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127 いきなり初めての事があったらびっくりするよね



「忘れ物は無い?」


 お母さんにそう言われた僕は、持ち物を確認する。


 とは言っても、持ってるのは首にぶら下げてるギルドカードと肩からかけられてるカバンだけなんだけどね。


 で、その中に入ってるのはロルフさんやバーリマンさんへのお土産である一角ウサギやジャイアントラビットのお肉と下処理を済ませた内臓の一部。それと司祭様のお手紙だ。


「お肉は持ったし、手紙もカバンにちゃんと入ってるから大丈夫。忘れ物は無いよ」


 お肉は全部で10キロ以上あるから入って無かったらすぐに解るし、お手紙もさっき確認したばっかりだから大丈夫。


 今回は1人でのお出かけだから森に行くつもりは無いけど、それでも一応足には皮ひもの防具が巻いてあるし腰にもいつものショートソードを帯びている。


 まぁ流石にブラウンボアのベストまでは着てないけどね。でも、とりあえずこれで準備は万端だ。


「そう。でも今回はお父さんもお母さんも着いていけないんだから気をつけるのよ」


「うん。でも何かあったらジャンプですぐにお家に帰ってこれるし、向こうに行ったらロルフさんを呼んでもらうから大丈夫だよ」


 僕を1人でよその街に出すのは初めてだから、お母さんは物凄く心配そうなんだよね。


 でも僕は自分1人で危ない所に行こうなんて思わないし、街の中ではロルフさんが一緒にいてくれるはずだから安全だよね? だから僕はお母さんにそう言って安心してもらおうと思ったんだけど、


「相手は偉い人なんでしょ? 突然行って、もし用事があるからって会う事ができなかったらどうするの。いい、ルディーン。その時はお手紙だけ預けて、すぐに帰ってくるのよ。1人で街の中に行ったりしちゃだめよ」


 もしロルフさんに会えなかったらって心配するんだもん。


 でももし馬車を出してもらえなかったらロルフさんの家がある場所から街に入る事ができないだろうから、その時は帰ってくるしかなくなるんだよね。


「うん、その時はすぐ帰ってくるね」


「約束よ。あと、ちゃんと夕ご飯までには帰ってくるのよ。向こうでお泊まりできるようにしてもらえているらしいけど、ちゃんと帰ってくる事。いいわね」


「うん! ちゃんと帰ってくるよ」


 その後もいろんな事を言われたけど、行くのがあんまり遅くなると帰ってくるのも遅くなっちゃうよ? って言ったらやっとお母さんは開放してくれたんだ。


「それじゃあ行って来るね。<ジャンプ>」


 僕はお母さんにそう言って手を振った後、ジャンプでロルフさんのお家へと飛んだんだ。



 僕が転移すると、そこは前回とちょびっとしか変わって無い豪華な部屋の中。では何が変わっているかと言うと、


「ハンドベル?」


 部屋の扉の前に小さな机が置いてあって、そこにハンドベルが置かれてたんだよね。


 前に来た時には無かった物が置いてあるんだから何か理由があるんだろうって思った僕は、そのハンドベルに近づいたんだ。そしたら、そのベルの横には羊皮紙が置いてあって、


「ルディーン様。お越しの際はこのベルを鳴らしてお知らせください。ライラ・ストール」


 そこには、そう書かれてたんだ。



 ストールさんって、確かこのお家のメイド長さんだったよね? でもそっか、いきなり僕が部屋の中から出て来たらみんなびっくりしちゃうもんね。


 このベルはきっと、そんな事にならないようにってストールさんが僕のために用意してくれた物なんだろう。


「ハンドベルなんだから、振ればいいんだよね?」


 そう思った僕は、早速そのハンドベルを持って振ってみたんだ。そしたらとっても綺麗なんだけど、思った以上に大きな音が出てびっくり。


「もしかして、もっと軽く振らないといけなかったのかも」


 そう思って慌てちゃうほどの大きな音が部屋の中に響き渡ったもんだから、僕は頭が真っ白になっちゃったんだ。


 そんな時。


 コンコンコン。


 ドアの方からこんな音がしたんだ。


 えっと、これってノックの音だよね? でも僕、ノックされた事なんて無いから、どうしたらいいのか解んないよ!


 びっくりしてる所に、さらに経験したことが無い事態が重なったもんだから、僕はただおろおろするばかり。


 コンコンコンコン。


 そしてさらに追い討ちをかけるように、またドアの向こうからノックの音が聞こえてきたもんだから僕はもう大パニック! そのせいで思わず持ってたハンドベルから手を離しちゃったんだ。


「わっ! 落としちゃった」


 カランカランと転がりながらも音を立てるハンドベル。それを見た僕はもうなにがなんだか解んなくなって、目から涙がぽろぽろと流れて来ちゃったんだ。


「ぐすっ、ううっ、うわぁ~ん!」


 そんな僕の鳴き声が聞こえたのか、


「失礼します! カールフェルト様。どうなさいました? 一体何が……」


 ドアを開けてメイド服を着た女の人が入ってきた。このお家のメイド長、ストールさんだ。


 そのストールさんだけど、僕が泣き出しちゃってるもんだから何がなにやら解らないらしく、おろおろするばかり。


「わぁ~ん」


 そんな様子を見て不安になった僕がもっと激しく泣き出したもんだから、そのせいでロルフさんのお家は大変な騒ぎになっちゃたんだ。


 それはそうだよね。主人のお客さんから来たよって合図があったから失礼が無いようにってわざわざ一番偉いメイド長のストールさんがこの部屋まで出迎えに来たのに、何故かそのお客さんが大泣きしてるんだもん。


 普段は大人のお客さんしか来る事が無いこの館。


 そこのメイドさんたちの中にこんな状況を経験した事がある人なんて居るはず無いもんだから、とっさに機転を効かせてどうにかできるはずが無いよね。


 結局僕が自分で落ち着いて泣き止むまで、ロルフさんのお家の人たちはみんなおろおろし続けちゃったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 子供が居るメイドが1人でも居ればよかったのですが、メイド長は独身で、なおかつ他のメイドたちも普段は主人も客もいない館なので若くて経験が少ない人たちばかりが配属されていた為にこの様な事になってしまいました。


 流石に子供のお客様一人を迎えた事など一度もなかったために起こった不幸な事故だったと言う訳です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の子供が泣いてるとなだめますが 他人の子供が泣いていると無性に腹が立つ。 他人の子供が可愛いと思えない私でした。
[一言] 「カランカランと転がりながらも音を立てるハンドベル。それを見た僕はもうなにがなんだか解んなくなって、目から涙がぽろぽろと流れて来ちゃったんだ。「ぐすっ、ううっ、うわぁ~ん!」 いくら幼いと…
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