10 世界の秘密を知る、その2
光り輝く指先を呆気に取られながら見つめる事数十秒、僕はやっとの事で再起動した。
そして改めてその光る指先を見たんだけど。
「これって、らいとほんらいのひかりだよね? ってことはぼく、もしかしてねているあいだに、みならいまほうつかいをおぼえること、できた?」
現実となったこの世界ではどのタイミングで一般職を取得できるのかは解らないけど、もしかすると経験も記憶と同じで眠っている時に定着するのかもしれない。
それなら寝て起きたら一般職がついていてもおかしくないよね。
「やった! まいにちれんしゅうしてて、よかった」
光の強さから確信を持った僕は、見習い魔法使いを取得しているのを確認する為にステータスを開いたんだ。
ルディーン
ジョブ :賢者《1/30》
サブジョブ:
一般職 :魔道具職人《12/50》
HP : 75
MP :120
筋力 : 45
知力 : 95
敏捷 : 40
信仰 : 85
体力 : 40
精神力 :110
物理攻撃力: 25
攻撃魔力 : 70
治癒魔力 : 65+50
……なんだこれ!?
開いてみた僕は、とても驚いた。
だってステータスが軒並み大幅アップしている上に、一般職どころかジョブまで取得しているんだもん。
どどど、どういう事? 何故一般職を通り越して、いきなりジョブがついてるの? それも初期ジョブじゃなくて上位ジョブの賢者? 僕、見習いの神官や魔法使いさえ習得してないのに。
僕が自分のステータスを見て驚いているのには訳があるんだ。
それはドラゴン&マジック・オンラインでは本来、賢者のような上位ジョブは対応している二種類の初期ジョブを30レベルまで上げて初めて取得できるジョブだからなんだ。
因みに賢者は神官と魔法使いを30レベルまで上げると解放されるジョブで、その二つのジョブよりも最大MPや攻撃と治癒の両魔力が高い代わりに一部の魔法が二つのジョブより高レベルにならないと習得できないと言う欠点を持つジョブだ。
ただ上位ジョブだけあって初期ジョブより強いから、習得できた場合はみんな上位ジョブばかり使うようになるんだけどね。
しばらくして少し落ち着いた僕は、何故こんな事になっているのかを考えた。
まず考えられるのは、転生ボーナスによるチートの可能性。
多分これはないと思う。
もしこれが物語によくあるような転生チートなら、こんなタイミングではなく前世の記憶を思い出した時に賢者になれていただろうし、何より賢者と言うのは初期ジョブよりも上位ではあるけど、あくまで誰でも条件がそろえば得られるジョブだから極端に強いって訳でもないんだ。
実際今の僕のステータスではヒルダ姉ちゃんどころか、お父さんやお母さん、後二人のお兄ちゃんにも全然かなわないし、かろうじてお姉ちゃんたちには勝てるだろうけど、それは4歳からずっと努力をしてきたからであって賢者のジョブにつけたからじゃないんだよね。
では何故急にこんな事になったのか。
これは多分この世界と言うより、ドラゴン&マジック・オンラインに関係があるんじゃないかなぁ? そう考えた僕は、ゲームの設定とかを色々思い出しているうちにある事に思い至ったんだ。
そう言えば、キャラクターメーキングで設定できる最低年齢って8歳じゃなかったっけ?
ドラゴン&マジック・オンラインではキャラクターメーキングの時に色々なアバターが用意されていて、そのそれぞれが設定年齢にあわせて子供や大人の体型になるようになっていたんだ。
確かその子供設定の年齢の下限が8歳だったと思う。
この設定がこの世界でも適応されていると考えると、僕は8歳になった事によって条件がそろっていたジョブにつけたという事なのだろう。
そう言えばこの村でも7歳以下で一般職を取得してる子って一人もいなかった気がするなぁ。
それに人によって成長速度は違うはずなのに8歳にならないとショートソードの練習を始められないというこの村の規則も、その年齢になるまでは技術を覚えられないと言う事を経験で知っていた先祖たちが作ったと考えれば辻褄が合うんだよね。
ただ、僕が何故いきなり賢者になれたのかと言うのは解らないままだけど。
まぁこれはゲームの設定通りの魔大陸からこの世界が隔離されたことによって、そこに住む人の性質が400年の間に変わってしまったということかもしれないから深く考えるだけ無駄かもしれないね。
と言う訳でいくら考えても答えが出ないであろう原因究明はすっぱりとあきらめようと、気持ちを切り替えて改めてステータス画面を見直してみる。すると今までと表示が少し変わっている事にも気が付いたんだ。
なんか色々増えてるんだよね、ジョブの横の数字とか、治癒魔力の横についている+50とか。
これを見る限り、ジョブや一般職の横の数字は多分《レベル/レベル上限》だと思う。って事は僕の場合、ジョブレベルの上限は30で一般職の魔道具職人のレベル上限は50と言う事なのかな?
あと魔道具職人のレベルが習得した時点で12とすでに高いのは、魔物や動物を倒さないと上がらないメインジョブの賢者と違って一般職である魔道具職人は物を作ったりその職に対応した練習をしたりする事によって上げられるから、村中の台車型草刈機を作ったり細かな魔道具を作ったりしているうちにこれくらいのレベルになる経験値が溜まっていたと言う事なんだろうね。
次に治癒魔力の横についている+50だけど、これは大体予想がついてるんだ。
その予想の確認の為に、僕はステータス画面を次のページに切り替えた。
するとスキル欄が表示され、そこには<治癒魔法UP小>の文字が。そう、これがあの+50の正体だ。
ただ、これを確認して僕は少し残念な気分になっているんだよね。
と言うのも、これは本来ジョブ取得時点で幾つかある選択肢の内から自分で選ぶ事ができるもののはずで、そしてもし選ぶ事ができたとしたら僕は治癒魔力UP小ではなく攻撃魔力UP小かMP回復速度UP小を選んでいただろうと思っているからなんだ。
正直言ってこの治癒魔力UP小の効果である+50と言うのは、ほとんど意味がないと僕は考えているんだ。
この世界ではもし死んじゃった場合、ゲームのように勝手に教会で復活する訳じゃないから生き返ろうと思ったら帝都のような物凄く大きな町まで死体を運んで、その上で高いお金を払って偉い司祭様に蘇生魔法をかけてもらわなきゃいけないんだよね。
だから普通は戦ったら死ぬ可能性があるような自分より強い魔物を狩ろうなんて思う人はいないし、大怪我をして部位欠損なんかしたらこれまた治療に高いお金がかかってしまうから、弱い魔物相手でもなるべく複数で怪我をしないように気をつけながら狩りをする。
そのおかげで、この村では骨折以上の大怪我を負う人は殆どいないんだ。
そしてそんな怪我なら大体はキュア1回で、たとえ骨折したとしても2~3回かければ治ってしまうんだよね。
だからどうせ付けるなら攻撃魔力UP小やMP回復量UP小を付けられたらよかったのにって思ったんだよ。
でもまぁ、ゲームじゃないんだから思ったようにいかないのも仕方がないよね。
さて、折角開いているんだからと次のページも見てみると、そこは賢者1レベルで使える魔法が書かれたページだった。
攻撃魔法にはマジックミサイルやスリープ、補助魔法にはライトや暗闇を作るダークネス、そして治癒魔法にはキュアや錯乱を回復させるサニティなど、結構な数の魔法が並んでいた。
多分他のジョブに変わるとこのページは、戦士だったらスラッシュやシールドバッシュなどの技が、盗賊なら鍵開けや罠解除なんかの特殊技能が表示されることになるんだろうね。
そしてその次のページには一般魔法、ゲーム時代はプレイヤーから設定魔法と呼ばれていたものがずらりと並んでいた。
実はドラゴン&マジック・オンラインは最後にオンラインとついている通り元となったゲームがあるんだけど、それはゲーム機やPCでやるゲームじゃないんだ。
このゲームの元になったのはドラゴン&マジックと言う海外製のテーブルトークRPGと言う会話で行われるゲームで、その移植のせいかドラゴン&マジック・オンラインには実際のゲーム内では使う事のない薪に火をつける着火の魔法とか、飲み水を作る魔法などの普通の生活に使うような一般魔法も設定されていたんだよね。
これらはプレイヤーが自分で使う事は無かったけど、イベントムービーの焚き火をするシーンで使われたり壊された柵を修繕するシーンで使われたりして、ファンタジーらしさを演出していたんだ。
でもこれ、現実になったこの世界では物凄く便利な魔法なんじゃないかな?
特に魔石を消費して色々な物が生み出せる創造魔法とか、材料さえそろっていればいろいろな物を、それこそ家とかでも簡単に作れるクリエイト魔法、それに土魔法の応用で土砂を積み上げたり取り除いたりできる魔法なんてのもあって、これら一般魔法は使い勝手よすぎである意味チートと言ってもいいくらいだ。
まぁ、その殆どが今は灰色で使えないんだけどね。
と言うのもこの一般魔法は覚えていたとしても、それを使用できるステータスに達していないと使えないから。
では何故そんなものが表示されているのかって話になるけど、これは多分賢者の取得条件に関係しているんだと思うんだ。
本来賢者は2種類の初期魔法職を30レベル以上に上げないと習得条件がそろわない上位ジョブだから、これは普通に習得した場合はどちらか、またはその両方を30レベルに上げる間にすでに覚えているはずの一般魔法が表示されているって言う事なんじゃないかなぁ?
たぶんゲーム時代は習得できるレベルになっても使えないものだったから、ライブラリー的な意味でここに書かれてるんだと僕は思うんだよね。
さて次のページに切り替えるとそこは装備品によってついた効果が表示されるページで、どうやらこれが最後のページらしい。
でもそこは現在、何の記載もされていないただの空欄。
それはそうだよね。だって魔法の装備とか何も持っていないのだから。
でもいずれは遺跡探索とかで伝説の武器とかを見つけたいなぁ。
このページが色々な効果で一杯になるなんて事は流石にないだろうけど、空欄は寂しいから一つくらいは、ね。
読んで頂いてありがとうございます。
少しずつ、ブックマークが増えていくのが見るのが楽しみな今日この頃です。
もし気に入ってもらえたら、続きを書くモチベーションになるので入れてもらえるとありがたいです。




