178 だからあんなに鳴き声がうるさかったのか
「それでも、私は反対よ」
レーア姉ちゃんの涙の訴え。それを聞いてもマリアさんは首を縦に振らなかった。
「マリア……」
「レーア、とりあえず話を聞いて」
そんなマリアさんにレーア姉ちゃんが何かを言おうとしたんだけど、それを遮って話を続けたんだ。
「確かに、ルディーン君が狩らないと村の人たちが危ないって言うのは私も解るわ。でもね、だからと言ってルディーン君を危ない目にあわせていいって事にはならないと思うし、なによりそれでもしルディーン君が怪我をしたらどうするの?」
マリアさんが言ってる事の方が正しいって解ってるから、レーア姉ちゃんは何も言わない。
それにお姉ちゃんだって本当は僕1人でなんて行かせたくないんだもん。
だから余計に止めてくれてるマリアさんの話に口が出せないんだ。
「だからね。とりあえずクラウンコッコを狩ったら木に吊るして放置。みんなで手分けして卵を回収したら馬車置き場においてそのまま次のクラウンコッコを狩りに行きましょう」
「そっか。木に吊るしたクラウンコッコを食べる魔物なんてこの森にいないもんね。それなら放置しても大丈夫か」
「それに狩ったクラウンコッコを吊るして血抜きを始めるだけならそんなに時間も掛からないもの。それなら全員で行動できるわね」
みんなはこんな風に言ってるけど、血抜きってただ大きな血管を切って吊るしておけばそれでいいって訳じゃないんだ。
そりゃあ川の近くで、切った場所を水に浸せるならいいよ。でもそうじゃないなら、流れた血が固まっちゃわないように注意しないといけないんだよね。
だってそうしないと、折角狩った獲物のお肉に血の塊ができて、鉄臭くなっちゃうんだもん。
だからこのマリアさんの提案って、これから狩るクラウンコッコのお肉が全部ダメになっちゃうかもしれないけど、僕の安全の為にみんなでついてきてくれるって言う事なんだ。
そしてそんな事にエイラさんやミラさんが気付かない訳無いよね。
でも、マリアさんの意見を聞いても二人がそうした方が言ってくれたもんだから、涙ぐんでるだけだったレーア姉ちゃんは、
「あり、ありが……ありがとっ」
それを聞いてお礼が言えないくらい大泣きしちゃったんだ。
「大体さ、ルディーン君が狩るんだから、私たちはそのおこぼれを貰う立場だもん。なら多少お肉がダメになっても文句なんか言えないわよねぇ」
「おい、ミラ。ここでそれを言うか。少しは空気を読め」
でもミラさんとエイラさんがこう言って笑わせてくれたもんだから、何となく暗かった空気が明るくなったんだよね。
「そんな事無いよ! クラウンコッコみたいにおっきな魔物だと、僕1人じゃ狩れても木に吊るすのが大変だからうまく血抜きができないもん。それに持って帰る事もできないから、みんなが居ないとどうしようもないよ!」
「ありがとうね、ルディーン君。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「ホント、ルディーン君はいい子ね。やっぱりうちの子にならない?」
でね、エイラさんの後にミラさんがこんな事言ったもんだから、みんなその場で大笑い。
こうして僕たちは、マリアさんの言った通り行動する事になったんだ。
さて、次のクラウンコッコに向かった僕たちなんだけど、
「ねぇ、さっきクラウンコッコは鳴き声が大きいから周りの音、あんまり聞こえて無いんじゃないかって話をしたよね? あれ、一度確かめてみない?」
レーア姉ちゃんがこんな事を言い出したんだ。
「確かめるって?」
「だからさ、さっきはルディーンの魔法がとどくくらいまで近づくのに、なるべく音を立てないようにしてたからかなり時間が掛かったでしょ? だけど今度は普通の速さで近づいてみないかって事」
いくら血抜きを始めたのをそのままにして置くって言っても、あんな風にゆっくり移動してたらかなり時間が掛かっちゃうよね?
だからレーア姉ちゃんは、一度普通に歩いて近づいてクラウンコッコが気付くか確かめてみようって言うんだ。
「クラウンコッコは今卵を守ってるでしょ? ならもしこっちに気付いても、すぐに逃げたら追って来ないと思うのよ。だってもし追っかけようと思ったら、卵を置いてこないといけないからね」
このお姉ちゃんの意見にみんなはある程度納得したんだけど、マリアさんだけはありえる危険を指摘したんだよね。
「でもさ、もし雄だけが追って来たらどうするの? 雌がいれば取り合えず卵は守れるんじゃない?」
「確かにその可能性はあるんだけどクラウンコッコはあの大きさだし、30メートル以上離れてたら流石に逃げ切れると思うのよね。だって木が密集してる所では私たちの方が早く動けるだろうし、何より向こうも卵と番のメスを置いてそんなに遠くまで追って来ないだろうからね」
この後みんなでちょっと話し合ったんだけど、結局最後は情報が欲しいからってレーア姉ちゃんの意見を一度採用してみようって話になったんだ。
でも邪魔になってる4組でこれを試すと、もし気付かれた時に狩るのが難しくなっちゃうから、また別の番を狙う事にしたんだ。
「気付かれなかったわね」
「ええ。って事は、やっぱりあのうるさい鳴き声の中じゃ他の音は聞こえないって事か」
一度遠くから見てクラウンコッコの視界に入らないように気を付けはしたけど、移動はどっちかって言うと早足くらいだったのにまったく気付かれる様子はなかったんだおね。
おかげで何の苦労もなく、あっさりと僕のマジックミサイルで二羽のクラウンコッコをやっつける事ができたんだけど……でもさ、自分の鳴き声がうるさくて近づいて来る人の足音が聞こえないってのはちょっとおかしいよね? だって、それって凄く危ないと思うもん
じゃあ何でクラウンコッコは周りの音が聞こえ無くなるくらいおっきな声で鳴いてるんだろう?
そう思ってみんなで不思議がってたら、ミラさんがある可能性に気が付いたんだ。
「そうだ! もしかしてわざと遠くまで聞こえるように鳴く事で、周りの魔物を威嚇してるんじゃないかな? だってクラウンコッコって無精卵を生んだ時はそのまま放置して移動しちゃうでしょ。ならわざわざ危険を冒してクラウンコッコに近づかなくっても簡単に獲れるじゃない」
「ああ、なるほど。この森は肉食の魔物がいないから大きな鳴き声を出してても襲われる心配ないものね。なら、卵を狙う魔物を近づけさせないようにわざと大きな声で鳴いてるのも頷けるわ」
ミラさんの意見にマリアさんが納得の声をあげた。
そっか。確かに卵が欲しいだけなら、わざわざ危ない思いをする必要は無いもんね。
僕たちはクラウンコッコを狩るつもりで近づいてるから不思議に思ったけど、自分たちが狙われることが無いって考えてるなら、ここの卵はちゃんと守ってるから近づいてきちゃダメだよって大きな声で周りに知らせててもおかしく無いか。
本当にそうかどうかは解んないけどある程度納得はできたから、これからの移動では音や気配に関して気にしない事にしたんだ。
そのおかげで僕たちの狩りは物凄くスピードアップ!
だって普通ならクラウンコッコが大丈夫でも、他の魔物に出会う可能性があるからって次の場所までの移動中も慎重に行動しなきゃいけないよね。
だけど僕が探知魔法で調べてるおかげでその心配が無いから、そこも駆け足で進めるんだ。
でね、移動してはマジックミサイルでクラウンコッコをやっつけたら血抜きのために吊るして周りの卵を回収。
そして馬車置き場でその卵を置いたら次へって感じで狩りを続けたもんだから、あっと言う間に4箇所のクラウンコッコをやっつける事ができたんだ。
そして、このスピードアップで良かった事がもう一つ。
「吊るしたままほったらかしにしたのに、まさかその殆どをきちんと血抜きできるとは思わなかったわ」
とりあえず邪魔な場所にいるクラウンコッコをやっつけられたって事で、吊るしてあるクラウンコッコを倒したのとは逆の順番でお姉ちゃんたちが回収して、それを森の入り口近くの安全な場所に吊るしなおしたんだ。
でね、僕はと言うと、
「ルディーンはここでクラウンコッコの血が固まらないように見張りね」
「えぇ~! なんで?」
「だってルディーン、魔法で水が出せるでしょ? 私たちが順番に回って回収してここに吊るすから、次を取りに行ってる間に切り口を水で洗って欲しいのよ」
レーア姉ちゃんにこう言われて、お留守番することになったんだ。
僕は血抜きをやった事があんまり無いからその見張りには頼りないけど、魔法で水が出せるおかげで切り口が固まってうまく血が抜けないって言うのを防ぐことができるんだってお姉ちゃんは言うんだ。
「川が近くにある時なんかは、そこに寝かせて血抜きをするものね。それに水で洗ってくれたら血で汚れたまま村に持って帰らなくてもいいからルディーン君はこの役目に適任ね」
で、マリアさんまでこんな事を言ったもんだから、僕もついて行きたいって言えなかったんだ。
「おいおい。なんだこれは?」
「なんだって、クラウンコッコよ」
「それは解ってる。俺がいいたいのはな、レーア。このクラウンコッコの山はなんだって事だ」
運んできた全部の血抜きが終わった僕たちは、お父さんが馬車で迎えに来るまでまだ時間があるからって狩りを再開。
僕が水で洗えばちょっと放置してもちゃんと血抜きができる事が解ったから、狩っては森の入り口まで持ってきて吊るし、また森の中に入って狩っては吊るすを繰り返したおかげで、流石に全部は無理だったけどかなりの数のクラウンコッコをやっつける事ができたんだ。
ただね、ちょっと狩りすぎちゃったみたい。
馬車置き場に山のように詰まれたクラウンコッコとその卵。
それを見たお父さんが怒っちゃったんだ。
「お前ら、流石にこれは狩りすぎだ。自分たちの持ってる重さ軽減の魔道具の数を考えろよ」
クラウンコッコは体がとっても大きい上に、鳥の魔物なのに空が飛べないくらいお肉が詰まってるからとっても重いんだよね。
だからこんなにいっぱいだとなんとか乗せる事はできても、流石に重すぎて馬車が壊れちゃうってお父さんは言うんだ。
「……ルディーン、なんとかならない?」
レーア姉ちゃんのこの一言で全員の視線が僕に。
結局村に帰るまでの間、僕は何度も重さ軽減の魔法をそのクラウンコッコの山にかけ続けることになっちゃったんだ。
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