116 お兄ちゃんたちとの初めての狩り
「ルディーンは遅いなぁ」
「遅いんじゃないよ! お兄ちゃんたちは僕より体が大きいから早いだけじゃないか!」
この前お父さんたちと森に行った時は馬車だったけど、今回は歩いて森に向かってる。
でも僕とお兄ちゃんたちとでは体の大きさが違うもんだから、どうしても置いていかれちゃうんだよね。
僕は賢者が10レベルだからジョブのレベルだけで言えばお兄ちゃんたちより上だしステータス画面で敏捷の数値を見ると当然お兄ちゃんたちより高いんだけど、だからと言って歩くのが速くなるわけじゃない。
だって足の長さが全然違うんだもん。身長がまだ110センチちょっとの僕が170センチくらいあるお兄ちゃんたちと一緒に歩いてるんだから、僕のほうが遅いのは当たり前だよね。
その他にもレベルが上がって筋力の数値も高くなってるのに、キャリーナ姉ちゃんに手を繋がれてブンブンって振り回されただけで転んじゃったりする事があるんだ。
こうして見ると、ステータスって体の力をそのまま表してるんじゃないのかもね。
「ディック兄ちゃん、ルディーンをあんまり急かすなよ。行くまでに疲れちゃって、森で動けなくなったら困るだろ」
「おお、悪い悪い。確かにそうだな。ルディーンは初めてお父さんたち以外と一緒に森に行くんだから、いつもより張り切って動き回るのが目に見えてるし、もうちょっとゆっくり行くか」
僕が置いてかれないようにってちょっと小走りになってるもんだから、それを見たテオドル兄ちゃんがディック兄ちゃんを叱ってくれた。
おかげでお兄ちゃんたちも歩くスピードがちょっと遅くなったから、僕は疲れて動けなくなるなんて事もなく無事に森の入り口に到着できたんだ。
「さて今から森に入るわけだけど、とりあえずは獲物の探し方からだよなぁ。テオドル。俺とお前、どっちの方法がルディーンにあってると思う?」
「そうだなぁ。痕跡を見つけて追跡するのは初めてじゃ難しいだろうから、兄ちゃんたちがいつもやってる待ち伏せがいいんじゃない?」
森に入る前にまずは作戦会議。
今日はお兄ちゃんたちに森での狩りを教えてもらう事になってるから、僕は口を出さずにお兄ちゃんたち二人だけで話し合ってるんだよね。
どうやらディック兄ちゃんが普段組んでるパーティーとテオドル兄ちゃんが普段組んでるパーティーとでは狩りの仕方が違うみたいなんだ。
で、ディック兄ちゃんたちは獲物の行動パターンを調べて待ち伏せする方法を取っていて、それに対してテオドル兄ちゃんは魔物が移動した痕跡を調べてそれを追跡して狩ってるみたい。
狩りにはその他にも幾つかの方法があるらしくって、落とし穴みたいな罠を仕掛けてそこに近くにいる魔物を追い込む人や、草原で餌になる動物を狩ってきて、それで魔物をおびき寄せるって人もいるんだって。
ただ、この二つはかなり実力があるパーティーしかやらないらしいんだ。だって、これだとどんな獲物が相手でも対応できないといけないからね。
だから確実に自分の実力にあった魔物を狩ろうと思ったら、ディック兄ちゃんやテオドル兄ちゃんみたいな方法を取る方がいいそうなんだ。だって、これなら魔物に出会う前に狩る相手を自分たちで決められるもん。
でも、待ち伏せかぁ。
探知魔法で探せば獲物なんてすぐに見つかるから、テオドル兄ちゃんがいつもやってるって言う痕跡を探して追跡するって言う方が僕のやり方に近いんだけどなぁ。
でも、初めて狩る魔物がどんな痕跡を残してるのかなんて僕には解んないからしかたないよね。
と言う訳で狩りの方法は待ち伏せに決定。僕はお兄ちゃんたちに連れられて、森の奥へと入っていく。
途中、
「ほら、ルディーン。これが一角ウサギが木の実を食べた跡だ。何も無い所で足跡とか通った痕跡を探すのは難しいけど、こう言う解りやすい物を見つけさえすればその近くの足跡や通った痕跡を探す事で、そこからどっちへ向かったか簡単に解るだろ?」
こんな風にテオドル兄ちゃんが痕跡の追い方を少しずつ教えてくれるもんだから、移動しているだけでも色々と勉強になるんだよね。
それにディック兄ちゃんも待ち伏せするにはその場所に風下から近づかないといけないからって、その日の風の読み方とかを周りの木の葉っぱや草を指差しながら教えてくれたんだ。
「ディック兄ちゃんもテオドル兄ちゃんも、いろんな事知ってて凄いね」
「そうでも無いさ。ルディーンだって今日みたいに一度に色々言われてもすぐには覚えられないだろうけど、何度か森に来れば自然に覚えて行くよ。そうしてる内に自分にあった狩りの方法が解るようになって行くだろうから、今は聞くだけ聞いときな」
そう言うディック兄ちゃんに、頷きながら笑うテオドル兄ちゃん。この二人に先導されて、僕はいつも魔物が通ってるって言う場所に到着したんだ。
「さて。ここからは根気との勝負だ。何せ何時魔物が来るか解らないからな。ずっと気を張ってろとは言わないけど、気を抜きすぎてもいけないんだぞ」
「そうそう。俺の場合、このじっと待つってのが性に合わないから今では殆どやらない狩りの方法だけど、それでもこれは狩りの基礎の一つだからって、森に入ったばかりのころはよくやらされたんだ」
お兄ちゃんたちは魔物に気付かれない隠れ方を教えてくれたり、弓の準備をしてどこに魔物が差し掛かったら射ったらいいのかとかを教えてくれる。
ただ僕は今日、弓を持ってきて無いんだよね。だって、お父さんに取り上げられちゃったもん。
「ルディーンの場合は魔法で狩りをするんだろ? 弓より確実な方法があるのなら、動くのに邪魔になる弓なんか持たない方がいいって言うお父さんの意見は正しいんじゃないかなぁ」
「ディック兄ちゃんの言うとおりだと思うよ。だって待ち伏せするにしても追跡するにしても、大きくて嵩張る弓は結構邪魔になるんだよね。それを持たずに狩りができるのなら、そんなうらやましい事は無いよ」
その事を話すと、お兄ちゃんたちはそう言うんだよね。
ただ弓と魔法、方法が違うだけで狩りの仕方自体には大きな違いが無いんだから、今日の経験はちゃんと役に立つんだよって教えてくれたんだ。
こうしてお兄ちゃんたち二人にいろんな事を教えてもらっていると、不意にディック兄ちゃんが片手を上げたんだ。そしたらテオドル兄ちゃんもちょっと真剣な顔になって、僕のほうに目を向けながら口元に人差し指を当てるしぐさをする。
えっと、これって静かにしろってことだよね? って事は魔物が近くに来たって事?
僕は何で気付いたのってディック兄ちゃんに聞きたかったんだけど、静かにしなさいって言われたからお口にチャックでお兄ちゃんたちが見てるほうに目を向けて身構える。
この時、僕はなるべく気配を消すようにって思いながら魔物が来るのを待ったんだけど、そしたらがさがさって音がして、草むらから1匹の魔物が現れたんだ。
僕は初めて見る魔物なんだけど、ディック兄ちゃんが慌てていない所を見ると待ち伏せしていたお目当ての魔物なんだと思う。
そこに居たのはかなりおっきなウサギの魔物。だけど角が無いところを見ると一角ウサギの上位種じゃないよね? って事は骨じゃなく、巨大化の影響を多く受けたウサギの魔物なのかなぁ?
生きてる一角ウサギをまだ見たことが無いからはっきりとは言えないけど、村で見たのよりかなり大きい気がするから多分そうなんだろう。
そんな大きなウサギの魔物を、僕とお兄ちゃんたちは音を立てないように静かに見つめる。
そしてそのウサギが予め決めてあった場所まで移動するのを確認するとディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃんは同時に矢を番え、一瞬で狙いをつけるとそのウサギに向けて放ったんだ。
「テオドル、ルディーン、行くぞ」
そしてすぐさま手に持っていた弓を近くに投げ捨て、ディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃんは腰のショートソードを抜きながら隠れていた草むらから飛び出す。
でも僕はと言うと、こうするんだって予め言われてたのに弓を射ったお兄ちゃんたちより一歩出遅れちゃったんだよね。でも、なんとかショートソードを鞘から抜き放ちながら二人の後を追っかけたんだ。
いきなりの攻撃に怯んでいる大きなウサギの後ろ足にディック兄ちゃんが斬りかかる。
これは多分逃げられなくするためだと思うんだ。だってテオドル兄ちゃんも、ほぼ同時に反対側の後ろ足に斬りかかったもん。
ウサギって前足の力があんまり強くないから、その力だけではあの大きな体を移動させる事はできないだろうし、それに強力な後ろ足さえ封じてしまえば蹴られて怪我をする心配もなくなるんだ。
と言う訳で、後は3人でなるべく毛皮に傷をつけないように気をつけながら頭とか首を狙って攻撃。
初めての剣を使っての狩りだったから僕はあんまり役に立たなかったけど、無事大きなウサギを倒す事が出来たんだ。
「やった! 大きなウサギ、やっつけられた!」
「おや? ルディーンはお父さんと一緒にもっと大きなジャイアントラットとかブラックボア、それにブラウンボアまで狩ったことがあるんだろ? なら、ジャイアントラビットなんて狩ってもうれしく無いんじゃないか?」
へぇ、この大きなウサギって、ジャイアントラビットって云うのか。そのまんまの名前なんだね。
確かにこのジャイアントラビットはジャイアントラットやブラックボアなんかよりも小さいよ。でも違うんだなぁ。
「そんな事無いよ! だって僕、魔物に近づいて狩りしたの初めてだもん」
遠くから一方的に攻撃しての狩りは安全だけど、戦って倒したって訳じゃないからあんまりやっつけたって感じがしないんだよね。でも、今回は自分の手で魔物をやっつけたって気がするもん!
それに今回は初めてパーティーで力を合わせて狩ったんだって思えたんだ。ブラウンボアの時は、何がなんだか解んないうちに気を失っちゃったし。
「こう言う狩りは危ないけど、遠くから魔法で狩った時と違って僕、みんなで倒したのがすっごく嬉しいんだよ!」
僕は初めての体験に、手に持ったショートソードを天に振り上げて思いっきり喜んだんだ。
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