291 お薬の中には、毒から作る物もあるんだって
僕、さっきまではポイズンフロッグは魔物だから寝ないかも? って思ったんだけど、ブルーフロッグと一緒に寝ちゃったもんだから、びっくりしたんだよね。
でも寝ちゃったおかげで、お母さんの弓でやっつけなくても、お父さんの剣や僕の魔法で3匹のポイズンフロッグは簡単に狩る事ができたから大助かり。
だってお母さんが使ってる矢はロングボウ用の長い奴だから、普通のより高いんだよ。
だから使わずに済むんなら、絶対その方がいいんだ。
「ねぇ、お父さん。この寝てるブルーフロッグはどうするの? 一緒にやっつける?」
「いや。寝てるとは言え、流石にこれだけの数を俺たちだけで狩るのは時間がかかりすぎる。それにな、狩っても持って帰れないだろ?」
「そっか。まだこれからもいっぱい狩らないとダメだもんね」
冒険者ギルドで防具を入れて持ってきたマジックバッグ、あったでしょ?
実は、ルルモアさんがあれを僕たちに貸してくれたんだよね。
なんでかって言うと、狩ったポイズンフロッグを全部持って帰ってきてほしいからなんだって。
ポイズンフロッグはブルーフロッグが魔力溜まりの影響で変質しちゃった魔物だから、素材の性質はとってもよく似てるんだ。
でもブルーフロッグと違ってポイズンフロッグは魔物でしょ? だから似てはいるけど、その素材はみんなすっごく丈夫になってるんだよね。
たとえば皮だと、柔らかいのはブルーフロッグん時と変わんないから防具には使えないんだけど、高いお酒とかを樽に入れられないくらいちょこっとだけ遠くに運ぶ時なんかは丈夫なポイズンフロッグの皮で作った水袋じゃないとダメなんだって。
だって壺とか瓶だと割れちゃうかもしれないし、ブルーフロッグの皮袋だと破れちゃうかもしれないでしょ?
でも、ポイズンフロッグの皮は刃物でもそう簡単に穴を開けられないから、安全に運べるんだって。
それに刃物を通さないんだからポイズンフロッグの皮を金属鎧の関節のつなぎ目に使えば、そこをナイフとかで攻撃されても大丈夫になるでしょ?
だから、水袋を作る人以外でも欲しがる人がいっぱい居るそうなんだ。
後ね、皮以外もお肉は魔力を含んでる分ブルーフロッグよりおいしくなってるそうだし、ポイズンフロッグが持ってる二種類の毒だってお薬の材料になるんだから絶対持って帰ってきてよって、ルルモアさんから頼まれてるんだよね。
「しかし、まさかこいつの毒が薬になるとはなぁ」
「あら、ハンス。知らないの? 多くの薬は毒から作られるのよ」
「へぇ、そうなんだ」
お母さんが言うには、毒って薄めたり薬草の成分と合わせるといろんな効果が出るものが多いんだって。
それにね、毒の中には時間をかけて中和する事で、すっごく栄養のあるものに変わるのまであるんだって。
「ポイズンフロッグの場合、麻痺の毒があるでしょ? その系統の毒は大怪我をした人があまりの痛みに耐えられなくて死んでしまわないようにする薬になるって、前に聞いた事があるわ」
「なるほど、確かに麻痺すると体の感覚がなくなるからな」
お父さんは昔、麻痺の毒を持ってる魔物に噛まれたことがあるそうなんだ。
でね、その時は毒が効いてくる前にやっつけたからよかったんだけど、ちょっとしたら体中の感覚がなくなってホントに大変だったんだよって教えてくれたんだ。
「大丈夫だったの?」
「ああ。俺たちは冒険者じゃなく狩人だからな。安全には常に気を配ってるし、噛まれた時点でその日の狩りは中止して街に帰ったよ。まぁ辿り着く前に全身が麻痺してしまって、最後は仲間に担がれながら街に帰還する事になってしまったけどな」
そう言ってお父さんは笑ってるけど、それって結構危なかったんじゃないかなぁ?
だって麻痺の毒だったからよかったけど、別の毒だったら街に着く前に死んじゃったかもしれないもん。
だから僕、そういう時はどうするの? って聞いたんだけど、
「いやいや、その手の毒を持ってる魔物がいる場所に行く時は、流石に毒消しポーションを持っていくに決まってるだろ」
だって。
そりゃそっか。森に入るんだから、お父さんたちなら何がそこにいるかくらい調べてくはずだもんね。
「お母さん。このポイズンフロッグの毒って簡単にお薬になるの?」
「さぁ? 流石に私もそこまでは知らないわ。けど、持って帰ればイーノックカウの薬師や錬金術師ギルドの人たちが有用な薬にしてくれるはずよ」
お父さんがマジックバッグをもってポイズンフロッグを取りに行ってる間に、僕はお母さんにさっきのお話の続きを聞いてみたんだよね。
そしたら、毒は薬を作る薬師さんたちだけじゃなくって、マジックポーションを作ってる錬金術師さんたちの素材にもなるんだよって言うんだ。
「ロルフさんたちがポーションにするの? そっか。じゃあ頑張って狩って、いっぱい持って帰らないとね」
ここで錬金術が出てくるなんて思ってなかったから僕、びっくりしちゃった。
でもそれなら魔法でいっぱい見つけて、持って帰らないとだめだよね。
「シーラ、ルディーン。回収も終わったし、そろそろ行こうか」
そう思って僕は、ふんす! と気合を入れてたんだけど、そしたらポイズンフロッグをマジックバッグに入れ終わったお父さんが帰ってきたんだ。
「ええ、解ったわ」
「はぁ~い!」
だから僕たちは寝ちゃってるブルーフロッグを放っといて、そのまま移動する事にしたんだ。
最初のとこが思ったより早く終わったからそのまま次のを探しに行っても良かったんだけど、街ではブルーフロッグの素材が手に入らなくってみんな困ってるって聞いてたでしょ?
だから僕たちはまず、ポイズンフロッグをやっつけたから入口近くの水場はもう安全だよって、森の入口にある商業ギルドの天幕まで教えに行くことにしたんだ。
「本当ですか? 助かります」
そしたら商業ギルドの人たちは大喜び。
さっそくイーノックカウの冒険者ギルドに連絡して、ブルーフロッグを狩る人たちを呼ぶって言うんだ。
「いやぁ、ありがとう。あの水場だけでもかなりのブルーフロッグがいますからね。人数さえそろえば、素材の高騰で困っていた職人たちも、これで一息つけると思います」
「それほど困っていたんですか?」
「ええ。肉に関しては他のもので代用ができますが、皮だけはブルーフロッグのものでなければどうにもなりませんからね」
普通の動物の皮ってなめしたりして硬くなることはあっても、びよ~んって伸びるようになる事はないでしょ?
商業ギルドのおじさんが言うには、別のとこにならこういう皮の動物や魔物がいるらしいんだけど、この近くにはブルーフロッグしかいないんだって。
だからポイズンフロッグが出たせいでブルーフロッグが取れなくなったって聞いた人たちが、街にあった皮を慌てて買い占めちゃったらしいんだ。
「供給が止まってしまっても、そのような革を使った製品を欲しがる人は居なくなりません。ですから当然そのような製品の値段も同じように高くなっているのですが、職人からするとまず皮を仕入れてそれをなめし、そしてそれを加工して製品に仕上げたものを納品しないとお金になりませんからね。おまけにそのお金も納品時に貰えるわけではないですから、いくら高く買ってもらえるとしても皮の高騰は死活問題になっていたんです」
それにね、最初に皮を買うお金が無いと、いっくら商人さんが品物を高く買ってくれるって言っても作れないでしょ?
職人さんはお金をもってない人が多いから、作る人が減っちゃって商業ギルドに所属してる商人さんたちも困ってたんだって。
そりゃそうだよね。品物が無かったらお金があっても買えないもん。
「ですから、たった一か所でもポイズンフロッグがいなくなったと言う情報は、私たち商業ギルドにとってもかなりの朗報なのです」
そう言って、商業ギルドのおじさんは笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
本当はもう一つくらいエピソードを盛り込むつもりだったのですが、思ったよりも話が長くなってしまったw
さて、ポイズンフロッグのせいでお肉が入らないからご飯屋さんが困ってるとか、素材が入ってこないから職人さんが困ってるって言うのは解っていたことなんですが、実を言うとそれ以上に困っていたのが冒険者ギルドと商業ギルドだったりします。
と言うのも、冒険者ギルドは冒険者がポイズンフロッグを恐れて森に入らないためにすべての素材買取量が激減してしまっているし、商業ギルドもそのせいでブルーフロッグ関連以外のものまで不足し始めているからなんですよね。
ただ、それをルディーン君たちが知る事はありません。なぜならこの二つのギルドが情報を隠しているから。
だってもしそれが広く知れ渡ってしまうと、ブルーフロッグの素材だけでなく多くの素材が値上がりして、イーノックカウの経済そのものが壊れかねないでしすよね?
もしそんな事になれば間違いなく領主が介入してくる事態になり、それ以降、両ギルドの発言力が大幅に下がってしまう事が目に見えているからです。
ルディーン君たちの来訪は両ギルドにとって、まさしく天の助けだったと言えるでしょうね。




