んだ。
その結果得られた結論は……。
この世界の人たちって、この世界の植物に油がある事が殆ど知られていないんじゃないかって言う信じられない事実だった。
だってどこにも書いてないんだよ、油についての記述が。
錬金術の抽出って物凄く便利で、この方法なら普通に絞ったりするより遥かに効率よく油を取り出すことができるはずなのに、そのやり方が書いてないなんて知らないとしか思えないんだよね。
そして何より僕がそう感じた理由は、この本に花の香りの抽出法とその使い方が書いてあった所を見つけたからなんだ。
なんだよ、動物の脂から匂いを抽出して、その後抽出した花の香りを結合するって。
そんな面倒な事をしなくても植物の香りは精油に含まれているんだから、その精油を取り出せばそれですむ事なのに。
実際本屋ではヒュランデルさんが植物の種から採った油に花の香りをつけるって言ってたもん。
でもその方法が書かれていないって事は、それがこの世界では一般的ではないって事なんだって思うんだ。
この部分を読んだ瞬間、僕はこの本から油を取り出す方法を見つけ出すのをやめた。
きっとヒュランデルさんが植物にも油が含まれていることを知っていたのはエルフだからで、多分他の人たちはお母さんと同じで油は動物から採るものだって考えてるんじゃないかなぁ? ならいくら探したって載っているはず無いもん。
でもあきらめるのにはまだ早い、だって僕には新しく手に入れたスキルがあるんだから。
僕はまず錬金術の本に書かれている、抽出の方法を読んだ。
「うん、これならいまのぼくでもできるはず」
幸い植物の成分の一部を取り出すのは一番の初歩にあたるらしくて、今の僕にでもできそうだった。
だから僕は期待に胸を膨らませながら、さっき手に入れた葡萄の種に含まれている油の魔力を鑑定解析で調べて、僕の分とお父さんの分とで小さな山になっているその種から初めての錬金術で油を抽出したんだ。
……僕のマヨネーズ計画は更に遠のいた。
こんなにいっぱい種があるのに、まさかそこからたった1~2滴分位の油しか取れないだなんて僕は思いもしなかったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
因みに植物油の存在を殆どの人が知らないのではないかと言うのはルディーンが考えているだけで、実際は魔物から油を採る方がはるかに効率的なので、この世界では一般的ではないと言うだけの話だったりします。
現代のように機械で広い農地を耕せるわけではないこの世界では、魔物で代用できる菜種などの油を絞る作物よりも麦などの主食を作る方がお金になるし、いざと言う時の食料にもなるので。
少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。
もし気に入ってもらえたら、続きを書くモチベーションになるので入れてもらえるとありがたいです。




