154 下処理が終わってた内臓のお肉とお父さんたちの大失敗
「お父さん、バーリマンさんがね、お話があるから今度来てって言ってたよ」
「バーリマンさん? ああ、錬金術ギルドのギルドマスターさんの事か」
ロルフさんの東門外のお屋敷からジャンプでお家に帰った夜、みんなで晩御飯を食べてる時に僕はお父さんにバーリマンさんから頼まれた事を話したんだ。
「話があるって、一体どんな内容なんだ?」
「えっとね、何か僕のお金の事でお話があるって言ってたよ」
僕が大きくなるまではお父さんやお母さんがお金の事はやってくれるって話してあるからなんだろうけど、バーリマンさんからは詳しい話を何にもしてもらって無いんだよね。
だからこう言ったんだけど、そしたら、
「ハンス、わざわざルディーンのお金の事で話があると言うのだから、かなり重要な内容なんじゃないかしら」
「ああ、そうだな。流石に明日とまではいかないが、なるべく早いうちにイーノックカウに向かう方が良さそうだ」
お父さんとお母さんがこんな事を言ったんだよね。
う~ん、僕はお金の事はよく解んないけど、お父さんたちがこんな事を言うって事はきっと大変な事なんだろうね。
だって森でブラウンボアを見つけたって僕が言った時くらい、怖い顔で話してるんだもん。
「ねぇ、お父さん。そのお話するのに、僕も行った方がいい?」
そう思った僕は、自分の事なんだから一緒に行った方がいいと思ってこう聞いたんだ。
ところがお父さんは、付いて来なくてもいいよって言ったんだよね。
「ルディーンにはまだお金の話は早いからなぁ。錬金術ギルドの人もそう思って俺やシーラに伝えてくれと言ったんだろうし、ここは俺1人で行く方がいいと思うぞ」
「そっか。僕が一緒に行っても邪魔になっちゃうだけだもんね。うん、解ったよ。じゃあ僕はお留守番してるね」
お父さんのお話を聞いて、僕はおとなしくお留守番をする事にしたんだ。
「ルディーン。そう言えば今日、みんなしてお前に言われた内臓の下処理? ってのをやったんだぞ」
「えっ、そうなの? じゃあ、これからはいっぱい内臓のお肉を食べられるんだね」
僕とお父さんのお話をご飯を食べながら聞いてたディック兄ちゃんが、お話が終わったのを見てやり方を教えておいた内臓の処理を、僕がイーノックカウに行っている間に終わらせたんだって教えてくれたんだ。
だから僕はこれからは美味しい内蔵のお肉をいっぱい食べられるって思ったからとっても喜んだんだけど、そんな僕を見たレーア姉ちゃんがクスクスって笑い出したんだよね。
で、そんなレーア姉ちゃんに釣られたみたいにキャリーナ姉ちゃんも笑い出して、そして最後にはお母さんまで大笑いしだしたもんだから、僕はびっくりしちゃったんだ。
「どうしたの? 僕、何か変な事言った?」
それを見てさっきしゃべった事が何かおかしかったんじゃないかって思った僕は、最初に笑い出したレーア姉ちゃんにそう聞いたんだよね。
そしたらレーア姉ちゃんだけじゃなく、キャリーナ姉ちゃんやお母さんまで一緒になって、違う違うって僕のせいでみんなが笑ってる訳じゃないって教えてくれたんだ。
「僕が言った事が変だったんじゃないの? じゃあ何で笑ったのさ」
「あははっ、実はねぇ」
「おい、やめろって」
「いいじゃないの、別に。もう終わった事なんだから」
だから、じゃあ何で笑ったのって聞いたんだけど、そしたら教えようとしたレーア姉ちゃんをディック兄ちゃんが止めたんだよね。
それを聞いて、ディック兄ちゃんが何かやったからお母さんやお姉ちゃんたちが笑ったのかなぁって思ったんだけど、
「お父さんもテオドル兄さんも、話しちゃっていいでしょ?」
どうやらお父さんやテオドル兄ちゃんも関係がある話みたい。
だってレーア姉ちゃんにそういわれた二人は、なんだか変な顔をして黙っちゃったんだもん。
「そうよね。ハンスたちも、もう同じ失敗はしないだろうし、私たちが知っていてルディーンだけが知らないのも可哀想ですものね」
でね、お母さんのこの一言でお父さんたちの返事を待たずにレーア姉ちゃんは今日、僕がいない間に何が起こったのかを教えてくれたんだ。
「ルディーンに教えてもらった内臓のお肉の下処理なんだけど、そこでお父さんたちが大失敗しそうになっちゃったのよ」
実は昨日の内に、まだ下処理が済んで無い内臓のなかで、どれが食べられてどれが食べられないのかを鑑定解析で調べてお母さんに教えておいたんだよね。
だから、それを今日は家族みんなで手分けをしてその食べられる内臓のお肉の下処理をしたらしいんだけど、その時一番汚れが多くて大変だからって小腸や糞が溜まって無い大腸の上のほうをお父さんたちがやったそうなんだ。
「ルディーンは塩でしっかり揉んで、汚れたところを取り除くんだよってお母さんに言ったんでしょ? だから私たちは言われた通り汚れが取れるまで何度も繰り返したんだけど、結構な量があったからそれにかかりきりでお父さんたちの作業にまで気が回らなかったのよね」
「それが失敗の元だったのよ。私はちゃんと汚れだけを落とすのよって言っておいたのに、ハンスたちったらご丁寧にお肉に付いた脂身をナイフでこそぎ取ってたのよね」
なんと、お父さんたちは小腸の一番美味しい所である脂を全部取っちゃってたそうなんだ。
で、それに気付いたお母さんたちが慌てて止めたんだってさ。
「大体さぁ、小腸って油を取ったら膜みたいなもんしか残らないからちょっと考えれば解りそうなものだと思うんだけど、テオドル兄ちゃんなんか本当に丁寧に取ってるもんだから、なんか布みたいになってたのよ」
「疲れたキャリーナが休憩がてらハンスたちの様子を見に行ってくれたから良かったけど、最後まで気が付かなかったら全部無駄になってたでしょうね」
「面目ない」
それでも小腸の3分の1くらいは無駄になっちゃったんだって。
ただ大きくて手間がかかりそうなジャイアントラビットのは後回しにしていたおかげで、食べられなくなったのは一角ウサギのだけですんだのは良かったって思うんだよね。
だってジャイアントラビットは1匹しか狩って無いもん。最初にやってたら一つも残んない所だったよ。
「お父さんたち、私が普段食べてるお肉だって脂を全部落としてから焼いたりしたら美味しくないでしょ? ここだって同じなんだから脂をそぎ落としちゃったらダメじゃないって言ったら、初めてそれに気が付いたみたいで大慌てだったのよ」
「うん。とくにテオドル兄ちゃんはホントにていねいに取ってたから、すごくがっかりしてたよね。あんなにくろうしたのにって」
その時のことを思い出したのか、レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは二人で大笑い。
それを見てたテオドル兄ちゃんはちょっとむっとした顔をしたんだけど、自分でも悪かったと思ってるのか、何にも言わなかったんだ。
「まぁ、それもこれもいい思い出になると思うわよ。それにハンスたちが失敗したおかげで、男の人にはきちんと説明しておかないと下処理に失敗するかもしれないって解ったんですもの。この経験は、まったくの無駄ではないわよ」
「確かにそうよね。これからはうちだけじゃなく村の人たちも内臓は捨てずに食べるようになるだろうから、最初に気付いておいて良かったよね。じゃないと、村中で男の人が奥さんに怒られるなんて事になりかねなかったもん」
確かに普段からお料理をしてる女の人たちはそんな失敗しないだろうけど、男の人は下処理が大変だろうからって手伝ったら逆に怒られちゃったなんて事になったらかわいそうだもんね。
「そうだ。今日下処理した内臓のお肉、いっぱいあるんだから、明日は近所の人たちを誘って食べない?」
「そうね。料理をしながらなら下処理のやり方を教えやすいし、レーアの言う通り明日はご近所の人たちを誘うのもいいかもしれないわ」
こうしてレーア姉ちゃんの提案が通って、明日はお庭で内臓のお肉を使った焼肉パーティーをすることになったんだ。
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