282 金ぴかのお部屋と神様たちの聖印
中央神殿でお金を払うとね、木のお札が人数分もらえるんだ。
でね、それを持って大神殿に行くと並ばずに中に入れるし、このお札を持ってない人は入れないとこに行ってお祈りができるんだってさ。
「それじゃあ、行くぞ」
と言うわけでお父さんを先頭に、僕たちは大神殿に向かったんだ。
大神殿の前にはちっちゃな門みたいなものがあって、そこにはいっぱい人が並んでたんだよね。
ここでは、ほんとだったらこの列に並んで大神殿に入るためのお金を払わなきゃいけないらしいんだけど、僕たちはもう中央神殿でお札をもらってるから、その人たちが並んでるとこの横にある別のちっちゃな門から中に入る事ができた。
「大聖堂って何か、神殿って言うよりお城みたい!」
僕たちの前にある大神殿はとがった三角お屋根の建物の真ん中から太い塔が飛び出てて、その四つ角からも4本の細い塔が飛び出してるんだよね。
だからキャリーナ姉ちゃんの言う通り、なんとなく神殿って言うよりどっかのお城みたいな恰好をしてるんだ。
「あれはな、中央の塔が創造神様を現し、周りの4つの塔がそれに付き従う火、水、風、土の神様を現してるそうだぞ」
「ほら、手前側の細い塔を見てごらん。上の方に窓があるでしょ? あの窓の所にはそれぞれの神様の像が、この大聖堂を守るように建てられているそうよ」
お父さんとお母さんは前にもここに来たことがあるらしくって、この話はその時にこのイーノックカウ大神殿の神官さんに教えてもらったそうなんだ。
「そっか。その4人の神様、何だかお城を守る騎士様みたいだね」
大聖堂がお城みたいだって思ったからなのか、話を聞いたキャリーナ姉ちゃんはそんな事を言いながら、うんうんって頷いてた。
そのまま歩いて大聖堂の入口まで行くと、そこには3人の神官さんがいて、
「こちらで木札の確認をしております。入場を希望される方は私たちの方へ。大聖堂でのお祈りを希望する方はあちらの神官まで木札をお持ちください」
そう周りの人たちに声をかけてたもんだから、僕たちはその神官さんの言う通り、離れたところにいる別の神官さんの所へ。
そしてお父さんが木札を渡すと、その神官さんは僕たちの人数と木札の数がおんなじだって確認してからにっこりと笑ったんだ。
「ようこそ大聖堂へ。今、前の方がまだお祈りをしているところなので、もう少しお待ちください」
お祈りする場所はね、いっぱい人が来ちゃった時は別々に来た人たちをいっぺんに入れる事もあるんだけど、混んでない時は一組ずつ入ってお祈りができるんだって。
でね、今日はあんまり混んでないみたいで、前の人のお祈りが終わったら案内する人が帰ってくるから、そしたらその人にお祈りするとこまで連れてってもらえるんだってさ。
「お祈りの前には案内のものがこの大聖堂の簡単な説明と、正しいお祈りのやり方をご説明します。ですから皆さまはその説明の後、ビシュナ様の聖印の前に進んでお祈りをしてください」
こんなおっきな神殿が無いとこに住んでてもみんな近くのちっちゃな神殿でお祈りはしてるし、僕たちだって村の簡易神殿ではお祈りしてるんだよ?
でも間違って覚えてる人がいっぱい居るから、ここではビシュナ様に怒られちゃわないようにちゃんとしたお祈りのやり方を教えてくれるんだって。
それに案内の人は大聖堂のお話もしてくれるそうで、その時にあれ? って思った事があったら、その人に聞けば解る事なら答えてくれるんだってさ。
「お待たせしました。前の組のお祈りが終わったので、ご案内します」
「皆様に創造神ビシュナ様のご加護があらんことを」
ちょっとしたら案内の人が帰ってきたもんだから、僕たちはその人に連れられて大聖堂の中へ。
入口自体は他の人たちとおんなじなんだけど、入ってすぐのお部屋からは別々で、他の人たちが右っ側の扉の方に行くのに、僕たちは真ん前のいろんな彫刻がしてある豪華な木の扉の方へ連れてかれたんだよ。
でね、その扉に付いてる金色の輪っかでできたノッカーを案内の人がコンコンって鳴らすと、そのおっきな扉が内側へ静かに開いていったんだ。
「それでは参りましょう」
言われるまま僕たちはその案内の人についてったんだけど、
「っ!?」
「わぁ、ピカピカだぁ」
そしたらそこはどこもかしこも金色で、僕やお兄ちゃんお姉ちゃんたちはびっくり。
その部屋ん中は、壁の彫刻とかだけじゃなくって、天井に書かれてる絵とかまでみんな金色なんだもん。
そんなとこに来たの初めてだから、僕たちはただ回りをきょろきょろと見渡す事しかできなかったんだ。
「この部屋では悪しき魔力を退けると言われている黄金の輝きをしばし浴びる事によって、ビシュナ様へのお祈りの前に体を清めます。ですからその時間を使って、大聖堂の簡単な説明や正しいお祈りのやり方をご説明いたしましょう」
ここではさっきお父さんたちが教えてくれた4つの塔にある神様の像のお話とか、この部屋とか大聖堂の中にある彫刻の意味、それに正しいお祈りの仕方とかを教わったんだ。
その中にはね、ビシュナ様の聖印が全部金でできてるって話もあったんだよね。
「そっか。ビシュナ様は一番偉い創造の女神様だから、一番高い金で聖印が作ってあるんだね」
だから僕、案内してくれてる神官のお兄さんにそう言ったんだけど、
「確かにビシュナ様は、すべての神の上に立つお方です。ですが、その聖印に使われている金が他の神の聖印に使われているものよりも貴重なのかと言えば、そうではないのですよ」
そしたらちょっと困った顔をして、実はビシュナ様のよりもっと高い金属を使って聖印を作る神様がいるんだよって教えてくれたんだ。
それはなんと、イドラ様とラクシュナ様なんだって。
「イドラ様の聖印にはミスリルが使われており、ラクシュナ様の聖印にはさらに貴重なオリハルコンが使われているのです」
聖印を貴重な金属だけで作ろうと思ったらすっごくお金がかかっちゃうし、何よりオリハルコンなんて聖印を作れるほどの量を集めること自体大変だよね?
だからイドラ様の聖印は銀で作ったものにミスリルを薄くしたもの(箔って言うんだって)が貼ってあって、ラクシュナ様の聖印は銅で作ったものにオリハルコンの箔を張って作ってあるんだってさ。
「そっか。でもなんで、そんな風にしてるの? ビシュナ様が一番偉いのに」
「それはですね、それぞれの神様がご自分でそうするようにと指示されたと言う文献が残っているからなんです」
聖印の形って、それぞれの神様が自分のはこういう形なんだよって教えてくれたものなんだって。
でね、その時に一緒に材料もこれを使って作ってねって言ったもんだから、大きな神殿では必ずそのやり方で聖印を作ってるそうなんだ。
だけどさぁ、だったらなんで一番偉いビシュナ様の聖印が他のより安い金属なの? って事になるよね。
だって自分より偉い神様より高いのを作りなさいって、イドラ様もラクシュナ様も自分で言ったって事だもん。
だから僕、なんで? って聞いたんだよ。
「これには諸説あるのですが、今現在ミスリルは地中にある銀が大量の魔力を長い間浴び続ける事で作られると解っているので、この事からオリハルコンは銅が変質したものでは無いのか? そして実は金にもミスリルやオリハルコンのように上位のものが存在するにもかかわらず、その存在を人が知らないためにビシュナ様が無知なわれらの事を思って、その金属の箔を聖印に貼るようにとご指示をなさらなかったのではないかと言われているのです」
そしたらこんな答えが返ってきたんだ。
でもそっか。もし知らないのを使ってねってビシュナ様が言ったら、みんな困っちゃうもんね。
「そう考えた場合、もしかしたら神にとって、ミスリルやオリハルコンよりも金の方が価値があるのかもしれません」
案内の神官さんが言うにはね、人とは比べ物にならないほどの強大な魔力を持つ神様が住んでるとこだと、銀や銅はみんなミスリルやオリハルコンになっちゃうのかもしれないんだって。
銅より銀の方が高いし、銀より金の方が高いでしょ? だからもしそうだったとしたら、やっぱりビシュナ様の聖印に使ってる金が一番って事になるよねって、神官のお兄さんは笑って僕にそう言ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
作中でオリハルコンが銅からできてるんじゃないか? と言う話が出てきますが、実を言うとこの世界では確かにその通りだったりします。
と言うのもちゃんと理由があって、オリハルコンってギリシャ語で山の銅を表す言葉らしいんですよ。だからこの転生0ではそう言う設定にしました。
ではなぜ銅からできるオリハルコンの方が銀からできるミスリルより値段が高いかと言うと、銀よりも銅の方が魔力を通しやすいために変質するにはより多くの魔力が必要で、その分できる量が少なく、また魔力による結合力が増してより硬くなるからです。
因みにビシュナ様がオリハルコンのようなコーティング材をを指定しなかったのは、金の方が銅より魔力を通しやすい為にこの世界には魔力を含んだ金はほとんど存在しないからで、金が変質するほど魔力を含むとヒヒイロカネになると言う裏設定があったりもします。
その他にもアダマンタイトと言う金属もあって、これは鉄鉱石が魔力を含んで魔鉱石になり、それがさらに魔力で変質してできるアダマンティンと言う鉱石から作れるのですが、ただとても硬くて強いですけど、加工しづらい上にとても重いと言う扱いづらい金属という設定になっています。
まぁ、この物語には出て来ないんですけどね。ヒヒイロカネもアダマンタイトもw




