180 スティナちゃんにはかなわない
「おっきな卵も手に入ったし、今日こそあれを作るぞ!」
昨日の解体祭りでオヒルナンデスヨでやってたいろんなお料理を思い出したけど、それにつけるあれが無いと作っても意味無いよね。
と言う訳で、今日こそは念願のマヨネーズを作る事にしたんだ。
「ねぇ、ルディーンにいちゃ。あれってなに?」
ところが、ふんすと気合を入れていた僕の後ろから、そんな可愛い声が。
振り向いてみると、そこにはスティナちゃんとヒルダ姉ちゃんが立ってたんだ。
「台所で何かを作るぞって気合を入れてるところを見ると、また新しいお菓子でも作るの?」
「おかし!? スティナ、たべる! だって、おかし、だいすきだもん!」
でね、僕が台所で気合を入れてるのを見たヒルダ姉ちゃんが勘違いしてそんな事を言ったもんだからスティナちゃんが大興奮。
だから僕は、慌ててそうじゃないよって言ったんだけど、そしたらスティナちゃんがしょぼんってしちゃったんだ。
「もう! ヒルダ姉ちゃんが変な事言ったから、スティナちゃんがしょんぼりしちゃったじゃないか!」
「ごめんごめん。でも今までルディーンが作ってきたものを考えたら、そう考えてもおかしく無いじゃない」
そう言えば僕が今まで作ってきたのって雲のお菓子に蒸しパン、それとパンケーキにカキ氷だもんなぁ。
そりゃあお家では他のお料理も作ってるけど、ヒルダ姉ちゃんからしたらお菓子しか作って無いって思ってもおかしくないよね。
「それで、新しいお菓子のアイデアは無いの?」
「無い事は無いけど……」
目の前には卵があるし、お砂糖や牛乳もあるから幾つか作れるものがあるんだよね。
でも今日はマヨネーズを作るつもりだしなぁ。
「おかしつくれるの? やったぁ!」
ところが僕とヒルダ姉ちゃんとの話を聞いてたスティナちゃんが、やっぱりお菓子が食べられるんだって大喜びしはじめちゃったんだ。
「えっと……ルディーン」
「うん。やっぱりお菓子を作る事にするよ」
「わぁ~い!」
と言う訳で、結局マヨネーズ作りはお預け。結局卵を使った新しいお菓子を作る事になっちゃった。
でね、何を作ろっかなぁって少し考えて、僕はある一つのお菓子を思い浮かべたんだ。
「うん、あれを作ろっと。ねぇ、ヒルダ姉ちゃん。火を使うから手伝ってよ」
「いいわよ」
僕はまだひとりで火を使っちゃダメって言われてるんだけど、今日はお母さんが近所のおばさんたちとの会合で出かけちゃってるからヒルダ姉ちゃんに手伝ってもらう事にしたんだ。
「それで私は何をすればいいの?」
「えっとね。お鍋にちょっとの水とお砂糖を入れて、木ベラでかき混ぜながら火を入れて欲しいんだ」
「いいけど、そんな事したら、焦げちゃわない?」
「うん。その焦げたお砂糖を作るんだよ」
そう言われたヒルダ姉ちゃんはちょっと不思議そうな顔をしてたけど、取り合えず言われた通りお鍋に壷から出したお砂糖とちょっとのお水を入れて火にかけたんだ。
でね、お姉ちゃんがその作業を始めたのを見た僕は、お水を木のカップに入れてそれをヒートって魔法で熱湯にする。
ヒートって言うのは文字通り物を熱くする一般魔法なんだけど、これって込める魔力の量しだいで温度を変えられるから結構便利な魔法なんだよね。
だから今僕がやってるみたいにお湯を沸かす事もできるけど、もっと凄い事にも使えるんだよよね。
これは図書館にあったご本に書いてあったんだけど、普通の火じゃ真っ赤にならないような特別な金属なんかは、この魔法を使える古代の魔道具にみんなで魔力を注いで武器や防具に加工してるんだってさ。
「ねぇ、何か茶色くなってきたけどホントにこれでいいの?」
「ちょっと見せて。う~ん、もうちょっとかな」
ヒルダ姉ちゃんにお鍋の中を見せてもらったら、まだ薄い茶色だったからもうちょっと火にかけてもらった。
でね、しばらくしたら丁度いいくらいの色の濃さになったから、
「ヒルダ姉ちゃん。鍋を火から下ろしてここにおいて」
「解ったわ」
僕の近くにその鍋を置いてもらっったんだ。
「はねるからちょっと離れてて」
ジュウ。
でね、何をやるんだろうって覗き込んでるお姉ちゃんに危ないよってちょっとどいて貰ってから、僕はさっき作った熱湯をおさじで掬ってその鍋の中に入れる。
でね、それから僕は必要になった時にすぐ小物が作れるようにっていつも台所においてある銅の玉を何個かクリエイト魔法で小さなカップに作り変えて、クリーンの魔法で洗ってからその中にさっきのお湯で溶けたまだ熱々のお砂糖を入れてったんだ。
でも僕がちょっとずつしか中に入れないもんだから、ヒルダ姉ちゃんは不思議そうな顔をして聞いてきたんだよね。
「ねぇ、ルディーン。これが新しいお菓子なの?」
「違うよ。これから別の物を作って、この上に入れるんだ」
新しいお菓子ならこんなちょびっとしかカップに入れないのはおかしいよね?
ヒルダ姉ちゃんも、ちょっと考えれば解ると思うんだけどなぁ。
「それじゃあ、次は何をするの?」
「このカップのお砂糖が冷える間に、その上から入れるものを作るんだよ。僕は今からお砂糖を細かくして牛乳に溶かすから、お姉ちゃんはその間のこのクラウンコッコの卵をよくかき混ぜてといて」
僕は出してあったクラウンコッコの卵の中から無精卵を選ぶと、それをヒルダ姉ちゃんに渡してこれを溶いてって頼んだんだ。
今から作るお菓子はスティナちゃんが食べるからお砂糖多目にするつもりだし、それなら数があんまり無い有精卵を使うのはもったいないからね。
お姉ちゃんに卵を頼んだ僕は、壷からお砂糖を出して木のお碗に入れるとクラッシュの魔法を何度か使ってとっても細かくする。
何でそんなに細かくしたのかって言うと、今日作るお菓子は完全に溶かしちゃわないと美味しくないからなんだ。
で、今度は冷蔵庫から出した牛乳に、そのお砂糖を味を見ながらちょっとずつ溶かして行く。
だっていっぺんに入れて溶け残ったらやだし、逆に少なくて甘くなかったらそれもやっぱりいやだからね。
「ヒルダ姉ちゃん。卵、溶き終わった?」
「ええ、できてるわよ」
僕の方の作業が終わったからヒルダ姉ちゃんに溶き終わった? って聞いたらできてるよって答えが帰って来たから、僕はそれを受け取ってお砂糖を溶かした牛乳を混ぜていった。
これ、ホントはバニラの種があるともっといいんだけど、無いものは仕方ないよね。
でもまぁ、これでも作れないわけじゃないから、今日は卵と牛乳だけで作る事にしたんだ。
こうして作った卵液は前世でパンケーキと同じくらい人気のあったフレンチトーストってお菓子にも使えるんだけど、今は厚切りのパンも浸す時間も無いから今日はパス。
それにあれはオーブンを作ってからのほうが美味しく作れるからね。
と言う訳で今日は別のお菓子を作るから、この卵液にもう一手間加えなきゃいけないんだ。
「ヒルダ姉ちゃん。そこの粉振るい取って」
「えっ、今から粉を振るの? なら小麦粉も出さないと」
「違うよ。これはこう使うんだ」
僕はヒルダ姉ちゃんから粉振るいを受け取ると、それをボウルの上においてさっき作った卵液を流し込んだ。
「何やってるのよ、ルディーン。そんな事しても意味無いじゃない」
それを見てヒルダ姉ちゃんはびっくり。
きっとお姉ちゃんは、きちんと溶いた卵に牛乳まで入れて作った卵液を粉振るいの上からかけてもそのまま素通りするだけだって思ったんだろうね。
「そんな事無いよ。ほら」
「えっ? あっ、ホント。何か残ってるわ」
卵液が下のボウルに流れちゃったのを確認してからヒルダ姉ちゃんに粉振るいを見せてあげると、そこには卵のカラザや黄身の周りの膜が残ってたんだ。
これ、別に入ったままでもいいのかもしれないけど、オヒルナンデスヨでも教えてる人がやった方がいいよって言ってたもん。
失敗したらいやだから、僕はちゃんと取る事にしたんだ。
ここまで来たら後は簡単。さっき入れた、焦げたお砂糖が冷えて固まってるのを確認してから、その上に今作った卵液を入れていく。
でね、下が平らなお鍋に高さが同じ石を入れて穴がいっぱい開いた銅の板を入れる。
ここまでは前に蒸しパンを作ったときと同じだね。
でも、ここからはちょっと違って、その板が沈んじゃうまでお水を入れるんだ。
目安はその板の上にカップを置いた時、カップの中に入ってる卵液の半分くらいの高さになるくらいお水を入れるといいんだよ。
でね、そしたらお水が中に入らないように気をつけながらカップを並べて、その上にきれいに洗った布を乗っければ準備完了。
けど、今日は急に作る事になったから当然そんなのあるはず無いよね? だから僕は、台所にあった布に浄化魔法ピュリファイをかけてからカップの上に乗っけておいた。
「ヒルダ姉ちゃん。今度はこのお鍋を火にかけて。でね、中のお湯がぐつぐつ言い出したら遠火にして蓋をしてね。そうじゃないと、お菓子がうまくできないから」
「任せて」
こうして卵液に火を入れること数分。何となくそろそろかなぁってところで、鍋を火から下ろして更に数分置いておく。
こう言うと適当っぽいけど、僕には料理のスキルがあるからなのか、このそろそろかなぁって感じた時が不思議と丁度良かったりするんだよね。
でね、その何となくの時間がどれくらいだったのかは、ちゃんとメモして残しておいた。
だってこうして時間を書いておけば、次からは誰が作っても美味しくできるもん。
でね、何となくもうそろそろかな? って思った僕は、やけどしないようにカップを鍋から取り出したんだ。
「ルディーンにいちゃ、できた?」
「まだだよ。熱いとおいしくないから、冷やさないと」
「そっかぁ」
待ちくたびれてるスティナちゃんには悪いけど、やっぱり冷たいほうが美味しいもん。
でも流石に冷たくなるまでずっと置いとくとかなり時間が掛かっちゃうよね? だから僕は冷凍庫から出した氷を水に入れて鍋から取り出したカップを3つ、その中に入れたんだ。
こんな事したら味が落ちちゃうかもしれないけど、取り合えず冷えはしたからこれで完成。
僕はそれを氷水から出して、木のさじと一緒にスティナちゃんの前においてあげた。
「ほらスティナちゃん。プリン、できたよ」
「ぷりん? スティナ、たべていいの?」
「うん!」
僕が頷くと、スティナちゃんは木のおさじをカップの中に入れてプリンを掬い上げた。
「お~!」
おさじの上でプルンと揺れる初めて見るお菓子に、声をあげるスティナちゃん。
パクッ。
「ん~」
そしてそのまま口に入れると、おさじを持ってる反対側の手の平をほっぺに当てておいしそうな笑顔になったんだ。
「それじゃあ私も頂こうかな」
そんなスティナちゃんの様子を見て、ヒルダ姉ちゃんが氷水の中からプリンを取り出してパクリ。
「あら美味しい。ルディーンが今まで作ったお菓子の中で、私はこれが一番好きかも」
そしてそう言うと、カップに入ったプリンに何度もおさじを入れては口に運んだんだ。
試食もして無いからうまくできてるかちょっと心配だったけど、ちゃんと成功してよかった。
そう思いながら僕も氷水の中のプリンに手を伸ばそうとしたんだけど、
「ルディーンにいちゃ。おかぁり!」
そこへスティナちゃんの声が。
でね、そっちを見ると目をキラキラさせながら木のおさじを振り上げてるんだもん。
その目に負けて、結局僕の分のプリンはスティナちゃんのお腹の中へ。その上、もっと食べたいってスティナちゃんがぐずるもんだから、
「今日はもうだめよ。その代わりお母さんがルディーンに頼んで、明日の分も貰ってあげるから」
「ほんと? ルディーンにいちゃ。ぷりん、スティナにくえる?」
「仕方ないなぁ」
いっぱい作ったのに、うちの家族の分を残して残り全部をヒルダ姉ちゃんちに持ってかれちゃったんだ。
でもちゃんと一つは食べることができたし、スティナちゃんも喜んでたから、まぁいっか。
またしてもマヨネーズはお預け。
その代わり新しいお菓子がグランリルの村に齎されました!
って、こんなの作って大丈夫なんだろうか? ルディーン君ちがどんどん甘味屋に近づいてる気がするんだけど。
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