119 普通の狩りと獲物の山
しばらくするとビックピジョンの血抜きが終わった。
だから今度こそ村に帰るんだろうなぁって思ってたんだけど、そんな僕にお兄ちゃんたちがある質問をしてきたんだ。
「なぁ、ルディーン。さっきビックピジョンを簡単に見つけてたけど、あれは飛んでいたり木の上にとまってる獲物しか見つけられないのか?」
「例えば一角ウサギのように地面を跳ねてるようなのなら大丈夫だとか、ロックサーペントやフォレストリザードみたいに地を這ってるよう生物は見つけられないとかの制限はあるのかい?」
急にそんな事を言い出したお兄ちゃんたちに僕はちょっとびっくりしたけど、ちゃんと教えてあげた。
「地面に潜ってたりしたら見つけられないかもしれないけど、そうじゃなきゃ見つけられると思うよ。前にお父さんたちと森に来たときは見つけられたもん」
「そうか。ならこのまま帰るのは惜しいな」
そしたらディック兄ちゃんがこんな事を言い出したんだよね。
お兄ちゃんたちが言うには、さっきみたいに僕が遠くから魔物を見つけられるのなら待ち伏せとかと違って時間がかかんないから、もうちょっと狩りを続けてもいいんだって。
ただ、遠くから魔法で倒しちゃうのはやめて欲しいみたい。
「ルディーンはその方が楽かもしれないけど、今日は森での狩りの仕方を覚えるために来てるんだから、そっと近づいて剣でしとめる練習をしよう」
「普通は見つけるまでが大変だけどルディーンがいればその手間も省けるみたいだし、獲物に気付かれないように動くのは結構コツがいるから覚えるチャンスがあるのなら覚えておいたほうがいいからね」
この魔物に見つからないように行動するっていうのは狩りの時に必要と言うより、森から安全に帰るのに必要な知識なんだって。
例えば予想外の所にブラウンボアがいたりしたとして、それに気付くのが遅れたら危ないよね。でもそんな時、魔物に見つからずに逃げる方法を知ってたら安全に逃げ出す事ができるんだ。
だけどこのすぐ近くの魔物に気付かれないように行動するっていうのは、練習しようと思ってもそうそうできるもんじゃないんだって。
だってその魔物を見つけること自体が難しいし、もし見つけたら普通は効率重視で狩りにかかるから、この魔物に気付かれずに近づくのは狩りの時に楯役をする人だけで、僕みたいに魔法で後ろから支援する人は中々この技術を覚える機会が無いんだってさ。
だからこそ気付かれて逃げられてもいいなんて好条件で魔物に近づく練習が出来るのなら、やっておいた方がいいって言うのがお兄ちゃんたちの意見なんだ。
「そうだね。お兄ちゃんたちと一緒なら安全だし、僕、その気付かれないで魔物に近づくってやつ、やってみるよ」
こうして僕たちはジャイアントラビットとビックピジョンを馬車置き場において魔道具を起動すると、もう一度森の中に入っていったんだ。
さて、森の中に入って探知魔法で辺りを探ると結構な反応が帰って来たんだよね。
草原と違って水や食料、それに隠れる場所が豊富な森の中は魔物がいっぱい住んでるんだ。だから、どの魔物を目標にしていいのか、僕には解んないんだよね。
と言う事でお兄ちゃんたちと相談。そしたらやっぱり最初は一番安全な一角ウサギにしようってことになった。
で、僕たちの近くにいる一角ウサギは何匹か見つかったんだけど、その居る場所をお兄ちゃんたちに話すと一番身を隠しながら近づけそうな一匹を選んでくれたんだ。
だから僕とお兄ちゃんたちは足音や草を掻き分ける音がなるべくしないように気をつけながら移動。そしてちょっと遠くにだけど、目標の一角ウサギが見えるところまで近づいたところで作戦会議。
「当たり前の話だけど、一角ウサギから見える場所を移動するわけには行かない。それに、風上もダメだ。一角ウサギはそれ程鼻が利くわけじゃないから本来なら気にしなくてもいいんだけど、これは練習だから鼻が利く魔物であると想定して動かないとな」
「うん! 僕、気をつけるよ」
お兄ちゃんの言葉に、つい元気よく答える僕。
「あっ、馬鹿」
すると当然一角ウサギに気付かれるわけで、
「ああ、逃げちゃった。ごめんなさい」
此方に気づいた一角ウサギは、すぐに逃げちゃったんだ。
「ルディーン。一角ウサギは鼻は効かないけど音には敏感だからちゃんと気をつけないといけないよ」
「うん、ごめんなさい」
失敗、失敗。初めて魔法以外で狩りをするから僕、ちょっと興奮してたみたい。
テオドル兄ちゃんにも優しく叱られた僕は、狩りの時は静かにしないといけないって自分にちゃんと言い聞かせたんだ
で、この後の練習なんだけど、思った以上にうまく行った。
お兄ちゃんたちは僕が魔法でしか森での狩りをやった事がないから、なるべく音を立てないように動けるようになるまで何度も失敗すると思ってたみたいなんだけど、サブジョブにレンジャーが付いてるんだから当然のように出来ちゃったんだよね。
それだったら3人での狩りもやってしまおうって事になって、ディック兄ちゃんが楯役で僕とテオドル兄ちゃんが剣を持ってのアタッカーになって一角ウサギを狩ってみたんだ。
そしたら思ったより簡単に狩れてびっくり。とは言っても、びっくりしてるのは僕だけなんだけどね。
お兄ちゃんたちからしたら一人でも狩れるような弱い魔物なんだから3人がかりで手間取るはずも無いし、どっちかって言うと僕が怪我しないかが一番心配だったみたい。
でも一匹狩ってみた所、狩りの最中の僕の動きも思っていたよりずっと良かったらしくて、
「これなら安心して狩りを続けられるな」
なんてディック兄ちゃんが言い出すくらいだったんだ。
と言う訳で、僕たちは3人で狩りまくった。
まぁ森の奥に行く訳じゃないから弱い魔物ばっかりなんだけど、それでも狩るたびに戻っていた馬車置き場に魔物の小さな山ができる程度にはいっぱいの獲物を手に入れることが出来たんだよ。
「しかし、こうして見ると壮観だなぁ」
「そうだね。普通の狩りじゃあ一匹か、多くても二匹しか狩らないから獲物で小山が出来ているなんて光景、初めて見たよ」
お兄ちゃんたちも、いっぱいの獲物に大満足。そんなお兄ちゃんたちを見て、僕もすっごく嬉しかったんだ。
だって、僕の探知魔法をお兄ちゃんたちがこんなに喜んでくれたんだもん。
「さて、流石にもうかなり遅くなったし、そろそろ村に帰らないとな」
そんな楽しかった狩りにも終わりの時間は来る。
と言う訳でそろそろ帰ろうかって話になったんだけど、その時テオドル兄ちゃんがあることに気が付いたんだ。
「うん、そうだね。って、ちょっとディック兄ちゃん。この獲物の山、どうやって持って帰ろう?」
言われるまで誰も気が付かなかったんだけど、確かにこれは3人で持って帰れる量じゃないよね。
そりゃ、一匹一匹は小さいよ。大きいのは最初に狩ったジャイアントラビットくらいで、後は中型犬くらいの一角ウサギやそれに近い大きさの魔物ばっかりなんだから。
でも、目の前にあるのはそんな魔物たちで出来た小山だ。ちゃんと血抜きをして少しは軽くなってるとは言っても、こんなにいっぱいあったら持って帰れるはず無いんだよね。
「困ったぞ。流石に、これだけの数をこの場所に置いておくわけにはかないし」
「そうだよね。魔道具の魔道リキッドも無駄になっちゃうし、だからと言ってもスイッチを切ってここに置いて帰ったら、この馬車置き場が動物に荒らされてしまうかも知れない」
かと言ってこの数じゃ、ひもで括って引き摺りながら帰るのも3人じゃ無理そうだしなぁ。
「仕方ない。テオドル、ルディーンと二人で見張っててくれ。俺が村まで走ってお父さんに馬車を出してもらうから」
「う~ん、それしかないかぁ」
結局ここで悩んでいてもどうしようもないって事で、ディック兄ちゃんが村まで走って帰るって言い出したんだ。
「そっか、村に帰って馬車を持ってくればいいのか。お兄ちゃん、頭いい」
そう言えばお母さんがこの前一緒に狩りに来たとき、持って帰れないくらい大きな獲物を狩る時は馬車を使うって言ってたっけ。
僕、まだそんな大きな獲物を狩るなんて想像もして無かったから、まったく思いもしなかったよ。
「そう言うわけだ。ルディーンもテオドルと一緒にここでお留守番な。それじゃあ行ってくる」
「あっ、待って!」
感心してる僕の頭を撫でると、ディック兄ちゃんは村に向かって走り出そうとしたんだ。でも、わざわざ走って帰る必要は無いよね。
そう思った僕は、慌ててディック兄ちゃんを呼び止めた。
「なんだ? ルディーン。日が暮れると馬車での移動も危ないから、早くしないといけないんだけど」
「うん、解ってる。だから僕が行くよ」
そう言うと、ディック兄ちゃんは何を言ってるんだ? って顔をしたんだ。
あれ? 僕、ジャンプの魔法の事、ちゃんと言ったよね? そう思ってお兄ちゃんに話すと、
「えっと……ああ、前に家の物置に移動する魔法があるとか言ってたな。あの時は物置に行く魔法ってなんだ? って思いながら聴いてたけど、もしかしてここから物置までいけるのか?」
「物置に行く魔法じゃないよ! ううん、確かに物置にも行けるんだけどそうじゃなくて、ジャンプの魔法は一瞬で別のとこに移動できる魔法なんだ」
「一瞬で? えっと、それなら往復してこの魔物の山を持って帰れるんじゃ無いか?」
「だ~か~らぁ、決まった場所にしか飛べないの。だから物置をお母さんたちと一緒に片付けたんじゃないか」
ちゃんと教えてあげたはずなのに、ディック兄ちゃんはジャンプがどんな魔法か解ってなかったみたい。
そして、どうやらテオドル兄ちゃんも同じみたいで、隣でニコニコしてるけど絶対に僕に目を合わせようとしなかったんだ。
「とにかく僕ならすぐに村に帰れるから、お父さんに頼んで馬車を出してもらうよ」
「よく解らないけど、すぐに村に帰れるというのならルディーンに頼むのが一番だな。じゃあ俺とテオドルはここでこの獲物の山を見張ってるから、よろしく」
こうして僕はお兄ちゃんたちを残して、村へとジャンプで帰ったんだ。
ところが村に帰ってもお家にお父さんがいなかったもんだから、お母さんとお姉ちゃんたちを巻き込んで大捜索。
なんとか探し出して馬車を出してもらったけど、それでも結構な時間が掛かったからお兄ちゃんたちをかなり待たせることになっちゃったよね。
「初めてのパーティーで舞い上がってるルディーンはともかく、お前らが一緒にいて何やってるんだ」
「「ごめんなさい」」
それなのにお父さんは帰りの馬車の中でずっとお兄ちゃんたちを怒ってるんだもん。
「お兄ちゃんたちは、お父さんがいなくて時間が掛かったのにちゃんと見張りをしてくれてたんだよ。なのに怒るなんてひどいや!」
だから僕はお父さんにそう言ったんだ。お兄ちゃんたちは悪くないよって。
「いやそう言うがな、ルディーン。狩りをするのなら持ち帰れるかどうか考えるのも大事だろ?」
でも、お父さんはお兄ちゃんたちが悪いんだよって言うもんだから言ってやったんだ。
「でもお父さんだって、イーノックカウの近くの森に行った時、おっきなジャイアントラットを二匹とブレードスワローを六匹も狩ったから、持って帰るの大変そうだったじゃないか!」
「いやいや、確かに大変ではあったけど、お父さんはちゃんと持って帰ったぞ」
「それでも大変そうだったもん! 冒険者ギルドでルルモアさんにも怒られたでしょ! それにお兄ちゃんたちは、最初は1匹狩ったら帰るつもりだったんだから悪くないよ。だからそんなに怒っちゃダメ!」
あの時は狩りすぎて僕がフラフラになったってお父さんがルルモアさんに怒られてたのを覚えてるよって言ったら、お父さんも黙っちゃった。
そうだよね。大人のお父さんでも初めて僕の探知魔法を使って狩りをした時は狩りすぎちゃったんだから、お兄ちゃんたちが失敗したからって怒っちゃダメだよね。
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