18 馬車の上で
次の日の朝、僕はお父さんが御者をする馬車に乗って衛星都市イーノックカウへと出発した。
このイーノックカウ行きは僕の冒険者ギルド登録と言う目的の他に、森で取れた魔物や村の近くで取れた動物や鳥を売りに行くと言う目的もあるから、それらで馬車の中は一杯。
まぁ、とは言っても別にこの馬車に積み込まれているもの全てが僕たちの家のものと言うわけじゃないんだけどね。
「普段は村に来る行商人に売ることが多いけど、こうして街に自分たちで持ち込めばより高く売れるから、誰かが街に行く時はこうして村のみんなの分も一緒に売りにいくんだ」
「だからこんなにあるんだね」
僕は御者台の上から後ろを振り返り、ホロの中一杯に積まれた色々な物を眺めた。
その中には大きな牙やキラキラ光る小さな魔石が一杯入った枡、それに僕が見た事もないような大きな魔物の毛皮なんかもあったりして、とても面白かった。
お父さんはそんな様子を楽しそうに見ていたんだけど、ふと何かに気がついたような顔をして僕にこう問い掛けてきたんだ。
「そう言えばルディーンはお金を見た事はあるか?」
「おかね? ないよ。むらではいらなかったもん」
お金の存在は知っているけど、見た事はない。だって村での生活では子供は基本、お金は必要ないんだもん。
村にお店があるわけじゃないし、行商人が来ても売っているものは食品や調味料、後は服やその材料になる布や各種道具なので子供にはお金の使い道がないからだ。
「そう言えばそうだな。でも、これから行くイーノックカウでは必要になるから最低限の事は覚えておかないといけないぞ」
そう言うとお父さんは腰についているポーチから小さな皮袋を取り出し、そしてその中から4枚の硬貨を取り出して僕たちが座っている間のスペースに並べた。
「いいかルディーン。これが一番小さい通貨である鉄貨、基本となる1セントだ。これ10枚で銅貨1枚と交換される」
なんかTRPG版ドラゴン&マジックが生まれた地球の某大国の貨幣と同じ名前のような気がするけど、きっと偶然だよね?
因みにお父さんが今、並べながら教えてくれた貨幣の交換レートは以下の通り。
金貨 10000セント
銀貨 100セント
銅貨 10セント
鉄貨 1セント
その他にも金貨10枚で交換される白金貨や、その白金貨100枚で交換されるミスリル貨と言うものがあるそうだけど、その二つは貴族や商人が大きな取引に使うくらいで普通は目にする事がないから知識として覚えておくだけでいいらしい。
あとね、どうやらお父さんが話してくれた物の値段の例からすると、日本円にして1セントが10円前後、金貨1枚である1万セントが10万円くらいってとこかな? 品物によって多少価値に違いはあるみたいだけど、大体そんな風に考えておけば大きくは間違えないっぽいね。
「それとルディーンが普段食べている一角ウサギの肉の串だと銀貨3枚くらいだな。ただ、これはうちの村では一番手に入りやすいから食べてるだけで、街では高級な部類に入るから特殊な例か。一般的に食べられている乳を出さなくなった牛とか、卵を産まなくなった鳥の串だと鉄貨3~4枚ほどが相場だろう。パンも1食分で大体同じくらいか」
「うさぎのまもののほうが、すごくたかいのか」
なんとなく魔物の肉の方が牛や鳥より安いような気がしてたけど、実は逆らしい。
お金持ちが食べる為にわざわざ落とす若い牛や鳥なら結構な値段がするらしいけど、普通の人たちが口にするものは家畜として用を成さなくなったものだから安いんだってさ。
「それに、強い魔物ほど、その肉は旨いから値段も高くなる。前にブラウンボアの肉を食べた事、あるだろ。あれなんか1頭分の肉だけで街で売れば金貨25~6枚にはなるんだぞ」
「あれ、そんなたかいおにくだったの!?」
どおりでブラウンボアをお父さんとお母さんが獲って来た時に、村中がお祭り騒ぎになったわけだ。
でもそんな高い肉、村のみんなで食べちゃってよかったのかなぁ? そう思って聞いてみたら、
「魔石や牙、それに皮とかの方が高いからいいんだよ。ほれ、後ろに皮が積んであるだろ。あれだけで金貨80枚ほどだからな。それに魔石もブラウンボアにしてはかなりでかかったから多分200枚位で売れるだろう。その上角まで折らずに獲れたからな、祝儀みたいなもんだ」
なんて言われてしまった。
なるほど、そんなに高く売れるのならお肉くらいみんなに振舞っても問題ないよね。
しかし、金貨200枚で売れるって事は魔石って本当に価値があるんだなぁ。
魔道具を作る練習の為に小さなものを使わせてもらってたけど、もしかしてあれでも結構な値段したりするのかな? って思って試しに聞いてみたら、
「そうだなぁ、一角ウサギのは魔道リキッドの材料くらいにしかならないから結構安くて、一つで銀貨40枚くらいか。前にルディーンが小さな魔石で草刈機を作ったろ、あれで金貨4~5枚ってところだ」
「とんでもない、たいきんだった!」
結構どころではない答えが帰って来た。
その金額に物凄く驚いているとお父さんは楽しそうに笑いながら、そんなものは作った魔道具からすればたいした金額でもないし、僕が考えている程の事でもないと教えてくれた。
「いやいや、そう思うかもしれないけど魔道具ってのは簡単なものでも金貨数十枚はする。あの台車型草刈機でも、買えば多分金貨80枚以上は取られるだろうな。それが金貨4~5枚の魔石と少しの材料代だけで手に入ったんだから、村の連中もルディーンには感謝してると思うぞ」
なんと、魔道具と言うのは僕が思っていたよりも遥かに高いものらしい。
前に作った台車型草刈機なんて構造的に言えばただ刃が回っているだけで回転速度も変えられないし、刈った草がその場に残るから後で片付けなきゃいけないからそれ程便利でもないんだけどなぁ。
その上刈れる草も庭に生えているやわらかいものだけで、太くて長い草や蔓とかがあれば軸に絡まって止まってしまう位力も弱いのに、そんなものが金貨80枚もするなんてびっくりだよ。
「それにな、お前が腰に下げてるショートソードだってそこらにあるような二級品じゃなく、魔物相手でも戦える上質な鋼を使って腕のいい武器鍛冶が鍛えた品物だから金貨80枚もするんだぞ。そこからでも解る通り、確かに金額だけ見れば金貨数枚と言うのは大金に聞こえるかも知れないが普通に使う程度の金でもあるんだから、お前が気にする程の事じゃない」
なるほど、他に基準が無かったから前世のお金の価値観だけで考えたけど、そんなに単純な事じゃなかったみたいだ。
そう言えばドラゴン&マジック・オンラインでも武器は一番安い棍棒だって金貨20枚とかしてたし、この世界は普段の食べ物や着るものにはそれ程お金は掛からないのかもしれないけど、必要なものにはお金を惜しみなく使うと言うほうが常識的な考え方なのかもしれないね。
「後は将来への投資と言う意味もあるかな。ルディーンは確かに狩りの腕はいいが、だからと言って村に残って狩人にならなければいけないという訳じゃない。魔道具作りもできるのだから、もしかするとその腕を伸ばしてそっち方面に進んだほうが幸せかも知れないからな。子供の才能を伸ばしてやるのも親の務めなんだから、これからも遠慮する事はない。俺やお母さんが狩った獲物から取れた魔石なら別に金がかかるわけじゃないんだから、これからもどんどん使って新しいものに挑戦すればいい」
そう言うと、お父さんは笑いながら僕の頭をなでて、
「それに、お金が稼げるからと言っても別に魔道具職人になる必要もなければ、怖いのに無理をして狩人になる必要も無い。そう言えばルディーンは回復魔法も使えるんだったな。ならそれをもっと練習して人を癒す仕事をしてもいい。お前の未来には無限の可能性があるんだ。これからも色々な事を経験して、自分の好きな道を選べばいい。お父さんやお母さんはその手助けをする為なら、多少の出費くらいならなんとも思わないから、これからも甘えていいんだぞ」
「うん。ぼく、これからもいろいろおぼえて、しょうらいはおとうさんとおかあさんをおかねもちにしてあげるね」
将来のことなんて僕には解らない。
でも、期待をして手助けをしてくれるお父さんたちがいるんだから、出来る限り頑張ろう。
馬車に揺られながら、僕はそう強く思うのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。
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