21 ステータス画面の秘密
自分のステータス画面を見て驚いていた僕は、一つ疑問に思うことがあった。
それは何故昨日までステータス画面を開いてもファミリーネームが書かれていなかったのかと言う事。
ドラゴン&マジック・オンラインでは人のステータスを見ると、そこにはちゃんと名前も表示されていた。だからここに書かれている名前は本名であり、フルネームだと思っていたんだ。
ところが改めてお父さんのステータスを確認すると、僕と同じ様にハンス・カールフェルトとファミリーネームが追加されている。
これには何が何やらさっぱり解らなくて、それなら名前を知らない人を見たらどうなるんだろうと思って近くにいる冒険者ギルドの人の名前を確認してみると、名前の欄には????とハテナマークが並んでいた。
これってどういう事なんだろう? もしかして、ステータス画面を見る能力だけがこの世界に来て劣化したんだろうか? なんて考えたんだけど、でもそんな事があるのだろうか?
攻撃力や魔法の威力だけでなく、ゲームの中では使えなかった設定魔法でさえこの世界では普通に使えるようになっているのに。
「お……」
「ね……」
そう思った僕は何か他に原因があるんじゃないかと考える。
するとある仮説が頭に浮かんだんだ。
そう言えば、ゲーム時代ってキャラ名が頭の上に表示されてたよね?
そうだ! ドラゴン&マジック・オンラインではステータスを見るまでもなく、プレイヤーやNPCの名前は全て確認できていたんだっけ。
それにゲーム内ではムービーなどでまだ正体がなぞの存在の名前は????と表記されていたはずだ。
と言う事は知らない名前の場合は、ステータスを見ただけでは解らないって事か。
よくよく考えれば名前と言うのは誰かが後から付けたものであって、その人の能力とはまるで関係ないんだよね。
だから相手のステータスを調べるこの方法では解らないというのも当然なんだろう。
「どうし……」
「大丈夫、ルディ……」
そう考えると、名前が解らないと????としか表記されないというのも納得できるよね。
盗賊のスキルである鑑定解析だって、モンスターのスキルや攻撃方法は解るけど名前までは解らないもの。
動物のモンスターである一角ウサギとかならともかく言葉を喋るゴブリンやオークにも名前が無いなんて事はありえないから、きっとスキルではこの手の物は解らないのだろう。
そう僕が結論付けた時だった。
がばっ!
いきなり肩をつかまれ、僕の小さな体はその力に抗えず、大きく体勢を崩す事となる。
危ない! そう思って慌てて体勢を立て直そうとしたんだけど、でも僕は次の瞬間、その必要はないと解ったんだ。
なぜなら僕の肩をつかんだのはお父さんであり、僕の両肩をしっかりと押さえて倒れ掛かった体を支えてくれていたのだから。
「おい、しっかりしろ、ルディーン! 大丈夫か?」
「ルディーン君。ショックなのは解るけど、気をしっかり持つのよ」
どうやら僕はステータスの事を考えるあまり周りの声がまるで聞こえなくなっていたみたいで、その様子を見た二人は僕がファーストネームの話を聞いて、あまりのショックでどうにかなってしまったんじゃないかと思ったみたい。
それで声をかけ続けていたんだけど、それでも僕が一向に元に戻らないから両肩をつかむという強行手段に出たようなんだ。
「あっうん、なに? ぼくはだいじょうぶだよ」
流石にステータスのことを考えていたとも言えないから、とりあえず曖昧な顔をして笑って大丈夫だと二人に伝える。
そんな僕の様子を見て、心底ホッとしたという顔をするお父さんとニールンドさん。
どうやら僕の様子は傍から見ると本当におかしかったようで、二人で何度も声を掛けても心ここにあらずと言った具合に、反応すらしなかったそうな。
「本当に大丈夫か?」
「そうよ。ショックだったんでしょ? 無理してない? 我慢しなくていいのよ」
そりゃ、子供がいきなりそんな状態になったら、心配するよね。
それもそうなる理由があったのなら余計に。
と言う訳でちょっと反省。
「ほら、だいじょうぶだよ! かーるふぇるとだっけ? ぼくのなまえがルディーンだけじゃなかったなんて、ちょっとびっくりしたけど」
普通に返事をするようになってもまだ少し心配そうにしている二人に、僕は本当に大丈夫だって両手を振り上げてアピールする。
こんな事をしたところで精神的ショックに体の動きは関係ないから意味ないかもしれないけど、他に表現しようがないのでしかたがないよね。
ただ無理をしているかはともかく、僕が一生懸命大丈夫だとアピールしているのが伝わったのか二人とも取り合えず安心はしてくれたみたい。
でも、流石に悪いと思ったのか。
「ルディーン、ごめんな。お父さんが悪かった。どこか行きたい所や、何か欲しい物はないか? お詫びにどこでも連れて行ってやるし、なんでも買ってやるぞ」
と、お父さんが言いだした。
僕としてはさっきまで心ここにあらずだったのはお父さんのせいじゃないからそこまで謝ってくれなくてもいいのにって思うんだけど、これも折角のチャンスだし何よりここで何も言わないとお父さんも心苦しいだろうから、ちょっとした我侭を言ってみる事にした。
「それならねぇ、ぼく、ほんやさんにいってみたい! むらにあるほんよりくわしくのってる、まどうぐのほんがほしいんだ」
「魔道具か、そう言えば前にもそんな事を言っていたな。よし解った。ルディーンの将来の為にもなるだろうから、お詫びに買ってやるよ」
「やったぁ!」
何事も言ってはみる物で、高いから買うのは無理だろうと思って図書館へ連れて行ってもらって読ませてもらおうと思っていた魔道具の上級本を買ってもらえることになったんだ。
魔道具作りの核である魔力回路の事が本格的に解説してある本が手に入ればもっと複雑な魔道具も作れるようになるし、何より魔力を属性変換する魔力回路を組み込めば無属性の魔石でも滅多に手に入らない属性魔石の代わりになる。
まぁ買ってもらったとしてもすぐに使いこなすのは無理だろうけど、本が手に入るのなら家でいつでも読む事ができるようになるし、ちゃんと勉強していつかは魔道コンロとかも作れるようになりたいしね。
思わぬ幸運に有頂天になり、諸手をあげてぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいたんだけど、そんな僕を見たニールンドさんが、
「えっ? ルディーン君、まさか魔道具が作れるの? いや、そんなまさかねぇ」
なんて言いながら、信じられない事を耳にしたと言わんばかりに驚いていた。
そんなに驚く事かなぁ? だって魔道具なんて魔法が使えれば誰でも作れるって本に書いてあったし、事実キャリーナ姉ちゃんでも一番簡単な風車を回す魔道具なら作れたもん。
別に珍しくもないでしょ。
あっ、もしかして僕がまだ小さいから、驚いているのかな?
「ん、なんで? つくれるよ。ね、おとうさん」
「ああ、確かに作れるな。庭の手入れに使ってる道具なんか皆が羨ましがったから、村中のを作ったものな」
「嘘、じゃあルディーン君、本当に?」
「うそじゃないよ! ほんとにつくれるもん! それにぼくだけじゃなくて、キャリーナねえちゃんだってつくれるんだよ」
お父さんも作れるって言ってくれたのに、ニールンドさんが信じてくれないようだったので僕はお姉ちゃんも作れるって言ってやった。
すると本当に驚いたようで、彼女はお父さんに真顔で問い掛けたんだ。
「カールフェルトさん、まさかルディーン君だけじゃなくて他にも魔道具を作れる子がいるんですか?」
「ん? ああ、前に一番下の娘を連れてきた事があっただろう。あれも簡単な治癒魔法なら使えるからな。ただ、ルディーンと違って、魔道具には興味ないみたいだけど」
そんなお父さんの言葉にニールンドさんは絶句していた。
う~ん、あの様子からすると、どうやら子供が魔道具を作れるというのは本当に驚くような事なのかもしれない。
でもなぁ、僕だけじゃなくお姉ちゃんもそうだったように魔法は魔力を動かす訓練をすれば誰でも簡単に使えるようになるみたいだし、それができたら誰でも魔道具は作れるって本に書いてあったから、こんな大きな街なら作れる子供、いっぱい居そうなんだけどなぁ。
それともグランリルの村が田舎だからだろうか? そう言えばうちの村では大人でも文字をあまり読めない人がいるんだっけ。
お兄ちゃんやお姉ちゃんも自分の名前が書ける程度だし、お父さんやお母さんも僕みたいには本、すらすら読めないんだよなぁ。
ニールンドさんがもしその事を知っていたのなら驚いてもおかしくないかも。
それなら親に頼らず僕かキャリーナ姉ちゃんのどちらかが本を読んで独学で魔法を習得して、更に魔道具を作れるようになったって事だからさ。
その条件なら、もしかしたらこんな町に住んでいる人にとっても凄い事なのかもしれないね。
お父さんから話を聞いてショックを受けたのか、ふらふらと冒険者ギルドの窓口の方へと歩いて行くニールンドさんの後姿を見ながら、僕はそんな事を考えていたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。
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