134 思ってもいなかった、とっても嬉しい出会い
ノートンさんとの挨拶も済んだと言う事で、早速にんにくと生姜をどう料理に使うかって話になった。
まぁ、とは言ってもお味噌やしょうゆが無いからあんまり詳しい使い方は解んないんだよね。
「僕はあんまり料理を作んないからこの二つをどう使ったらおいしい物が作れるか解んないんだ。だから、基本的な作り方だけ教えるから、これを使ったお料理はノートンさんが考えてね」
「確かにカールフェルト様は料理人には見えませんからね。解りました。基本的な使い方さえ教えていただけたら、後は此方で色々試したいと思います」
だからこうやって料理の仕方は丸投げして、使い方だけを教えることにしたんだ。
「生姜やにんにくはいろんな使い方があるんだけど、一番よく使うのは下ろしたやつかな。これならお肉を焼く時とかにもすぐ使えるし」
「おろす、ですか?」
僕は前世の記憶にあるチューブに入った下ろしにんにくや下ろし生姜を頭に浮かべてそう言ったんだけど、何でかノートンさんには伝わらなかったみたい。
だから解りやすいように摩り下ろして使うんだよって教えてあげただけど、それでもよく解ってないみたいなんだ。
……もしかして、おろし金が無い?
そう思った僕は、改めて厨房を見渡したんだ。そしたらいろんな大きさの包丁とか鍋やフライパン、それにボウルのような調理器具はいっぱいあったんだけど、やっぱりその中におろし金がなかったんだ。
それを見てびっくりした僕は、おろし金の特徴をノートンさんに伝えて同じような調理道具は無いのか聞いてみたんだけど、
「似た様なものにチーズを削る道具はありますが、野菜をそのように細かくする道具は聞いた事がありませんね」
なんとおろし金が無いどころか、野菜を摩り下ろすなんて事もした事が無いんだって。
ここまで聞いて思い出したんだけど、前世で見たテレビでもレストランでシェフがにんにくを細かく刻んだ料理を作ってる所は見たことがあるけど、おろしにんにくを使って何かを作ってる所は見た事無い気がする。
って事は摩り下ろすって言っても伝わる訳無いよね。
「しょうがないなぁ。じゃあ別の使い方にしよう」
と言う訳で予定変更。おろし生姜やおろしにんにくはやめて、別の方法を教える事にしたんだ。
まずはにんにくの皮むき。
外側の皮をむいて一ずつに別けたら、それを麻の袋に入れて調理台にバンバンとぶつける。
こうすると薄皮が簡単にむけるようになるからね。
「カールフェルト様!?」
そしたら、それを見たストールさんが何でか大慌てで僕の両脇に手を入れて、ひょいっと持ち上げたんだ。
「わぁ! ストールさん、何するの? 下ろしてくれないと、続きができないじゃないか」
「カールフェルト様こそ、いきなりあのような乱暴な行いを始めて。一体どうなされたのですか?」
あれ、もしかして何か気に入らない事でもあって僕が暴れだしたと思ったのかな?
「僕、暴れだしたんじゃないよ。こうするとにんにくの薄皮がとりやすくなるからやってるだけだもん」
「そう、なのですか?」
どうもストールさんは本当に僕が急に暴れだしたと思ってたみたいで、説明を聞いてもちょっと不安そう。
だからまだちょっとぶつけ足りない気がするけど、袋の中からにんにくの粒を取り出して皮を剥いて見せる事にしたんだ。
「ノートンさん。ちっちゃいナイフ、あったらかして」
「はい。ペティナイフで宜しかったですか?」
ノートンさんからペティナイフを受け取った僕は、取り出したにんにくの粒の頭とお尻の所をちょっとだけ切り落として薄皮を剥きにかかったんだけど、どうやらあんだけ叩いただけでも十分だったみたいでスルっと剥けたんだよね。
僕はそのにんにくの粒をストールさんに見せてにっこり。
「ほら、さっきみたいにバンバンって叩くとこの皮が剥きやすくなるんだよ。この皮、とっても剥きにくいんだけど、こうしたらすぐ剥けるんだ」
「そうなのですか、失礼しました」
そしたら、どうやらやっと解ってくれたみたいで、ストールさんは謝ってくれたんだ。
折角剥いたんだからこのままやっちゃおうって事で、僕はその粒を薄切りにする。
「おっ、あまり料理をしないと仰られていましたが、中々いい手つきですね」
「ホント? 嬉しいなぁ」
一般職料理人6レベルの威力か、ノートンさんに褒められちゃった。
それに気を良くした僕は、そのままその粒を全部スライスする。
「えっとね、にんにくはこんな風に薄切りにして使ってもいいし、料理によってはこんな風に細かくしてもいいんだよ」
そしてそのスライスからちょっとだけとって、それをみじん切りにして見せたんだ。
「ほう。細かくすると独特のにおいが出ますね」
「うん。生姜もそうだけど、この匂いがお料理を美味しくするんだよ。でね、このにんにくはフライパンを使ってちょっと多目の油で炒めて匂いを移してからその中にお肉を入れて焼くと、とっても美味しいくなるんだよ」
そう言いながら僕は、そこまでやろうと思って厨房の中を見渡したんだ。
ところが、
「あれ? 油が無いや」
当然あると思ってた脂身がどこにも無いんだ。でも油が無いとお料理なんて作れないから、絶対どこかにあるはずだよね。
そう思った僕は、ノートンさんに助けを求めるように視線を送ったんだ。
「油ですか? いえ、そちらにございますよ」
そしたらノートンさんは調理台の上においてある、銅でできた小さな柄杓が入った壷を指差したんだよね。
でも、柄杓が入ってるって事は当然そこに脂身は入って無いわけで。
疑問に思った僕はその壷の中を見てびっくりしたんだ。
「油? 液体の油だ!」
だってそこには、僕がずっと探していた液体状の油が入っていたんだから。
そしてその油を見てびっくりしてる僕に、ノートンさんがその油の説明をしてくれたんだ。
「液体の油? はい、これはワインを作る際に出るブドウの種を絞って作られるグレープオイルと言う物です」
グレープオイル? って事は僕が前に錬金術で作ったあの種のオイルだよね? そっか、そう言えばワインを造る時にはいっぱい種が出るもんね。
その種を使えば油を絞る事だってできるのは当たり前だ。
「そう言えば街では魔物の脂身から作られる油を使うのが一般的ですものね。カールフェルト様は、はじめて御覧になられたのですか?」
「うん! 僕、ずっと油は魔物や動物の油しかないって思ってたんだ。でもちゃんと植物の油もあったんだね」
なんにしろこれは凄く嬉しい発見だ。だってさ、これでマヨネーズが作れるって事なんだもん!
僕はあまりの嬉しさに、その場で両手をあげてピョンピョン飛び跳ねながら喜んだんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
似たようなものはありますが、実はおろし金って西洋はおろか、中国にさえ無いらしいんですよ。
にんにくや生姜の使い方を書くのに、おろし金の歴史を調べて本当にびっくりしました。
因みに一応細かい刃が付いているおろし金に似た道具はあるようですが、西洋では普通野菜を細かくするのはスープを作る時が殆どらしいので、そんな時はゆでた物をつぶして裏ごしするかミキサーを使うそうです。
確かにいちいち下ろすよりの、その方が早いですよね。