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269 美味しいお菓子は別んとこにあるんだって


「お母さんがおいしいって言ってたお菓子、どの屋台にも売ってないね」


 あれから僕たちはいろんな屋台を見て回ったんだよ。


 でも、棒に刺した果物とかドライフルーツ、それに暑くなってきたからなのか甘氷とかを売ってる店はいっぱいあるんだけど、お目当てのクッキーが売ってる屋台は一軒もなかったんだ。


 そのせいで最初は元気よかったキャリーナ姉ちゃんも、だんだんしょんぼりし始めちゃった。


「お母さん、その前に食べたクッキーってお菓子、何処で買ったの?」


「それがねぇ、私も自分で買ったわけじゃないのよ」


 だから僕がどこで買ったの? って聞いてみたんだけど、そしたらお母さんも人から貰ったものだから、そのクッキーってお菓子がどこに売ってるのか知らないんだって。


「私はね、一時期この街で冒険者みたいなことをやっていたの。さっき話したクッキーはそのころ、お世話になっていた冒険者ギルドで受付をしているお姉さんによく食べさせてもらってたのよ」


 そのころはお母さんもお金があんまりなくって、甘いお菓子なんてほとんど買えなかったそうなんだ。


 でもね、受付のお姉さんがいっつもいろいろなお菓子をくれたもんだから、甘いものは結構食べてたんだってさ。


「流石に女の子限定だったけど、受付のお姉さんはあなたたちもいつかは強くなって、こんなお菓子を自分で買えるようになりなさいねって、私たちをよくお茶に誘ってくれたのよ。あれはホントに嬉しかったわ」


「優しい受付のお姉さんだったんだね」


 昔の事をニコニコしながら話すお母さん。


 それがすっごく嬉しそうに見えた僕は、その受付のお姉さんがとってもいい人だったんだねって思ったんだ。



「ねぇ、お母さん。そのクッキーってお菓子、受付のお姉さんがくれたんだよね?」


「ええ、そうよ」


 そんなお母さんのお話を聞いててレーア姉ちゃんは何かに気が付いたみたいで、


「そのお姉さんはこう言う高いお菓子を買えるようになりなさいねって言って、いつもくれてたんでしょ? だったらさ、こういう屋台街じゃなくって冒険者ギルドの近くにあるお店屋さんで売ってるんじゃないの?」


 もしかしたら別の場所に売ってるんじゃないかなぁ? っていうんだよ。


「そう言えばそうね」


 お母さんはそんなレーア姉ちゃんの意見を聞いて、きっとそうだよ! ってうんうん頷いたんだ。


 でね、それなら多分あの辺りに売ってるんじゃないかな? って、なんとなく想像がついたみたい。


「冒険者ギルドの近くに、ちょっと高級なものばかりが売ってる区画があるのよ。クッキーはバターも使ってるみたいだったからレーアの言う通り、屋台なんかじゃなくああ言う場所にあるお店に売ってそうね」


 お母さんはそう言うと、僕たちをそのちょっと高いものばっかりが売ってるところに連れてってくれたんだ。



「あれ? この辺りって」


「なぁに、ルディーン。ここに来たことがあるの?」


「うん。この間ね、ロルフさんがいるからって、この近くにある薬屋さんに来たんだよ」


「ああ、なるほど。薬はポーションのような魔法薬でなくても結構高いから、この区画にあってもおかしくはないわね」


 そう、そこは前にストールさんに連れてきてもらった、お薬屋さんがあるとこのすぐ近くだったんだ。


 だから僕がその時の事を教えてあげると、お母さんはお薬屋さんならここにあるかもねって言うんだよ。


「さっきも言ったけど、ここは他とは違ってちょっと高級なものを売っているお店が多いでしょ? だからこの街の衛兵の見回りも、他の場所よりも厳重なの。だから、薬みたいな高いものを売ってる店が集まってくるのよ」


「そっか! 高いもんを売ってると、悪もんが来るかもしれないもんね」


 兵隊さんがいっぱいいるんなら、悪もんは怖くて来れないでしょ? だから高いものを売っててもきっと大丈夫なんだよ。


 だからみんな、ここにお店を開くんだよってお母さんは言うんだ。


「そういう事。それに衛兵が多いおかげで、ギルドに所属してなくてお金を持ち歩いている人でも安心して買い物ができるでしょ? だからきっと、クッキーみたいなちょっとお高めなお菓子も売ってるんじゃないかって思ったのよ」


 僕たちみたいに冒険者ギルドに入ってればギルドカードがあるからそれでお買い物ができるよね? でも街でお仕事をしてる人はギルドなんか入ってないから、そんなの持ってないでしょ。


 だからみんなお金をもって買い物に行くんだけど、もし高いものを買わなきゃっていっぱい持って歩いてたら悪もんに狙われちゃうかもしれないよね?


 でもここだったら兵隊さんがいっぱい居るから、みんな安心してお買い物ができるんだってさ。


「じゃあ、お母さん。ここを探せば、クッキーってお菓子が買えるんだね」


「ええ。きっと買えると思わよ」


 さっきはちょっとしょんぼりしてたキャリーナ姉ちゃんも、それを聞いて大喜び。


 やったー! って両手を上げてぴょんって飛んだ後、お母さんの手を引っ張って、早く行こうだって。


 そんなお姉ちゃんに引っ張られながら、僕たちはちょっと高いものばっかりが売ってるとこを見て回る事になったんだ。



 ちょっと高いものばっかりが売ってるとこだから、途中にきれいな服が売ってるお店があったり本当の宝石が売ってるお店とかがあって、あんまり見た事ないものばっかりだからみんな回りをきょろきょろしながら歩いてたんだよね。


「お母さん。あれ見て! お菓子の絵が書いてあるよ」


 そしたらキャリーナ姉ちゃんが遠くにある看板を見つけて、とっても嬉しそうな声を上げたんだ。


 だから僕たちもお姉ちゃんが指さしてる方を見てみると、遠くにある看板には確かにさっき買ったお菓子みたいな絵が描いてあったんだよね。


「あら、ほんと。あそこがお目当てのお菓子屋さんかしら?」


 その看板には絵のほかになんか文字が書いてあるみたいなんだけど、ここからじゃ遠くて何って書いてあるかちょっと解んない。 


 でも看板がお菓子なんだからきっとそうだよねって、僕たちはその看板に向かって歩いて行ったんだ。


 そしたら先の方から、とってもおいしそうな香りが。


「甘い、いいにおいがする」


「それに、バターを塗ったパンケーキみたいな香りもするよ」


 お姉ちゃんたちは、こんないい匂いがするんだから絶対あそこがそうだよって、だんだん歩くのが早くなってったんだ。


「待ってよ、お姉ちゃん」


 でね、最後には二人とも走り出しちゃったもんだから、僕も慌てて追いかけたんだよ。


 でも僕、お姉ちゃんたちより小さいでしょ? だから追いつけなくって、着いた時にはもうお姉ちゃんたちは扉を開けてお店に入ろうとしてたんだ。


 カランカラン。


 レーア姉ちゃんがお店の扉を開くと、中からはとっても甘くて香ばしい焼き菓子の香りが。


「お母さん!」


「ええ、どうやら当たりだったみたいね」


 そのすっごくおいしそうな香りに、僕が思わずお母さんの顔を見上げたんだ。


 そしたらその焼き菓子のにおいで、お母さんはこのお店がクッキーってお菓子が売ってるお店だって解ったみたい。


 と言うわけで、僕もわくわくしながらお姉ちゃんたちの後について、お母さんと一緒にお菓子屋さんの中に入っていったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 年末年始はうちが本家のため、親せきが訪ねてきたりと忙しいので書く時間が取れません。

 ですから来週の更新はお休みさせていただき、次話は1月6日更新となります。


 皆様、今年1年お付き合いくださいましてありがとうございました。

 来年も細々と更新を続けていきますので、引き続きお付き合い頂けたら幸いです。


 それでは皆様、よいお年を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 目的のお菓子屋さん見つかってよかったよかった。 焼いてるときの甘い匂い、いいですよね~。 [一言] よいおとしをー
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