186 お祭りの楽しみが増えちゃった
う~ん、どうしよう?
普通、こういうスープは作ったらすぐに使っちゃうものだし、そうじゃないなら冷蔵庫に入れといてもすぐに悪くなっちゃうんだよね。
「冷凍庫で凍らせたらかなりもつと思うけど……」
そう言いながら周りを見ると、そこにはぐつぐつと煮えてるたくさんの鍋が。
カキ氷を作るためにおっきな冷凍庫は作ってあるしその他にもちっちゃな冷凍庫が何個かあるけど、それでもこんだけのクラウンコッコのガラスープを凍らせるのは流石に無理だよね。
「と言う事は、冷凍庫に入らない残りの分は数日中に使いきらないといけないって事なの?」
だからこういう話になっちゃうのは当然なんだけど、流石にこれだけのスープを全部飲むのは大変だよね。
それに別の方法が無いわけじゃないんだ。
「それだと大変だから、スープの粉にしちゃった方がいいと思う」
「粉? それって塩を作るみたいに、煮詰めて粉にするってこと?」
普通に考えたらそうなんだろうけど、そんな事しても焦げたりしてせっかくのスープがダメになっちゃうと思うんだよね。
だから僕は別の方法を取る事にしたんだ。
「ううん。ずっと煮てたら大変だし、焦げちゃったらもったいないから僕が魔法でなんとかやってみるよ」
要はスープから水分だけ取っちゃえばいいって事だよね? そう思った僕は、目の前にあるクラウンコッコのガラスープにドライの魔法をかけたんだ。
そしたらかなりの量が減って、色も濃くなったんだよね。
うん。これならうまく行きそう。
そう思ってもう一度、今度は魔力を強めに込めてドライをかけてみたんだけど、
「う~ん。何か変な感じになってる気がする」
そしたら色が何だか変になっちゃったもんだから鑑定解析でそのスープを調べてみたんだけど、そしたらスープの魔力に僕の魔法が反応しておかしくなってるって出たんだ。
「ルディーン、どうなの? うまく行きそう?」
そっか。だったら、このままこの方法でやってたらうまく行かないって事だよね。
そりゃあドライに込める魔力を少なくすれば大丈夫かもしれないけど、今作ってるスープを全部粉にしようと思ったら物凄くいっぱい魔法を使わなきゃいけないもん。そんなの僕1人じゃ無理だよね。
だから僕は何か別の方法が無いかなぁ? って考えたんだ。
「ルディーン、聞こえてる? う~ん、またこうなっちゃったか」
思うんだけど、多分スープからお水を取っちゃえばいいってのはあってると思うんだよね。
だからドライの魔法がいいんじゃないのかなぁって思ったんだけど、それだと魔法とスープの魔力が反応しちゃうし……。
「こうなったらこの子、考えが纏まるまで周りの声が聞こえないだろうから、私たちは作業に戻りましょう」
「えっ、いいの?」
「大丈夫よ、いつもの事だから」
スープからお水を取り出す……別ける……
「って、そうか! 抽出すればいいんだ」
そう言えばそうだよ。
ドライで乾かすんじゃなく、錬金術でスープからお水を抽出しちゃえばいいんじゃないか。
このスープの中には色んな物が溶け込んでるからそれを全部取り出すのは無理だけど、逆にお水だけを指定して抽出する事はできると思うんだよね。
だって錬金術の抽出ってのはそういう技術だもん。
と言う事で早速やってみる事にした僕は、とりあえずカップにガラスープを入れるとそれに解析をかけてお水を指定する。
そしてそのお水をカップの外に抽出してみると、
パシャッ。
見事にお水だけが外に移動して、カップの中にはちょっと黄色っぽい粉だけが残ってたんだ。
そしてその粉を鑑定解析で調べてみると、
クラウンコッコの顆粒ガラスープ
水分を分離させた際に少々魔力含有量は減ったものの旨み成分に変わりはなく、これをお湯に溶かすだけでクラウンコッコのガラスープを作る事ができる。
って出てきたんだよね。
「やったぁ! お母さん、うまくできたよ!」
錬金術でスープを粉にできてとっても嬉しかった僕は、お母さんの方に振り向いてそう言ったんだけど、
「あれ? お母さん、どこ?」
そこにはお母さんはいなくって、それどころか僕の周りにはいつの間にか誰もいなくなってたんだ。
もう! 僕1人にやらせてどっかへ行っちゃうなんて、みんな大人なのに困っちゃうなぁ!
そう思って周りをキョロキョロって見渡したら、お母さんたちは別のかまどのとこにいて、お鍋から灰汁を掬ってたんだ。
「お母さんたち、別のお仕事をしてたのか」
僕を一人にしちゃダメでしょ! って怒ってやろうって思ってたんだけど、それだったら仕方ないか。
そう思った僕は、お鍋の中にある残ったクラウンコッコのガラスープを顆粒スープにするお仕事を始めたんだ。
錬金術も一応魔力を使うから、一度にあんまりいっぱいやりすぎるとまたおかしくなっちゃうかも?
そう思った僕は、とりあえずスープをお鍋の3分の1くらい別のお鍋に移してお水を抽出。
でね、残ったガラスープの粉を鑑定解析で調べてみたんだ。
「さっきと同じだ。ならもっといっぱい一度にやっても大丈夫かな?」
そしたらさっきと同じ結果が出てきたから、今度は残ったガラスープからお水を全部いっぺんに抽出したんだよね。
そんなにいっぱい一度にやったって言うのに、鑑定解析の結果はさっきと同じ。
「いっぺんにいっぱいお水を抽出したのに変わんないって事は、もしかしてスープの中の魔力にまったく反応して無いのかなぁ? でもなんで?」
そりゃあドライに比べたら抽出に使う魔力はとっても少ないよ。
でも抽出だって、一度にいっぱいやったら結構魔力を使うんだよね。
だからお鍋に3分の2も残ってたスープのお水を全部抽出したりしたら、ちょっとくらいは鑑定結果に違いが出てくるんじゃないかなぁって僕は思ってたんだけど、結果はまったく変わんなかったんだからびっくりだ。
もしかして魔法と錬金術では魔力の伝わり方が違うからなのかなぁ?
そう思った僕はさっきドライの魔法をかけてダメになっちゃったガラスープをもう一度鑑定解析で調べて、うまくいったガラスープの粉の鑑定解析と比べて見ることにした。
「あっ、そっか! スープに魔法をかけたから反応しちゃったってことなのか」
ダメになったスープとちゃんと粉のスープになったのとでは、説明文に大きな違いがあったんだよね。
ダメな方はガラスープに含まれている魔力にドライの魔法が反応して変質したって出てるのに、ちゃんとできた方は水分を分離させた時にちょびっと魔力が減ったって書いてあるけど、魔力に反応したって書いて無いもん。
って事は、錬金術の抽出にかかる魔力はスープのお水に向かってるだけで、そのほかには影響して無かったからうまく行ったって事なんじゃ無いかなぁ?
「もしそうなら、一度にいっぱいお水を抽出しても出来上がったガラスープの粉には影響が出ないってことだよね?」
そう思った僕は、早速試してみることに。
「お母さん。他のお鍋のスープ、もうできてる?」
「できてるけど、粉にするのはうまく行ったのかしら?」
「うん! でね、今度は一度にいっぱいやってもできるか試すんだ」
そう言ってお母さんに出来上がったスープのとこに連れて行ってもらった僕は、早速一つのお鍋の中のスープ全部を解析してでお水を抽出。
でも僕の錬金術のレベルが足らなかったからなのか、一度に全部のお水を抽出し切れなかったんだよね。
と言う訳でもう一度抽出をかけて、今度こそ粉になったのを見てから鑑定解析をかけたんだ。
「やっぱりだ! こんなにいっぱい一度にやってもちゃんとガラスープの粉になってる!」
その結果は最初に成功したときとまったく同じ。って事は、やっぱり錬金術の魔力は、全体じゃなく抽出する対象のお水にだけ働いてるって事だよね。
抽出ならうまくいく事が解って、僕は一安心。
この後は、今日みんなで食べる分以外のクラウンコッコのガラスープ全部を、僕はできた端から粉に変えて行ったんだ。
「ルディーンが言った通り、このスープで煮ると野菜とお肉を水で煮るより美味しいわね」
「カールフェルトさん、それよりこの粉の方がすごいわ。これをかけて作った根菜と肉炒め、昨日まで食べてたものと中に入れてる材料が同じだなんて思えないほど絶品よ」
でね、全部の作業が終わった後はみんなでお料理。
今まではダシやスープと言うものを使った事がなかったんだから、初めてスープ入りのお料理を食べたみんなはあんまり美味しくてもうびっくり。
「これは、祭りの楽しみが一つ増えたわね」
「ええ。これからクラウンコッコを狩った時は、必ずスープを取らないとね」
そしてそれから僕たちの村のお祭りでは毎回クラウンコッコのお肉だけじゃなく、そのガラのスープを使ったお料理も一緒に作ろうねって事になったんだ。
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