109 魔法の本にはびっくりがいっぱい
「こんにちは!」
「おお、ルディーンじゃないか。本を読みに来たのか?」
物置小屋を掃除した次の日、相変わらず森に行けなくてやる事がなかった僕は村の図書館に来ていた。
「うん! 今日はね、魔法のご本を読みに来たんだよ」
と言うのも、錬金術ギルドで探知魔法の話をしている時にロルフさんが言っていた事が気になったからなんだ。
「あれ? ルディーンはもう魔法が使えるんじゃなかったか? 前にそう聞いて覚えがあるんだけど」
「うん、使えるよ。でもね、知らない呪文がいっぱいあるみたいだから、それの勉強に来たんだ」
ロルフさんはあの時、家庭教師に習ったのなら、初歩の魔法であるサーチの事を知らないのはおかしいって言ってたんだよね。
って事はだよ、家庭教師に習って魔法を使えるようになったのなら知ってないとおかしい魔法が他にも幾つかあるんじゃないかなぁって思ったんだ。
「ほう、それは勉強熱心な事だな。まぁ、魔法の本なんてこの村じゃルディーンくらいしか読まないんだから、ゆっくり読んで行け」
「うん!」
司書のおじさん、アーレフ・リュアンさんに挨拶した後、僕は魔法の事が書いてある本がある本棚へ行った。
ここでは魔法系統の本が置いてある場所はこの図書館でも一番端っこの見つかりにくい場所なんだけど、この村でこういう本を読むのは僕くらいしか居ないから前にキャリーナ姉ちゃんの魔力の動かし方を調べた時から誰も動かしてなくってすぐに見つける事が出来た。
だから僕は、それを持っていつも本を読む時に使っている机まで行って本を置くと、椅子によじ登ってから早速ページを開いたんだ。
「そう言えばこの本、ちゃんと読んだ事なかったなぁ」
僕の場合、前世の記憶があるおかげで初めからライトとかの魔法が使えたから、最初の方に書いてあった呪文の欄をチラッと見ただけでこれはダメだって思ってそこで読むのを辞めちゃったんだよね。
だってこの本、呪文が覚えられる順番に並んでなかったんだもん。
この世界の魔法は呪文の発音さえ正しければ、一般職である見習い魔法使いを習得していない人でも効果を発揮するんだ。
僕が魔法の練習を始めたころに、ほんのちょっと光るだけだけどライトの魔法が使えたみたいにね。
そう、これを見れば解る通りこの世界では習得レベルに達してなくても魔法は不完全ながらも一応発動だけはする。
そりゃ高レベルの魔法は無理だよ。だけどその魔法に必要なだけのMPがあった上に魔力の循環も使えて、なおかつその呪文をちゃんと正しく発音できるなら2レベルくらいの魔法までなら誰にでも発動だけはする事ができるんだ。
だからドラゴン&マジック・オンラインの時みたいにこのレベルにならないと本来の効果が出ないから唱えても意味が無いなんて事、実際に魔法を使っている人にも解んないんだよね。
おまけにそのゲーム時代に使えるようになっていたレベルになってもそれはあくまで本来の威力が出るようになったと言うだけで、それ以降もレベルが上がれば当然威力や効果も増して行く。
そんな状況だからドラゴン&マジック・オンラインでの習得レベルを知らなくて僕のようにステータスで確認できる訳でもないこの世界の人たちでは、そのレベルになった時の威力がその魔法が持つ本当の力を発揮した状態だなんて誰にも解るはずが無いんだよね。
「改めて見直してみると、ここってMPが少ない初心者でも一応使う事ができるものが書いてあるページだったんだね」
多分そのせいなんだろうけど僕が前にこの本で見たページに書かれてた呪文は、どうやら取り合えずきちんと発動したらひと目で解るものが並べてあっただけみたいなんだ。
「でもこれってやっぱり、呪文の発音が難しいからなのかなぁ」
家庭教師に習うのとは違って、本で覚えるのならとりあえず唱えてみないと発音があってるかどうか解んないよね。
だからいっぱい書いて、その中から発動した物を練習しなさいって事なんだって僕は思ったんだ。
その証拠に前に見たページに書いてあった呪文には、簡単な効果が書いてあるだけで詳しい説明が書いてないもん。
だから呪文を読んだだけで何に使う魔法か解った僕はそれに気付かないで、これなら読まなくてもいいやって思っちゃったんだ。
「僕、最初だけしか見なかったから解んなかったけど、もうちょっと先まで読むと詳しい説明とかも載ってるページもあったんだね」
こうして改めて読んでみると、ちゃんと用途ごとに分類された魔法が並べて書いてあるページがあったり、覚えておくと便利な魔法の名前が並べて書いてあるページとかもあって、そこに書かれている呪文のページ数を開いて見るとその詳しい説明が載ってるんだよね。
「へぇ~、こんな魔法もあるんだ」
で、ちょっと気になったから覚えておくと便利な魔法のページを開いて書かれてた呪文を眺めてみる。
すると中には僕のステータス画面にある設定魔法に書かれているものもあったけど、その殆どがドラゴン&マジック・オンライン時代には無かったもので、それも現実世界になった今だと本当に便利だと思えるものばかりが並んでたから僕はそれを読んでちょっとびっくりしちゃったんだ。
ドラゴン&マジック・オンラインの設定魔法にも着火の魔法や飲み水を作る魔法はあったけど、この世界の冒険では使わないような魔法の種類はもっと幅広くて、色々な事ができるものがそろってるみたいなんだ。
で、その中には前に冒険者ギルドでルルモアさんが僕に話してくれた物の重さを軽くする魔法や土を固めて四角い石を作ったりする呪文とかも書いてあったし、土系統にはその他にも穴を掘ったり埋めたりする魔法とかもあったんだよね。
なるほど。こんなのがあるなら魔法使いがいっぱい居ればイーノックカウの周りを囲んでる壁を作るのも簡単に出来ちゃうだろうなぁ。
それに中には野営する時に木から払ったばかりの小枝を乾かして薪にする呪文とか体の汚れを落とす呪文なんて言うゲームでは絶対出てこない魔法まであって、読んでるだけで僕は物凄く楽しかったんだ。
「でもこの本って魔法を始める時に読む本なのに、思ったよりいっぱい呪文が載ってるんだなぁ」
気になった便利魔法が書かれてるページを一通り読んだ後、僕は改めて呪文が詳しく書いてあるページを最初まで戻ってペラペラとめくりながら眺めたんだ。けどある程度読み進めても、まだまだ本には結構なページが残ってたんだよね。
だからこんなにいっぱいあるなら流石にここで読んだだけじゃ覚えきれないから、一度借りてお外で練習しなくちゃいけないなぁなんて思ってたんだ。
だけど、何故か途中で呪文が書かれた所が終わっちゃったんだよね。
でもなんで? 魔法の使い方は呪文が書いてあるページより前に書いてあるし、目次みたいなのもやっぱり呪文のページより前にあったから、これ以上何があるんだろう?
そう思いながら次のページを開いて最初に書かれていた文字を読んだ瞬間、僕は何でもっと前にこの本をちゃんと最後まで読まなかったんだろうって後悔する事になったんだ。
「魔法が使える魔道具について?」
だってそこには魔石を使って動かす生活に便利な魔道具ではなく、魔法を付与して作る魔道具の話が書いてあったのだから。
読んで頂いてありがとうございます。
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