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104 豪華な屋敷と審美眼


 僕たちは立派な服を着たお爺さんの案内でロルフさんの別宅の中へ向かおうとしたんだ。


 とその時、ふと後ろを振り向くと、


「わぁ! お父さん、凄く広いお庭だよ!」


「ん? うおっ!?」


 そこには本当に広い庭があってびっくり。


 そう言えばさっき通ったこのお家の周りを囲っているって言う塀の扉からここまで来るのに、馬車でも結構かかったっけ。


 でも流石にこんなに広い庭があるなんて思って無かったから、僕とお父さんはその光景を見て立ち止まってしまったんだ。


「ああ、この別館には我が家に外から訪れた客が滞在する事があるからのぉ。街の中と違って土地もある事だし、その目を楽しませるためにと大きな庭園を作らせたんじゃよ」


 ロルフさんはこんな事言ってるけど、これって庭園なんてもんじゃないよね? だってイーノックカウの冒険者ギルドの裏にある馬車置き場より広いもん。


 あそこは街のみんなが買い物に来るから物凄く広かったのに。


「そうですねぇ。ここなら中央地区に比べて土地代もはるかに安いですから」


 ところが僕たちがこんなにびっくりしてるのに、バーリマンさんまでこんな事を言い出したんだよね。


 どういう事? もしかして内壁の中は、こんな大きなお庭を作るよりもいっぱいお金が無いと買えないとか? そう思って聞いてみたら、


「ええ。この場所にこの規模の庭を作るには金貨1500枚ほどあれば足りるでしょうけど、内壁の中で屋敷を構えるとなると、小さな物でもその程度の金額じゃすまないはずですもの」


 なんて答えが返って来たんだ。


「ああそう言えば、内壁の中にある館を買おうと思ったら最低でも金貨2000枚はいるって話ですからね。なるほど。広さには驚きましたが、金額だけ聞けば内壁の中に館を構えている方なら、これくらいの庭がある別館を持っていてもおかしくは無いんですね」


 おまけにお父さんまでこんな事を言い出したもんだから、僕はただただ唖然とするしかなかったんだ。


 そっか、ロルフさんは大金持ちだったんだね。でも、それを聞いて解った事がある。


 そんなにお金持ちだから、ブラックボアが持っているくらいの魔石でも簡単にくれる気になったんだろうなぁ。


 広い土地があったから金貨1500枚も使って庭を作っちゃったんだよって言うくらいだから、買ったら金貨200枚するって言ってもたいした金額じゃ無いって思ってたっておかしくないもん


 このおかげで僕は、心の中にほんのちょっとだけあった本当に貰っちゃっていいのかなぁ? って言う気持ちが、これでスーと楽になった気がしたんだ。



「ところでそろそろ館の中に入らぬか? わしとしては早く魔石で印をつけるところを見たいのじゃが」


「おっと、そうですね。私も楽しみですし、カールフェルトさん、ルディーン君。そろそろ中に入りましょう」


 こうしてロルフさんとバーリマンさんに言われて、僕とお父さんは改めて館の中に入って行ったんだ。


 そしたらそこも物凄く豪華な空間だったんだよね。


「わぁ」


 玄関から入った場所は吹き抜けの大きな広間になっていて、そのあまりに豪華な造りは今まで凄く立派だって思ってた僕たちが泊まっている若葉の風亭やヒュランデル書店のロビーよりも、もっと凄かったんだ。


 おかげで僕は、またも立ち止まって周りをキョロキョロ。


 だって仕方ないよね。こんな物語に出てくるお城みたいなところに来たのは初めてなんだもん。


 天井を見たら僕が両手を広げるより大きなシャンデリアがぶら下がってるし、床に敷かれてる絨毯もふっかふかで、おまけにお花とか鳥とかが描かれてるんだよ。こんなの本当に踏んでいいのかなぁ?


 それに玄関の両横に置かれてる花瓶は大きい上に金箔や何かの貝殻かな? そんなので飾られてるんだもん。こんなの、この世界で見たの初めてだよ。


 絵画が飾られて無いのはロルフさんの趣味かなぁ? でもその分壁やドアに精巧な彫刻が施されてあって、派手さは無いけど見る人が見ればその価値が解るだろうって造りになってたんだ。


 そう言えば錬金術ギルドもそうだったけど、ここの壁にも小さなランプが付いてるんだ。


 でも錬金術ギルドとちょっと違うのは、そのランプがみんなお花の形をしてるって事。その上、色が下に向かって行くほど薄くなるグラデーションガラスでできてるから物凄く綺麗なんだよね。


 ここには僕たちがお金持ちの家にありそうだって考えるような、解りやすくて派手なものはひとつも置いてない。


 でもこんな風に小さな所までこだわっている広間を見て、僕はロルフさんが本当に昔からのお金持ちなんだなぁって思ったんだ。



 ■



「ちょっと待ってください、伯爵。カールフェルトさんとルディーン君が」


「ん? おお、またか。しかし、それ程珍しいかのぉ? ここはそれ程派手にはしておらんはずなのじゃが」


「伯爵が今住んでおられる本宅は先代が家督を譲るまでお孫さんが住んでいらした館ですからそれに比べれば確かに質素ではありますが、それでもここの調度品はかなりのものですから。内壁の中の館に出入りした事がなければ、こんな物かもしれませんよ」


「ふむ。そんなものか」


 ギルドマスターから言われて、わしは周りを見渡す。


 確かに調度品は訪れた貴族を持て成すのに失礼にならない程度の物をそろえてはいるのじゃが金糸を使った幕や絵画、それに白磁の花瓶などの派手なものは避けて落ち着いた雰囲気になるよう調度品をそろえておるだけに、これだけ驚かれるとちと困ってしまう。


 何せこの館には天井画さえ無いのじゃから、これ程驚かれる理由が解らないのじゃから。


 いや待て。驚いていると言う事は、逆に凄い事なのかも知れんぞ。


 普通の村人がこの屋敷のような場所を訪れたとしても、豪華だとは思うじゃろうが圧倒される事は無い。何故ならその価値が解らぬからじゃ。


 美術品や調度品を見て圧倒されるのはその価値が解るからこそであり、圧倒された者はもれなくそれだけの目を持っているということに他ならぬ。


 これがカールフェルトさんだけが圧倒されていると言うのであれば解らぬでもないんじゃ。


 何故なら彼は魔石や内壁の中に建つ館の値段を知っておったからのぉ。


 実際に訪れた事が無いものが内壁の中にある建物の値段を知っているとは思えぬから、カールフェルトさんは内壁の中を訪れてそれらを見た事があるということじゃろうて。それならばある程度の審美眼を持っていたとしても驚く事は無いのじゃ。


 しかしこれがルディーン君となると話が変わってくる。


 彼は先日初めてイーノックカウを訪れたはずじゃ。


 だからそのような場所を訪れた事は無いじゃろうし、ここに並ぶ調度品に匹敵するような美術品を見た事があるとは思えぬ。


 それなのにカールフェルトさん同様、彼もこの館の調度品に圧倒されておるではないか。


 これはもしや天性のものか?


 そう言えばルディーン君は自分のステータスを見る事ができると言っておったな。


 普通、自分の物でもステータスを見ることができるようになるにはかなりの時間と努力を積まなければならないと聞く。


 もしやそれを何事も無いかのようになしてしまう彼の才能が、この審美眼につながっているのでは無いのか?


「ふむ、益々面白い。本当に先が楽しみな子じゃ」


 成長して行く彼がこの先、どの様な事で驚かせてくれるかと思うと胸が躍るのぉ。


 こんな才能あふれる子と縁を結ばせてくれた神に感謝せねばなるまい。


 わしは未だ周りの景色をキョロキョロと見回すルディーン君を見ながら、笑みを洩らすのじゃった。


 読んで頂いてありがとうございます。

 

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