131 えっ、薬草だったの?
「フランセン老、俺にもその肉、少し分けてもらえないか?」
「いや、お土産と言っている以上それ程の量は無いと思うからのぉ。分けるほどはさすがに無いじゃろうて」
再起動したロルフさんたちがそんな事を話し始めたもんだから、ストールさんがこのお話し合いが済むまでちょっと待っててねって言ったんだよね。
だから僕は、マロシュさんのお店の中を探検する事にしたんだ。
「薬草専門店って言ってたけど、薬草だけじゃなくっていろんなのが売ってるんだね」
ロルフさんたちが居た場所の近くに置いてあったのは乾燥させた木の実とか薬草類が多かったんだけど、ちょっと離れた所を見るとお花とか草が植えてある植木鉢とかもあるんだよね。
それになんか壷やビンに入ってるのもあるし、専門店って言うだけあってホントにいろんな薬の材料が置いてあったんだ。
「はい、その通りでございます。このお店は煎じたり粉薬にしたりして飲むような一般薬に使われる材料全般を売っている店なのですが、その手の物の殆どが植物から取れるということで薬草専門店と名乗っておられるようです」
ストールさんの説明によると薬草だけじゃなく魔物の角の粉末とかも扱ってるらしいんだけど、それは売ってるもののほんの一部だから薬草専門店って言うんだって。
そんなストールさんの話を聞きながら、僕はお店の中を見て回る。
そしたら確かに何かの動物の爪みたいなのがいっぱい入った壷とか、からからに乾いた何かの皮みたいな物も置いてあったんだよね。
へぇ、魔物によってはこんな所もお薬にしたりするんだ。
そう思いながら魔物の素材をみてた僕は、ある事に気が付いたんだ。そっか、だからストールさんはあんな事を言ったんだね。
「ストールさん。もしかして僕が持ってきた内臓のお肉、ここにあるのとおんなじお薬の材料だって思ったの?」
「ええ、そうです。わたくしはこの店を訪れる事は殆どありませんが、旦那様をお迎えに上がったり、頼んであった品物を受け取りに来る為に来店する事もございます。その際、魔物の素材が薬として使われていると知っていたので、恥ずかしながら勘違いしてしまいました」
やっぱりそうなのか。でも、食べた事が無い上に魔物の一部がお薬になるって事を知ってたらそう思ったって仕方ないかも。
パッと見、このお店には魔物の内臓は置かれて無いみたいだけど、乾燥した皮や爪よりは内臓のお肉の方がお薬になりそうだもんね。
「持ってきた内臓の肉?」
そんな会話を僕とストールさんがしていたら、その内容にロルフさんが興味を惹かれたみたいなんだ。
「ルディーン君。持って来たと言う事は、もしや魔物の内臓の中には食べられる部位もあると言う事なのかな?」
「うん。ちゃんと下処理しないとダメだけど、きちんとすれば美味しいんだよ。でもストールさんがイーノックカウではみんな食べないって言ったから、食べられるのは草食の魔物だけかも。僕が知ってるイーノックカウの魔物は虫を食べるのや雑食のばっかりだもん。もしそうなら知らなくてもおかしく無いもんね」
「なるほど。確かにこの町の近くの森では草食の魔物は奥地に生息するツリーホーンハインドなどの鹿の魔物だけじゃからのぉ。あれの素材で高く売れるのは角と魔石、それに皮じゃからそれを運ぶのを優先して肉がとても美味であるにもかかわらず全ては持っては帰らぬ。そのような事情じゃから、内臓は全てその場で捨て置かれるのじゃよ」
へぇ、イーノックカウにも草食の魔物が居たんだ。
でも美味しいって解ってるのに、そのお肉まで捨ててきちゃうなら内臓なんて持って帰ってくるはず無いもん。イーノックカウの料理人が内臓のお肉を美味しいんだって知らなくってもおかしくないよね。
「して、その内臓の肉とやらはどのようにして食べるのじゃ?」
「食べ方? 僕んちはお塩で味付けしたのを焼いて食べるんだ。でもさぁ、本当はもっと美味しい食べ方があるんだよね」
「別の食べ方があると?」
あっ、つい言っちゃったけど、これはどうしようもないやつだった。でも、ロルフさんに聞き返されちゃったから、言わない訳にはいかないよね。
「あのねぇ、ホントはにんにくとか生姜って言う匂いを消す植物があるともっと美味しいはずなんだ。でもね、この間イーノックカウのお店を見て回った時は売ってなかったもん。多分この辺りには無いと思うんだよね」
生姜やにんにくは内臓だけじゃなく普通のお肉を食べる時にもあったらいいなぁって思ってたから、この間お店を見て回った時に一生懸命探したんだよね。
でもあんなに探したのに見つからなかったって事は多分この辺りには無いんだと思う。ううん、もしかしたらこの世界自体に無いのかも。
だから僕はどこにも無いかもしれない物を使ったらもっとおいしくなるよって教えてあげても仕方なかったなぁなんて思ってたんだけど、そしたらその話を横で聞いてたマロシュさんがこんな事を言い出したんだ。
「へっ? にんにくや生姜って薬にするだけじゃなく、料理にも使うのかい?」
「うん。どっちも普通に料理に使うんだけど……マロシュさん、もしかしてにんにくや生姜の事、知ってるの?」
「知ってるも何も、その二つはうちで扱ってる商品だよ」
マロシュさんはそう言うと、奥の戸棚の扉を二箇所開けて、中から何かを取り出したんだ。
「ルディーン君が言ってるのはこれで合ってるかい?」
そしてそう言いながら見せてくれたのは間違いなくにんにくと生姜だった。
「こう言う匂いの強い薬草は外に出しておくと他の材料に悪影響が出ることがあるから、普段はこんな風に戸棚の中にしまってあるんだ。しかしこの二つを料理にねぇ。匂いがきつすぎるし、にんにくにいたっては処方する量を間違えると腹を下すような強い薬草だけに、想像もしてなかったよ」
そっか、そう言えば前世では体力をつけたり体を暖めたりするのに使ってたっけ。
マロシュさんが言うには普通の人でも簡単に煎じて飲むことができるような薬草なら露天で売ってるのもあるけど、この二つは味や匂いが特殊すぎて薬草専門店以外では普通、扱わないんだって。
そっか、だから見つけられなかったんだね。
でもさ、まさか薬屋さんで売ってるなんて思わなかったから、こんなお店まで探そうなんてまったく思ってなかったよ。
あっ待って、それならもしかしてこのお店には他にも料理に使える薬草があるかも! そう思った僕は色々と聞いてみたんだけど……。
「よく解んないや」
なんとなく前世の料理で使ってたんじゃないかなぁって思える薬草の名前は出てきたんだよ。でもそれがどんな料理に使えるのか、僕にはまったく解らなかったんだ。
当たり前だよね。前世の僕、料理なんて殆どして無いもん。
前世が料理人だとか料理が好きなOLさんとかならともかく、ゲームが好きなだけの体の弱い男の子なんだからそんなのを知ってるはずがなかったんだ。
でもさ、薬草が料理に使えるって事が解った事自体は無駄じゃなかったんだよ。
「ふむ。にんにくと生姜以外の薬草も料理に使える可能性があると言うのじゃな? それならば専門家に任せるとよかろう。にんにくと生姜の使い方を伝えれば我が家の料理人たちが勝手に研究するじゃろう」
「いやいやフランセン老、どちらかと言うと領主にこの情報を伝えた方がよいのではないですか? あの方なら料理の知識も豊富ですし、何より優秀な者たちが周りにそろってますから」
だってロルフさんとマロシュさんの二人が、どんな薬草が料理に使えるかに興味を持っちゃったんだもん。
これならきっと、僕が知らなかった薬草を使った料理をいっぱい見つけてくれると思うんだ。
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「ところで店主よ。おぬしの企み、わしには解っておるぞ」
「はて、何の事でしょう?」
「匂いのきつい薬草は総じて刺激が強く、売れ行きが悪い。これを機にそれらをわが孫に売りつけるつもりであろう」
「はて、何の事でしょう?」
「それだけでなく、もしかすると新たな販路を得る事によって一儲けとでも考えておるのではないか?」
「はて、何の事でしょう?」
この後もロルフの的確な指摘に、マロシュは同じ言葉で返事をしつづけたそうな。
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