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12 子供時代限定の天才?


「ルディーンも武器の練習が解禁された事だし、今日は朝から剣の練習をするか?」


 朝のお手伝いが終わった後の朝食の席で、お父さんがこんな事を言い出した。


「けんのおけいこ、あさからやっていいの? やったぁ!」


 普段お兄ちゃんやお姉ちゃんが武器の練習をするのはお昼ご飯を食べた後からで、それまでは家のお手伝いをする時間だったから僕の初練習は午後からだろうと思ってたんだよね。

 なのに、朝から練習が出来ると聞いて、僕は諸手をあげて喜んだ。


「おお、いいぞ。ルディーンはショートソードを扱うのは今日が初めてだからな。どうせなら初日に時間をかけてじっくりと基礎を教え込んだ方が上達も早いだろうし、今日は俺も狩りに行かずにルディーンに付き合うつもりだよ」


「きょうはおとうさんと、ずっとれんしゅうできるのかぁ」


 いつもなら畑や狩りで昼間は家にいないお父さんとずっと一緒にいられる上に、剣の扱いも付きっ切りで教えてくれるって言うんだから、僕はとても嬉しかった。

 そして折角教えてもらえるんだから今日一日で少しでも剣がうまくなれるよう、頑張らないとって思ったんだ。



 朝食を食べ終わると、僕はすぐに練習が出来るようにと急いでプレゼントしてもらったショートソードを取りに行った。

 でもお父さんは、すぐには練習させてくれなかったんだ。


「ルディーン。食べてすぐだと身につかないぞ。練習は少し休んで、腹がこなれてからだ」


「なんだ、すぐじゃないのか」


 でも確かに食べてすぐに動いたら気持ちが悪くなるから、僕はお父さんの言いつけを守って30分くらいの間、食休みを取ってからショートソードを手に外へと飛び出した。


「おとうさん、まずなにやるの?」


「まずはな、剣を鞘から抜いて構えるところからだ」


 お父さんが言うにはただ構えるだけって言っても、これが色々と注意しなければいけない事が多くて意外と難しかったりするらしい。

 それに正しい剣の握り方とか足の開き方とかを身に付けておかないと、いざ剣を振った時にうまく扱えないらしいから、最初はとにかく何度構え直しても同じ形になるように練習するのがいいんだってさ。


 そう言えば前世で読んだ剣道漫画でも強い人は構えただけで解るって書いてあったからなぁ、なんて事を頭に思い描きながら僕は鞘からショートソードを抜いて、両手でそれを構えた。

 本来なら片手で扱うショートソードだけど、まだ体の小さい僕はこうしないと振った時に剣の重さを支えきれないからね。


 初めて剣を構えた僕の姿を、お父さんがじっと見ている。

 これは多分どこが悪いか、そしてどうすればそれが直るかをしっかりと見極めるためなんだろうね。


 そして30秒ほど僕の姿を見続けた後、お父さんはやっと口を開いたんだ。


「ルディーン。お前、もしかして影で隠れてお兄ちゃんたちの剣の稽古を見てまねしてたのか?」


「ううん、やったことないよ。ぼく、きのうまでじぶんのけんをもってなかったし」


 何やら難しい顔をしてお父さんがこんな事を言うもんだから、僕は首をブンブン振って構えの練習なんか一度もした事がないって言ったんだ。


 そもそも家の中には剣の代わりになりそうな物は畑を耕す道具や刈った草を集める熊手、後は箒くらいしかないんだよね。

 だけど規則で8歳になるまで武器の練習を禁止しているグランリルの村では、それらを子供が持ち出さないように大人がしっかりと管理をする事になっているから隠れて練習しようにもできないんだ。


「それもそうか。ふむ、しかしそれにしては」


 そう言うとお父さんはまた黙り込んでしまった。

 そしてショートソードを構える僕の周りをくるくる回って色々な角度から観察したり、肩や腰を触って色々と確認をしたんだ。


「ルディーンの構え、どこも直す所がないように見えるんだけど……よし、試しに一度振ってみろ」


「えっ、いいの?」


 まさか剣を振る許しがもらえるなんて思ってなかったからびっくり。

 でも折角許可がでたんだから、僕は遠慮せずにショートソードを振りかぶってから、えいっと振り下ろした。


 カツン。


 賢者のジョブを取得して大幅UPした今の僕の筋力ならきちっと振ってさえいれば止める事はできたんだろうけど、興奮していた僕は力が入りすぎてショートソードをそのまま地面に叩きつけてしまった。

 でもさ、初めて振ったんだもん、勢いあまって地面を叩いてしまったのは仕方ないよね。


「えへへっ、じめん、たたいちゃった」


 でも僕は自分の失敗を自覚してたから、ついお父さんに向かって照れ笑いをしてしまったんだ。

 ところが、いつもならそんな僕を見て何かしら返事を返してくれるお父さんは、今日に限って何も言わずに真剣な顔をしていた。


 怒られる!


 いくら今日が初めての練習で持っているショートソードもまだ刃がついていないものだと言っても、これは武器の練習なんだからふざけていたら怪我をしてしまうかもしれない。

 だからこそ、こんな笑いながらやったりしたらいけなかったんだ。


 そのことに思い至った僕は、やがて来るであろうお父さんの怒鳴り声に怯えながら目を瞑って小さくなったんだ。

 ところが何時まで待っても、お父さんの雷が落ちてこない。

 だから恐る恐る目を開けてみると、お父さんは僕のすぐそばに立っていて、驚くような事を言い出したんだ。


「ルディーン、地面を叩いてしまったのは失敗だったけど、今のはよかった。きちっと刃は立っていたし、太刀筋もブレが殆ど無かったからね。ルディーンはいい子だから本当に今まで一度も剣の練習をしていないのだろうけど、だとするとこれは凄いことなんだ。もしかするとルディーンはヒルダと同じくらいの、いやもしかしたらそれ以上の天才なのかもしれない」


「えっ!?」


 予想もしていなかった話を聞かされて僕はびっくりした。

 だってそんな事があるはずはないんだもん。


 もし本当にそんなにうまく剣を振れるのなら一般職の見習い剣士がついていないとおかしいんだよね。なのに今朝見たばかりの僕の一般職の欄は空欄のままだった。

 だから今のはきっとビギナーズラックのようなもので、たまたまうまく振れただけなんだと思うんだ。


 そしてもしそうなら僕が剣をうまく振れるというのはお父さんの勘違いだと早く解ってもらわなきゃ。

 勘違いされたまま一番大事な基礎をしっかりと固める前に次の段階に進んでしまったら、僕の剣の技術は土台のない物になりかねないもん。


「そんなことはないよ。ぼく、はじめてけんをもったんだから、うまくふれるはずないもん。もういっかいふれば、まちがいだってわかるよ」


「そうか? ならもう一度振って御覧。見ててあげるから」


「うん。みててね」


 勘違いだと解ってもらう為に僕は剣を構え直し、振りかぶってから今度こそきちっと中段の構えの位置で止まるように剣を振った。

 これなら僕の実力以上の結果にはならないはずだから、まだ基礎ができていないとお父さんに解ってもらえるはずだからね。


 ところが。


「うん、今回はきちっと止めたね。それに今回も見事な太刀筋だ。これならすぐに次の段階に移っても問題はなさそうだ」


「ええ!?」


 そんなはずはないよ! そう思いながらも、もしかしたら最初に剣を振った時に見習い剣士が付いたなんて事があるのかもしれないなんて思った僕は、こっそりとステータスを開いて一般職の欄を見てみたんだ。

 だけど、やっぱりそこは空欄のままだった。


 そして念のためスキル欄も見てみたけど、そこに書かれているのは治癒魔力UP小だけで武器関係のスキルはやはり増えていなかった。


 これはどういう事なんだろう? 一般職はついてない。スキルも増えていない。なのにショートソードは一般職が付いている人と遜色がないほどうまく使えるなんて。

 そう思いながらステータス画面を見ていると、ジョブの欄に書かれている賢者の文字が目に入った。


 と、そこで僕はある事に気が付いたんだ。


「そうか、けんじゃだ」


「ん? ルディーン、なんか言ったか?」


「ううん、なにもいってないよ」


 つい口から出てしまった言葉を誤魔化すように、お父さんには惚けておいた。

 賢者のジョブに関しては、話してもいいか僕はまだ判断できてないからね。


 話がそれたけど、そうだよ。多分この賢者が原因だ。


 ドラゴン&マジックオンラインで賢者が装備できる武器は4つ。

 攻撃魔力UPがついていることが多い杖、治癒魔力UPがついていることが多いワンド、状態異常の効果があるボルトを打ち出すことができるクロスボウ、そして同じく状態異常を起す効果がついていることが多い短剣だ。


 この中の一つである短剣、日本ではナイフみたいなものを思い浮かべる人が多いだろうけど、どうやらこれは間違いらしいんだよね。

 どうもRPGが最初に英語から日本語に訳された時、西洋剣と言う物に馴染みが無かったからか直訳されてしまった為に短剣ダガーとなっているだけらしいんだ。

 その証拠に、ドラゴン&マジック-オンラインで短剣に含まれるスティレットなどの一部の武器って、実は刀身が結構長いんだよね。


 何が言いたいかと言うと、このショートソードがその短剣の語源であり、その短剣を装備できる賢者のジョブを持つ僕がショートソードを1レベル戦士並みに扱えたとしても別におかしくはないんじゃないかって事。

 そう考えたら、今の状況が全て説明が付くんだよね。


 ただ、説明が付いたからと言って全てが解決したわけじゃない。


「ヒルダにもあっと言う間に追い越されてしまったけど、もしかしたらルディーンにはそれ以上の速度で追い抜かれてしまうかもしれないなぁ」


「そんなことないよ。おおきなけんは、うまくつかえないかもしれないもん」


 剣の天才かもしれないと思い込んでしまったお父さんを前にして、ショートソードは使えるけどロングソードや楯がロクに使えないと解ったらがっかりさせてしまうんじゃないかなって思った僕は、一人心の中で頭を抱える事になったんだ。


読んで頂いてありがとうございます。


少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。

もし気に入ってもらえたら、続きを書くモチベーションになるので入れてもらえるとありがたいです。


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