162 お父さん、錬金術ギルドへ行く
「グランリル村のハンス・カールフェルトさんですね。錬金術ギルドから来訪された時は門から一報を入れるようにと言付かっているのですが、これから直接向かわれるのでしょうか?」
「ええ。今日はそのためにこの街へ来たので」
イーノックカウの西門でいつものように審査を受けていると、門兵からこんな事を言われた。
だが、なるほど。確かにいきなり尋ねてもギルドマスターがギルドにいるとは限らないのだから、先に誰かが連絡を入れる必要があるか。
「解りました。おい、錬金術ギルドへ連絡を入れろ」
そんな俺の返事を聞いた門兵は近くにいた別の兵士に指示を出し、
「では入街料50セント、銅貨5枚を頂戴します」
改めて笑顔で入街料を請求した。
ルディーンから、錬金術ギルドのギルドマスターが俺にお金の事で話があると言われたのは数日前。
いくら話があると言われても流石にすぐ来る訳にはいかなかったけど、それでもここまで遅くなったのには事情がある。
と言うのも、ルディーンがイーノックカウから帰ってから色々な魔道具を作り出したからなんだ。
そのおかげで今、村は普段は狩りよりも村での仕事に精を出している家の男たちまでが森仕事に狩り出されている。
そんな状況では、いくらその魔道具作りをルディーンが一手に担っているとは言っても、その原因になった家の家長である俺が森に行かない訳にもいかないだろう。
だから、ここ数日はほぼ毎日森へと出かけていたために、こんなに日が開いてしまったというわけだ。
「おう。ここだ、ここだ」
オレンジ色の三角屋根と赤い扉と言う、一見するとギルドハウスには見えない建物に一瞬怯みながらも、俺は意を決してその扉の取っ手に手をかける。
カランカラン。
すると前回来た時と同じ軽い感じのドアベルの音、
「いらっしゃい、カールフェルトさん。西門の兵からの連絡で、お待ちしておりましたよ」
そして濃い紫色のローブを着たシーラと同じくらいの女性と、薄い紫色をしたローブを着た老人が出迎えてくれた。
確かこの女性がこの錬金術ギルドのギルドマスターで、もう1人はロルフと言うルディーンが世話になっているお金持ちの老人だ。
「こんにちは。ルディーンから話があるから来るようにとは聴いていたのですが、色々と村での用事があったんでこんなに遅くなってすみません」
「いえいえ。此方こそ、わざわざ来て頂いてすみませんでした。どうぞ此方へ」
話の内容がお金の事だからか、流石にここで話すわけにはいかないと俺はギルドの奥にある一室へ通される。
そこは冒険者ギルドのギルドマスター室と同じような造りで、奥にはギルドマスターの席なのであろう大きな執務机があって、その手前には来客用であろう机と4脚の椅子が置いてあった。
そしてそのテーブルセットの横には前回来た時はいなかった若い女性が立っていて、その彼女に勧められるまま椅子に俺が座ると向かい側にギルドマスターとロルフさんが座った。
その女性がそれぞれの前にお茶を出してから、一礼して退室していくと、
「それではまず、ルディーン君の口座に振り込まれたお金の事からお話しますわ」
ギルドマスターが微笑みながら、俺にこう伝えてきたんだ。
なんだそれ? いくらなんでも数字がおかしすぎるだろう。
その後に続いたギルドマスターの言葉を聞いて、あまりの事に俺は自分の耳がおかしくなったのではないかと思ったんだ。
「いっ、一千万セント!?」
「はい。ルディーン君から錬金術ギルドに齎された情報が魔道具大全に載る事により、毎月それくらいの金額が振り込まれます。またこの金額はすでに税金が引かれているので、後日税金が取られると言う事もありません」
ギルドマスターの話によると、ルディーンが話した魔道具の魔石と回路図の新たな使い方二つと回路図の制御方法が魔道具大全とか言うのに載るから、その報酬がルディーンに支払われるらしい。
でも、高々情報だろ? なのに、何故そんな金額になるんだと思った俺は、その疑問をギルドマスターにぶつけてみたんだ。
「それは単純な話ですよ。この様に魔道具大全に載るような情報は普通、長い時間と多くのお金を使って研究された物がほとんどだからです」
ギルドマスター曰く、多くの時間や金を使って研究しているのだから、魔道具大全に載るほどの発見をした人にはこれくらい支払われるのが当たり前なんだと言うんだ。
それにルディーンは3つの発見をしたためにこんな大金になっているが普通は一つがせいぜいで、その金額も300万セント前後とその情報が生み出す利益によって上下はするものの、大体貴族でも一番下の位である騎士爵が一月に使う程度のお金になっていると言う事らしい。
「それとですね、そのような研究者は総じて助手や弟子が居りまして、その者たちへの給金を考えるとこれくらいの褒賞金でもなければその情報を得るのに使われた金額次第では以降の研究を続ける事ができなくなる場合があるのです」
「なるほど。このお金と言うのは本来、雇っている人に支払うお金も含まれているって事なんですね」
「ええ。魔道具を研究している人たちはその殆どが高貴な身分の方々ですが、それでも魔道具の研究をするのには多額のお金が必要となりますので、優秀な研究者に対する補助と言う側面もあるのです」
そういう事ならこれだけ多額のお金がもらえるというのも解る。
魔道具の研究をするとなれば必ず魔石を使う必要があるが、その魔石の値段がとにかく高額だからな。
でもなぁ、ルディーンの場合は誰かを雇ってるって訳でも無いし、魔道具の研究をしているわけでも無いからこれだけの金をもらっても使い道が無いと思うのだが。
「どうしてそれだけのお金がもらえるのかは解りました。しかし、ルディーンは研究をしてきたわけでもなく、人を雇っている訳でもありませんよね。それなのにこれだけのお金をもらえるというのはさすがにどうかと思うのですが」
「そのお気持ちも解ります。ですが、誰も雇っていないからと言って報奨金を減らすという事はできません。そのような前例を作ってしまったら、これから先どんな問題が起こるか解りませんから、魔道具大全を発行している組織がそれを許してはくれませんもの」
確かになぁ。俺からすると子供のルディーンにそんな大金をって思うけど、その魔道具大全とかいう本に載るような発見をしたのが長い間研究を続けた老人だって場合もあるんだし、もしそうならこれだけの金を貰っても今までの研究費に届かないなんて事もあるだろう。
そう考えると、子供相手だからといって金を減らすと言う前例は作りたくないだろうなぁ。
「それにですねぇ、今話しているお金はあくまで魔道具大全に載る発見をした事への功績についてだけなんですよ」
「えっ? もしかしてまだあるんですか?」
「当然です。ルディーン君が齎した情報の中にはまだお金にならないものも多く含まれますが、それでもすでに多額のお金が動いている事案が幾つかあるのですから」
おいおいルディーン。お前、一体何をやったんだよ。
俺からするとちょっと賢いだけの普通の子供にしか思えないのに、ルディーンの評価だけが一人歩きしているかのようでちょっと怖くなってきたぞ。
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