236 イーノックカウの近くの森が大変なんだって
「あれ? どうしたの、ルルモア。こんな所に来たりして」
「表にいたらグランリルの馬車が村のものを売りに来たって聞いてね」
普段はこんなところにいないはずのルルモアさんが来たもんだから、ニールリンドさんもびっくりしたみたい。
だからなんでいるの? って聞いたんだけど、そしたら僕たちが来たって聞いて、慌てて飛んできたんだって。
「でも偶然とはいえ、シーラさんが来てくれたのはホントに助かったわ。あっ、それにルディーン君までいるじゃない」
ルルモアさんは、お母さんを見てホッとした顔になったと思ったら、今度はその後ろにいる僕を見つけて、とっても嬉しそうな顔になったんだ。
でもなんで? 最初にお母さんを見てホッとしてたって事は、前に来た時みたいにブレードスワローが欲しいって訳じゃないんだよね?
「お久しぶりです、ルルモアさん。でもどうしたんですか? 私の顔を見て助かったとか言ってましたけど」
「お久しぶりです。実はですね、この町の北にある森で少々困ったことが起きてまして。その解決に力をお借りしたいんですよ」
どうやらこの近くの森でなんかあったみたいで、ルルモアさんはその話がしたいからギルドの中まで来てほしいんだって。
それもお母さんだけじゃなくって、僕やお父さんまで一緒に来てほしいって言うんだ。
でもね、これを聞いたお母さんはちょっと困っちゃったんだよね。
「でも今日は子供たち全員を連れて来ているし、何より買取をしてもらっている途中ですから」
「ああそれならご家族全員で来てもらっても構わないですよ。それに買取の査定も終わり次第報告に来させるから大丈夫。いいわよね、ニールリンド?」
「あの件の話なのね? それなら仕方ない。終わり次第細かい内訳を書いたものを届けるわ」
ルルモアさんはどうしても来てほしいらしくて、家族みんなで来ていいし買取もついてなくていいよって言うんだ。
それを聞いたお母さんは、ちょっと苦笑い。
「そこまで言われたら仕方ないですね。ハンス、ルルモアさんがお話があるから、みんなで奥に来てほしいって」
そしてちょっと離れたところで、冒険者ギルドの制服を着たお兄さんとお話をしてるお父さんに声をかけたんだ。
「俺や子供たちもか? だけどまだ買取査定の途中なんだが」
「ああ、それなら私が引き継いで、後で届ける事になってます。大丈夫ですよ、ごまかしたりはしませんから」
「いや、流石に冒険者ギルドが少々の金をごまかすなんて思ってませんよ。それじゃあお願いしますね」
急に声を掛けられてびっくりしてたお父さんだけど、ニールリンドさんがこう言ってくれたもんだから冒険者ギルドのお兄さんにお願いしますって言って、僕たちのとこに来たんだ。
僕たちが連れてこられたのは、冒険者ギルドの中にあるお部屋。
そこにはおっきな机があって、その周りには椅子がいっぱいあったんだよ。
「ハンスさんとシーラさんは私の正面へ。他のみんなは好きなところに座ってもらって大丈夫よ。あっ、やっぱりルディーン君は、ハンスさんかシーラさんの隣に座ってちょうだい」
でね、ルルモアさんがそう言ったもんだから僕たちは言われた通り椅子に座ったんだけど、そしたらギルドの制服を着たお姉さんが部屋に入ってきて、僕たちみんなの前にお茶を置いて行ってくれたんだ。
「全員にお茶は行き渡った? それじゃあ、さっそく本題に入るわ。実はこの頃、ある魔物が森の外縁に住み着いて困ってるのよ」
ルルモアさんが言う困った魔物は、ポイズンフロッグって言うんだって。
「前にハンスさんとルディーン君がこのギルドに来た時、大勢の冒険者が毒を受けて大変な騒ぎになったでしょ? その時の原因もこのポイズンフロッグなの」
このポイズンフロッグにはね、よく似たブルーフロッグって言う魔物がいるんだって。
でね、前の騒ぎの時は、このブルーフロッグを狩ろうとした冒険者が群れの中にポイズンフロッグが混ざってる事に気が付かなかったから起こったらしいんだ。
「あの件でギルドはポイズンフロッグの調査に乗り出したんだけど、そしたら森の外縁では普段あまり見かけない魔物が想像以上の数、森の奥から出てきている事が解ったのよ」
えっとね、魔力溜まりが活性化とか言うやつになってて、そのせいで森の奥深くの魔物がいつもより強いのに変異しちゃってるみたい。
でね、その強い魔物が怖いからこのポイズンフロッグだけじゃなくって、もっと別の魔物も普段は出ないような森の浅い所に出てきてるんだって。
「そう言えばそんな事を前に言ってたな」
「ハンスはこの話、聞いてたの?」
「ああ、この間少しだけな」
どうやらお父さんは前に一人でイーノックカウに来た時にこの話を聞いてて、もし何かあった時はうちの村の人たちも助けに来てねって言われてたんだってさ。
「そう。でもルルモアさん、それって大変な事じゃないですか」
「ええ、そうね。でもそれはまぁいいのよ。今までいたのより強い魔物と言ってもその殆どがDランクの冒険者で何とかなるレベルだし、あまり多くは無いけどこの街にだってCランクの冒険者はいるもの。ちょっと強いのが混ざっていても大丈夫」
僕たちの村に出るブラックボア以上の魔物がいっぱい出るなら困っちゃうけど、今のところそこまで強い魔物はほとんど出てないから大丈夫なんだって。
でもね、唯一ポイズンフロッグだけは問題なんだってさ。
「ポイズンフロッグはご存じの通り毒を持ってるでしょ? だからある程度実力があるパーティーでもあまり手を出したがらないのよね」
僕みたいに毒を魔法で消せるんならいいけど、そんな人はいないから普通は毒に耐性がある防具を着て狩るらしいんだ。
でもね、いっくら耐性があるって言ったって絶対に毒を防げる訳じゃないから、どうしても毒消しのポーションを持って行かないといけないんだって。
「ご存じの通り、ポーションは高いでしょ? なのにポイズンフロッグの素材はそれほど高額で取引されているわけじゃないから、毒に侵されたりすると赤字にはならないものの、苦労の割には報酬がかなり少なくなってしまうのよね」
やっつけるのは大変だけど、元はFランクの冒険者でも狩れるブルーフロッグが変異した魔物だから冒険者ギルドも素材をそんなに高く買い取れないんだって。
だからずっと放置されちゃってるらしいんだけど、そのせいで困ってる人がいっぱいいるんだってさ。
「ポイズンフロッグそのものはそれほど多くいる魔物じゃないから、危険性という面では放置しても構わないの。でもね、この魔物が厄介なのはブルーフロッグの群れに紛れていることなのよね」
このブルーフロッグ、あんまり強くないから低ランクの冒険者がよく狩ってたそうなんだけど、なのにポイズンフロッグが混ざっちゃったもんだから、そのブルーフロッグにまで手を出せなくなっちゃってるらしいんだ。
おまけにこのブルーフロッグのお肉は結構美味しいらしくてイーノックカウのお料理屋さんでもよく使われているから、狩ってきてもらえないとそういう人たちやこのお肉が食べたい人たちまで困っちゃうんだってさ。
「と言うわけで、私たち冒険者ギルドも少し報酬を高めにして依頼を出したのよ。それなのに、その依頼を受けている人が誰もいなかったのよね」
だからルルモアさんはランクの高い人たちにどうして? って聞いてみたらしいんだ。
そしたらね、どうやらこないだの事件で死にかけた人たちの話を聞いて、この街の冒険者の人たちはみんな毒が怖くなっちゃってるんだって。
「さっきも言ったとおり、ポイズンフロッグ自体の数は少ないのよ。それにそこまで強い魔物じゃないから遠くから弓で倒せる実力さえあれば危険はないって説明はしてるんだけど、みんなおじけづいちゃって」
なるほど、だからお母さんなのか。
お母さんはグランリルの村の中でも弓の名手って言われてるから、そんな弱い魔物なら一発の矢でやっつけちゃうもんね。
「それにルディーン君もいるなら、もし毒を受けても安心でしょ? だからお願い、ポイズンフロッグ討伐の指名依頼を受けてもらえないかな?」
そっか。だからさっき、お母さんを見つけた時に僕が一緒にいるのを見て、とっても嬉しそうな顔をしたんだね。
僕がいるならポイズンフロッグなんて全然怖くないもん。
だから僕、お母さんはすぐにいいよって返事をすると思ったんだけど、
「う~ん、ちょっと難しいかも」
なんとお母さんはちょっと考えた後、ルルモアさんにこんなびっくりする返事をしたんだ。
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