203 魔道具がお部屋の中を動き回ったら絶対邪魔だよね?
「さて、今度こそルディーン君の用事は全て終わったのであろう? ならば今度は、ちとわしらの話に付き合って欲しいのじゃが」
紙作りのための柔らかい木探しの話が終わったところで、ロルフさんがこんな事を言ってきたんだよね。
だから僕がいいよって言うと、部屋の隅っこから蓋のついた大きな木の箱を持ってきたんだ。
「これ、なあに?」
「これはのぉ、君に教えてもらったクールと言う魔法を魔法陣にし、わしとギルマスが作り出した飲み物を冷やす魔道具じゃよ」
「へぇ、クールを使うと、そんなのも作れるんだね」
僕はお部屋を冷やす魔道具しか思いつかなかったから、ちょっとびっくり。
でも箱の中の空気を冷やすんだから、言われて見れば確かに冷蔵庫の代わりを作る事もできるよね。
そう思って僕が感心してたら、それを見たロルフさんがちょっと申し訳なさそうな顔をしたんだ。
でもなんで? こんな凄い魔道具を作ったのに。
そう思った僕が聞いてみると、二人してこんな事を言い出したんだよね。
「実はのぉ、わしやギルマスの攻魔法力ではクールの魔法を使ってもこの箱の中を冷やすのが精一杯だったのじゃよ」
「ええ。私たちもがんばってはみたのですけど、ルディーン君がやろうとしていた部屋全体を冷やすほどの力を持った魔法陣を完成させる事ができそうにありませんわ」
何とびっくり。ロルフさんたちはクールの魔法で部屋全体を冷やそうと思ってたんだって。
そもそもクールの魔法って、熱い所で使うと体の周りの空気を冷やして涼しくしてくれるって言う魔法なんだよね。
だから当然、部屋全体を冷やすなんてことができるはず無いんだ。
でもそう言えば、僕が氷の魔石でお部屋を冷やす魔道具を作った時もみんなびっくりしてたもん。
僕は前世でクーラーってのがあったから知ってるけど、魔道具から冷たい風を出せばお部屋全体が涼しくなるなんてロルフさんたち思いつかなかったのかもしれないね。
だから僕は、ちゃんとその事を教えてあげる事にしたんだ。
「あのねぇ、クールの魔法でお部屋全体を冷やすのは無理だよ。だってこの魔法、自分の周りとか、熱くなっちゃダメなものを置く所にかけてそこの空気を冷やす魔法だもん」
「なんと! それではルディーン君でも部屋全体を冷やす事はできぬと言うのじゃな?」
そしたらロルフさんもバーリマンさんもびっくり。
でね、じゃあどうやって冷やすの? って聞いて来たんだよね。
「それはねぇ。お部屋の空気をいっぺんに冷やすんじゃなくって、順番に冷やしてあげればいいんだ」
「順番にじゃと? それはこのクールの魔法が掛かった魔道具を移動させると言う事かのぉ?」
「確かにそうすれば部屋中を冷やす事ができますわね。私たちは指定した範囲を冷やすことに固執してしまった為に箱の中を冷やしましたが、魔法陣を刻むのは小さな魔石ですもの。それが部屋の中を移動する仕組みを作れば、効果範囲も移動して部屋中を冷やす事ができますわ」
あれ? そんなこと言って無いよね?
僕がお部屋の空気を順番に冷やすって言ったからなのか、何だか二人とも勘違いしちゃってみたいなんだよね。
でね、そのまま二人してどうやって動かしたら一番お部屋が涼しくなるのかなぁって話し始めちゃったんだ。
う~ん、確かにその方法でもお部屋の中は涼しくなるだろうけど、その魔道具はどうやって動かせばいいんだろう?
それに動かせるようになっても、もしそんなのが台所とかにあったら危ないよね。
だから僕は、慌ててロルフさんたちに声をかけたんだ。
「そんなんじゃダメだよ。お部屋が涼しくなっても、そんなのが部屋の中を動いてたらみんな邪魔だなぁって思っちゃうもん」
「うっ、確かにそうじゃな」
「あと、僕は知らないけど物を飛ばす魔法ってあるの?」
「物を飛ばす魔法ですか? 物をほんの少しだけ浮かせて運ぶ魔法はありますが、そのような魔法があるとは私も聞いたことがありませんね」
「じゃあさ、その魔道具はお部屋の床を動き回る事になるんでしょ? だったら、きっと誰かが踏んづけて壊しちゃうんじゃないかなぁ?」
僕の話を聞いて、二人とも僕が言ったのがクールの効果範囲を動かすって事じゃないんだって解ってくれたみたい。
でも、じゃあどうやって冷やすの? って聞いてきたもんだから、僕は今お家で使ってる氷の魔石の魔道具が、どうやってお部屋を冷やしてるのかを話してあげることにしたんだ。
「あのねぇ。前に僕が作ったのは箱の中にいっぱい並べた銅の板を凍らせて、その間に魔道具で風を送ってやると冷たい空気がお部屋に流れ出すって言うものなんだ」
「風を送る魔道具、ですか?」
「うん。凍った銅板ってとっても冷たいから、そこにお部屋の空気を通してやるとあったかいのが冷たくなるでしょ? こうやってお部屋の空気を順番に冷たくしてやればいいんだ」
僕のやり方を聞いて目を大きく開いてびっくりするバーリマンさん。
そしてロルフさんも、この説明を聞いて気が付いたみたいなんだ。
「なんと、クールの魔法だけで部屋を冷やす訳では無かったのか」
ロルフさんはとっても頭がいいから、さっきの説明だけでこの魔法陣をどうやって使ったらいいのか解ったみたい。
だから僕、クールの魔法だったらすぐに空気が冷えるから、前に作ったやつよりずっと簡単にお部屋を冷やす事が出来るようになったんだって教えてあげたんだよ。
でね、そのあと実際に簡単な魔道具を使って実験してたらクールの魔法を刻む魔石は普通のより氷の魔石を使った方がちょっとの魔力で涼しくなるって解ったり、この魔道具を作るとどっちのでも僕んちのやつみたいに水が出てきちゃうからそれも気をつけてねって教えてあげたりしたんだ。
「この魔法陣が書かれたやつ、ホントに貰ってっていいの?」
「ええ、いいわよ。ルディーン君がクールの魔法を教えてくれなかったら作れなかった魔法陣ですもの。それにこれは初級とは言えないけど、お家で魔法陣のお勉強をする時の役にも立つでしょ?」
「うん。ありがとう!」
僕がお家に帰る時に、バーリマンさんがクールの魔法陣が書いてある羊皮紙をお土産にって僕にくれたんだ。
それもクーラー用に書き直したやつだけじゃなくって、最初に見せてくれた飲み物を冷やす箱に使ってたやつもだよ。
おまけにこの魔法陣でお勉強してもいいんだって。ならクールの文字んとこを書き換えてもいいって事だよね?
「何作ろっかなぁ? あっでも、取り合えずご飯を食べる部屋のクーラーを作らないと!」
とりあえず氷の魔石を作ってそれにクールの魔法陣を刻みながら、僕はこれでいろんな魔道具が作れるぞって、とってもわくわくした気持ちになったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
197話の焼き増しのような話になってしまいましたが、これからの展開上、書かないわけには行かなかったのでどうぞご容赦を。
さて、ルディーン君は子供だけに自重というものを知りません。
そんな彼が汎用性の高い魔法陣を手に入れてしまいました。おまけにバーリマンさんから、それを使ってもいいと言うお墨付きで。
いや、別にバーリマンさんはそんなつもりはまったく無いんですよ。だって、まだ魔法文字の授業をやって無いんですから。
なのであくまで魔法陣の教材として使いなさいって言っただけで、それをルディーン君が拡大解釈しただけです。
さてさて、ルディーン君はこれで何を作り出してしまうのやら。




