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17 お父さんの提案と家族会議


 ある日の夕食での事。


「ルディーン、明日衛星都市イーノックカウに連れて行くからな」


「「「「「「えっ!?」」」」」」


 さっきまではいつもの楽しい夕食の時間だったのに、お父さんの一言でお母さんやお兄ちゃんお姉ちゃん、そして僕の視線が全部お父さんの方を向き、全員の口から驚きの声が漏れた。


「何を言い出すのハンス! ルディーンはまだ8歳なのよ。早すぎるわ」


「そうだよ、ルディーンはまだ武器の練習を始めて半年くらいしかたっていないじゃないか」


「私もそう思う、危ないわ」


 お母さんとディック兄ちゃん、そしてレーア姉ちゃんがお父さんの発言に反対の声をあげ、その意見に対してテオドル兄ちゃんとキャリーナ姉ちゃんも無言で頷く。

 そして僕はと言うと、思ってもいなかった事なので驚きのあまり固まっていた。


「ここ3ヶ月のルディーンの行動から考えたら、別におかしくはないだろう?」


「そうだけど、でもこの子はまだこんなに小さいのよ。もしも大きな怪我をしてしまったら」


「大丈夫さ、もっと大きくなるまでは一人で行動させたりしないし、大勢の大人たちと行動して森での心構えや動き方を教え込むつもりだからな」


 衛星都市イーノックカウへ行くという話がいつの間にか森へ行く話に変わってしまっているけど、これは別にみんなの頭が混乱してこんな内容になってしまっているわけじゃないんだ。

 これはグランリルの村の人からすると、初めてイーノックカウを訪れると言う事が、森へつれて行ってもらえるようになると言う事と同義語だからなんだよね。



 この村で森と言うとグランリルの村の近くにある魔物が出る森の事を指すんだけど、その森へ入るにはある決め事があるんだ。それは冒険者ギルドに登録してF以上のランクでなければならないということ。


 冒険者ギルドと言うのは文字通り冒険者の活動を補佐する為に作られた、どの国にも所属しない独立した組織で、そこでは明確な基準を持ってランク付けが行われている。

 そのランクと言うのは英雄と呼ばれる一部の特例を除くと上からSABCDEFGの8つで現されるんだけど、その一番下のランクであるGは誰でも名前を書くだけでもらえるランクであり戦闘を一切しない採取専門の人やドブさらいとかペットの散歩などの便利屋のような依頼をこなす人たちの事なので、実質Fランクからが冒険者を名乗る一番下のランクと言う事になっているんだ。


 で、そのFランクには冒険者ギルドで試験を行い、冒険者を名乗る事ができる実力があると認定されないとなれない。

 だから、この村の子は10歳くらいにならないと普通は冒険者ギルドがあるイーノックカウには連れて行ってもらえないんだけど、それなのにまだ8歳である僕をお父さんが連れて行くと言い出したから、みんながこんなに驚いているんだよね。




「それでも、やっぱりルディーンにはまだ早いよ。ほら、まだおててもこんなに小さいし、ころんだだけでないちゃうんだよ。あぶないよ」


 隣に座っているキャリーナ姉ちゃんが、僕の手を取ってお父さんにそう訴えかける。

 僕としてはすぐ泣いちゃうみたいに言われてちょっと腹が立つけど、心配してくれている事は解っているからそこはだまっておく事にする。

 この間、転んで泣いちゃったのも本当だし……。


「そうは言うがルディーンは、今ではほぼ毎日何かしらの獲物を獲って来るんだぞ? それも一人でだ。鳥やウサギに限定すれば一番年上のディックよりも数が多いんだから、これで森に連れて行かないわけには行かないだろう。それに『きゅあ』だったか? 治癒魔法もキャリーナよりもうまいって言うし、将来はきっと優秀なハンターになるだろうから早いうちから色々教えた方がいいと思うんだ」


「そんなに獲ってたんだ……」


 お父さんの言葉にお兄ちゃんやお姉ちゃんは、みんな黙り込んでしまう。




 そう、狩りをする時は走っちゃいけないとかの初歩的な事さえ知らなかった僕は、あれからお父さんやディック兄ちゃんに色々教わって、この3ヶ月の間にかなり狩りの腕を上げたんだ。

 行動する時はけして急がず騒がず、なるべく音を立てずに草の上を移動できるよう歩き方を工夫をしたり、魔力波探知の上達で大体の位置が把握できるようになってからは、わざわざ回り込んで風下から近づいたりもしてね。


 そりゃあ最初の頃は失敗もしたし獲物に気付かれて逃げられたりもしたけど、今では魔法がとどく範囲まで近づく前に気付かれてしまう事は殆どなくなって、獲物を見つけさえすればほぼ狩る事ができるようになったから賢者のレベルも2に上げる事ができたし、その上一般スキルの見習いレンジャーまで習得する事ができたんだ。


 因みに見習い狩人ではなく見習いレンジャーなのは、多分待ち伏せしたり痕跡を調べて獲物を追い詰める狩人と違って、獲物に気付かれずに行動するレンジャーの方が僕の行動パターンに近かったからなんじゃないかな? って思ってるんだ。


 ただ一つ残念なのは、同じ隠密行動が得意なジョブなら見習い盗賊がついて欲しかったなぁと。

 だって盗賊なら鍵開けとか罠解除とかができるし、何よりドラゴン&マジック・オンラインと条件が同じなら正式なジョブになって5レベルまで上げることができたら、ラノベとかでよくチート扱いされる鑑定解析のスキルが使えるようになるからなんだ。


 まぁ、そうは言っても盗賊らしい動きはまったくしてないから付くはずも無いんだけどね。




 話を元に戻そう。


 お父さんの話を聞いてお兄ちゃんやお姉ちゃんはもう反対する気を失ったみたい。

 でもお母さんだけはどうしても賛成できないらしくて、必死に食い下がったんだ。


「それでもまだルディーンは小さいのよ。いくら大人が周りにいたとしても咄嗟の時は守れないかもしれない。それに足腰もまだしっかりしていないから、草に足をとられて転んでいる隙に襲われて大怪我をしてしまうかもしれないじゃない。確かにルディーンは動物を獲るのはうまいかも知れないけど、魔物と動物はまるで違うわ」


「ああ、魔物と動物は違う。だからこそなんだ」


 そんなお母さんに、お父さんは諭すように言葉を続けた。


「シーラ、ルディーンは優秀だ。普通の子が森に行くようになる10歳くらいになる頃には、今よりもずっと狩りがうまくなっている事だろう。でも、うまくなればうまくなるほど狩りに慣れてしまうんじゃないか? 考えてもみろ、そんな弱い獲物の狩りに慣れきってしまってから魔物を狩り始めたらどうなると思う? その方が危険だろう。そうなる前に、まだ獲物が怖い存在だと感じるうちに魔物と対峙させないとダメだと俺は思うんだよ」


 そんなお父さんの言葉に、お母さんも黙り込んでしまった。

 そうか、そんな事をお父さんは考えていたのか。


 僕としては前世の記憶があるから魔物がどれくらいの強さかを知っているつもりだったけど、この世界はゲームじゃないから攻撃されれば痛いし、ゲームの時のように装備がそろっている訳じゃないから今まで考えていたようにはいかないかもしれない。


 例えば今の僕は賢者2レベルだからホーンラビットなら簡単に狩れるなんて思っていたけど、一度も攻撃を受けずに倒せるかと言うと、多分無理なんじゃないかな? それなら今の僕では狩れないという事と同じだ。

 一度攻撃があたっただけでこの小さな体では吹き飛ばされてしまうだろうし、何より痛さで泣いてしまって魔法を使う事ができなくなってしまうだろうから。


 今のお父さんの言葉を聞くまで、僕は魔物を狩るという事がよく解っていなかったんだ。

 ウサギや鳥はこっちが攻撃すれば逃げ出すけど、魔物は襲ってくる。

 此方が相手よりもかなり強ければ逃げるだろうけど、そうじゃなければ瀕死でも逃げ出さずに向かってくるんだよね。


「ぼく、まものがどれくらいこわいかしらない。だからふつうのどうぶつとおなじだとおもってたけど、こわいんだね」


「ああ、魔物は怖いぞ。たとえあと一息で倒せそうでも、最後の一瞬まで気が抜けないんだ。そこが動物と魔物の違いでもある。ルディーン、お前はきっと強くなる。でも、強くなりすぎてからでは教えられない事を、今なら教える事ができるとお父さんは思うんだ。シーラが心配するのも解るけど、今しか教えられない事があるのなら教えておくべきだと俺は思う。ルディーンはどうしたい?」


 そんなお父さんの問い掛けに対して、僕の答えはもう決まっていた。


「ぼく、しってみたい。それにおとうさんたちがまもってくれるのなら、あんしんだしね」


「よく言った。それでこそ俺の子だ」


 僕がそう答えると、お父さんは笑いながら褒めてくれた。

 そしてお母さんの方を見て、


「シーラ、これはルディーンの意思でもあるんだ。解ってくれるな」


 そう問い掛けた。

 そんなお父さんに対して、お母さんは泣き笑いのような顔をして返事をする。


「もう。そう言われたら反対できないじゃない」


 こうして僕のイーノックカウ行きに反対する人は、誰もいなくなったんだ。


読んで頂いてありがとうございます。


少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。

もし気に入ってもらえたら、続きを書くモチベーションになるので入れてもらえるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『初めての狩り』とか『動物ずかん』は読んでいない様子。 [一言] まあ、人付き合い無しに本だけ読んでるといけないからいいか。
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