123 そっか、強くならなくてもいいんだ
「冒険者じゃなく狩人?」
「そう、狩人だ。冒険者のように夢を追って無謀な事をしたり、未知の遺跡やダンジョンに足を踏み入れるわけじゃない。常に自分と仲間たちの安全を考えながら、効率よく獲物を狩って日々の糧を得る。この村の住人はそんな狩人なんだ。ここまでは解るか?」
「うん」
お父さんの言ってる事はよく解る。だってお父さんたちと狩りに行った時もお兄ちゃんたちと狩りに行った時も、みんななるべく怪我の無いようにって意識しながら行動して狩りをしてたもん。
でもなんでそんな事を今言うんだろう? って思ったんだよね。
ところが、次にお父さんが言った言葉を聞いて、僕は訳が解んなくなったんだ。
「それが解ってるのなら、なぜ強くなる必要があるんだ?」
「えっ!? だって強くならないとブラウンボアとかをやっつけられないし……」
「いやいや、ブラウンボアなんて狩らなくてもいいだろ。お父さんたちが狩れるんだから」
??? えっと、お父さんたちが狩れるのなら他の人は狩らなくていいの?
僕は突然言われたこのお父さんの言葉の意味が、まるで解んなかったんだ。
そんな僕を見ながら、お父さんは大きくため息をつく。
「やっぱり根本的な事が解ってないみたいだな。さっきも言っただろう。俺たちは狩人なんだから無理をして強い魔物を狩る必要なんて無いんだ。確かにブラウンボアを狩れば一回の狩りで大儲けができるかもしれないが、ブラックボアを10回狩っても同じくらいの儲けにはなるだろ? なら危険なブラウンボアを狙うより、安全なブラックボアを10回狩る方を選択する。それが狩人の考え方なんだ」
「お父さんの言う通りよ。どちらかと言うと、ブラウンボアを積極的に狩ろうなんて考えるのは冒険者よりの考え方ね。お母さんたちのパーティーだってブラウンボアを狩る事ができるけど、自分たちから探してまで狩る事なんて無いわよ」
なんと、僕の考え方は全部が間違ってたみたいなんだ。
お父さんとお母さんが言うには、ブラウンボアのような強い魔物は手を出すと危険だからって村に近づいてこない限りは狩ったりしないらしい。
そう言えば前にお父さんたちがブラウンボアを狩ってきた時は、村中でそのお肉を食べながら大騒ぎしたっけ。しょっちゅう狩ってるならそんな事、しないよね。
「それにだ。村と言うのはそれ自体が運命共同体だから、全員が別にお父さんたちみたいにならなくてもいいんだぞ。頑張れば誰でも狩りがうまくなるって訳じゃないんだから、それぞれが自分の役割を果たして村に貢献する。そうやって助け合いながらこの村は回っているんだ。どうだ? そんな村に住んでるのに、無理をしてまで強くなる必要があると思うか?」
「そっか。別にみんなが強くなる必要なんて無いんだね」
僕、狩りに行くんだからみんなレベルを上げて強くなりたいんだって思ってた。だけど別にみんなが強くならなくてもいいんだね。
「そういう事だ。ルディーンはイーノックカウに行って強い魔物の素材が高く売れるって知ったから勘違いしたのかもしれないけど、そもそもこの村ではお金を多く持っていたところであまり意味が無いだろ? 行商人なんて殆ど来ないんだし、何かを売ってるお店も無いんだから」
言われてみると、その通りだよね。僕、イーノックカウに行くまでは、お金を見た事なかったのに普通に生活してたもん。
「そう言えばお金あっても、使えないね」
「ああ、そうだ。それに実の所、一角ウサギが狩れるならイーノックカウで買い物するのに何不自由無いくらいの金は手に入るんだ。ルディーンも覚えてるだろ? 冒険者ギルドにいた連中の事を。あの依頼書が張られている周りにいたやつらはディックやテオドルどころか、レーアやキャリーナよりも弱かっただろう? あんなのでも街では冒険者として生活できてるんだから、そこまでして金を稼ぐ必要は無いんだ」
お父さんから言われて初めて気が付いたけど、そう言えば見習いジョブが付いてるだけでも冒険者として普通に生活してる人がいっぱい居たっけ。
そう考えると、確かに無理をして強くなる意味なんてなにも無いやって思えてくるよね。
そっか、この村の人たちはちゃんと狩りのやり方を教えてもらってるんだから、狩りをしながら強くなる必要なんて初めからなかったんだ。
「そうそう。俺からしたらルディーンが狩って俺とテオドルが村へ運ぶ。これが一番効率がいいんじゃないかって思ってるんだぞ。でもそれだと何も楽しくないし、ルディーンが居ないとどうしようもなくなるからやらないけどな」
「そもそもこの間の感じからすると、俺と兄ちゃんだけじゃルディーンが狩った獲物を村に運ぶだけでも無理だろ」
こうしてやっと納得した僕を見て、お兄ちゃんたちがこんな事を言いながら笑うんだ。
そして、
「そうだよね。ルディーンはいっぱい狩れるんだし、狩りのやり方を考えるよりも狩った獲物を村に持って帰る方法を考えた方がいいんじゃないかな?」
「そうだよ! ルディーンはいろんな魔法が使えるし、魔道具も作れるでしょ? なら狩った獲物を村に持ってくる魔道具を作ったらいいよ」
お兄ちゃんたちに続いて、レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんもこんな事を言い出したもんだから、お昼ごはんの食卓は笑い声で一杯になったんだ。
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