120 解体祭り
森から帰った次の日は、朝からお庭で解体祭り。
魔物の場合、普通の動物と違って魔力を大量に含んでるからそう簡単に腐ったりしないんだけど、流石にあれだけの数があるとそのまま置いておくにはちょっと邪魔だから、家族みんなで解体しようってことになったんだ。
そう言えば草原で獲ってきた鳥とかはお母さんがさっさと捌いてしまってたし、イーノックカウで獲れた獲物はみんな血抜きをしただけでそのまま冒険者ギルドに売っちゃったから僕が解体に参加するのはこれが初めてなんだよね。
だから僕は、お母さんに教えてもらいながら一緒に一角ウサギを解体する事になったんだ。
「ほら、まずはこうしてね」
手際よく一角ウサギを解体していくお母さん。それを見ながら、僕も隣で一緒に一角ウサギを解体していく。
お母さんが言うには動物系の魔物なら基本は同じだから、こういう小さいので慣れておくと大きい魔物の解体でもちゃんとできるようになるんだって。
だから僕がちょっとでも間違えると、その度にお母さんから注意されちゃうから魔物にしては小さな一角ウサギなのに解体するのにかなりの時間が掛かってるんだよね。
で、そんな僕を見ながらお母さんは、ちょっと残念そうな顔をしてこう言ったんだ。
「折角ゆっくりと教えてあげられるいい機会なんだから本当は鳥の解体も一緒に覚えるといいんだけど、今回はビッグピジョンを1匹しか狩ってこなかったのが少し残念よね」
そう言えばいろんな魔物を狩ったけど、お兄ちゃんたちと一緒に剣で狩れる魔物ばっかり選んでたから、今回狩ってきた鳥の魔物はジャイアントラビットを馬車置き場に運んでる途中に狩ったビッグピジョン一匹だけなんだ。
でも無いものは、しょうがないよね。
「うん。今度は魔法で鳥の魔物もいっぱい狩ってくるから、その時に教えてね」
そう言って僕はその分だけ、動物の解体の仕方をお母さんからより丁寧に教えてもらったんだ。
こうして僕がなんとか一匹の一角ウサギを解体してる間に、慣れてるお父さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんたちはいっぱい解体しちゃったみたい。
僕が終わった時にはもう、手付かずで残ってたのはジャイアントラビットくらいだったんだ。
でも流石にこれは僕では手が出せないよね。だって大きすぎて、ひっくり返すのも大変なんだもん。
もし解体するのなら、力があるお父さんやお兄ちゃんに手伝ってもらわないと。
だから僕とお母さんは、みんなが今やってる解体が終わるのを待って、それからジャイアントラビットの解体に混ぜてもらう事にしたんだ。
と言う訳でちょっと休憩。
そしたら僕と一緒に解体してたお母さんが、その間にさっき解体した一角ウサギのお肉を使ってお昼ご飯の準備を始めるわよって言うんだ。
「解体してすぐにお料理するの?」
「ええ、そうよ。動物のお肉だと何日か置いて熟成させたりするんだけど、魔物の肉は大量の魔力を含んでるおかげで新鮮な状態でも柔らかくて味もいいからね」
お母さんが言うには、普通の動物よりも魔物のお肉の方がかなりおいしいらしいんだ。その上腐りにくいんだから、高く売れるのも解るよね。
そんな話をしながら一角ウサギのお肉をどんどんスライスして行くお母さん。
僕はよくあんなに綺麗に切れるなぁなんて感心しながら見てたんだけど、
「ルディーンもやってみる?」
なんてお母さんが言い出したんだ。
えっ! 僕もやっていいの?
そう思ったんだけど、ホントに大丈夫かなぁ? 僕、お母さんみたいに上手にできる自信ないし。
「やってみたいけど僕、お母さんみたいに薄く切れないかもしれないよ? それでもいい?」
「大丈夫よ。この薄いお肉はルディーンやキャリーナの分ですもの。お父さんやお兄ちゃんたちはどちらかと言うと、厚めに切ったお肉の方が好きだからね」
厚くてもいいんだ。
お母さんからそう言われた僕は、安心してお母さんに場所を代わってもらった。
「じゃあ切ってみるね」
一角ウサギのお肉を切るのは、さっきまで使ってた解体用のナイフ。
お家の中にはお肉用の包丁もあるんだけど、お外で解体をしてる時はこのナイフを使って料理をするんだよってお母さんが言ったから、僕も同じようにするんだ。
お母さんは厚くてもいいって言ったけど、僕だってやっぱりお母さんみたいに薄く切ってみたいから挑戦。で、結果はと言うと。
「あっ、途中で切れちゃった」
「ふふふっ、いくら器用なルディーンでも、初めてなのにそんなに薄くきろうとしても無理よ。最初はちゃんと厚めに切って、慣れてきたら挑戦しなさい。そうしないと怪我をしちゃうかもしれないからね」
「は~い!」
と言う訳で再挑戦。今度はお母さんが言う通りちょっと厚めの1センチくらいで切り始めたんだ。
「あれ? 厚さが違う」
ところがちゃんと切ったつもりなのに、見てみたら最初と最後、それに両端の厚さが違うんだよね。
う~ん、意外と難しいなぁ。流石に最初からうまくできるなんて思って無いけど、僕は一般職の料理6レベルを持ってるからもうちょっとうまく出来ると思ったのに。
でも何事も練習しないとできないよね。そう思ってもう一枚、今度は慎重にお肉を切って行く。
するとお母さんが、
「ルディーンはナイフの持ち方はいいんだけど、ちょっと慎重になりすぎかな。刃物はスーっと手早く入れないと綺麗に切れないわよ」
そう言って、教えてくれたんだ。
そっか。僕、慎重になりすぎてゆっくり切ってたから、変な力が入って曲がっちゃったんだね。
だから僕はお母さんに言われた通りお肉にナイフを当てると、スーって一気に切るようにしてみた。
そしたら、さっきはでこぼこだったお肉がちゃんと綺麗に切れたんだよね。
「わっ! お母さん、スーって切ったらホントに綺麗にできたよ!」
「そうでしょ? ルディーンは肩に力が入ってたから失敗してたけど、ナイフはちゃんと使えてるみたいだったから、私もやり方さえ間違えなければきちんとできると思ったのよ」
お母さんに褒められた僕は、それならって思って薄く切るのに再挑戦。でも、
「ダメだ。やっぱりお母さんみたいに切れないや」
「それはそうよ。ルディーンは今日初めて挑戦したのに同じように出来たらお母さん、困っちゃうわ」
ちゃんとスーってナイフを入れたんだけど、やっぱりお母さんみたいには出来なかった。
でも当たり前だよね。どんな事だって練習しないと出来るようになるはず無いもん。
僕だっていつかはお母さんみたいに、お肉を薄く切れるようになるんだ。
お昼ごはんはお庭に火をおこして、僕とお母さんが二人で切った一角ウサギのお肉を鉄板で焼いた物。僕が切った不恰好な肉も、お父さんは美味しそうに食べてくれたんだ。
そしてその後、ちょっとだけ休憩してから最後の大物であるジャイアントラビットの解体だ。
「おっ、ルディーン。うまいじゃないか」
「うん! ナイフはスーって入れると良く切れるんだよ」
さっきお母さんに教えてもらったばっかりだけど、それでもできるようになったのがうれしくてお父さんたちの前で披露。
比較的やわらかいジャイアントラビットのお腹の皮をスーとナイフを滑らせるように裂いていく。
でも僕がやらせてもらえたのはそこまでで、そこからはお父さんたちにバトンタッチだ。だって、僕じゃジャイアントラビットを動かせないからね。
だからその後はお姉ちゃんたちと、渡されたおっきな塊のお肉を切り分けて持ち運びしやすいようにしたりしながら解体のお手伝い。
いくら悪くなりにくい魔物のお肉でも脂身の多いお腹の所はお外に出しておくと脂の色が変わっちゃうからってお母さんが切って小分けに包んだ物を冷蔵庫へ入れて、僕らはその他のお肉とか毛皮、それに骨や魔石なんかを裏の物置に運んで今日の解体祭りは終わったんだ。
因みにいくら魔力が多くて腐りにくいって言ってもこんなにいっぱいのお肉を僕の家だけで食べられるはず無いから、明日村の人たちにおすそ分けするんだって。
グランリル近くの森の魔物の肉って実はイーノックカウで人気があるらしいんだけど、それより毛皮とか魔石のほうが高く売れるから、そういうのがたまって売りにいく時に狩った物のじゃないとわざわざ取って置かずに、こうやって村で食べちゃうんだよね。
でも今は僕が持てるくらいの大きさならジャンプで持っていけるから、今度ロルフさんたちに持って行ってあげようかな。
そして、その夜。
今日はいっぱい解体したし、お母さんに教えてもらってお肉を切るのがちょっとだけ上手になったからもしかして料理のレベルが上がってるかもって思った僕は、寝る前にステータス画面を調べてみたんだ。
でも残念ながら料理のレベルは6レベルのまま。
まぁ、そうだよね。だってお肉を切ったって言っても僕はお手伝いしただけだし、料理もお母さんと一緒にお肉を焼いただけだもん。
これで料理のレベルが上がるなら、毎日いっぱいパンケーキを焼いてたんだからもっと高レベルになって無いとおかしいからね。
だけど、そのステータス画面を見た僕はとっても驚いたんだ。だって、
「あっ、レベル2になってる!」
それはなんと、いつの間にか僕のサブジョブであるレンジャーのレベルが2に上がってたからなんだ。
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