128 何で食べないんだろう?
「落ち着かれましたか?」
「うん。泣いちゃってごめんなさい」
何人かのメイドさんに囲まれてる状況にはまだちょっと慣れないけど、出されたあったかいミルクを飲んだおかげで僕はなんとか落ち着くことができたんだ。
「こちらこそ、申し訳ありません。旦那様からもカールフェルト様はいつものお客様とは違うのだから、気をつけるようにと注意を受けておりましたと言うのに」
僕が泣いちゃった事を謝ると、ストールさんは自分こそロルフさんに言われてたのにって謝ってきたんだ。
でもさ、どう考えても僕が悪いよね。だってノックされたんだから、はいって返事すればよかったんだもん。
だからもう一度ごめんなさいって言ったら、ストールさんもまたごめんなさいって言って来ちゃって、
「カールフェルト様もメイド長も、そろそろおやめになられた方が宜しいのでは?」
なんて、若いメイドさんに言われちゃった。
「ストールさん。ロルフさんは今日も錬金術ギルドに居るの? それとも街の中のお家?」
「いえ、旦那様は本日、薬草専門店にお出かけになられております」
落ち着いたところでストールさんにロルフさんのことを聞いたら、こんな答えが帰って来たんだ。
薬草専門店ってお薬屋さんの事だよね? って事はもしかしてロルフさん、どこか体の調子が悪いのかなぁ? そう思って聞いてみたんだけど、
「いえ。カールフェルト様もご存知の通り旦那様は錬金術の研究が大変お好きでして、錬金術ギルドには入荷しない珍しい薬草が入手できたと知らせが入ると、必ず薬草専門店へと足を運ばれるのでございます」
そしたらこんな答えが帰って来たんだ。
そっか。ジャンプの転移先の印をつける時もそうだったけど、ロルフさんって興味がある事があると我慢できないみたいだもんね。
錬金術に使えそうな珍しい薬草があったら、気になって見に行っちゃうのも解る気がする。
「そっか。病気になったんじゃなくてよかった。でも、それだと今日は会えないね」
折角手紙を届けに来たのにちょっと残念だなぁって思ってたら、ストールさんがそんな事は無いよって言ってきたんだ。
「旦那様からは、そろそろカールフェルト様がいらっしゃる頃ですので、もしお越しになられたら旦那様の所にお連れするようにと仰せ付かっております」
「そうなのか。じゃあ僕、その薬草専門店に行けばいいの?」
「はい。わたくしがこちらに参る際に馬車を用意するようにと言い付けて置きましたから、もうしばらくすれば玄関の馬車がまわされたと連絡が来る事でしょう」
そう言えばロルフさんのお家からは馬車じゃないとイーノックカウに入れないんだっけ。
「そっか。ならその馬車に乗ってけばいいんだね」
「左様でございます」
と言う訳で、僕は馬車に乗ってロルフさんの所に連れて行ってもらえる事になったんだけど、その前にどうしてもストールさん相手にやっておかないといけない事が二つあるんだ。
まず一つ目。
「じゃあその前に。これ、お土産です」
「まぁご丁寧に。これは食材でしょうか?」
「うん。あのね、これは一角ウサギのお肉で、こっちはジャイアントラビットのお肉。それとこれは一角ウサギの心臓と胃のお肉だよ」
そう言いながらそれぞれ別の葉っぱに包まれてたお肉を渡したんだけど、僕の言葉を聞いたストールさんは、なんでか目を丸くして困ったような顔をしたんだよね。
どうしたのかなぁ? 確かイーノックカウではラビット系の魔物のお肉は手に入りにくいそうだから、持って来たら喜んでもらえるって思ってたんだけど。
だから僕はストールさんがなんでそんな顔をしてるのか解んなくって、首をこてんと倒したんだ。
「一角ウサギと言うと、ホーンラビットの事ですよね? ……えっと、その心臓と胃のお肉ですか?」
「うん、そうだよ! あのね、あと本当は肝臓のお肉もあったけど、お母さんが癖があるからやめときなさいって言ったからその二つだけ持ってきたんだ」
僕はそう言ってエッヘンって胸を張る。ロルフさんはもしかすると肝臓のお肉が好きかもしれないけど、もし嫌いだったら困るもんね。
「ホーンラビットの……その……ウサギの魔物は内臓も食す事ができるのですか?」
「食べられるよ。って言うか、もしかしてイーノックカウでも内臓のお肉は食べたりしないの?」
ところがストールさんがこんな事を言い出して、僕はびっくりしたんだ。
だってさ、グランリルの村と違ってイーノックカウなら料理人の一般職を持っている人はいっぱい居るもん。
その人たち全員が下処理のスキルを持ってないなんて思えないから僕、魔物の内臓も当然食べてると思ってたんだよね。
「ええ。少なくともわたくしは食した事はございません。その……ホーンラビットの内臓は、美味なのでしょうか? それとも何か薬効が含まれているので食されるのでしょうか?」
「ウサギの内臓、僕は塩をかけて焼いたのしか食べた事無いけど、とっても美味しいんだよ。でもそっか、イーノックカウの近くの森にはウサギの魔物がいないし、僕が見た事のあるジャイアントラットは雑食だから、もしかしたら内臓が食べられないのかも。それだったら知らなくてもおかしくないね」
ラビット系は草食だけど、雑食や肉食の魔物の場合は食べられないのかもしれないもん。それならいくら料理人が居るからって、内蔵が美味しいって事を知らなくても仕方ないよね。
「なるほど、そうでしたか。所謂珍味といわれる部類の食材なのですね。それはまた貴重な物をありがとうございます。旦那様に代わり、お礼申し上げます」
「うん! ロルフさんに食べさせてあげてね」
「はい。お約束いたしますわ、カールフェルト様」
ストールさんがにっこりと笑顔で約束してくれたから、僕は一安心。だって今まで食べられるって知らなかったんだから、もしかしたら捨てられちゃうかもしれなかったもん。
でも、大人の人が約束してくれたんだから、大丈夫だよね。
と言う訳で、お土産の話はここまで。丁度もう一つのやっておかないといけない事がストールさんの口から出てきたから、お願いしちゃおう。
「あとね、僕の事はカールフェルトじゃなくてルディーンと呼んでね」
「ルディーン様ですか? カールフェルト様ではなく?」
「うん。僕が来た時にいっつもカールフェルトって呼んでたらお父さんが一緒に来た時、困っちゃうでしょ? だから僕はルディーンって呼んでほしいんだ」
今は僕1人だけど、お父さんも一緒に来た時にいつもどおり呼んじゃったら、どっちが呼ばれてるのか解んなくって困っちゃうもんね。
だから僕の事は名前で呼んでほしいって頼んだんだ。
「あとね。様もやめて。僕、ルディーン様なんて呼ばれた事無いから、何か変な感じだもん。ロルフさんもバーリマンさんもルディーン君って呼んでくれてるから、ストールさんや他のメイドさんたちにもそう呼んでほしいんだ」
この僕の言葉に、困ったような顔をするストールさん。
でも何で? そんなに困る様な事は言って無いと思うんだけど。
僕はそう思ったんだけど、どうやらストールさんの方からするとそうでもなかったみたい。
「お名前でお呼びするのは宜しいのですが、お客様の敬称を様から君に変えるのは流石に……」
「え~、ダメなの?」
そんなの簡単な事をまさか断られるなんて思っても無かったから、僕はびっくりしちゃったんだ。
でも、今までは慣れないカールフェルト呼びだったから様がついててもなんともなかったけど、流石にルディーンって名前に様がついてたら落ち着かないもん。
僕はなんとしても様から君に変えて欲しかったんだ。
「じゃあさ、ロルフさんがいいって言ったらいい?」
「旦那様がですか?」
だからこんな提案をしてみたんだけど、そしたらストールさんはちょっとだけ考えた後、
「即答はいたしかねますが、旦那様と一度相談した上でご返事しても宜しいでしょうか?」
こんな答えが帰って来たんだ。
ただ僕の呼び方を君にするだけなのに、大人の人って大変だなぁ。
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