170 お姉ちゃんもいっぱい狩ってみたいんだって
「ルディーン、明後日ってなんか用事ある?」
お父さんがイーノックカウから帰って来て、みんなで晩御飯を食べてたらレーア姉ちゃんが急にこんな事を言い出したんだ。
「明後日? えっとねぇ、いつもと同じだよ。お母さんとパンケーキ焼くんだ」
パーティーを組んでない僕は森に狩りに行く訳じゃないし、魔法が使える僕が草原で狩りをするとほかの子達の獲物まで狩っちゃうから、この頃はあんまりやって無いんだよね。
後ね、ホントはお父さんが酢と油を買ってきてくれたからマヨネーズを作りたいなぁなんて思ってるんだけど、よく考えたら今はそれをつけるお料理が無いんだよね。
マヨネーズだってやっぱり作ったばっかりの方が美味しいと思うし、どうせなら美味しいお野菜が手に入った時とかマヨネーズに合うお料理がある時とかに作ろうって思ってるんだ。
「ふ~ん。ねえお母さん、ルディーン借りてっちゃダメ?」
「別にいいけど、何をするの?」
「あのねぇ、私がパーティーを組んでる子たちに頼まれたの」
レーア姉ちゃんが言うには僕の探知魔法を使って狩りをしてみたいって、お友達に言われたんだってさ。
「冷凍庫ってのを作るのに大きな魔石がいるからって、ルディーンが村の人たちと森へ行って魔物のいる場所が解る魔法を使ったでしょ。その話からルディーンがお兄ちゃんたちと一緒に狩りに行った時の話になったのよ。そしたらみんなが私たちもやってみたいって」
普段の狩りって1匹か多くて2匹くらいしか狩らないらしいから、みんな山のように積みあがった魔物なんて見た事が無いんだって。
だからお兄ちゃんたちのと狩りの話を聞いたレーア姉ちゃんのお友達が、それに興味を持っちゃったみたいなんだ。
「そうなの? でもレーアのパーティーってみんな弓使いじゃない。それじゃあディック達みたいな狩りは無理なんじゃないかしら」
ところが、お母さんにこう言われちゃったんだよね。
と言うのもディック兄ちゃんたちみたいに1人がおとりになって気を引いているうちに他のメンバーが急所を狙って剣で攻撃する前衛パーティーと違って、レーア姉ちゃんたちは比較的弱い獲物を遠くから矢を射って狩るタイプのパーティーだから、僕たちがやったみたいに多くの魔物を狩るのには向かないんだ。
何せ矢を射るんだからある程度見通しがいい場所じゃないと狩りができないし、相手に矢が当たっても死なないような獲物だった場合は見つけても手が出せないもん。
僕たちがいっぱい狩れたのはあくまで急所を確実に狙える剣を使っていたからで、遠くから射る弓では急所に絶対当てる事なんてかなりの高レベルになら無いと無理だから、同じように狩る事はできないよってお母さんは言うんだ。
「大丈夫よ。みんなウサギじゃなくって鳥が狩りたいそうだから」
「鳥? う~ん、それならできない事はなさそうだけど……それでも結構大変だと思うわよ」
お母さんは獲物が鳥だって聞いて、それならできそうって言ったのには理由があるんだ。
魔物って大きなのや頑丈なのは力は強いけどあんまりすばやくないんだよね。
それに対して動きが早かったり、空を飛ぶ鳥なんかはすばやい代わりにあんまり頑丈じゃないんだ。
だから例えばウサギよりも猪の方が強くて丈夫だけど、ウサギの方がすばしっこくて攻撃が当てにくいからショートソードや短剣だとウサギの方が狩りやすいし、斧とか長剣のような攻撃力がある武器を使ってる人だと猪の方が楽に狩れるってわけ。
で、そんな魔物の中でも鳥の魔物はすばやい上に空を飛ぶから狩り難いんだけど、その代わり弓矢が当たればかなりのダメージを与える事ができるんだ。
ただね、それでも言うほど簡単じゃないんだよ。
「レーアも解ってると思うけど、鳥の魔物は総じて警戒心が強いわ。それだけに遠くから弓を射っても風きり音でかわされてしまうもの。だから慎重に近づかないといけないでしょ? そんな鳥の魔物を、ディック達が狩った時みたいにいっぱい狩る事なんて、できるのかしら?」
そうなんだよね。
そりゃあイーノックカウの森にいるブレードスワローほどじゃないけど、僕がよく狩ってるビックピジョンやヒルフェザントだって結構音に敏感なんだ。
僕の場合はマジックミサイルを使って狩るからかなり遠くから撃っても問題ないけど、レーア姉ちゃんくらいのレベルだと矢のスピードがまだ遅いから結構近づかないと逃げられちゃうかも。
「う~ん、でもいつもよりはいっぱい狩れるでしょ? だってルディーンがいれば鳥の魔物を見つける為にうろうろしなくてもいいんだもん」
「そう言えばそうねぇ。レーアの言う通り、獲物を探してむやみに歩き回らなくてもいいのは本当に助かるわ。この間もルディーンのおかげでボアを探す手間がかからなくて、予想以上に早く必要な数の魔石が集まったもの」
レーア姉ちゃんにそう言われて納得したお母さんは、うんうんって頷いてるんだ。
そう言えば鳥の魔物はウサギとか猪に比べて多いから比較的見つけやすいかもしれないけど、それでも森の中を結構歩き回らないといけないもんね。
でも僕の探知魔法を使えばわざわざ探さなくても良くなるから、狩りがずっと楽になると思うんだ。
「でしょ。それに、もし私たちがあんまり狩れなかった時は、ルディーンに手伝ってもらえばいいもん。魔法なら簡単に狩れるんでしょ?」
「うん。僕が1人で狩っていいなら、いっぱい獲れるよ」
あんまり獲っても血抜きとかが大変だし、何より僕じゃ魔法で軽くしてもあんまり持てないからそんなにいっぱい狩ろうなんて思わないけど、お姉ちゃんたちが狩った鳥の魔物を持ってくれるって言うのなら何の問題も無いもんね。
「ルディーンが手伝ってくれるのなら山のように魔物が狩れるはずだもん。そしたらみんな嬉しいと思うわ」
「まぁそうでしょうけど……ねぇ、レーア。その山のような魔物をどうやって持って帰ってくるつもりなのかしら?」
「あっ、そっか! お父さん、お願い。明後日の夕方になったら、森の入り口まで馬車で迎えに来て」
「俺がか? う~ん、まぁ仕方が無いか。ディックたちの時も俺が馬車を出したんだから、レーアたちはダメだと言うわけにも行かないからな」
「ほんと? やった! お父さん大好き」
大喜びのレーア姉ちゃんと、大好きって言われてニコニコ笑顔のお父さん。
でも鳥の魔物かぁ、いっぱい狩れたらお母さんにそのお肉を揚げてもらおっかなぁ。そしたらマヨネーズを作って、それにつけて食べるんだ!
あっ、そうだ。その時は一緒にお芋も揚げてもらおっ! これもマヨネーズをつけたら美味しいだろうからね。
その他にもいろんなマヨネーズにあう鳥のお料理が浮かんできて、それを食べるのが今から楽しみになってきちゃった。
こうして僕は、レーア姉ちゃんたちと一緒に森に狩りに行ける事になったんだ。
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