129 小さいおじさんだけど、ドワーフじゃないんだね
「それでは行って参ります」
ストールさんが門の前で他のメイドの人たちに出かける挨拶をしてる。
何でかって言うと、ストールさんが僕と一緒にロルフさんのところに行くからなんだ。
これはメイドさんたちが僕の事をルディーン君って呼んでもいいの? って聞かなきゃいけないからってのもあるんだけど、実はそれだけじゃないんだよね。
これがもし何度も行った事がある錬金術ギルドにロルフさんが居るって言うのなら僕1人だけを馬車に乗せて送り出せばよかったらしいんだ。
けど今日はたまたま僕が行ったことの無い薬草専門店に行ってるって事で、ストールさんが、
「流石にお客様をお1人でそんな見ず知らずの場所には行かせられません」
って言い出して、付き添いの為に一緒についてきてくれる事になったんだ。
「それでは参りましょう」
挨拶の後、僕と一緒に馬車に乗り込んだストールさんは、早速前の小窓を開いて御者の人にそう伝えた。すると馬車はゆっくりと動き出したんだ。
ガタゴトと揺れながら、馬車は進んで行く。大きくて立派な馬車だけど、こう言う所は僕たちが普段乗ってる馬車と同じだ。
だけど中の椅子はただの木の板しかないグランリルのと違ってふわふわだから、お尻が痛くならないのがいいよね。でも、このガタゴトが少なくなればもっと楽なんだけどなぁ。
僕の前世では自動車って言うものがあって、それだと早く走ってもあんまり揺れなかったんだよね。
その理由は確かサスペンションとか言うのが付いてるからで、それをつければこの馬車だってきっともっとゆれなくなると思う。
でも僕、そのサスペンションってのがどうやってできてるのかなんて知らないし、だから当然どうやって作ったらいいのかまったく解んないんだよね。
前世で読んでた記憶があるラノベでも主人公がそのサスペンションってのを作って馬車を改造してたんだけど、僕の前世は高校生ってのの時に死んじゃってるから、そんなのの作り方なんて知らないんだ。
とりあえずバネっていうくるくるとねじった鉄が使ってあるのは知ってるけど、そんなのを車輪に付けたらグネグネしてもっとグラグラしちゃうと思うんだよなぁ。
「もっといろいろ知ってからならよかったのに」
僕の知識なんて病気で寝てる時に見てたテレビとか言うのでやってた事と、小学校や中学校でやった勉強くらいだもん。ホントに、何の役にも立たないよね。
「ルディーン様、もうすぐ薬草専門店に着きますわよ」
そんな事を考えてたからなのか、いつの間にかイーノックカウの東門を抜けて薬草専門店のそばまで来たったみたい。
ん? って事は僕、かなり長い間黙ってたって事だけど、変な子だって思われなかったかなぁ? そう思ってストールさんの顔を見たんだけど、
「旦那様がなぜルディーン様を気に入られたのか、よく解りましたわ。お二人は本当によく似ていらっしゃいます」
そしたらこんな事を言いながら笑ったんだよね。
そう言えばロルフさんも考え事を始めると周りの音が聞こえなくなるんだっけ。
それと同じだって思ったって事は、もしかしたらストールさん、ここに来るまでの間に何度か僕に話しかけてくれてたのかも。
ちょっと反省。
こうして僕たちは無事薬草専門店の到着。馬車から降りると、ストールさんは僕の手を引いて薬草専門店の扉の前まで連れて行ってくれた。
そしてそのまま扉を開くストールさん。
ここはどこかのお屋敷じゃなくお店だからノックをする必要なんて無いんだけど、ただなんとなくメイド姿の女の人が普通に扉を開くって光景が僕には不思議に思えたんだ。
でもそれはあくまで僕がそう思ってるだけだから、ストールさんはそのまま僕を伴って中へと足を運ぶ。
するとそこには、とっても背の低いおじさんと、いつもの灰色のローブを着たロルフさんが居たんだよね。
「おやおや、ストールさんがここに来るとはまた珍しい。それに小さなお子さんを連れてとは。しかし、はて? ストールさんは確か独身だったはずでは……。はっ! まさか隠し子が!?」
「これこれ店主よ、そんな事があるはずがなかろう。あの子はわしの客じゃよ」
僕たちを見た背の低いおじさんが急に変な事を言い出したもんだから、ロルフさんが呆れたような顔をしてそれは違うよって教えてあげたんだよね。
そしたらその背の低いおじさんは冗談冗談っていいながら、けらけらと笑ったんだ。
でもこのおじさん、ホントに小さいなぁ。もしかしてドワーフって言う種族なのかも? でもその割にはお髭がまったく生えてないんだよね。
おじさんのお顔はどっちかって言うと童顔な上にお肌もつるんとしてて、おまけに耳が大きくて髪の毛もくすんだ薄い茶髪のくせっ毛だからどこか子供っぽいような感じがするんだ。
それに確かにお顔は大きいんだけど体はそんなにずんぐりって感じじゃないし、力持ちにも見えないんだよね。どっちかって言うと、すばしっこそう。
僕がそんな事を考えながらおじさんを見てると、
「おや? 僕の事をそんな目で見つめてくるって事はもしかして坊や、ハーフリングを見るのは初めてかな?」
なんて言ったんだ。
ハーフリング? って事はやっぱりドワーフじゃないのか。でも僕、ハーフリングなんて聞いたこと無いなぁ。
僕がそう思いながらロルフさんの方に目を向けると、
「これは驚いた。その様子からすると、ルディーン君はハーフリングを知らぬのか」
って言いながら、白くて長いお髭をなでてたんだよね。
って事は結構有名な種族なのかも。
この後ロルフさんに教えてもらったんだけど、ハーフリングって言うのはエルフやドワーフと同じで人に近い亜人なんだって。
音楽や楽しい事が大好きな種族だから人ともすぐに仲良くなるし、森に住んでいて薬草にも詳しいからこんな風に街で店を開いてたり、旅して回る吟遊詩人や行商人をしている人が多いんだってさ。
「と言う訳で、この者はそのハーフリングという種族なんじゃよ」
「その通り! 僕はこの薬草専門店《切り株薬局》の店主で、ハーフリングのマロシュ。なんとかマロシュでもなく、マロシュなんとかでもない。ただのマロシュだよ。よろしくね、坊や」
「ルディーン・カールフェルトです。8歳です。よろしくお願いします」
ハーフリングって僕たちと違って名前しか無いんだって。エルフの人たちはちゃんとファミリーネームもあったから、これはちょっと意外。
でもさ、って事はドワーフとかも違ったりするのかなぁ?
もしいっぱい名前があったりしたら僕、覚えられなくて困っちゃうかも。
「ルディーン君って言うのか。賢そうな子だね。フランセン老(ゴホン)の客人って事は、錬金術の関係者って所かな?」
そんなマロシュさんだけど、僕の顔を見ながら知らない人の名前を出したんだよね。でも話の流れからすると、フランセンってのはロルフさんのファミリーネームなのかな?
あとその時にロルフさんがゴホンって咳をしたんだけど、やっぱりどこか悪いのかも。
そう言えばロルフさんのお家でキャンベルさんが自己紹介してた時もゴホンって咳をしてたし、ストールさんはご病気じゃないよって言ってたけど、それは僕に心配かけないためだったのかもしれないね。
とその時、何故かゴホンと言えば龍○散っていう、よく解らない言葉が頭に浮かんだんだ。
けど……○角散ってなんだろう? よく解んないや。
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