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286 お父さんはおすすめだよって言ったのに


 イーノックカウ大神殿の観光が終わったもんだから、僕たちは街の真ん中を守る壁んとこから外っ側の壁の近くにある商業区画へ戻ってきたんだ。


 なんでかって言うと、大神殿を見に行ってちょっと遅くなっちゃったけど、みんなでお昼ご飯を食べようよって事になったから。


 と言うわけで、どこに行こうか? って話になったんだけど、そしたらお父さんがこの近くにおいしいお店があるよって教えてくれたんだ。


 せっかく家族そろってイーノックカウに遊びに来てるんだもん。


 どうせなら美味しいものが食べたいよね?


 だからみんなして、そこに行こうって事になったんだ。


「今から行くところはな、安くてうまいから冒険者の間でも人気がある店なんだぞ」


 お父さんはね、そのお店には若いころからよく来てたんだって。


 でね、このお店はお肉を煮込んだお料理がとっても人気があって、いっつもすっごく混んでるから並ばないと入れないんだよって僕たちに話してくれてたんだ。


 けど、


「おお、あった。あそこだぞ」


「あれ? でも、誰も並んでないよ?」


 お昼からちょっと時間が経ってるからなのか、そのお店の前にはだぁれも並んでなかったんだよね。


「おかしいなぁ、普段ならこの時間でも数人は並んでるはずなのに」


 でもね、お父さんが言うには、いつもだったらこの時間でもまだ並んでる人がいるはずなんだって。


「そうなの? でもよかったじゃない。並ばずに入れるんだから」


「確かにそうだな」


 いつもとは違うかもしれないけど、お母さんの言う通りすぐにお店に入れるならその方がいいよねって事で、僕たちはそのお店に入ったんだ。


「いらっしゃいませ!」


 中に入ると、お店の人が元気よくお出迎え。


 こっちの人数を聞いて席に案内してくれたんだけど、その時に見たお店の中はお父さんが言ってたのとはちょっと違って結構すいてたんだよね。


 って事はさ、もしかしてお料理の味が変わっちゃったって事なのかなぁ?


 そう思った僕は、お父さんにこのお店の料理人さんが変わっちゃったんじゃないの? って聞いたんだよ?


「いや、そんなはずはないと思うぞ。ここは店主が料理を作ってる店だからな」


 でもね、お父さんはそんなはず無いよって言うんだ。


 それに、前来た時とお店で働いてる人がおんなじだから、店主が変わったって事もないらしいんだよね。


 だけど、だったらなんでこのお店はこんなにすいてるんだろう?


「う~ん。もしかすると、近くに別のうまい店ができたって事なのかもしれないな」


「そっか。他においしいとこがあったらそっちにもお客さんが行っちゃうもん。それだったら、この時間にお店がすいててもおかしくないよね」


 今はお昼よりかなり時間が経ってるから、ご飯を食べる人もそんなに多くないはずだもん。


 前はこんな時間でも何人かは並んでたんだよってお父さんは言うけど、それくらいの人数だったら他においしいお店が近くにあったら並ばなくなってたっておかしくないよね。


「ねぇ、そんな事より早く注文しようよ」


 僕とお父さんがそんな話をしてると、ディック兄ちゃんがお腹が減ったって騒ぎだしたんだ。


 大神殿を見て回るのに結構歩いたから、お兄ちゃんだけじゃなくって僕や他のみんなもお腹が減ってるんだよね。


 って事で早速注文。


 このお店では何がおいしいかなんて解んないから、お父さんが適当に注文して僕たちはそれを待つことにしたんだ。


 でね、そのお父さんはと言うと、


「旅行の何がいいって、昼間っから酒が飲めることだよな」


 エールって言うシュワシュワするお酒を頼んで、一足先にそれを飲み始めちゃった。


「もう、ハンスったら」


 そんなお父さんに、お母さんはちょっと困り顔。


 でも折角旅行に来てるからって、しょうがないなぁって言いながらお父さんに飲ませてあげたんだよ。



「あっ、来た!」


 ちょっと待ってたら、お料理が到着。


 テーブルに並んだのはお父さんがおすすめだって言うお肉を煮込んだお料理やお野菜を炒めたもの、それに軽くつまめる小物やぎゅっと詰まったパンを薄くスライスしたものとかなんだ。


 それとさ、お酒を飲んでるお父さん以外はみんなコップに入ったセリアナのジュースが目の前に置かれたんだよね。


 って事で、みんなで乾杯してから、お料理を食べ始めたんだ。


「このお野菜を炒めた料理、おいしいわね」


「そうね。村では食べた事ない味付けだけど、どんな調味料を使ってるんだろう?」


 最初にお野菜を食べ始めたお母さんとレーア姉ちゃんがこんなこと言ってたもんだから、どんな味なんだろう? って思った僕は、さっそく小皿に取ってパクリ。


 そしたらちょっと酸味があって、ホントにおいしかったんだよ。


「これってさ、なんか酸っぱい果物を使ってるんじゃないかな?」


「そうねぇ。油で炒めてあるはずなのに後味がさっぱりしてるし、ルディーンの言う通り果物の汁と香辛料を使って味付けしてあるのかも」


 どんな果物が使ってあるかまでは解んなかったけど、とにかくおいしかったから僕たちはニコニコしながらそのお野菜の炒めものを食べてたんだ。


「う~ん。お父さんがこれがおすすめだって言ってたけど……」


 ところが、先にお肉を煮込んだ料理を食べてたディック兄ちゃんが、急にそんなこと言いだしたんだよね。


 だから僕もそのお料理をちょっと食べてみたんだけど、そしたら味付けはすっごくおいしいんだけど、お肉がちょっと硬いって感じたんだ。


「おかしいなぁ。前来た時は、こんな肉を使ってなかったはずなのに」


 でね、お父さんも僕と一緒に一口食べてみたんだけど、そしたらやっぱり、あれ? って顔になったんだよね。


「それと硬いのもそうだが、噛んだ時の肉のうまみや脂も前に食べた時とは全然違う。でも、なぜこんな肉に変えてしまったんだろう?」


「そっか。お肉が変わっちゃったから、あんまりおいしく無くなっちゃったんだね」


 このお料理って煮込んであるお肉がメインだよね? なのに、そのお肉がおいしくなかったらお料理自体がおいしく無くなっちゃうのは当たり前なんだ。


「お父さん。前はどんなお肉が使ってあったの?」


「どんな肉かって? そうだなぁ、柔らかいんだが弾力はあってな、それに噛むと中から肉汁と脂が口に広がってとても美味しい肉だったんだぞ。そんな肉を使った料理が安く食べられたから、若い冒険者たちはみんなここに通ったんだ」


 お父さんはね、それが何の肉かまでは知らなかったんだけど、とっても安くておいしい肉だったんだよって僕に教えてくれたんだ。


 でね、そのあとお父さんは、あんまり人がいないお店の中を見渡してこう言ったんだよね。


「しかし、そうか。この料理がこの店の一番のおすすめであるからこそ、この料理にこんな肉が使われるようになっては客足が遠のくのも無理はないな」


 みんながこのお料理を食べに来てたのに、それがおいしく無くなっちゃったんならお客さんが来なくなるのは当たり前なんだよね。


 でもさ、そんな事はお店の人だって当然解ってるはずだもん。


 だからなんでこんな事になってるんだろう? って僕たちが話してたら、


「それはこの街の近くの森に、異変があったからなんですよ」


 その話が聞こえてたのか、お料理を運んでたエプロンをしたおばさんが、僕たちにそう教えてくれたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 お父さんの思い出のお店が大ピンチ!


「そうだ! オヒルナンデスヨの知識で、このお店を僕がもう一度お客さんがいっぱい来るお店にしよう!」


 こうして前世の知識を使ったルディーン君のコンサルティングが始ま……りません。


 どこぞの大ヒット貴族家八男の小説じゃないんだからw


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― 新着の感想 ―
[良い点] 旅行はいいな、昼間っからお酒が飲めるから!!! [一言] お菓子屋さんでやらかしたから こっちでも何かするのかと思ってしまったw
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