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101 転移魔法は秘密にしないといけないんだって


「なるほど、それ程複雑な図形と言う事はわしらが知っている魔法陣とはまったく別物と言う事か。ふむ、じゃがジャンプという魔法は今の所ルディーン君以外は使えぬ事は解った。そして、それゆえにこの魔法に関しては他の者に知られるわけにもいかぬと言う事もな」


 しばらくの間がっかりしていたロルフさんは、立ち直るとすぐにこんな事を言い出したんだ。


「なんで? この魔法があったら便利だし、何か欲しい物があったら僕がいつでもイーノックカウに買いに行ってあげるよって村に帰ったらみんなに言おうと思ってるのに」


「ダメじゃ。そんな事は、けしてするでないぞ!」


 折角便利な魔法を覚えたんだから村のみんなもきっと喜んでくれると思ってそう言ったら、ロルフさんに怒られちゃった。


「もし転移の魔法を他の誰かに教えられるというのであればまた違ったであろうが、今現在使えるのは君だけとなると、この魔法を欲する者たちがそれを得るには君を捕らえるしかないという事になるのじゃよ。じゃからのぉルディーン君、君の安全を考えると秘密にすべきなんじゃ。だからこそ、この魔法の存在を知るものは少なければ少ないほどよい」


「そうよ。私たちは今の段階ではルディーン君から転移魔法のやり方を知る事ができないと解っているけど、他の人たちはそうじゃないもの。村の人たちは信用できるとは思うけど、知っている人が多ければどこかから話がもれる心配も増えるのだから内緒にしておいた方がいいわ」


 そっか、他の人が使えないから便利だって思ったけど、そんな便利なものなら他の人が欲しがってもおかしくないもんね。


 そんな人たちからしたら、子供の僕をさらって聞きだそうとしたっておかしくないか。


「でもそれじゃジャンプの魔法は使えないの? この魔法があればイーノックカウに来るのも簡単なのに」


 ただ、使っちゃダメって言われると物凄くがっかりなんだよね。だって僕、この魔法でちょくちょく来るつもりだったんだもん。


 そんな僕の考えが伝わったのか、ロルフさんはちょっと悩んだ後、こう聞いてきたんだ。


「ふむ。確かに覚えた魔法を使うなと言うのは少々酷じゃな。しかし転移したところを見られたりしたら厄介じゃしのぉ。ルディーン君、ひとつ聞くのじゃが、その魔法は屋内から屋内へも飛べるのかな?」


「えっとちょっと待ってね」


 いきなりそんな事を聞かれてもよく解んないから、とりあえずステータスにある魔法のページを開いてジャンプの項目を見てみる。


 そしたら、この魔法は空間を跳躍する魔法だから障害物があっても何の問題も無いよって書かれてたんだ。


 そっか、魔法ってホント便利だなぁ。


「大丈夫みたいだよ。でも何で?」


「そうか、部屋の中でも良いのじゃな。ルディーン君、転移に関して問題があるのはその瞬間を人に見られる可能性があるという事だけなんじゃ。例えば君が頻繁にこの街を訪れたとしても、グランリルに住んでいることを知らぬ多くの人たちは気にも留めんじゃろ? じゃから、転移場所を部屋の中にしてしまえば誰にも見られる事無く移動できると言う寸法じゃ」


 そっか。確かにそうすれば誰にも見られること、無いね。


 あっ、でもそれだと。


「ねぇ、イーノックカウに入るのには門のところでお金を払わないといけないよね? なのに街の中にいきなり転移しちゃったらダメなんじゃない? そんな事をしたら僕、偉い人に怒られないかなぁ」


 みんなはお金を払ってるのに、僕だけ払わないってのはやっぱりダメだと思うんだ。だってそれってずるだもん。


 そう思ってロルフさんに言ったんだけど、


「ああ、そう言う事なら問題は無い。実は東門の外にわしの別宅があってのぉ。そこの部屋に飛ぶようにすれば何の問題も無かろう」


 なんて言い出したんだ。


 そっか、ロルフさんって町の外にもお家があるんだね。って事はもしかしてお金持ちなのかなぁ?


 僕がそんな事を考えてたら、バーリマンさんが何か困ったような顔をしたんだ。


「ロルフさん、いいんですか? あそこって確か……」


「構わん構わん。カロッサ殿がこの街に来るのは年に数回じゃから、その時だけはルディーン君が転移するのを避ければよいだけの話じゃ。それにあそこに居る使用人たちは皆、古くからわしに仕えている者ばかりじゃから、例えルディーン君の事を知っても他家に洩らす事はあるまいて」


 街の外にあるロルフさんのお家だけど、年に何回かカロッサさんって人が泊まりに来るみたいなんだよね。


 だからそこを転移場所にしたら不味いんじゃないかってバーリマンさんは考えたみたい。


 でもロルフさんからしたら、その時だけは僕に来ちゃダメって言えばいいって考えてるみたいなんだ。


「そう仰るのでしたら何も言いませんが……私は知りませんよ。もしばれても」


「まぁ、例えばれてもカロッサ殿なら問題は無かろう。と言うわけじゃ、ルディーン君。東門にあるわしの別宅を転移場所にするというのは承知してもらえるかな?」


「ロルフさんがいいなら僕はいいよ。だけど……」


 イーノックカウ側はそれでいいと思うんだけど、じゃあ村は? そう思った僕はお父さんのほうを見て、


「お父さん。村の方はどうしたらいいと思う? 見られちゃダメなら、家でもどっかの部屋に転移場所作んないといけないけど、空いてる部屋なんか無いし」


 そう話したんだ。


 ロルフさんのお家は大きいかもしれないけど、僕のお家はそんなに大きくないもん。だから当然余ってる部屋なんか無いんだよね。


 でも、使ってる部屋だとジャンプした時にそこに誰かがいたら困るんだ。


 多分僕かそこにいた人か、そのどっちかが弾き飛ばされちゃうと思うからね。


「そうか、確かにいきなり現れるとなると空いてる部屋じゃないとダメか」


 僕の言っている事が伝わったのか、お父さんは腕を組んでちょっと考えた後、僕に質問してきたんだ。


「ルディーン、その転移ってのは広い場所が居るのか?」


「ううん、そんなに広くなくてもいいよ。でも、そこに誰かがいたらジャンプの魔法を使った時にぶつかっちゃって危ないから、人が来ないとこじゃないとダメなんだ」


「なるほど。それならいい場所があるぞ」


 質問に僕が答えると、お父さんはさもいい事を思いついたとばかりにニカって笑ったんだ。


「うちの裏に小さな物置小屋があるだろ? あそこなら人に見られる事は無いし、中に入っている物もふちに寄せれば多少のスペースは取れるはずだ。まぁ元々使わない物も結構入っているから、もし場所が取れないようなら処分しても問題は無いだろうしな」


 物置小屋? って言うといつも庭をお掃除するほうきとか、僕が作った台車式の草刈機が入れてある場所だよね?


 あそこならちょっと片付ければ大丈夫だとは思うけど、勝手に決めちゃって大丈夫かなぁ? あそこにあるのって、お母さんのものも多いんじゃなかったっけ。


「大丈夫? お母さんに言わずに決めちゃって、怒られない?」


「うっ……いや大丈夫だ。ルディーンの安全の為だと言えば、シーラが反対する事は無いと思うぞ……たぶん」


 なんとなく不安の残る言い方だったけど、お父さんが大丈夫だって言ったからたぶん大丈夫。もしお母さんが怒ったとしても、きっとお父さんが何とかしてくれるよね。


「お父さんがいいって言ったから、お家の方ももう大丈夫。ロルフさんのお家を転移場所にしてもいいよ」


 と言う訳で僕はロルフさんの提案通り、東門の外にある別宅をイーノックカウ側の転移場所に設定する事になったんだ。



 ■



 本当にいいのかしら?


 伯爵の言う別宅は東門の外と言いながら、実際はその館の外側にも、もうひとつ防御壁のある特別な場所なんだけど……。


 第一あそこって、よそから来た貴族が安全に過ごせるようにと作られた特別な館のはずでしたわよね? 何よりあの館がある区画からイーノックカウに入る為の門は、普通の人は通れない特別な門なのではなかったかしら?


 まぁ伯爵がいいと仰るのですから、何も問題はないのでしょうね。


 確かに公的な仕事でこんな辺境の街に来る貴族などカロッサ子爵様しかいらっしゃいませんし、その子爵様もここを訪れるのは年に数回。


 それだけに普段は使用人がいるだけの館なのですから、有効利用といえば有効利用なのかもしれないわね。


 それに決めたのはあくまで伯爵ですもの。私はきちんと何があっても知りませんよと宣言をしましたから、問題が持ち上がったとしても伯爵が何とかしてくれる事でしょう。


 錬金術ギルドのギルドマスター、ぺトラ・バーリマンは、こうして一人、心の中に棚を作るのだった。


 読んで頂いてありがとうございます。

 

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