103 ロルフさんの家はお城なの?
僕たちは街の外にあるって言うロルフさんの別宅に転移の印をつけるからって、錬金術ギルドから馬車に揺られて東門まで移動して来たんだ。
「あれ? この門、西とか北のと違うの?」
「ああ、そうじゃよ。ここは特別な門じゃからな」
ところがその東門は、前に僕が通った事のある西門や北門とは少し様子が違ったんだよね。
イーノックカウのような大きな街では門から出る時は普通、入る時と同じで審査を受けないといけないからそのまま門をくぐる事は出来ない。
イーノックカウで仕入れた物を持ち出すために税金を払わなければいけない商人さんたちと違って僕たちは冒険者ギルドのカードを見せるだけでいいからそんなに時間はかかんないけど、それでも普通は馬車を降りなきゃいけないんだ。
だって馬車の中に審査をする人が乗ってくるわけにはいかないからね。
だから僕はてっきり東門でも降りなきゃいけないんだって思ってたんだけど、ところがここでは馬車に乗ったまんまで門から出ることができたんだ。
これにはびっくり。でも、その理由を一緒に馬車に乗っているバーリマンさんが教えてくれたから、僕は納得したんだ。
その理由と言うのはね、この馬車がロルフさんの馬車だからなんだって。
「錬金術ギルドの馬車や商業ギルドの馬車もそうなんだけど、ある程度の地位がある人や組織、それに大きな商会の馬車は一般の人たちとは出入りする門が違うのよ。例えばそうねぇ、王様や貴族様が街を訪れた時に、いちいち馬車から降りて審査を受けたりしないでしょ? それと同じで一定以上の信用があって、なおかつこの町に所属している事が解っているのなら、この様な扱いをした方が色々と都合がいいのよ」
バーリマンさんが言うには、この街に住んでいる人たちの内、出入りが激しい人は審査を受けさえすれば他の街の人たちがつかえない門を通り抜ける許可がもらえるんだって。
これはただでさえ出入りに時間が掛かる門にそんな人たちまで並んでいたらこの街の流通が滞ってしまって、そのせいで税収が減ってしまう可能性があるからなんだってさ。
だから変な人や持ち込んじゃいけない物を絶対に運んでこないって信用されてる人たちは、みんなこの許可を受けてるらしいんだよね。
「今通った門もそのような物のひとつで、おまけにここはイーノックカウに住んでいる人の中でもごく一部の人しか通る事ができない特別な門なのよ。だから並ぶどころか、停まることすらしなくても通り抜けられたでしょ?」
「そんな凄い門なの? そこを通り抜けられるなんて、ロルフさんって凄いんだね」
「ほっほっほっ、お褒めに預かり光栄じゃのう。じゃが実を言うとこの門は錬金術ギルドの馬車でも同じように通れるから、ギルマスの馬車でもわしの馬車と同じ扱いなんじゃ。じゃから、それ程すごいと言うわけではないんじゃよ」
ロルフさんはこう言ったけど、バーリマンさんはこの街に住んでいる人の中でもごく一部の人しか通れないって言ってたもん。だから凄い事には変わらないって思うんだ。
そんな東門を通り抜けてからしばらくすると馬車はだんだんとスピードを落としていって、そして停まった。だから僕はロルフさんのお家に着いたんだって思ったんだけど、
ギイッ。
ところが何か重たい扉が開くような音がしたかと思ったら、その後にまた馬車が動き出したんだよね。
さっきの音はなんだったんだろう? って不思議に思った僕は、馬車の窓にかかってるカーテンをめくって、そこから外を見たんだ。そしたらそこには大きな木の扉がついた門と、そこから左右に伸びる壁が見えたんだ。
「周りに壁があるなんて、まるでお城みたい。ロルフさんのお家ってお城なの?」
「いやいや、城でも砦でも無いぞ。じゃがここはイーノックカウの防御壁の外じゃからのぉ、念のために壁で囲っておるのじゃよ」
そっか、そう言えば壁で守られている街の中と違って、お外に作るのならこういう壁がないと危ないもんね。
でも僕は、わざわざ壁を作って守るくらいなら街の中に作ればいいのにって思ったんだ。
だからなんで? って聞いてみたんだけど、そしたらロルフさんじゃなくバーリマンさんからこんな答えが帰って来たんだ。
「それはねぇ、この規模の館を作る場所がイーノックカウの中にはもう無かったからなのよ」
バーリマンさんが言うには、イーノックカウってかなり昔からある街なんだって。
だから貴族やお金持ちが住んでいる内壁の中はもう建物でいっぱいで、新しくお屋敷を作る事ができないそうなんだ。
「この街の東側にある領地を治めているのは武門で名高いカロッサ子爵様だからそちら側の守りに不安は無いし、北の森とは大きな川で隔てられているから例え魔物があふれてきたとしても、橋が無いこのあたりに来る事は無いの。だから本来なら手狭になった内壁内に立てるような屋敷がこの場所に作られるようになったのよ」
「そっか、じゃあロルフさんのお家だけじゃなく、他にもこんなお家があるんだね」
「そうじゃよ。あと馬車の外に出れば見えるじゃろうが、この区画の外にも一応イーノックカウを囲うような防御壁も作られておるんじゃ。流石にあれほど頑強ではないがな」
お金持ちや偉い人たちが住んでるんだから、そんなのがあるのは当たり前だよね。だって、悪者が来たら困っちゃうもん。
そしてしばらくするとまた馬車はスピードを緩め始めて、やがて停まったんだ。
窓から外を見るとそこには大きなお家があって、前には立派な服を来たお爺さんと、いっぱいメイドさんたちが並んでいた。
そう言えばこのお家、普段は使用人さんしか住んでないってロルフさんが言ってたよね。って事は、この人たちがロルフさんの使用人さんたちなのかな?
そんな事を考えていたら馬車の扉が開けられて、
「お帰りなさいませ、旦那様。そしてお客人の方々、ようこそ当館へ。歓迎いたします」
立派な服を着たお爺さんが、頭を下げながらこう挨拶したんだ。
そしてお爺さんの後ろにいるメイドさんたちも一斉に頭を下げるもんだから、僕とお父さんはどうしたらいいのか解らずおろおろしちゃったんだよね。
だって、こんな風にされた事、無いもん。
でもロルフさんは当然として、バーリマンさんもこうやって出迎えられるのはいつもの事なのかお爺さんにエスコート? ってのをしてもらって、馬車を降りちゃったんだ。
こうなるとずっと馬車の中にいる訳にもいかないから、僕たちも思い切って馬車の外へ。
でも、その間もずっとメイドさんたちが頭を下げてるもんだから、僕とお父さんはずっとどうしたらいいのか解んなくて、おろおろしっぱなしだったんだ。
「おや? どうしたんじゃルディーン君。急におとなしくなってしまって」
「あらそう言えば。伯爵。私はいつもの事なのでつい失念してしまいましたが、カールフェルトさんとルディーン君はこの様な対応をされた事は無いでしょうから、驚いてしまうのも当然ではないですか」
「おお、そうじゃな。これは失敗じゃった。先触れを出して、出迎えは最小限にするようにと指示を出すべきじゃったのぉ」
どうしたらいいのか解らずにいた僕たちを見てバーリマンさんがそんな指摘をしたもんだから、ロルフさんは慌ててメイドさんたちに下げていた頭を上げさせてくれた。
でも、まだみんなずっとこっち見てるし、どうしたらいいのか解んないのは変わらないんだよね。
そんな時、助け舟を出してくれたのは立派な服を着たお爺さんだった。
「旦那様。この様な大人数での出迎えはお客様の負担になっているご様子。ですからメイドたちを下がらせても宜しいでしょうか?」
「そうか? うむ、ならば皆は下がってよいぞ。各自、自分の仕事に戻るが良い」
お爺さんが言ってくれたおかげでロルフさんも気付いてくれて、並んでこっちを見てたメイドさんたちはお家の中に入っていったんだ。
これで僕もお父さんも一安心。
でもこの後に言ったお父さんの一言で、僕はまた不安になっちゃったんだよね。
「ルディーン。お前、この館に転移場所の印をつけるんだよな? 本当に大丈夫か?」
そうだよ。僕、もしかしてジャンプの魔法でここに来るたびにいっつも大勢のメイドさんたちに囲まれちゃうのかなぁ?
それを想像した僕は、お父さんの顔を見上げながらどうしたらいいんだろうって思っちゃったんだ。
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