112 教えなきゃ良かった
「もう! いい加減にしなさい」
「やっ!」
あの後もしばらくの間パンケーキを食べ続けたスティナちゃん。でも流石にこれ以上は食べすぎだからってヒルダ姉ちゃんが取り上げたんだよね。
そしたらスティナちゃんが癇癪を起しちゃったんだ。
初めて食べるお菓子だからもっと食べたいってスティナちゃんが思うのも解るけど、確かにちょっと食べ過ぎなんだよなぁ。
実際、今はもうパンケーキはあんまり食べてなくて、生クリームだけお代わりしてるって感じだし。
でも生クリームって食べ過ぎると後で気持ち悪くなるから、そろそろ食べるのをやめた方がいいって僕も思うんだよね。
「スティナちゃん。あんまりいっぱい食べるとお腹痛くなるよ? そしたら明日からもう食べられなくなっちゃうんじゃないかな」
「たべれなくなうの?」
「うん。お腹痛くなったら、生クリームだけじゃなくって、雲のお菓子も食べられなくなっちゃう。そんなのいやでしょ?」
「うん、やっ!」
「なら続きは明日にしようね」
「あい……」
流石にお菓子が食べられなくなるって言うのはいやだったみたいで、スティナちゃんは僕の言う事を聞いてくれたんだ。
「ありがとう、ルディーン。この子、いつもは聞き分けがいいんだけど、お菓子の事になるといつもこうなのよ。一体誰に似たのかしら?」
う~ん。お菓子に関してはお母さんやお姉ちゃんたちもみんな同じような感じだし、誰かに似たってわけじゃないと思うんだけどなぁ。
そう思いながら、僕は残った生クリームが入ったボウルを魔道冷蔵庫の中に片付けた。
何時までも目の前にあったらスティナちゃんだってまた食べたくなっちゃうだろうし、なによりこの頃はちょっとずつ暖かくなってきたから、このまま出しておいて悪くなるといけないもんね。
ところがそんな僕の姿を見たヒルダ姉ちゃんが不思議そうな顔をしたんだ。
「ルディーン。食べた感じからすると、それって牛乳に砂糖を混ぜたような物よね? そんなのを戸棚にしまってしまって大丈夫なの? 食べきってしまった方がいいと思うんだけど」
「大丈夫だよ。この中に入れとけば悪くならないもん。それに、きっと後でお姉ちゃんたちが見つけて食べちゃうだろうから、今日中には無くなっちゃうしね」
お姉ちゃんたちはお家に帰ってくると、いっつも魔道冷蔵庫をあけて中に入れてある冷たい果実水を飲んでるもん。きっとこれもすぐに見つけて、大騒ぎしながら食べちゃうと思うんだ。
因みに果実水って言うのは、いろんな果物の絞り汁に牛乳や水とお砂糖を入れて作る、ジュースみたいな物ね。
前は作ったらすぐに飲まないといけなかったけど、今は魔道冷蔵庫のおかげで何日か持つようになったから、一度にいっぱい作ってるんだ。これ、スティナちゃんも大好きなんだよね。
「でもね、ルディーン。ただでさえ暖かくなってきてるのだし、風通しの悪い戸棚なんかに入れたらあっと言う間に悪くなってしまうわよ。せめて外に置いておいた方がいいんじゃないかしら?」
あれ? なんか話がかみ合ってないような。
僕がそう思って頭をこてんって倒すと、そんな僕たちの様子を見てたお母さんが笑いながらこう言ったんだ。
「大丈夫よ、ヒルダ。それはただの戸棚じゃないから」
「ただの戸棚じゃない? って事は、これってもしかして、ルディーンが作った魔道具なの?」
あれ、話してなかったっけ?
「そうだよ。僕、氷の魔石が作れるようになったから、お母さんに簡単な魔道冷蔵庫を作ってあげたんだ」
「魔道……冷蔵庫?」
何か凄くびっくりしてるみたいだけど、付いてる馬車がうちの村にはあるんだから魔道冷蔵庫を知らないって事、無いよね?
それにヒルダ姉ちゃんはスティナちゃんと一緒にうちに来ては、ほぼ毎日冷たい果実水を一緒に飲んでたからてっきり知ってるもんだって思ってたんだ。
だって、そうじゃなきゃ何時来ても冷たいのが飲めるなんて、普通はおかしいって考えるはずだもん。
だから何で今まで気付かなかったの? って聞いてみたら、
「いつもちゃんと冷やしてるなぁとは思ってたけど、井戸水で冷やしてる物だとばかり思ってたのよ」
だってさ。
まぁ確かに井戸水で冷やせば冷たくなるけど、果物ならともかくガラスビンなんて高くて簡単には買えないんだから果実水を冷やすのは大変じゃないかなぁ? 他の人たちはどうやって冷やしてるんだろう。
「いや、それ以前に冷蔵庫! そう、冷蔵庫よ。そんなの個人で持てるの? 物凄く高いって聞いてるわよ」
「えっ、そうなの?」
果実水をどうやったら井戸水で冷やせるんだろうって考えてた僕は、ヒルダ姉ちゃんにそう詰め寄られてびっくり。
「それはそうよ。そもそも、その魔道具を作るのに必要な氷の魔石がとっても高いって話じゃないの」
そう言えば冷蔵庫つきの馬車も、魔石を帝都から取り寄せて作ってもらったから物凄く高かったって言ってたっけ。
でもこの魔道冷蔵庫の氷の魔石は僕がお父さんからもらった無属性の魔石から作ったからお金は掛かってないし、なにより使ってる魔石も米粒とまでは言わないけどかなり小さいんだよね。
だから、ヒルダ姉ちゃんがそんなに驚くほど、お金はかかってないんだ。
「それに魔道具そのものも、下手に作ると中の物が凍って使い物にならなくなってしまうから、専門の人じゃないと作れないって話よ。そんな物、どうやって作ったのよ」
「もう! さっき簡単なのを作ったって言ったでしょ」
僕、お母さんに簡単な魔道冷蔵庫を作ってあげたって言ったのに、なんでちゃんと聞いて無いかなぁ。
「簡単な? 同じ魔道具でも簡単なのと難しいのがあるの?」
「うん。全部じゃないけど、簡単な作り方でも出来るものもあるんだよ」
そう言えば魔道具の作り方なんて、ヒルダ姉ちゃんは知らないんだっけ。
どうもヒルダ姉ちゃんは良く解ってないみたいだから、僕は教えてあげることにしたんだ。
「えっとねぇ、魔道回路図をちゃんと書けば入れたものが凍らない様に作るのは僕にでも出来るよ。けど、冷蔵庫の中全部を冷やそうと思うととっても大きな魔石がいるから、今回はもっと簡単なのを作ったんだ」
そう言いながら僕は冷蔵庫のドアを開けて中を見せてあげた。
「ほら、中はこうなってるんだ」
この冷蔵庫の構造は簡単だ。
外は全部木でできてるけど、中には全体に0.5ミリくらいの薄い鉄板が貼り付けてある。何でかって言うと、こうすると一度冷蔵庫の中が冷えちゃったら中の鉄板も一緒に冷えて扉を開けても中があったかくなりにくいからなんだ。
で、冷蔵庫の一番上には氷の魔石でとっても冷たくなる金属製の器があって、そこに水を入れておけばそれが凍って、その氷と器の冷たさで冷蔵庫全体が冷えるようになってるんだよね。
もっと大きな冷蔵庫を作ろうと思ったらこの方法じゃ無理だけど、ちょっとした物を入れるだけならこれでいいと思うんだ。
「最初に作った時は氷が出来たらスイッチが切れるようにしたんだけど、そしたらお母さんがずっと扉を開けっ放しにしちゃうんだもん。それで氷が溶けちゃったから、今は中の温度が上がったらまたスイッチが入るようになってるんだよ。凄いでしょ」
「凄いって言うか……よくこんなのを思いついたわね」
ヒルダ姉ちゃんは驚いたって言うより呆れたって顔でそう言うと、
「まぁ、いいわ。それじゃあルディーン、うちの冷蔵庫もお願いね」
そんな事を言い出したんだ。
「え~、なんで?」
「だって簡単に作れるんでしょ? これから暑くなるんだし、うちにだって欲しいもの」
確かに材料さえあれば外側はクリエイト魔法で簡単に作れるし、氷の魔石だって作るのはそれ程難しくないよ。
でも温度でスイッチが自動的に入ったり切れたりするようにしようと思ったら、魔道回路図をちゃんと書かないといけないから結構大変なんだよね。
それに小さめとは言え、冷蔵庫くらい大きな魔道具を作ろうと思うと結構魔力も使うし。
だから僕は断ろうとしたんだけど、そんな僕にヒルダ姉ちゃんはにやりと笑って、
「それにスティナだって、いつも冷たい物が飲めたら嬉しいわよね」
「つべたいの? うん、うれしい!」
なんとスティナちゃんを仲間に引き入れたんだ。
「ほら、スティナもこう言ってるでしょ」
「ヒルダ姉ちゃん、ズルイ!」
自分が作って欲しいからって、スティナちゃんを味方につけるのはどうかと思うんだ。
でも、そう思っても、
「ルディーンにいちゃ。だめ?」
スティナちゃんにこう言われちゃったら断ることが出来るはずもなく。
「もう、作ればいいんでしょ! でも、材料とか魔石とかは用意してよ。僕、もう一個冷蔵庫を作る材料なんて持って無いんだから」
「ええ、いいわよ。それくらい。やった! 冷蔵庫ゲット」
「やった!」
勝ち誇ったようにそう言うヒルダ姉ちゃんと両手をあげて喜ぶスティナちゃんを横目に、僕はがっくりと肩を落としたんだ。
この後、泡だて器も見つけられちゃって、一緒に作らされた。
もう! 魔道具作るのって、そんなに楽じゃないんだよ。お姉ちゃん、何にも解って無いんだから!
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