245 キャラメル味ってそうやって作るのか!
「ほう。私は菓子に関しては専門外ではありますが、これは手軽にもかかわらず、よく考えられたお菓子ですね」
お貴族様が食べるみたいな豪華なお昼ご飯の後、僕たちはモーガンさんと一緒にポップコーン作り。
お母さんが一度作って見せたり、カラメルを作ってそのポップコーンにかけたりして、それをモーガンさんに食べてもらったんだけど、
「ただ、バターが焦げて香ばしくなっているこの菓子にこのソースでは、少々苦みが勝ってしまいますね」
そしたらモーガンさんがそう言いながら、お母さんが作ったカラメルにちょびっとのミルクとバターを入れて、それを軽く火にかけてからポップコーンにかけたんだよね。
「わぁ! お母さん。さっきのより、こっちの方がおいしいよ」
「あらホント。苦みが減って、より甘くなったわね」
でね、それをもらって食べたキャリーナ姉ちゃんがニコニコしながらおいしい、おいしいって。
それにお母さんも、モーガンさんが作ったやつの方がおいしいって言うもんだから、僕もそれを一つ貰ってパクリ。
そしたらカラメルを掛けた時と違って苦みが減って、その上バターのおかげで香りもかなり良くなってたんだ。
でもね、僕はそれ以上に、これを食べてびっくりする事があったんだよね。
「これ、キャラメルだ……」
そう。この味は前の世界の記憶の中にある、キャラメルポップコーンの味だったんだ。
って事はだよ。キャラメルの味って、焦がしたお砂糖と牛乳、それにバターがあれば作れるって事だよね?
僕もキャラメルの作り方は流石に知らなかったから、これはとっても嬉しい発見なんだ。
「きゃらめる? ルディーン、なにそれ?」
キャラメル味の作り方が解って喜んでたら、僕の隣にいたキャリーナ姉ちゃんがそれ何? って聞いてきたんだよね。
ちっちゃな声で言ったんだけど、、どうやらお姉ちゃんだけには聞こえてたみたい。
「おいしいお菓子だよ。だから前から作りたかったんだけど、でも僕、どうやったらできるか解んなかったんだ」
「そうなの? じゃあ、もう作れるようになった?」
「う~ん、まだ解んない。だって、こうやったらキャラメルの味になるって事が解っただけだもん」
多分モーガンさんが作ったシロップを固めればキャラメルになるんだろうけど、どうやったらいいのか解んないもん。
だからキャラメル自体はまだ作る事ができないんだよね。
「そっか。美味しいお菓子、作れないのか」
せっかくおいしいお菓子が食べられると思ったのに、すぐには作れないって聞いてしょんぼりしちゃうキャリーナ姉ちゃん。
でもね、キャラメル自体が作れなくても、その味が出せるようになった事が大事なんだよね。
「違うよ! キャラメルが作れないだけで、おいしいお菓子は作れるもん」
「えっと、さっきからキャリーナとルディーンは何の話をしてるの?」
だから僕、キャリーナ姉ちゃんにキャラメルシロップの作り方が解ったからそれを使ったおいしいお菓子が作れるんだよって教えてあげようとしたんだ。
でもそんな僕たちに、レーア姉ちゃんが横から何の話をしてるの? って聞いてきたんだよね。
「あのね、ルディーンがきゃらめるってお菓子の話をしたの。だから作れる? って聞いたら作れないんだって」
「そうなの。でも作れないなら何でルディーンは、キャリーナに違うって言ったの?」
「あのね、キャラメルは作れないけど、おいしいお菓子は作れるんだよ」
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、レーア姉ちゃんに何の話をしてたのか教えてあげたんだ。
でもね、僕たちの話を聞いたレーア姉ちゃんは、何でか首をこてんと倒して不思議そうな顔をしてるんだよ。
「えっと、きゃらめるってお菓子は作れないのよね?」
「うん」
「なのにおいしいお菓子は作れるの?」
「うん」
「えっと……どういう事?」
も~、なんで解んないかなぁ?
僕が、だからおいしいお菓子が作れるんだよって一生懸命教えてあげてるのに、レーア姉ちゃんはいつまでたっても解ってくれないんだ。
「ユリウス、ルディーンの言っている意味、あなたには解るかしら?」
「はい、クリスティーナお嬢様。彼はきっと、この味を使ったおいしいお菓子が作れるようになったと言いたいのだと思います」
「うん、そうだよ。だから僕、さっきからそう言ってるじゃないか!」
どうやらモーガンさんは僕の言いたい事が解ってくれてたみたい。
でも、そのおかげでみんなにも伝わったから、僕も一安心だ。
「そうなら早く言ってくれればいいのに! それで、ルディーン。どんなお菓子が作れるの?」
それにさっきはしょんぼりしちゃったキャリーナ姉ちゃんも、キャラメル味のお菓子なら作れるって解って大喜び。
僕にどんなのが作れるの? って聞いてきたんだよね。
「いろんなのが作れるよ。だってどんなお菓子でもキャラメル味にしたらおいしいもん」
パンケーキの生地に混ぜてもいいし、生クリームに混ぜてホイップしてもおいしいよね。
それに焼き菓子の生地に混ぜてもおいしいし、そうだ! キャラメル味のプリンってのもあったっけ。
美味しいお菓子は、どんなのを作ろうかなぁって考えてるだけで楽しくなってくるよね。
だから僕、一人でニコニコしながらどんなのがいいかなぁって考えてたんだ。
そしたら、
「それで、ルディーン君。君があえて一つ、これが一番作って食べたいなぁって思うのは何なの?」
僕たちの話に入らずに一人でポップコーンを食べてたペソラさんが、みんなの後ろから声をかけてきたんだよね。
でも、いろんなお菓子の中から一つ選ぶのかぁ。
う~ん。ちょっと難しいけど、今ならあれかな?
「そうだなぁ。この頃暑くなってきたし、やっぱりアイスクリーム!」
今のでも美味しいんだけど、バニラがないからちょっと物足りなかったんだよね。
でもキャラメルシロップを代わりに入れたらとってもおいしくなるはずだもん。
食べたらきっと、みんなだっておいしいねって言うと思うんだ。
そう思って、一人でうんうんって頷いてたんだけど、そしたらバーリマンさんが不思議そうな声で僕に聞いてきたんだよ。
「ルディーン君。あいすくりーむって、なに? どんなお菓子なの?」
あれ? バーリマンさんは知らなかったっけ? そう思った瞬間、僕はある事を思い出したんだ。
「そうだ! アイスクリームはないしょにしないとダメなんだった!」
お父さんがみんなが食べたいって言うと困るからお家の中だけで食べようねって言ってたのを僕、すっかり忘れてた。
だからないしょにしとかないとダメだったのに、キャラメルを使って何を作るのかって事ばっかり考えてたらつい出ちゃったよ。
どうしよう。お父さんに怒られちゃう。
「えっと……聞いてはいけないお菓子だったのですか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。ハンスが、うちの旦那が村で広めるとこのお菓子を作るための魔道具をルディーンが作らなければいけなくなったり、今以上に魔道リキッドを使う量が増えてしまうから広めるのを禁止しただけですから」
僕がそう思ってたら、お母さんがバーリマンさんには話してもいいんだよって教えてくれたんだ。
でもそっか。そう言えばお父さん、そんなこと言ってたよね。
よかった。僕、怒られちゃうかと思って心配しちゃったよ。
「そうなのですか。それを聞いて安心しました」
でね、バーリマンさんもちょっと心配してたみたいで、お母さんにそう言いながら胸に手を当ててホッとしてたんだ。
「しかし、その話からするとそのアイスクリームと言うお菓子は魔道具がないと作れ無いのですね。それは残念ですわ」
でもその後、今はアイスクリームを作れないって聞いて、ちょっとしょんぼりしちゃった。
だから僕、バーリマンさんに教えてあげたんだよ。
「いっぱいは作れないけど、ちょこっとでいいなら作れるよ」
「えっ? でも、魔道具がないと作れないんじゃないの?」
「うん。でもちょこっとのアイスクリームを作るだけなら、魔石とちょびっとの銅があればちっちゃな魔道具ができるから、それで作れるよ」
ここは錬金術ギルドだから魔石はあるし、銅もちょこっとだけなら実験するために置いてある事を僕は知ってるんだよね。
だってこの前、髪の毛つやつやポーションのお話をしてる時に、ここにある材料で入れ物を作ったもん。
「大きなものを作るのでなければ、このギルドにも確かに材料はあるわね」
と言うわけで、バーリーマンさんにちっちゃな銅の塊と魔石をもらって、簡単な魔道具を作ったんだ。
あっ、中のかき混ぜる棒とか、それを回す魔道具とかは作ってないよ。
だって今はアイスをちょこっと作れればいいだけだもん。
だから、底の深いボウルみたいな物を銅で作って、それを氷の魔石で冷やすだけの簡単なのだ。
「これに材料を入れてっと」
それに生クリームもないから牛乳で代用。味がちょっと違っちゃうけど、こうやって作ればいいんだって解れば、後でモーガンさんがちゃんとしたのを作ってくれるだろうからね。
でね、しばらくしたら銅のボウルにくっついてるとこが凍ってくるから、それがある程度たまってから木の匙ですくってまだ固まってない材料と混ぜてくと、だんだんとクリーム状になっていったんだ。
「なるほど。そうやれば滑らかに凍るんですね」
それを見ながら感心したようにそう言うモーガンさん。
そしてそれを繰り返してくことで、うちで作ったのに比べるとちょっとシャリシャリするけど、とりあえずアイスクリームっぽいものができたんだ。
「凍ってるのに柔らかいのね。今までに体験したことがない味だわ」
「そうですね。私、凍ったお菓子と言うと甘氷しか食べた事がなかったけど、これはそれよりもかなりおいしいです」
そのお菓子を食べたバーリマンさんとペソラさんは思わずにっこり。
おいしいものを食べると、嬉しくなっちゃうよね。
「ねぇ、ルディーン。きゃらめるは入れないの?」
「あっ!」
ただ、さっきまでアイスクリームの話をしてたもんだから、キャラメルを入れ忘れちゃったんだよね。
と言うわけでこの後、僕はもう一度キャラメルソースを混ぜたアイスクリームを作る事になっちゃったんだ。
まぁ、おいしかったからいいけど……。
読んで頂いてありがとうございます。
書いてるうちに楽しくなって、キャラメルの話で終わってしまった(汗
このアイスクリームですが、ルディーン君が簡易的な魔道具で作り、材料も生クリームではなく牛乳で作ったためにこう言うお菓子だと認識されてしまいました。
おかげで最初からかき回す事で空気を多く含み、また生クリームを使う事で乳脂肪分たっぷりの滑らかなアイスクリームが世に知られるのはこれからかなり後になってしまいます。
まぁ、グランリルでは食べられるので、ルディーン君やその家族にとっては何の関係もない話なんですけどね。




