114 森に行くのに持っていくものは?
次の日。
僕は毎朝やってるお手伝いの後に朝ごはんを食べてから、森に行く時に持っていく物の準備を始めたんだ。
と、そこにお父さんが来たんだよね。
「おや? ルディーン。ディックたちと森に行くのはお昼ご飯を食べた後なんだろ? それにしては早くから準備してるんだな」
そしたら僕がいろんな物を背負い袋に入れてるのを見たお父さんがこんな事を言ったんだよね。
「うん! 僕、お兄ちゃんたちと一緒に森に行くの初めてだから、忘れ物しないように早くから準備してるんだよ」
だから、僕はこう答えたんだよ。だって僕が森に行ったのってイーノックカウ近くの森に行ったのをあわせても3回しかないし、その全部がお父さんと一緒だったから自分で森に行く準備をするのは初めてなんだもん。
僕、忘れ物しないように早めに準備して、何度も確認しようって思ってるんだ。
「まぁ逸る気持ちは解らないでも無いけど行くのは近くの森なんだから、そんなに準備するような物は無いんじゃないのか? 別に遠征に行く訳でも無いんだし」
お父さんはそんな事を言いながら、僕の手元を覗き込んできた。
「ルディーン。そんな要らないものばかり森に持って行ったら、動きづらくてかえって困る事になるぞ」
すると僕が何を準備しているのかを一通り眺めた後、呆れた顔をしてこんな事を言ったんだ。
「そうかなぁ? 森に行くんだから、みんないると思うんだけど」
でも僕は納得がいかないんだよね。だって前から森に行く時は何を持っていこうかってずっと考えてて、それでこれは必要だよねって思った物しか用意して無いんだもん。
ところがお父さんは僕が机の上に並べた物を次々と取っては、脇に寄せてったんだ。
「お父さん、勝手にどけちゃダメ。僕、一所懸命考えて、持ってく物を出したんだから!」
「何言ってるんだ。何が必要で何が必要ないのか、教えてるだけだろ。例えばこれ」
そんなお父さんに文句を言うと、脇に寄せた物のひとつを手に取って僕に見せてきたんだ。
だから僕は要らないものなんて無いはずなのに、お父さんはいったい何の事を言ってるんだろう? って思いながら見てみると、そこにあったのはもし怪我をしちゃったときに要るからって準備したお薬だった。
あっ、お薬って言ってもマジックポーションじゃないよ。
僕が用意したのは血が止まる薬草をつぶして張り薬にした物で、マジックポーションみたいにすぐに怪我が治るなんて事は無いけど安く作れるって事で村ではみんなが使ってるお薬なんだ。
「なんで? お薬が無いと、怪我した時に困っちゃうじゃないか」
僕がそう言うと、お父さんは一体何を言ってるんだ? って顔をしたんだよね。
「ルディーン。他の誰かならともかく、お前には必要ないだろ。治癒魔法が使えるんだから」
ああ、なるほど。お父さんは僕が魔法でお怪我を治せるから要らないって思ったんだね。でも違うんだなぁ。
「ダメだよ。もしいっぱい狩りをして、MPが無くなった時に怪我しちゃったら困っちゃうでしょ? だから持ってかないといけないんだよ」
僕はお父さんに、解って無いなぁって顔をしながらそう教えてあげたんだ。
ところが、
「ルディーンがそのえむぴいとか言うのが切れるほどいっぱい狩るとして、その獲物をどうやって持って帰ってくるつもりだ?」
お父さんは相変わらず呆れた顔のままで、そう言ったんだよね。
「ルディーンは結構な回数、マジックミサイルとか言う魔法を使えるんだろ? あの魔法はブラックボア以上の強さがなければ耐えられないみたいだから、今回ディックたちと3人で行く程度の森の浅い場所ではどんな魔物も一発で狩れるよな? なら、そのえむぴいとやらが尽きるほど魔物を狩るとなると、どれくらいの数になると思う? それは村まで持って帰れる量なのか?」
「……無理だと思う」
前にお父さんと一緒に狩りに行った時よりかなりレベルが上がってるから、MPも大幅に増えてマジックミサイルなら物凄い数撃てるんだよね。
その上攻撃魔力もレベルに比例して高くなってるから、今の僕なら多分ブラックボアでも頭に当てることが出来たら一発で倒せちゃうと思うんだ。
と言う事は、確かにMPが切れてキュアが使えないなんて事になる事は絶対って言っていいほど無いと思う。
「ほら。傷薬は要らないだろ?」
そんな訳で、にこやかにそう言うお父さんに僕は何も言い返せなかったんだ。
「納得したな? じゃあ次々といくぞ」
それをいい事に、お父さんはどんどん僕が用意した物を脇に寄せていったんだよね。
で、最終的に残ったのはと言うと、腰のポーチに入るような小さな水筒と折りたためる布の袋。それに僕のショートソードだけだった。
「お父さん、いくらなんでもこれだけじゃダメだよ」
「何故だ? これだけあれば十分だろ」
流石にこれだけじゃ不安だよね。だから僕は少なすぎるって文句を言ったんだけど、お父さんは平然とした顔でそう言うんだ。
でもさ、狩った獲物を縛るロープや予備の武器として準備してあった弓まで持ってかなくていいって言うんだよ。いくらなんでも、その二つは持って行かないといけないよね。
ところが、
「ルディーン。お前、弓で狩りをした事無いだろ? 草原でもやった事が無い弓での狩りを、見通しも足場も悪い森でどうやってやるつもりだ?」
こんな事を言われちゃったもんだから、弓に関してはぐうの音も出ない。
「でもでも、ロープはいるでしょ? 無いと狩った獲物を持って帰れないもん」
だけどこれは絶対必要だよね? って、僕はロープを持って主張したんだ。
でもお父さんから帰って来たのは、いらないの一言だった。
「ルディーン。別に1人で出かけるわけじゃないんだから、全部自分で荷物を持つ必要は無いんだ。特にお前はまだ小さいだろ? ならなるべく荷物は少なくするべきだ」
「なんで? 僕だって袋を背負ってたらいっぱい持てるのに」
「そこが間違いなんだ。ルディーン。そんな考えだと、ディックたちの足を引っ張ることになるぞ」
お父さんが言うには、森ではいつでもすばやく動けるようにしないといけないんだって。そうしないと、何かが起こった時に他のパーティーメンバーに迷惑がかかるかららしいんだ。
「確かにお前は魔法のおかげで獲物を狩る事に関してはディックやテオドルよりもうまくなってるかもしれない。だがな、森での行動と言う事に関してはあの二人より圧倒的に経験が不足しているんだ。その事は解るな?」
「うん」
僕が森に入ったのはまだ3回だけだし、村の近くの森に関してはお父さんたちに連れて行ってもらった一度だけだもん。お兄ちゃんたちの方が僕より森を歩くのがうまいに決まってるよね。
「それが解っているなら、あまり余計な物は持たずに行ったほうがいいと言うのが解らないか? 例えばさっきお前が言った背負い袋だが、魔物と遭遇した時に木の枝や背の高い草に引っかかったらどうする? いや、それ以前に森に入るときはなるべく痕跡を残さないように移動をしなければいけないと前に教えただろう。不慣れな上に袋まで背負って、そんな行動が取れると思うか?」
腰のポーチと違って背中に背負った袋は大きさが良く解んないから、慣れて無いと枝に引っ掛けたりするかもしれない。
そしたら不用意に枝を折ったりするかもしれないし、もしブレードスワローみたいな音に敏感の魔物がいたらその音で気付かれちゃうかもしれないもん。
言われて見れば、持っていくべきじゃないって僕にも解る。
「なぁ、ルディーン。パーティーで行動する時は、自分がメンバーからなにを期待されているのかを理解しないといけないんだ。今回はディックたちに森に連れて行ってもらうんだろ? それならルディーンの役割は、二人の足を引っ張らずに森での経験を積む事だってのは解るな。なら荷物はディックたちに任せて、お前は森で二人がパーティーメンバーとしてどのように動くのかをしっかり見て学んでくるんだ」
「うん、解ったよ。僕、お兄ちゃんたちをちゃんと見て、勉強してくるね」
狩りのベテランであるお父さんたちに連れて行って貰っただけのこの前と違って、今回は初めてパーティーを組んで森に行くんだもん。
お兄ちゃんたちを見て、パーティーの一員としての森での動きを覚えないとだめだよね。
そう思って、ふんすと気合を入れる僕。
「よし。それが解ったルディーンにはお父さんから一つ、いい物をやろう」
「いいもの?」
そんな僕を見たお父さんはニコニコと笑いながら、近くの箱から何かを取り出して僕の前に置いたんだ。
「袖なしのチュニック?」
手に取ってみてみると、それは何かの皮でできた袖の無いチュニックだっった。
かなり薄いなめし皮で出来たそれは革製品なのに麻の布で作ったみたいに軽くて、持ってみた僕はちょっとびっくり。
おまけにとってもやわらかいもんだから、着心地もきっといいと思うんだよね。
でも何で森に行こうって言うこのタイミングで皮鎧じゃなくチュニックなの? そう思った僕は、首をこてんと倒してお父さんを見たんだ。
「はははっ、そう不思議そうな顔をするな。これはなぁ、薄くて頼りなげに見えるかもしれないが、かなりいい防具なんだぞ」
「えっ! これって服じゃなくって、僕用の防具なの?」
お父さんが言うには、なんとこれ、ただの服じゃなくて皮鎧のような物らしいんだ。
「前にブラウンボアを狩っただろ。これはあれの腹の皮をなめして作った防具だ。ブラウンボアの腹の皮はとても薄くて軽いが、その割にはとても丈夫な素材なんだぞ」
ブラウンボアのお腹って、普通の魔物の皮よりは丈夫だけど他の所よりも皮が薄いから一応弱点なんだって。
だから狩る時はそこに剣を突き立てたり矢で射ったりする事も多いし、弱ってくると体の重さに耐え切れなくなってお腹を引きずりながら走り回るもんだから、普通はぼろぼろになっちゃって中々取れない素材らしいんだ。
でも前回は僕の魔法と大きな木への自爆で死んじゃったおかげで、普段では考えられないくらい綺麗な皮が取れたんだってさ。
「あれはルディーンが1人で倒したようなもんだし、何よりお前が初めて狩った大物だからな。記念にその素材で防具を作ろうって話になったんだ。因みにルディーンが大きくなった時に鎧が作れるようにって、背中の皮もなめして取ってあるんだぞ」
「ほんと? やったぁ!」
なんとこのチュニックだけじゃなく、大きくなったらあのブラウンボアの皮で鎧を作ってくれるらしい。
ブラウンボアの背中の皮って物凄く丈夫だから、きっと凄い皮鎧になるんだろうなぁ。
「ただヒルダ以外でブラウンボアを狩ったのは兄弟の中では今の所お前だけだから、みんなには内緒にしろよ。これは自分たちで狩った時に、初めてその素材で作ってもらえるって聞かせる話なんだから」
「うん! でもそっか、僕だけなんだ」
僕がブラウンボアを狩れたのは偶然だし、お父さんたちが一緒に居てくれたからなのは解ってるよ。
でも英雄になってもおかしく無いくらい凄いヒルダ姉ちゃんとおんなじだって言われたみたいで、僕はとっても嬉しかったんだ。
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