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140 簡単じゃないかって思ったけど、言わなくてよかった


 カランカラン。


「すみません、お待たせしました」


「いやいや、ギルドマスター。此方が勝手に来たのじゃから、謝る必要は無い」


 僕たちがいろんな薬草を調べているうちに、バーリマンさんがペソラさんと一緒に錬金術ギルドに帰って来た。


 どうやらかなり慌てて帰って来たみたいでバーリマンさんはちょっと息を切らせてるんだけど、そんな状況にもかかわらずロルフさんに向かって一言謝った後、


「ところで、グランリルの司祭からの手紙は、もう読まれたのですか?」


 とってもいい笑顔でこんな事を聞いてきたんだ。


「何を言っておる。司祭からの手紙は錬金術ギルド宛なのじゃから、ギルマスのお主が居ないのに開封する訳がなかろう」


 これには流石にロルフさんも呆れ顔だ。


 そりゃそうだよね。ロルフさんへのお手紙ならともかく、錬金術ギルドからの依頼のお返事なんだから勝手に読んじゃうわけ無いもん。


「そうですか。では伯爵も中身が気になっているでしょうから、早速読む事にしましょう」


「じゃから、伯爵と呼ぶでないと言うに……」


 何かテンションが高いバーリマンさんに、ロルフさんはちょっと苦笑い。


「と言うわけじゃ。ルディーン君。司祭の手紙を出してくれるかな?」


「うん。解った!」


 そして僕に向かってお手紙を出してって言ったから、僕は鞄の中から取り出したんだ。


 あっ、お手紙と言ってもただ折りたたんである訳じゃないんだよ。


 それは書かれた中身が解らないように羊皮紙をくるくると撒いて、その端に赤い蝋をたらしていつも司祭様がしてる指輪を押し付けたもので封がしてあったんだ。


 だから預かったお父さんやお母さんはもちろん、持ってきた僕もまだ中に何が書いてあるか知らないんだよね。


「ほう。封蝋までしてあるとは厳重じゃのぉ」


 僕かお手紙を受け取ったロルフさんは、カウンターのペン立てに入っていた小さなナイフを手に取ると、それを羊皮紙の隙間に入れてから蝋のところまで持っていき、


 パキン。


 すばやくナイフを動かして蝋を割ったんだ。


 そっか、あれってああやったら割れるんだね。封蝋って言うくらいだから僕はてっきりやわらかいんだって思ってた。


「ふむ、なるほど」


 僕がそんな事に感心してると、ロルフさんは開いたお手紙を読んでなにやら感心したような声をあげたんだ。


「どうでした、伯爵? 実験の結果はどうなりました?」


「この手紙によると、どうやらやはりギルマスの予想通り、あのポーションには発毛の効果があったようじゃ」


 ロルフさんが言うには、そのお手紙には司祭様が実際に頭に使ってみた結果が書かれていて、それによると産毛しか生えてなくてふわふわとした感触だった頭が、塗った次の日にはじょりじょりとした手触りになってたんだってさ。


「次の日にはもう効果が出ていたのですか? それは凄いですね」


「うむ。じゃがそれだけでは無いぞ。どうやら伸びるのも少々早いようじゃ」


 どうやら塗り始めてまだそんなにたって無いのに、もう髪の毛が指で摘まめるくらいまで伸びてるんだって。


 それがどれくらい早いのか僕にはよく解んないけど、それを聞いたバーリマンさんが驚いてる所を見るとやっぱり凄いんだろうね。


「それで色はどうなのです? やはり歳相応に白いままですか? それとも若い頃の様な色に戻っているとか?」


「うむ。流石にまだ短すぎる為に自分ではまだそこまで確認できてはおらぬようじゃな。じゃが、簡易神殿に居るシスターの話によると、どうやら生えて来た毛の色は白いままであるらしいのぉ」


 自分で見て無いから解んないって言うとなんで? って思うかもしれないけど、僕の村には鏡なんてないからこれは当然なんだよね。


 村の中には川が流れてるけど結構流れが速いから顔がはっきりと映るなんて事は無いし、例え何かに水を汲んで覗き込んだとしても、僕の前世で住んでたとこみたいに黒と白みたいなはっきりと違うわけじゃないから、色まではよく解んないんだよね。


 そう言う僕だって自分の顔をはっきりと見れたのは、イーノックカウにあるお店の窓ガラスに映ってるのを見たのが初めてだもん。


 そのガラスでさえあんまり無いんだから、鏡みたいにとっても割れやすくて高いものなんて村にあるわけ無いよね。


「そうですか。それは少し残念ですね」


「そうじゃな。じゃが、もし色まで元に戻るようならそれこそ若返っておると言う事になるからのぉ。そう考えると白いままであった事は喜ぶべきやもしれん」


 ん、なんで? 若くなるならその方がいいんじゃないの?


 そう思った僕はロルフさんに聞いてみたんだ。


 そしたら、もしこのポーションに若返りの効果があるなんて解ったら、それこそ大変な騒ぎになるでしょって言われちゃった。


 そう言えばそうだね。もしそんなポーションが作れたら、みんな欲しがっちゃうもん。


 でも僕しか作れないのにみんなが欲しがったらきっと困っちゃうから、ロルフさんの言う通り若返らなくって良かった。


「後は何か書かれていませんか? 例えば何か他の作用があるとか、何かしら不具合があったとかは?」


「そうさのぉ。不具合と言えなくは無いのじゃが」


 髪の毛の生え方については問題が無いみたいだけど、どうやらなにも問題が無かったわけじゃないみたいだね。


 だってバーリマンさんが他になんか無いの? って聞いたら、ロルフさんはちょっと困ったような顔をしてこんな事を言ったもん。


「どうやら、今くらいの長さならなんとかなっておるが、もう少し髪が伸びたら今のポーションでは頭皮に塗るのは不可能になるじゃろうとも書かれておるんじゃ」


「まぁ。それは少し困りましたね」


 どうやら髪の毛つやつやポーションは頭の皮に塗ると毛が生えて来るみたいなんだけど、短いうちは塗れても長くなったら髪の毛が邪魔で塗れなくなるから困っちゃうんだって。


 そう言えばそうだよね。長くなったらポーションの殆どは髪の毛に付いちゃうもん。


 そしたら髪の毛はつやつやになるかもしれないけど、頭の皮に届かなくて生えて来る毛が元に戻っちゃったら最後にはまたつるつるになっちゃうもんね。


「うむ。軟膏ゆえの弱点と言うわけじゃな。さりとて、軟膏のポーションを液体にする術など聞いたことも無いからのぉ」


「そうですねぇ」


 二人して考え込んじゃったロルフさんとバーリマンさん。


 そっか、塗り薬だから大変なだけど、もし飲み薬みたいに液体なら簡単に塗れるもんね。


 そう思った僕は、同時に何で二人がこんなふうに考え込んじゃったのか解んなかったんだ。


「ねぇ、ストールさん。ロルフさんとバーリマンさんは何で考え込んじゃったの?」


「さぁ? わたくしは錬金術の事はさっぱり解りませんので。ですが、あのお二人があれほど考え込むと言う事は、それ程の難問と言う事なのでしょう」


 そっか、僕はこのポーションを液体にするのなんて簡単じゃないかって思ったんだけど、思ったより難しいんだね。


「ギルドマスターのバーリマンさんと、いっつも錬金術ギルドに居るロルフさんがあんな顔してるんだもん。ストールさんが言う通り、とっても難しいことを考えてるんだね」


「ええ、そうですね。あのお二人があれほど考えても答えが出ない事なのですから」


 やっぱりそうか。


 僕の考えた事なんてロルフさんたちなら簡単に思いつくだろうから、きっとそんな方法じゃダメなんだろうね。


「良かった。僕、もうちょっとで簡単に出来るよって言っちゃうとこだったよ」


「あら、ルディーン様は何か思いつかれたのでしょうか」


「うん。でもさ、ロルフさんたちがあんなに悩んでるって事は、きっとすっごく難しい事なんだろうから、僕の考えた事なんてきっとダメだって思うんだ」


 僕とストールさんはそんな会話をしながら、未だに頭を捻ってる二人を見つめる。


 僕、ポーションの元になったセリアナの実の油が34度で液体になるから、もうちょっとで「ちょっとだけ暖めればいいじゃないの?」って言っちゃう所だったよ。


 ああ良かった。もしそんな事言ってたら、何を馬鹿なことを言ってるの? って怒られちゃったかもしれないもんね。


 読んで頂いてありがとうございます。


 火にかけて高温にするのならともかく、ポーションを人肌程度に暖めたからと言って変質する訳無いですよね。


 もしそんなポーションなら持ち運ぶのも大変でしょうからw

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