15 獲物がいません
お父さんに剣と弓の指導をしてもらい始めてから1週間、狙ったところに剣を当てられるようになったのと弓の代わりになる攻撃魔法が使えること、そしてもし怪我をしても治癒魔法が使えるということで村周辺の小動物相手なら狩りの練習をしてもいいとの許しが出た。
だから僕は次の日から喜び勇んで村の外に飛び出し、それからの1週間でめきめきとレベルを……上げられなかった。
ドラゴン&マジック-オンラインではゲーム開始から1時間もあればゲームを開始した村周辺マップだけ5レベルくらいまでは上げる事ができた。
確か一番弱いモンスターを5~6匹狩れば2レベルに上がったような? でも、この村周辺にいるのは魔物ではなく普通の小動物だからそんな少数では当然レベルは上がらない。
でもある程度の数を狩る事ができればレベルは上がるはずなんだよね。
なのに僕のレベルはまだ1レベルのままだった。
と言うのも。
「えものがいない」
狩りの対象である動物がいないんだよ。
今思うとゲームと言うのは本当に親切で、村から出れば周りにモンスターがかなりの数配置されている上に誰かが倒してしまってもすぐ再ポップしたんだ。
でも現実では獲物になる小動物は殆ど見当たらず、またいたとしても誰かが狩ってしまえばそれまでだ。
そしてまだ森に連れて行ってもらえない子供たちは僕同様、村の周辺で狩りをしているんだから獲物そのものがいないと言うのも頷ける話なんだよね。
そしてその結果、この1週間で僕がしとめる事ができた獲物は0、う~ん、世の中は本当に甘くない。
この状況で僕はどうしたらいいのかを考えた。
実の所獲物がまったくいないわけじゃないんだ。その証拠に他の村の子たちはちゃんと獲物を取ってきてるんだから。
では何故僕は獲れないか? これは簡単だ、僕には狩りの経験が殆どないから獲物がどこにいるか知らないし、どうやって探したらいいのかも解らないからなんだよね。
ここでお父さんに、どこにいけば獲物が居るのかを聞いても多分教えてくれないと思う。
もし教えてくれるつもりがあるのなら最初から話しているだろうし、きっと獲物を見つけるのも狩りの練習だと考えているだろうからね。
だからこそ、僕は自力で獲物を見つけて狩りを成功させなければいけないんだ。
と言うわけで獲物をどうやって探すのかと言う話になるんだけど、正直さっぱり解らない。
まぁ考えても解る事ではないのだろうけど、でも闇雲に動き回ったからと言ってうまく行くものでもないと思うんだよなぁ。
だって本来は8歳になってすぐに狩りに出る許可が出るなんて事は普通ないから、僕は体力的に他の子たちに比べてハンデをおっている様な物なんだもん。その分、頭を使わないとって思ったんだ。
では他の子にできなくて僕にできる事と言ったら何か? それは魔法だろう。でも探知の魔法なんてものは賢者の1レベルで使える魔法には当然ないんだよね。
だから普通に魔法を使って探すと言う案は却下、では他に何かないだろうか? そう考えている内に僕の頭に浮かんだのは魔力でなんとかならないだろうか? と言うことだった。
前世で読んだラノベでも魔力を周りに薄く放って、その反応で敵を探すと言う話が幾つかあったもん、もしかするとそれが使えるかもしれない。
そう思った僕は、試しに村の中でやってみる事にした。
「えっと、まりょくをまわりにうすく、だったよね?」
体に魔力を循環させて、それをゆっくりと周りに放っていく。
すると思ったように放射はできた。
確かにできたんだけど……。
「これって、まりょくをだしてるだけだよね?」
広がれど帰って来ない。
考えてみれば当たり前で、放射したものが何かに当たって帰ってくるのならマジックミサイルを撃っても標的に当たったら跳ね返ってきちゃうもんね。
帰ってくると考える方が間違いだったよ。
ではどうしたらいいのか? 多分魔力を使うと言う考え方は間違っていないと思うんだ。
ドラゴン&マジック-オンラインでも探索スキルを持っているジョブはあったし、精霊であるシルフやウィンディーネは命令すると索敵をしてくれたからね。
と、そこまで考えて僕はちょっと引っ掛かりを覚えた。
だから僕はもしかすると今の考えから何か答えが思いつくかもしれないと、もうちょっと掘り下げて行くことにした。
スキルはともかく、精霊はどうやって探索をしているんだっけ? 確かシルフは周りの風を使って探索をしているって設定だったような? そう言えばウィンディーネも水を使っての探索だったよね。
と言う事は周りにあるものを使えばいいってこと? でも、僕は風も操れなければ、当然空気中の水分を操る事もできない。
では何を? って考えた所で、やっと僕は当たり前の事を思い出したんだ。
「まわりには、まりょくがあるじゃないか」
そう、この世界は濃い薄いはあるものの、どこにでも魔力が存在する。
そしてドラゴン&マジック-オンラインの時と同じ様に周りのものを使えばできるのなら、僕だってこの周りにある魔力を使う事によってシルフたち精霊のように探索ができるはずだよね?
そう考えた僕は、早速周りにある魔力を動かし始めた。
自分の中にある魔力と違って簡単に掌握する事はできないけど、お姉ちゃんの体の中にある魔力を動かすよりは遥かに簡単だ。
だってそこには何の意思も存在しないんだから、妨害される要素が全然ないんだもん。
そして動かした魔力を音波のように一定の波にして前方に放ってみる。
これは村の中で全方位に放つと、障害物が多すぎてもし帰ってきても何がなにやら解らなくなりそうだったから。
そして放った波はやがて壁にぶつかり、そして素通りした。
「だめか……」
その様子を感じてがっかりした僕は、次の瞬間いい意味で裏切られる事になる。
なんと素通りしたはずの波の一部がすり抜けた壁の向こうから帰って来たんだ、それも複数の波長で。
そしてその跳ね返ってきた波長を注意深く観察すると、どうやら別の魔力を含んでいることが解ったんだ。
帰って来た波は3つ。そして僕の予想が正しければ、これはきっとそう言うことなんだと思う。
それを確認する為に僕は波長を放った壁の向こう、僕の家の中に入って行った。すると。
「あら、ルディーン、お帰りなさい。早かったのね。ん~でも、さっきはこれから何かの練習をするって言っていたわよね。それはもういいの?」
「お母さん、ルディーンたら嬉しそうな顔してるじゃない。きっとその練習がうまくできたのよ」
「こんどはなんの魔法? わたしにもできるもの?」
家の中には予想通りお母さんとレーア姉ちゃん、そしてキャリーナ姉ちゃんがいた。
そう、さっき帰って来た波長はこの3人の魔力を含んで帰って来たものだったんだ。
「やったぁ、せいこうだ!」
「あらあら、よく解らないけど頑張ったのね。偉いわ、ルディーン」
「おめでとう、ルディーン」
一方向とは言え、初めての探知成功に僕は両手をあげて飛び跳ねながら大喜び、そんな僕の姿を見てお母さんとレーア姉ちゃんは優しく笑いながら褒めてくれた。
ただ、この3人の中で唯一魔法が使えるキャリーナ姉ちゃんだけは反応が違って、
「ねぇ、わたしもできるの? ルディーン! ねぇってば!」
何時までも跳ね回る僕の横で必死に話しかけてきたんだ。
でも実験の成功で有頂天になっている僕はお構いなし。そのまま喜び全開で飛び跳ね続けるもんだからお姉ちゃんの堪忍袋が切れてしまった。
「もうっ! ルディーン。聞いて、聞いてってば!」
そう言ってぶつかってきたからたまらない。
少し成長したと言っても僕の体はまだ小さく、キャリーナ姉ちゃんも11歳になって体が前より大きくなっているとは言え、僕の体を支える事ができるほど力があるわけじゃないから、当然二人して倒れこんでしまったんだ。
そして。
「いたいよぉ……。ぐすんっ……うっ、うわぁ~ん!」
「ごめっ、ごめ……んぅううっうえ~ん!」
床に転がってしまった痛みで、二人とも泣き声の大合唱をする羽目になっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。
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