249 自分の事なのにすっかり忘れてたんだよ
うちの村の川のお水には魔力が含まれてるから、それでお肌つるつるポーションを溶いても効果が出てるんだって。
「そっか。でもこれで、なんでうちの村だと大丈夫なのか解ってよかったね」
僕は、ロルフさんが言ってるんだから間違いないよねって思ってそう言ったんだけど、
「いや、これも先ほどのポーションの鮮度と同じ、あくまで仮説じゃよ」
でもロルフさんは、まだ本当にそれが原因なのかどうか、解んないって言うんだ。
「そうなの? じゃあさ、続きはうちの村に来て実験するの?」
「うむ。わしは隠居の身じゃからのぉ。時間はいくらでもあるし、それでも別にいいのじゃが」
だから僕、村に行ってお水を調べるんだろうって思ったんだけど、そしたらロルフさんがこんなこと言いながらバーリマンさんを見たんだよね。
そしたらバーリマンさんが、そんなのずるいって言うんだ。
「私はギルドの仕事があるので、この街を離れるわけにはいきません。ですから続きはグランリルでと言われても困りますわ」
「まぁ、ギルマスはそう言うじゃろうな」
そう言えばバーリマンさんは錬金術ギルドのギルドマスターなんだから、僕たちの村にまで来るなんてできないよね。
でもさ、だったらどうするんだろう? って考えた僕は、いい方法を思いついたんだ。
「あっ、そうだ! じゃあこの近くの森のお水を使えばいいじゃないか」
うちの村の川は魔力溜まりがある森から流れてきてるから魔力があるんだよね?
だったらさ、イーノックカウの近くにある森だって魔力溜まりがあるんだから、そこからお水を取ってくればいいんじゃないの? って思ったんだ。
でもねそれを聞いたロルフさんは、それじゃダメだよって言うんだよね。
「確かに魔力溜まりはあるが、その強さがかなり違うからのぉ。もしグランリルの森から流れてくる川と同程度の魔力を含む水を汲もうと思うんなら、かなり奥地まで分け入らねばならぬ」
この近くの森でもかなり奥にある池や泉からお水を汲んでくれば、もしかしたらうちの村の川に流れてるお水くらい魔力があるかもしれないんだって。
でもそんなとこまで行ってたら、帰ってくるまでに時間がかかっちゃって魔力が抜けちゃうんだってさ。
「そっか。いい考えだと思ったんだけどなぁ」
「それにじゃ。奥地に向かったとしてもグランリルの川の水と同程度の魔力含んでいるかどうかは比べてみなければ解らぬからのぉ。それで実験できたとしても、やはり仮説が増えるだけなのじゃよ」
ロルフさんが言うには、実験なんだからちゃんと同じものを使わないと意味ないんだって。
「じゃあさ、やっぱりロルフさんが一人でうちの村まで来るの?」
グランリルの村のお水を使わないといけないのに、バーリマンさんは忙しくて来れないんだよね?
だったらロルフさんが一人で来るしかないかなぁ? って思った僕はそう聞いたんだけど、そしたらバーリマンさんがそんなのだめって言うんだ。
だってずっと一緒に研究してたのに、結果が出る時にいられないのはやっぱり嫌なんだってさ。
「うむ。流石にわしもギルマスを置いてグランリルに向かう気はない。じゃからのぉ、ここはルディーン君の出番なのじゃよ」
「僕の出番?」
ロルフさんが急にそんな事を言い出したもんだから僕、何の事か解らなくて頭をこてんって倒したんだ。
「なるほど! 確かにルディーン君に頼めばすべて解決しますわ」
そんな僕と違ってバーリマンさんにはロルフさんが何を言ってるのか解ったみたい。
両手をお口の前で合わせて、にっこりとほほ笑んだんだよね。
「おやおや、これだけではルディーン君に伝わらなかったようじゃの」
でね、そんなバーリマンさんを見たロルフさんはうんうんって頷いた後、何で僕に頼めば解決するのかを教えてくれたんだ。
「何、簡単な事じゃよ。ルディーン君は転移魔法でグランリルの村と、わしの別館を行き来できるではないか。じゃからのぉ、まず村へ飛んで川の水を汲み、それを持って戻ってきてほしいのじゃ」
「あっ、そっか! そしたらすぐに実験できるもんね」
ジャンプの魔法ならお家まで一瞬だもん。
だから僕がお水を汲んできてくれたらバーリマンさんも一緒に研究できて大助かりなんだってさ。
「じゃあさ、僕がお水を取りに行ってる間に、みんなはロルフさんのお家に来るの?」
「いいえ。今日はペソラがいないから流石に錬金術ギルドを空けるわけにはいかないのよ」
「うむ。じゃから館に付いたら、いつも通りライラに馬車を出してもらって錬金術ギルドまで帰ってきてくれるとありがたいかな」
ほんとは先に連絡できたらいいんだけど、多分僕が帰ってくる方が早いから直接ストールさんに頼まないとダメなんだって。
だって村の中に流れてる川でお水を汲んでくるだけだもん。
ジャンプでお家に帰って、お水を汲んだらまたすぐにロルフさんちに飛ぶんだよ? だったら誰かがこの錬金術ギルドからロルフさんのお家に行くまでより僕の方が絶対早いもん。
「うん! じゃあ、ロルフさんのお家に着いたら、ストールさんに頼んで連れてきてもらうね」
そうと決まればすぐにジャンプで飛ばなきゃ! って思ったんだけど、
「これこれ、慌てるでない。水を入れてもこぼれない、きちんとした蓋の付いた入れ物がなければ水を汲んでくることなどできぬであろう?」
「あっ、そっか! お家に帰っても僕がお水を汲んで持ってこれるのって、いつも使ってるカップくらいしかないもんね」
ロルフさんが行っちゃだめって言わなかったら僕、お家からこの錬金術ギルドまでそぉ~っとお水を運んでこなきゃいけないとこだった。
「ギルマスよ。この錬金術ギルドならば、そのような容器もいくつかあるであろう? ルディーン君に出してやってはもらえぬか?」
「ええ、解りました」
バーリマンさんはニコニコしながらそう言うと、奥の棚の中から上にコルクの栓が付いた陶器のビンを出してきたんだ。
「これくらいの大きさならルディーン君でも持てるわよね。ちょっと待ってね、口の所にひもを付けるから」
でね、そのビンの口の所にぶら下げて持てるようにと、手で持つひもを括り付けてから僕に渡してくれたんだ。
「ありがとう!」
「どういたしまして。川から水を汲んでくるのですから、ちゃんと気を付けるのですよ? 別に慌てなくてもいいですからね」
「うむ。急ごうとして川に落ちては大変じゃからのぉ」
そんな心配する二人に大丈夫だよって言ってから、今度こそジャンプの魔法で飛ぼうとしたんだけど……。
「ルディーン。解っているとは思うけど、私たち家族がイーノックカウに遊びに来てる事は村のみんなが知っているんですからね。もしじゃんぷとか言う魔法を隠しておきたいのなら、誰かに見られないように気を付けるのよ」
そう言えば村の人たちにも、帰ってきてるのを見られたらダメなんだったっけ。
お母さんに言われるまで、すっかり忘れてたよ。
「あっ、そうだった! ありがとう、お母さん。ちゃんと気を付けて行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい。周りを気にしすぎて、川に落ちないようにね」
こうして僕は、みんなに行ってきますって手を振りながら今度こそジャンプの魔法を発動させて村へ帰ったんだ。
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