173 僕、ちゃんと練習して来るって言ったのに……
「えっ? 狩れるかもしれないって、ルディーン。それホント?」
「うん。ちょっと試してみないと解んないけど僕、一度に二発マジックミサイルが撃てるから、ちょっと練習してみたら狩れるかも知んないよ」
折角の機会だし、僕としては狩ってみたいなぁと思ったんだけど、勝手にやるわけには行かないからレーア姉ちゃんに相談したんだ。
そしたらびっくりされちゃった。
「えぇ~!? 魔法って、一度に何発か撃てるもんなの?」
「どんなのでも撃てる訳じゃないよ。でも、マジックミサイルなら僕、二発まで撃てるんだ」
全部の魔法がそうだってわけじゃないけど、殆どの単発系攻撃魔法はそれぞれの魔法ごとに決められたところまでレベルを上げる事によって、できる事が増えていくんだ。
今回の話だとマジックミサイルはそれが5レベルごとに設定されてて、6レベルになると撃てる数を2発に増やすか、発射する場所を変更する事ができるようになる。
で、11レベルになると一度に撃てる数が3発になり、16レベルになると4発同時に撃つか発射する場所を設定した2発を同時に撃てるようになるんだよね。
ドラゴン&マジック・オンラインだとこれが最大10発か発射場所を選んだ5発まで増えるんだけど、レベルキャップが30の僕の場合は26レベルまで上げたら最大6発か発射場所を選んだ3発まで撃てるようになるってわけ。
でもこれはただできるって言うだけで、ドラゴン&マジック・オンライン時代はそんな低レベルの魔法を何時までも使わないからあまり意味が無い設定だったんだけどね。
だって例え10発いっぺんに撃てたって、高レベルの魔法1発より弱いんだもん。
それに一度に撃てるってだけで1発のMPは変わらないから、必要なMPも高レベルの攻撃魔法より多くなっちゃうんだよ。そんなの誰も使わないよね。
「そうなんだ。でも2発撃てたって、それで2匹いっぺんに狩れるものなの?」
「さっきも言ったでしょ、試してみないと解んないって。僕、1度に2発撃てる事は知ってたけど、やってみた事無いもん。でも1度何かに向かって撃ってみて、もし1発ずつの時みたいに狙ったとこに当てられるなら狩れると思うよ」
やってみないと解んないけど、今の僕ならブラックボアでも多分頭に当てれば一発でやっつけられると思うんだ。
でね、今回のクラウンコッコは鳥の魔物でそのブラックボアよりも頭が頑丈じゃないから、ちゃんと狙ったとこに撃てるなら狩れないはず無いんだよね。
「そっか。でも、一度みんなに相談してからよ。勝手にやっちゃダメだからね」
「うん、解った!」
こうして僕とレーア姉ちゃんはマリアさんたちにどうしたらいい? って相談しに行ったんだ。
「えぇ~、ルディーン君1人でも狩れるの? なら狩ろうよ。私、クラウンコッコのお肉、食べたい!」
そしたらその話に真っ先に飛びついたのがミラさん。
そりゃそうだよね。だって最初にクラウンコッコを狩れないかなぁって言い出したのはこの人なんだもん。
「コラコラ。でもルディーン君、本当に大丈夫なの? 2匹いっぺんに狩らないと私たちじゃどうにもならない相手なのよ?」
それに対して、そう言ったのがマリアさん。
確かにもし僕がいっぺんに狩れなかったら、お姉ちゃんたちと僕だけじゃクラウンコッコの相手なんかできるはず無いんだよね。
でも今までいろんな魔物を狩ってきた感じからすると、クラウンコッコの強さが探知魔法から帰ってくる魔力通りなら絶対狩れる筈なんだ。
だってもし僕のマジックミサイルで撃ち抜けないくらい頑丈だったら、ブラックボアよりも動きが遅いかもっと強い魔力を持ってるはずだもん。
「今すぐだと二匹に魔法を当てられないかもしれないけど、ちょっと練習すればきっと大丈夫。ちゃんと当てられればやっつけられるはずだもん」
「ルディーンがこう言うのなら、多分大丈夫だと私も思うわよ。だってかっこつけてこんな事を言う子じゃないもん」
だからできるよって言ったら、それを横で聞いてたレーア姉ちゃんが僕がそう言うのなら大丈夫だって言ってくれたんだ。
でね、それを聞いてたエイラさんが、
「レーアもこう言ってるし、どのみちクラウンコッコをなんとかしないと狩りも続けられないもの。それにこのまま放っておいたらクラウンコッコの子供が生まれるまで誰もこの森で狩りができなくなっちゃうんじゃない? なら狩った方がいいんじゃないかなぁ」
これからの事を考えると、今狩っちゃった方がいいって言い出したんだ。
そしてその意見にミラさんも諸手をあげて賛成した。
「そうよ。それに子供が生まれたからって移動するとは限らないでしょ? もしそうなったらずっと狩りができなくなるんだよ? なら今狩っておいた方が絶対いいって」
「う~ん、確かにそうか」
そんなミラさんの言葉にマリアさんが納得する事で、僕がクラウンコッコをやっつける事が決まったんだ。
「それじゃあ私たちは獲った魔物の血抜きをしてるから、ルディーンはその魔法の練習とかいうのをやってきてもいいわよ」
「うん! 行って来るね」
「レーア、ちゃんと言い聞かせておかないとダメでしょ。ルディーン君。あんまり遠くへ行っちゃダメよ。間違っても一人でクラウンコッコを狩ろうなんて考えないようにね」
「うん、解った!」
僕はレーア姉ちゃんとマリアさんに見送られて、馬車置き場からちょっと離れた場所へと移動する。
流石にお姉ちゃんたちが作業してる、そのすぐ近くで魔法をいっぱい撃ったら邪魔だからね。
で、ある程度離れたところで、まずは適当な木に印を付けてっと。
僕はちょっと離れた二本の木にそれぞれ目印をつけてから、30メートルくらいのところまで移動する。
「動かない的にも当てられなかったら意味無いもんね」
実を言うとレベルが上がった僕は50メートル以上離れても、と言うか動かない的ならもっと離れても狙った場所にマジックミサイルが当てられるようになってるんだよね。
でも今回は初めて2発別々の場所に向かって撃つから、狩りを始めた頃、確実に狙った場所に当てる事ができた30メートルくらいの距離をとる事にしたんだ。
そしてそれからステータスを開いて、マジックミサイルのオプション項目から弾数を一発増やすを選択した。
「ちゃんと当たるかなぁ?」
これで準備は完了。とりあえずやってみようと、僕は体に魔力を循環させて、
「マジックミサイル」
魔法の呪文を唱えてみる。すると僕の頭の近くに、ふたつの光の玉が浮きがあったんだ。
でね、そしたらそれをどうやったら狙ったところに当てられるか、頭の中になんとなく浮かんできたんだよね。
だから僕はその通り、ずっと向こうにある的に向かってふたつのマジックミサイルを発射! そしたら両方とも見事に狙った的へと吸い込まれて行ったんだ。
「やった! 当たった!」
よかった。取り合えず動かない的にはちゃんと当てられるみたいだね。
じゃあ後は……。
「一度弱い魔物で練習しないとね」
マリアさんにはあんまり遠くに行っちゃダメって言われたけど、やっぱり一度魔物で練習してからじゃないと心配だもん。
もし外しちゃっても一人でなんとかなりそうな魔物で一度練習して置こうって、僕はそう思ったんだ。
と言う訳で探知魔法で近くに二匹でいる魔物を探したら、丁度一角ウサギが2匹いるところを発見! その魔物が見える場所まで気付かれないように静かに移動する。
そしてもしはずしちゃった時の事を考えて僕は腰のショートソードを抜いてから体に魔力を循環させると、さっき動かない的にやっと時と同じように2匹の頭に向かってマジックミサイルを撃ち込んだんだ。
結果はと言うと1発のマジックミサイルを撃った時と同じように、一角ウサギが少しくらい動いてもちゃんと狙った場所に吸い込まれるように当たって一安心。
「やった! これならちゃんとクラウンコッコにだって当てられるはずだよね」
こうしてマジックミサイルの2発同時撃ちに自信をつけた僕は、ちゃんと狩れるよって早く教えてあげなきゃって思いながらその2匹の一角ウサギを持ってレーア姉ちゃんたちの元へと走って帰っていったんだよね。
ところが……。
「こら、ルディーン! 1人で森に入っちゃダメでしょ!」
1人で勝手に危ないことをしたって怒られちゃった。
おまけにマリアさんたちまで一緒に怖い顔して怒るんだもん。
「ふぇ~ん!」
あんまりお姉ちゃんたちが怖かったもんだから、馬車置き場に僕の泣き声が響くことになっちゃったんだ。
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