174 そりゃあ僕が悪かったんだっけどさ……
「ううっ……ぐすっ」
「もう! ルディーン、何時まで泣いてるのよ」
「だって~……」
さっきのレーア姉ちゃん、お母さんが怒ったときくらい怖かったんだもん。
それにお友達もみんな怖い顔してたし。
お姉ちゃんもお友達のみんなも、もう怒って無いけど、とっても怖かったんだから仕方ないよね。
「何時までも泣いてるような子には、こうだ」
むにっ。
こうして僕が何時までたってもぐずってたもんだから、お姉ちゃんが僕のほっぺたを両手でむにってした。
あっ、これ僕やキャリーナ姉ちゃんが何時までも泣いてるとお母さんがやって来る奴だ。
「なひすふんだよお!」
「何時までも泣き止まないルディーンが悪いのよ。ほれほれ」
でもレーア姉ちゃんにやられたのは初めてだから、僕は何するんだ! って両手をあげて文句を言ったんだ。
けど、そしたらお姉ちゃんはおもしろがってもっと僕のほっぺたをむにむにするんだよね。
別につねられてる訳じゃないから痛くは無いんだけど、ほっぺたをむにむにされるとうまくしゃべれなくなっちゃうんだ。
だから僕は早くやめて欲しかったんだけど、
「わぁ、いいなぁ。レーア、私にもやらせて!」
なんとそこにミラさんが参戦してきたんだ。
「いいわよ」
「よふなひよ!」
そんなミラさんにレーア姉ちゃんがいいよって言ったもんだから僕は慌てて逃げようとしたんだけど、お姉ちゃんにあっさり捕まっちゃった。
「ルディーンはさっき、みんなに心配をかけたんだから、おとなしくほっぺたをむにむにされなさい」
「そうよ! そうよ!」
その上、お姉ちゃんにこんな事を言われたもんだから、僕は逃げるに逃げられなくなっちゃったんだ。
「わぁ~、ルディーン君のほっぺ、やわらかっ」
「何々? いいなぁ、私もやる!」
「コラコラ、みんなして何やってるのよ。でもまぁ、心配かけたバツとして、私も参戦させてもらおうかな」
その上、マリアさんとエイラさんまで参戦してきてむにむにしたり、つんつんと突いたり。
しばらくの間、僕はお姉ちゃんに後ろから抱えられて、お友達三人の攻撃を受け続ける事になっちゃったんだ。
「でもレーアはいいなぁ。弟がルディーン君みたいな子で。うちの弟なんか我侭な上にガサツなのよ」
「そうね。うちの弟も、お父さんと一緒になって寝転んでるか体を鍛えてるかだもん。それに対してルディーン君はパンケーキを焼いたり、お父さんたちがイーノックカウからお土産で買ってきてくれるのより美味しいお菓子を作ってくれるもの。私もこんな弟が欲しかったわ」
相変わらず僕のほっぺをむにむにしたり、つんつんと突いたりしながらミラさんとエイラさんが自分たちの弟の話をし始めちゃった。
でね、その話を聞いたマリアさんはと言うと、
「あんたたちはまだいいわよ。私なんか一番下だから、いっつもお兄ちゃんお姉ちゃんが威張ってるのよ。そのくせ、自分たちはうちの手伝いを殆どしないで私に押し付けて来るし。ああ、私も弟か妹が欲しかったなぁ」
どうやらマリアさんは僕と同じ兄弟で一番下らしくて、みんなの事をうらやましがってるんだよね。
「もしルディーン君くらいの弟か妹がいたら、いっぱい可愛がってあげるのに!」
そして、そう言いながら僕のほっぺたを今まで以上にむにむにし始めたんだ。
でもさぁ、もし毎日こんな風にむにむにされたら、きっとその子もやだと思うよ。だって顔が変になっちゃいそうだもん。
「いやいや、弟がいたからって、みんなこんなに可愛い訳じゃないわよ」
そんな弟がいることをうらやましがってるマリアさんに、ミラさんはそう言ったんだ。
でね、エイラさんもその意見には賛成みたいで、
「そうそう。うちの弟なんてホント生意気で。そのうえこの間10歳になったもんだから、何時イーノックカウに連れて行ってくれるのかって、もううるさいの何の。別に10歳になったら必ず連れて行ってもらえるって訳でも無いのにねぇ」
なんて事を言い出した。
そう言えば普通は10歳くらいになってからイーノックカウに連れて行ってもらえるんだっけ。
僕の場合はお父さんが早く連れて行った方がいいって言ったからもう冒険者ギルドに登録をしに行ったけど、お母さんやお姉ちゃんは反対してたんだよなぁ。
でも僕、お父さんに連れて行ってもらえてよかったって思うんだ。
もし連れて行ってもらってなかったら今日も森に来れなかったし、あの時に錬金術ギルドに行かなかったら属性魔石の事もまだ知らなかっただろうからね。
そしたら雲のお菓子も作れなかったし魔石からお砂糖を作る事も出来なかったから、今みたいにいっぱい甘い物を食べるなんて事、できなかっただろうからね。
ぱくっ
「わぁ!」
と、そんな事を考えてたら、僕のほっぺたに誰かがかぶりついたんだ。
あっ違うよ。本当に噛み付いたんじゃなくて、唇だけで、僕のほっぺたを挟むみたいに咥えたんだよね。
でね、僕はいきなりそんな事をされたもんだから凄くびっくりしたんだけど、僕にかぶりついた人はそれに構わず、そのままはむはむ。
いきなりこんな事されて、僕は誰がこんな事をやってるの? って思ったんだけど、顔の横からかぶりつかれたもんだから誰がやってるのか全然解んなかったんだ。
「マリア、なんか変態っぽい!」
でも、エイラさんのこの一言で犯人が解った。
そっか、マリアさんかぁ。僕、なんとなくミラさんがやったんじゃないかなぁなんて思ったんだけど。
レーア姉ちゃんが僕のほっぺたをむにむにし始めた時、一番最初にお姉ちゃんと一緒にやり始めたのはミラさんだったからね。
「ふぁに言ってるのひょ。あなふぁもやっへみれば、このきもひよひゃがわかるふぁよ」
そんなマリアさんは、エイラさんからそのやってる事のおかしさを指摘されたんだけど、自分は正しいとばかりにお口で僕のほっぺたをはむはむしながらそう言ったんだよね。
そしたら。
「マリアがそこまで言うなら、私も試してみないとね」
って言いながら、エイラさんがマリアさんとは反対側の僕のほっぺたをはむっ。
そのまま、はむはむ、むにむにとし始めたんだ。
「ふふぁ~、ふぉれはまた」
「ふふふっ、しょうでひょう」
そんな事になってる僕はと言うと、レーア姉ちゃんに抱えられてるままだから逃げる事もできないし、今こんな事をされてるのは僕がみんなを心配させたからだって解ってるから、怒る事もできないんだよね。
でも、そんな僕を救ってくれたのは、なんと一番こんな事をしそうだって思ってたミラさんだったんだ。
「こらこら。流石にそれはやりすぎよ。ルディーン君も困ってるじゃない」
そう言って僕のほっぺたをはむはむしてる二人をやめさせてくれたんだ。
それなのに、最初にかぶりついたのがミラさんだって疑ってごめんなさい。
僕は心の中でミラさんに謝ってから、改めてお礼を言おうとしたんだけど……。
「それにあなたたちが両方のほっぺを独占してたら、私が触れないじゃないの!」
ミラさんは僕からマリアさんとエイラさんが離れた隙を突いて、両方のほっぺたを手の平で包むようにしてむにむにし始めたんだ。
そんな訳で、僕のほっぺたむにむにの刑は、まだもうちょっと続く事になったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
最初は始めの数行で終わるはずだったのに、最後までルディーン君のほっぺたの話で終わってしまった。
だけど後悔はありません! この気持ち、これくらいの子供のほっぺを知っている人なら解りますよね。
えっ、知らない人はって? それは可哀想に。
知っている人に比べて、人生の97.68パーセント(当社比)は損してますよw