24 属性魔石って、作れるんだ
ビックリしているだけで何かの魔法にかけられたとかではなかったから、お姉さんは僕の問いかけで此方の世界に帰って来てくれた。
「えっ? ああごめんなさい。少し呆けてしまってたわ。ところでルディーン君、この本の内容、解るの?」
「えっ? うん、わかるよ。たとえばこれ。これってまりょくのちからを、おおきくしたりちいさくしたりするきごうでしょ。これをむらにあるほんにかいてある、かいてんのじゅつしきにかきこめば、かざぐるまのかいてんが、はやくなったりおそくなったりするんだよね?」
聞かれたので、僕は抵抗を現す術式記号のページを指差して説明した。
それを聞いたお姉さんは本当に理解しているという事が解ったらしくて、目を見開いて驚いたんだ。
さっきまではとても綺麗な人だなぁって思ってたんだけど、そんな姿はなんとなく可愛らしかった。
「あ~、本当に解っているみたいですね。少し驚きました。これは魔道学校でも高等部で勉強する内容なのですが、それをこんな小さい子が一目見て理解するなんて……」
えっ? そんなに難しい内容なの? そう思ったんだけど、よくよく考えたら小学校の理科でも簡単な回路図しか習わないし、抵抗などを含んだものは中学校で習うんだよなぁ。
その知識の応用なんだから高等部で習うと言われれば納得もするし、学校に行ってもいない子供が理解できるというのは確かにちょっとおかしいのかもしれない。
でもまぁ、理解できていると証明してしまったんだから、それが解っても今更どうしようもないんだけどね。
「そんなに、むつかしいの? きごうがふえただけで、むらのほんとあまりかわらないのに。きごうのせつめいもていねいだから、ぼくでもわかるんだけどなぁ」
と言う訳で、こう言っておいた。
<私なんて、説明を読んでも何がなんやらまったく解らないのに、こんな小さな子が……ハァ、自信なくすわ>
「そうなの。ルディーン君は賢いのね」
エルフのお姉さんは小声で何か言った後、なんか納得いかないって顔をしながらも無理やり笑顔を作ってそう言った。
そんな姿を見て、とにかくこの話は納得してもらえたんだろうと、僕は話を戻す事にしたんだ。
だって僕としては、属性変換の記号が一番知りたいからね。
「ところでおねえさん、ぞくせいへんかんのきごうは? なんでこのほんにはのってないの? もっとむつかしいほんじゃないとのってない?」
「そう言えばそんな事を言っていたわよね。でも何故属性変換の術式記号を知りたいの? 普通に属性魔石を使えばいいだけなのに」
ところがお姉さんからはこんな答えが返ってきたんだ。
これには流石にビックリ。
だって前にお父さんに聞いたら、属性魔石はとても手に入りにくいって言ってたもん。
属性魔石は文字通りぞれぞれの属性を持った魔力溜まりの近くで変質した魔物の体内で作られた魔石のことで、普通の魔物でも持っている可能性がある土属性ならともかく火属性の魔物や水属性の魔物なんて火山とか海とかに住んでいる、それもとっても強い魔物からしか取れないって話だから買うとしたらとても高いはずだよね?
だから使えば良いじゃないなんて軽く言えるようなものじゃないはずなんだけど。
「ぞくせいませきって、とってもたかいんでしょ? ぼく、そんなのかえないから、へんかんきごうがしりたいんだけど……」
そこまで言って、僕はあることに気が付いた。
もしかすると属性魔石を使って作る魔道具を作れば、そんなお金なんて気にならないほどの利益が得られるのかも。
それなら確かに、わざわざ書き込むのが複雑になる変換記号を使った魔道術式を使ってまで属性を変えなくても良いって考えてもおかしくはないよなぁ。
でも現実は僕の予想の斜め上を行っていた。
「あら、属性魔石はそんなに高くないわよ? 昔はその属性を持つ魔物からしか取れなかったけど、今は錬金術で無属性の魔石を属性魔石に変える技術が開発されているからね。でも知らないなんて変ねぇ、これは魔道具作成の本なら一番初級のものにでも書いてあるはずなのに」
「え~、ぼく、むらにあるほんは、なんどもなんどもよみかえしたけど、そんなのかいてなかったよ!」
「そうなるともしかしたらルディーン君の村にある本、20年以上前の物なのかも。その頃ならまだ属性魔石作成は新技術だったから載っていない本も多かったから」
なんと、グランリルの図書館にあった本はとても古いものだったらしい。
今売られている本を試しに見せてもらったら、確かに一番最初の項目の中に書いてあったもん。
これじゃあ、属性変換の術式記号が省かれても仕方ないだろうね。
「でもルディーン君は深く魔道具の事を理解しているようだから、属性変換の術式記号も覚えておいて損はないかもしれないわね。将来的にそれを使って何かできるようになるかもしれないし、そうじゃなくても学者さんとか研究者になるかもしれないもの」
ただ興味を持ったのなら知っておくのも良いだろうと、エルフのお姉さんはカウンターまで行き、昔の魔道具作製の本を持って来てくれた。
「今はもう古すぎて倉庫の肥やしにしかならない本だけど、先ほどの最新版を買ってくれるのならこの本もおまけにつけるわ」
「いいの?」
「ええ。最新版では一部の術式記号がもっと効率の良いものに置き換わっているから、もうこの本は情報が古すぎて売ることができないのよ。いずれ処分しなければと思っていた在庫の中の一冊だから、燃やしてしまうよりルディーン君が持っていたほうが有意義でしょ」
「わぁ~い、おねえさん、ありがとう」
思いがけず変換記号の乗った本をゲットできてしまった。
いや、確かにもう必要が無い技術なのかもしれないけど、ずっと知りたいなぁと思っていたものだから手に入れることが出来ただけで僕は嬉しかったんだ。
と言う訳で、僕は有頂天。
いつものように両手を振り上げて全身で喜んだんだ。
ソファーに座っているので、残念ながら飛び跳ねる事はできなかったけどね。
「ところで、先ほどからルディーン君の話に村の図書館と言う言葉が出て来るのですが。失礼ですが、どちらからいらしたのですか?」
そんな万歳を繰り返す僕を横目に、お姉さんがお父さんにそう問い掛けた。
「グランリルですよ」
「ああ、いつもリュアンさんにはご贔屓にしていただいております。と言う事は、リュアンさんがよく話していた本好きの村のお子さんと言うのが」
「ええ、多分ルディーンの事だと思いますよ」
いつも僕の話をしてる? 誰の事だろう?
リュアンと言う人らしいんだけど、僕はこの名前の人には覚えがなかったんだ。
と言う訳で、お父さんに聞いてみる。
「ねぇねぇおとうさん、リュアンさんってだれ? ぼくがしってるひと?」
「ん? 何言ってるんだルディーン、アーレフ・リュアンだぞ。お前、いつも世話になってるだろう」
はて、フルネームを聞かされて、なおかついつも世話になっていると言われても僕にはその人が誰なのかさっぱり解らなかった。
そんな僕の姿を見て、お父さんは何かに気が付いたのだろう。
あきれた顔をして僕に教えてくれた。
「ルディーン、あれだけ可愛がってくれているんだから名前ぐらい覚えてやれ。村の図書館にいる司書のおじさんだよ。あいつがアーレフ・リュアンだ」
「え~! ししょのおじさんって、そんななまえだったの? ぼく、しらなかった」
そう言えばいつも司書のおじさんと呼んでいたから、名前を聞いた事がなかったっけ。
確かにおじさんならいつも可愛がってもらっているし、お世話にもなっている。
そう考えると、名前を今まで知らなかったというのはとんでもない事かもしれないなぁ。
「まったく、世話になっている人の名前くらいは覚えておくものだぞ」
「ごめんなさい」
これに関しては僕が一方的に悪いのだから反省しなければいけない。
今度司書のおじさんに会ったら、謝ろうって僕は固く決意したんだ。
「まぁまぁ、ルディーン君も反省しているようですし、それくらいで。しかしグランリルですか、ちょっと遠いですね。一つお聞きしますが、グランリルには錬金術ギルドの支店はありますか?」
「いえ、錬金どころか、冒険者ギルドや商業ギルドさえありませんよ。小さな村ですからね」
会話を聞いていたエルフのお姉さんがお父さんに取り成してくれたおかげで、司書のおじさんの話はここで終わって話題は別の所に飛んだ。
どういう訳か、お姉さんは錬金術のギルドが村にあるのか気になったらしくてお父さんにそう聞いたんだけど、田舎の小さな村であるグランリルには当然そんなものは無い。
「まぁ、では必要になった時に錬金ギルドまで属性魔石を買いに来るのは大変でしょうね」
でも、何故そんな事を聞いたんだろう? そう思っていたら、お姉さんがその理由らしきものを話してくれた。
どうやら魔道具に使う属性魔石は錬金術ギルドと言うところに売っているらしくて、その支店があるのなら村でも簡単に手に入れることが出来るけど、そうじゃなければ大変だろうと考えてギルドがあるかどうか聞いたみたいなんだ。
でも村には支店が無いと聞かされると、エルフのお姉さんは少し思案顔になって、
「ルディーン君、錬金術を学ぶ気はない?」
なんて事を言い出したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
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