161 暑い台所とレーア姉ちゃんのお願い
「ねぇ、ルディーン。冷蔵庫や冷凍庫って氷の魔石で作るのよね?」
僕がお母さんたちに作ってって言われた冷凍庫を作ってると、そこにレーア姉ちゃんが来てこんな事を聞いてきたんだ。
「うん、そうだよ。氷の魔石は物を凍らせたり温度を下げたりできるから、それを使って木の箱の中を冷たくしてるんだ」
だからそう教えてあげたんだけど、そしたらお姉ちゃんが、
「ならさ、その氷の魔石でお部屋の中を涼しくする事はできないの?」
って聞いて来たんだよね。
僕はこのレーア姉ちゃんの言葉を聞いて、はっとしたんだ。
そう言えばそうだよ。これから暑くなって来るんだし、クーラーを作らなきゃ! って。
僕の家には、前に回転の魔道具で作った扇風機があるんだ。
グランリルの村は中に川が通ってたり周りが草原だったりするおかげでそこまで極端に暑くなる訳じゃないから、この扇風機があれば夏でもそんなに大変でもなかったんだよね。
でもさ、それは僕たちがいる部屋がそうだって言うだけで、いつもお母さんたちがお料理してる台所は火を使うからどうしても暑くなるんだよね。
それに今は僕もパンケーキを焼いたりしてるから、このまま夏が来たらとっても大変になっちゃうんだ。
だからこそ、クーラーは絶対に作んなきゃいけないんだよね。
「それでどうなの? お部屋を涼しくする魔道具は作れそう?」
「作ってみないと解んない。でも、何とかして作んなきゃ」
冷蔵庫や冷凍庫はちっちゃな箱の中を冷やすだけだからそんなに大変じゃないけど、これがお部屋全体を冷やすとなるとそうもいかないんだよね。
だって冷凍庫みたいに氷を作って冷やそうと思ったら、物凄くでっかい魔石がいるもん。
そんなの、噂に聞く魔の草原の魔物でも狩らないと手に入らないから、絶対無理だ。
と言う訳で、僕は別の方法を考える事にしたんだ。
まず真っ先に思いついたのが、幾つかの魔石を使ってお部屋の何箇所かを冷やすって方法。
これは前にお父さんが、お城では色んな所にでっかい氷を置いて、それで周りを冷やしてるんだぞって言ったのを覚えてたからなんだ。
でもこれは氷の魔石の周りと、それ以外の場所の温度が違いすぎるからやめとこうって思ったんだ。
だってこれだと部屋全体が涼しくなるわけじゃないし、それに暑い所で汗をかいてからその氷の魔石の近くに行って作業をしたら風邪をひいちゃいそうだもん。
で、次に考えたのがおっきな冷凍庫を作って、その中の冷たい空気を部屋の外に出すって方法。
こうすれは前世のクーラーに近いものになると思うんだけど、結論からすると無理なんだよね。
だってさ、いくら氷の魔石を使ってるって言ったって、一瞬で周りの温度が氷ができるほど下がるって訳じゃないんだもん。
この方法だとお部屋が涼しくなるより冷凍庫の中があったかくなる方が早いから、結局魔道リキッドが無駄になるだけなんだよね。
う~ん、これは思ったより難しいかもしれないぞ。
お家で使うんだからそんなに大きな魔石は使えないんだよね。だって大きな魔石を使うと、動かすのに魔道リキッドをいっぱい使わないといけなくなっちゃうんだもん。
だから使えるのは大きくてもブラックボアの魔石くらいまで。できたらもうちょっと小さな魔石を使いたいんだよなぁ。
でもそれだと冷やせる範囲は物凄く狭くなっちゃう。
となるとやっぱりどこかに冷たい場所を作って、そこから風を出すって言うのが一番なんだよね。
でもなぁ、お部屋の中が涼しくなるほど箱の中の空気を冷やそうと思ったらやっぱりおっきな魔石がいるし、何より冷やした空気を外に出し続けるって事は冷蔵庫の扉を開けっ放しにする以上に魔道リキッドがいるって事なんだよね。
そんなの、もったいなすぎてできるはずが無いよ。
と言う訳で、他の方法を考えないといけないんだけど、
「う~ん、何にも思いつかないや」
そんな事を簡単に思いつけるなら、今までに誰かが作ってるよね。
そうしているうちに僕がやっぱりクーラーを作るのは無理なのかなぁって思ってあきらめかけた、その時。
「だぁれ? 冷蔵庫の氷を出してそのままにしたのは。これじゃあ氷が無い分だけ魔道リキッドが多く減っちゃうじゃないの。かき氷を食べたのなら、ちゃんと水を入れて冷蔵庫に仕舞いなさい」
お家の中にお母さんの声が響き渡ったんだよね。
そして慌てて謝るディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃんの声が。
そっか、お兄ちゃんたち、氷を食べたのに入れ物を出しっぱなしにしちゃったんだね。だめだなぁ。
僕はそんな声を聞いて笑ってたんだけど、ふとある事に気が付いたんだ。
「そっか、別に冷やすのは空気じゃなくてもいいんだ」
そう言えば前世のクーラーっていっぱい金属の板が並んでたっけ。
そうだよ、金属の板なら空気よりも冷たくするのが簡単だし、氷の魔石でいっぱい並べた金属板を凍らせて、その間を扇風機で風を通せばクーラーっぽい物ができるんじゃないかなぁ?
そう思いついた僕は早速何枚かの薄い鉄の板を作ると、それを使って一枚の板の上にその鉄の板が等間隔で何枚か並んでる物をクリエイト魔法で作ったんだ。
そしてそれをひっくり返すと米粒くらいの魔石を氷の魔石に変えて設置、簡単な回路図を書いて魔力を注ぐと、早速凍らせてみる。
そしたら水を凍らせるのとは違って、こんな小さな魔石なのにあっと言う間に凍ったんだよね。
だからちっちゃな扇風機でその鉄の板の間に風を通してみたら、その反対側からとっても冷たい風が出てきたんだ。
「やった! ちゃんと風が冷たくなってる。それに板も、風を入れてるのにまったく溶けて無いや」
心配だった風を当ててる鉄の板なんだけど、一番扇風機に近いとこだけは少しだけ溶けてるっぽいけど、その他は白っぽいままだから凍ってるってことだと思う。
うん、これならもっと大きな物を作っても大丈夫そうだね。
でも、もしかすると何か問題が出てくるかも知れないからって、僕はしばらくの間鉄板を凍らせてる氷の魔石と、扇風機をそのままにして置いたんだよね。
そしたらこのクーラーにはちょっと問題があることが解ったんだ。
「鉄の板の周り、だんだん氷ができてきちゃってる」
そう、どうやら空気中の水分がこの鉄板で冷やされて霜が付いて来てるんだよね。
まぁこれは板の間を広げればくっつく心配は無いんだろうけど、氷の魔石を止めたらこの霜が溶けて水がぽたぽたと落ちてきちゃうだろうなぁ。
「それにこれだと、クーラーを止めた時に板がべたべたになっちゃうよ」
う~ん、って事は鉄だと錆びちゃうってことだよね? ならここは銅の板にしないといけないなぁ。
本当ならもっと錆びにくいステンレスとかを使いたいけど、そんなのどうやって作ったらいいか解んないから、とりあえず僕が知ってる中で金の次に錆びにくい銅で作る事にしたんだ。
これなら氷の魔石を止めても、錆びてぼろぼろになるなんて事は無いと思うからね。
ただ、溶けたお水をどうするのかだけはまた別に考えないとダメだけど。
「後は風を送る魔道具だけど、扇風機と風の魔石、どっちがいいのかなぁ?」
扇風機は風車を回す事で風を作り出すけど、風の魔石は魔力で空気を動かすと言う違いがあるんだよね。
で、こう考えると風車を回すって言う一行程多い分だけ回転の魔道具の方が余分な魔力を使ってるような気がするんだ。
「とりあえず一度作ってみるかな」
まぁ考えてても仕方ないし、風の魔石は作った事が無いから一度作ってみることに。
とりあえず米粒程度の魔石を風の魔石にして、それを使って金属の丸い輪っかから風が出る魔道具を作ってみたんだ。
「わぁ、こんな小さな魔石でも結構風が作れるんだね」
で、それを動かしてみたら、さっき使ってた小さな扇風機くらいの風が出てきてびっくり。
あの小さな扇風機はもうちょっと大きな魔石を使ってたはずだから、これなら風の魔石を使ったほうが良さそうだね。
一通り実験が終わったってことで、お部屋に設置する魔道具を実際に組み立ててみることに。
「使う魔石は氷と風だけど、風のほうは小さめでいいかな?」
風の魔石はお家にいっぱいある小さめの魔石を使うとして、氷の魔石は僕が今持ってる中で一番大きな大豆くらいのを使って様子見。
これはブレードスワローとかから取れる魔石でブラックボアなんかから取れるのより小さいけど、それでも結構貴重な魔石なんだ。
とりあえずこれを使ってみて、ダメだったらお父さんにブラックボアを取ってきてもらって交換すればいいよね。
で、さっき実験に使った装置のおっきなやつを銅板で作ると、そこに二つの魔石と魔道リキッドを入れる器をくっつけてそこから魔道回路図をそれぞれにつなげてスイッチと調節のつまみをつければ魔道具は完成だ。
と言う訳でホントに涼しくなるか確かめる為に台所に持って行ったんだけど、
「あら、ルディーン。今度は何を作ったのかしら?」
そしたらお母さんに見つかっちゃったんだ。
もう! 完成してから見せて、びっくりさせようと思ってたのにぃ。
う~、でも見られちゃったんだから仕方ないよね。
「あのねぇ、これから台所が暑くなるでしょ? だからレーア姉ちゃんに涼しくなる魔道具、作れない? って言われたから作ってみたんだよ」
「まぁ、もしそんなのができたのなら素敵ね」
だから僕はこの魔道具がなんなのかを教えてあげたら、お母さんにとっても喜ばれたんだ。
その言葉に気分が良くなった僕は、早速試運転開始。
ところが、ここでもちょっとした問題が出てきたんだよね。
「台所はあったかいから、このままだと銅板が溶けちゃう」
さっきの実験道具をそのまま大きくしたもんだから、銅板がむき出しで外側が周りの熱で溶けちゃったんだ。
だから僕はもう一度作業部屋に戻って魔道具から魔石が付いた魔道リキッドの器とスイッチや温度調節用のつまみを取り外して、内側に銅板を貼った四角い木の筒に入れる。
そして改めてその筒に魔道リキッドの器やスイッチなんかを取り付けて、そこから魔道回路図を中の魔道具に繋がるようにした。
こうすればさっきよりは魔道具にした凍った銅板が溶けにくくなるからね。
「あっ、そうだ。銅板についた氷が溶けた時の事も考えなきゃ」
魔道具自体は筒に入れただけだから取り出して乾かす事が出来るけど、このままだと魔道具を止めた時に筒からぼたぼたと水が落ちてきちゃうよね。
と言う訳で、魔道具の下に薄い銅板のトレイが付いた台を敷いて、これで今度こそクーラーの完成だ。
今度こそ出来上がったクーラーの魔道具を持っていって動かしてみたら、ちゃんと冷たい風が出てきて台所の中が涼しくなったんだよね。
これにはお母さんも大喜び。
「これからは台所に立つのが大変な季節になるけど、ルディーンのおかげで今年からは楽になるわ」
そう言って褒めてくれたんだ。
ただ、この話はここで終わったわけじゃないんだよね。
ホントに嬉しかったのか、お母さんは僕が作ったクーラーの事をお姉ちゃんや近所のおばさんたちに話しちゃったんだ。
そして、
「ルディーン、何かを思いついた時は作る前に相談しろって言っただろ?」
「ごめんなさい」
冷蔵庫や冷凍庫だけじゃなく、各家の台所につけるクーラーの分の魔石まで、村の男の人たちが取りに行かされる羽目になったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君が考えついたのはクーラーでは無く、どちらかと言うとラジエターでのエンジン冷却水の冷やし方に近いですね。
まぁ、それでも冷える事には変わらないんですがw
因みにこのほかにも、扇風機の後ろに濡れた綿の網を置いてそれが乾く気化熱を使って風を冷やすと言う方法もありますが、流石にこれをルディーン君が思いつくとは思えなかったので今回のような方法にしました。
後、ルディーン君は簡単に風の魔石の方がいいと言ってますが、彼は属性魔石と無属性の魔石の値段の差は一切考えてません。
なので普通に考えたら絶対に、扇風機を使ったほうが安上がりです。例え、多少魔道リキッドの消費量が増えたとしても。