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26 この宿って本当に普通?


 この後僕は幾つかの錬金術の本を手渡されて、それをパラパラと斜め読みする事で買う錬金術の本を決め、予め買うと決めていた魔道具の本とあわせてお会計する事になった。


「魔道具の術式解説書が64万セントで錬金術の初歩~中級まで網羅した解説書が58万セントですから合計122万セント。ですが、これからの事もありますから今回は2万セントおまけして金貨120枚です」


 は? 金貨がひゃくにじゅうまい? 前世の価値で1200万円って、何それ!

 あまりの金額に、僕は頭の中が真っ白になる。

 でもそんな僕をよそに、お父さんたちは露店で串焼きでも買うかのように普通に会計を続けていた。 


「支払いは冒険者ギルド経由でよかったですか?」


「はい。金額が金額ですから当然ご利用できます」


 それを聞いたお父さんは自分の冒険者ギルドカードを取り出して、何かの魔法陣みたいな物が描かれた魔道具にかざす。するとその魔法陣が青く光だし、しばらくするとその光がフッと消えたんだ。


 よく解んないけど、この流れからすると前世で言うカード払いみたいな事が冒険者ギルドカードでもできて、この魔道具はその決済をするためのものなんだろう。


 光が消えたと言う事は、無事支払いが済んだって事かな?


「っておとうさん、きんか120まいってなに!? ほんがたかいってのはしってたけど、きんか1まいくらいじゃなかったの?」


「ん? 何言ってるんだ、ルディーン。それは普通の物語の値段だ。技術を覚えるための専門書がそんなに安い訳ないだろう?」


 なんと、僕が村の司書さんから聞いていた値段は普通の娯楽本の値段で、技術を伝えるような専門書はもっとずーっと高いらしい。


「そうよルディーン君。おまけに付けた術式記号の本は、もう内容が古くなって売る事ができなくなったと言ったでしょ? 解説書に書かれている内容は今でも多くの人たちの手によって研究され、更新し続けられているわ。そしてその研究費はこの本の売り上げから出ているのだから、どうしてもこんな値段になってしまうのよ」


 そうか、それなら高いのも解るね……って、そうじゃなくて!


「そうじゃなくて! そんないっぱいおかねつかっていいの? おかあさんにおこられない?」


「はははっ、何言ってるんだ。ルディーンの為に使ったお金だぞ、シーラが怒る筈ないだろう」


 お父さんが言うには、払える範囲であれば僕たち子供の為に使うお金に関しては相談しなくても、各自の判断で使っていいと言うことになっているらしい。


 そしてこれはちょっと先の、家に帰ってからのお話。


 お母さんに聞いて解った事だけど、僕が村にあるものより上級の魔道具の専門書を欲しがっている事はずっと前からばれていたみたいで、今回のイーノックカウ訪問を機に初めから買ってくれる予定だったそうな。

 と言う事でファミリーネームの事を黙っていたお詫びに買ってくれたと言うのは嘘だった訳なんだけど、その事をお母さんに話したところ、お父さんはこっぴどく叱られていた。


 涙目になっているお父さんはちょっと可哀想だけど、嘘はついちゃだめだから仕方ないよね。




 ヒュランデルさんに見送られて書店を出ると、日の光はオレンジ色になっていた。

 と言う事はもうすぐ夜になるということだ。


 お父さんが言うには衛星都市イーノックカウでもこの辺りは商業の中心だから街灯と呼ばれる魔法の明かりが設置されていて日が暮れても明るいらしいんだけど、普段日が暮れたら寝てしまう生活を送っている僕は起きていられる自信なんか当然ない。


 と言う訳で僕たちは『若葉の風亭』へと帰る事にした。


 夕食は宿の二階にある食堂で取れるらしいんだけど、僕たちはその前に大浴場へ。

 これは僕がご飯を食べてしまうと、多分お風呂に入らずに寝てしまうからなんだ。


 何せ午前中はずっと馬車に揺られてここまで来た上に、そのあとは冒険者ギルドへ行って最後に本屋へ行くという、普段の僕の生活では考えられないほどいろいろな経験をしてとっても疲れていたからね。


 『若葉の風亭』地下大浴場。そこは僕が想像する以上に立派なお風呂だったんだ。


 とにかく広い上に、細い滝のように上から数本のお湯が流されている場所があったり、お湯の中で壁から泡が吹き出しているような場所があったりした。

 その上寝転びながら入れるお風呂や大きな壷のような一人用のお風呂まであって、何かとても楽しそうな不思議な空間になっていたんだ。


 そしてそんな空間に興奮した僕は大はしゃぎ。


 滝のように上から流れてくるお湯を頭に受けてけらけらと笑ったり、泡の出ているお風呂のところに行ってその圧力で流されてわ~と叫んだりして、この大浴場を心の底まで楽しんだ。

 そう、寝転びながら入れるお風呂では疲れてそのまま寝そうになって溺れかけ、お父さんに怒られてしまうほど僕はこのお風呂を満喫したんだ。


 お風呂から出てそのまま二階にある食堂へ。


 そこで夕食を取ったんだけど、その時僕はあるものを見て目を輝かせたんだ。

 そのある物と言うのはデザートの葡萄。


 作物の品種改良なんて行われていないこの世界では種無し葡萄なんてものは存在しない。

 だから当然目の前にある葡萄には種があり、その種を集めれば油が取れるんじゃないかって僕は考えたんだ。


「おとうさん、れんきんじゅつのべんきょうにつかうから、ぶどうのたね、すてないでね」


「葡萄の種? 変わった物を使うんだな」


 普通なら捨ててしまうものを使うと言ったからお父さんは不思議そうな顔をしたけど、それでも今日買った本で早速勉強する気になっている僕の様子を見てちゃんと種を別けておいてくれた。




 食事の後、僕たちは部屋へと戻った。

 するとお父さんが、なにやらそわそわとしだしたんだ。


「どうしたの、おとうさん?」


「いや、なんでもない。ルディーン、今日は疲れただろ、早めに寝たほうが良いんじゃないか?」


「ううん、きょうかったれんきんじゅつのほんがよみたいから、もうちょっとおきてるよ」


 何故か僕を早く寝かそうとしてくるお父さん。

 でも僕はさっき手に入った葡萄の種に興奮して、まったく眠くなかったんだよね。

 するとお父さんは、そんな僕の様子を見てあからさまにがっかりしてるみたい。


 あ~、これってもしかして。


「おとうさん、どこかへでかけるの?」


「うっ、なんでそう思ったんだ? ルディーン」


「だってへんだもん、きょうのおとうさん」


 そんな僕の言葉を受けて一瞬誤魔化そうとするような素振りを見せ、しかし下手に誤魔化すといらぬ誤解を招くと思ったのか、お父さんは素直に何をしに行くのかを僕に教えてくれた。


「実はな、ルディーンが寝たら1階のラウンジにお酒を呑みに行こうと思っているんだ」




 うちの村ではみんなあんまりお酒を飲まないんだけど、それは行商人が持ってくるお酒には輸送費も含まれているから高くて気軽に飲めないからなんだって。

 でも街でなら普通の値段でお酒が売られているからここに来ると殆どの人が飲むし、また帰る時には色々な日用品や食料同様、お酒も必ず買って行く事になっているそうな。


 なんだ、そんな事なら初めから言ってくれたらよかったのに。

 あまりに挙動がおかしかったから、何事かと思ったじゃないか。


「みんなおさけ、のみにいくの? ならふつうに、のんでくるねっていえばいいのに」


「いやでもな、ルディーンを一人残して俺だけ酒を呑みにいくと言うのもなんだか……な」


 なるほど、だから僕が寝たのを確認してから呑みに行こうと思っていたんだね。

 そんなの気にしないでも良いのに。


 僕はこれから錬金術の本を読むつもりだし、この宿の部屋は魔法の明かりだからそのまま寝てしまったとしても火事の心配はない。

 だから心配しなくてもいいよって言ったら、


「お母さんだって、この町に来たらお父さんと一緒にお酒を呑むんだぞ」


 なんて言い訳とも取れる言葉を残して、お父さんはお酒を呑むために1階のラウンジへと出かけていった。


 そんなお父さんを見送った僕は、カバンから今日買ってもらった二冊の本の内、錬金術の本を取り出して早速読み始めたんだ。


読んで頂いてありがとうございます。


少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。

もし気に入ってもらえたら、続きを書くモチベーションになるので入れてもらえるとありがたいです。

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