136 美味しくなると体にも良くなるんだね
「なるほど、確かにこれは肉に合うのぉ」
結局魔道泡だて器があるってのを話せなかった僕は、ロルフさん達と昼ごはんをかねて厨房横の部屋でにんにくを使った料理の試食をしていた。
だってさ、あんなにマヨネーズを作れる自分のところの料理人を嬉しそうに見てるんだよ。言えるわけ無いじゃないか。
と言う訳で、僕はノートンさんが作ってくれたマヨネーズをゆでたお野菜につけてもしゃもしゃ食べながら、にんにくオイルで味付けしたお肉をおいしそうに食べてるロルフさんを眺めてたんだ。
「はい。このにんにくと言う薬草は肉の臭みを押さえ、焼くととても香ばしく仕上げる事ができるようです。またカールフェルト様によると、とても滋養があるらしく、体が弱っている時などは時間をかけて熱を通した物を食すと良い効果があるそうでございます」
「うむ。にんにくはその滋養ゆえに薬草として流通しておる。じゃが、同時に劇物でな、処方の量を間違えると酷く下すのが問題だったのじゃよ」
ロルフさんが言うには、にんにくはお湯で煎じたりして熱を通せばお腹が痛くなる事が無いのは解ってたんだけど、そうすると同時に強い殺菌作用がなくなる事も解析で解ってたらしいんだ。
だからそんな事をしたら、一緒に滋養もなくなるんじゃないかって思われてたんだって。
「ルディーン君のように鑑定解析を使える薬師や錬金術師がおれば、熱で滋養が損なわれる事は無いともっと早くに解ったのじゃがのぉ」
だけど僕の話を聞いて熱を通してもいいって事が解ったから、これからは薬として使うときもちゃんと煎じたりして飲むようにするんだってさ。
あっ、因みに熱を通しても体にいい効果が無くならないってのは前世の記憶から来た話じゃないよ。ちゃんと僕が鑑定解析した結果なんだ。
だって前世の世界ではそうだったから、きっとこの世界でもそうだろうなんて思ってたら実は違ってたなんて事になったら困るもん。
だからノートンさんに調理してもらった物を僕が鑑定解析して、本当に殺菌作用がなくなるくらい熱しても食べたら体にいいんだって事を、そこに書かれてる説明文で確認してロルフさんに伝えたんだよね。
それでね、実はその時一緒に解った事があるんだ。
「確かに鑑定解析と言うスキルは素晴らしいですね。おかげでこのにんにくを使って魔物の肉を調理すれば、中に含まれる魔力との相乗効果でより体に良い効果があると解ったのですから」
そう。実はこの世界のにんにくは、魔力との相性も良かったことが解ったんだ。
これは多分ドラゴン&マジック・オンライン当時にもあった、食事によるバフと同じような物なんだと思う。
ドラゴン&マジック・オンラインって原作がテーブルトークゲームのせいか自由度が高すぎるくらい高かったんだけど、その中でも特に色々できたのが料理アイテムの作成なんだ。
でね、ゲームの中には物凄くいっぱい食材の種類があったんだけど、その殆どが組み合わせればなんかの料理ができるようになってたし、ある食材とある食材をあわせるとより効果の高い料理ができるなんて言う仕様もあったんだよね。
でもそれはランダムじゃないんだよ。実際の世界でも、より美味しくなる組み合わせだと必ず効果が上がり、逆に不味くなる物は下がるようにできてたんだ。
今回の場合、お肉とにんにくは当然相性がいいよね? だからドラゴン&マジック・オンラインのルールで考えると、その二つを一緒に料理したら、よりいい効果が出る料理が出来上がるのは当たり前なんだ。
ただゲーム時代は料理の一般職を付けている人以外ではバフ付きの料理を作る事が出来なかったんだけど、どうやら現実であるこの世界では誰が作ってもこの効果が一定量あるみたい。
だって実際にそうなのかなぁ? って思った僕は、ためしにストールさんにもお肉ににんにくと塩胡椒をした物を焼いてもらって、それを鑑定解析で調べたらちゃんと体にいい効果が出てたもん。
まぁ、それでも料理を持ってる人の方が効果がかなり高かったんだけどね。
「旦那様。にんにくにこの様な効果があると言う事は、カールフェルト様が同じように食材として使えると仰られている生姜も同様に効果があるのではないでしょうか?」
「うむ。確かにその通りじゃ。クラークよ、生姜も同じように調理してみるが良い」
と、こんな事を考えてたせいでロルフさんたちが始めた事に気づくのが遅れた僕は、ノートンさんが刻んだ生姜をフライパンに入れたたっぷりの油の中に入れたのを見てびっくりしちゃったんだ。
だって普通は生姜をそんな風に料理する事、無いもん。
で、どうなったかと言うと、
「生姜を入れても、にんにくように香りは立ちませんね」
にんにくの時と同じようになるって思ってたノートンさんはちょっと困り顔。
でも、そりゃそうだよね。だって生姜はにんにくほど強い匂いがあるわけじゃないもん。
ちょっとの油で炒めるとかならともかく、あんなにいっぱいの油の中にちょっとだけ入れても油の匂いしかしないのは当たり前だ。
「なにやってるの! そんな事したら油の匂いしかしないの、当たり前じゃないか!」
「いや……にんにくはこのように調理したであろう? ならば同じ薬草の生姜も同じようにするのではないのかとわしらは考えたのじゃ」
僕が大声で怒ったもんだから、ロルフさんはびっくり。慌てて、こんな言い訳を始めたんだ。
だから僕は、違うよって教えてあげる事にした。
「あのね、生姜はどっちかって言うと油じゃなくってお湯に溶かして使う事が多いんだよ」
「お湯ですか?」
「うん! それにね、お料理だけじゃなくってお茶にちょっとだけ入れたり、お菓子に入れたりしても美味しいんだよ」
生姜はにんにくと違って入れると香りが良くなると言うより味が良くなる調味料だから、あんないっぱいの油に入れるとしたら、同じようにもっといっぱい入れないとダメなんだと思うんだ。
でもこの世界の生姜は薬草として売られているのを見れば解る通りとっても高いから、そんな使い方したらもったいないよね。
その点お茶に入れたり、お菓子に入れたりするのならちょっとの量でもおいしくなるから、そっちの方がいいって僕は思うんだ。
それに僕が知ってる生姜の料理って、その殆どがお醤油と一緒に使うからこの世界では作れないもん。
ならできるお料理を思い出そうとするより、簡単に思い浮かぶお菓子のほうが説明するにはいいと僕は思ったんだ。
「ほう、お菓子とな。となると雲のお菓子の時のように、また新たな魔道具で作るのかな?」
「ううん、違うよ。普通に誰でも作れるお菓子に入れるんだ」
そう言えばオヒルナンデスヨで生姜を使ったパンケーキの作り方をやってたっけ。
あれならすぐにできるから、ロルフさんに説明するよりノートンさんに作り方を教えた方が早いかも。
そう思った僕はノートンさんに、作るのにいる材料と簡単な作り方を教えたんだ。
そしたらノートンさん、パパパッてあっと言う間に作っちゃったんだよ。料理人ってホントに凄いなぁ。
「なるほど、これは中々。ふわふわな食感もよいし、この風味とかすかに香る刺激的な香りは確かに生姜じゃ。なるほどのぉ、この菓子は一見単純なようじゃが、よく考えられておる」
「ええ。パンの様に発酵を待つ必要が無いのにこれ程の柔らかさが出るのですから、これは画期的な菓子と言えるでしょう。しかし、まさか材料に食器を洗う為の粉を使うとは。いやはや、料理とは実に奥が深いものだと改めて教えられました」
ところが、二人していきなりこんな事を言い出したもんだから、本当にびっくり。どうやらロルフさんたちはパンケーキを知らなかったみたいなんだよね。
でも僕、前にベーキングパウダーモドキの使い方、ロルフさんに教えたよね? そう思って聞いてみると、
「ふむ。確かに聞きはしたが、わしは料理などせぬからのぉ」
って答えが帰って来た。
そう言えばそうか。それを聞いたからって、このお菓子に驚かない理由にはならないよね。
だって自分に興味がない事を教えてもらっても、普通はそれを試してみようなんて誰も思うわけ無いんだから。
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