100 見せてって言われてもなぁ
「それで、ルディーン君。その転移の魔法はどのような名前、いや呪文なんじゃ?」
僕から魔法をどこで覚えたのかを聞いて落ち着いたのか、ロルフさんがこんな事を聞いてきたんだ。
ああ、そう言えばまだ言ってなかったっけ。
「えっとね、ジャンプって言う魔法だよ。さっきも言ったけど、どこにでも行ける魔法じゃなくて、目印を先につけた場所にだけ飛んでいける魔法なんだ」
「ジャンプ? ジャンプとは確か異界の言葉で跳躍と言う意味の言葉じゃな。はて? そのような言葉が呪文ならば今までに誰かが試しているはずなのじゃが」
僕がこの転移帰還魔法の名前を教えてあげると、ロルフさんはその意味を正確に言い当てたんだ。
だけど意味が解った事でより混乱したみたい。
それはそうだよね。この世界の魔法って異世界の言葉の意味を理解して、それを呪文として唱える事で発動するそうなんだから、こんな簡単な言葉でいいのなら今までに誰かが見つけてないとおかしいもん。
でもさぁ、このジャンプって魔法は呪文を唱えただけじゃ発動しないんだよね。
それが解っている僕は、ロルフさんに教えてあげる事にしたんだ。
「それはねぇ、このジャンプって言う魔法は呪文だけじゃ発動しないからなんだよ」
「呪文だけでは発動しないじゃと? ふむ、そう言えば先ほどカールフェルトさんもブラックボア以上の魔物が持つ魔石が必要と言っておったな」
なんだロルフさん、僕が教える前に答えに気づいちゃったのか。
折角教えてあげる気満々だったのに、先に答えを言われちゃったからちょっとがっかり。
でもそんな僕に気付かず、ロルフさんはまた考え込んじゃったんだよね。
「しかし魔石をどのように使うのじゃろう? やはり魔道リキッドのように加工するのじゃろうか。それとも蘇生魔法のような使い方か? いやいや、それでは唱えるたびに魔石が必要となるしのぉ」
なんかぶつぶつ言ってるけど、解んない事があるのかなぁ? なら聞けばいいのに。
そう思いながらロルフさんを見てたら、バーリマンさんが横から声をかけてきたんだ。
「ああ、ロルフさんがそうなったら声をかけても無駄よ。自分の考えに集中すると周りの声が聞こえなくなる人だから」
へぇ、そんな人居るんだ。
なんて思ってたら、
「ああ、ルディーンと同じなんですね」
なんてお父さんが言いだした。
「え~、そんな事無いよぉ! 僕、考え事してても話しかけられたらちゃんと答えるもん!」
でもそんなはず、ないよね? だから僕はお父さんに抗議したんだけど、
「本当に自覚が無いんだな」
そしたらこんな風に言われちゃったんだ。
その上、お母さんやお兄ちゃんお姉ちゃんたちも同じように僕が誰の声も聞こえなくなっちゃうくらい考え込んだ所を見たことがあるって言われてびっくり。って事は本当にそうなのか。
「まぁ、ルディーンはそこまで深くものが考えられるから色々な事ができるようになったのかもな。だからそんなに気にする事は無いと思うぞ」
「そうですね。ロルフさんもこのように思考に没頭できるからこそ、錬金術に関しては帝国内でも指折りの知識を持つとまで言われるようになったのでしょうから」
教えられた事がショックで、これからは気をつけないとダメだって思ってたんだけど、お父さんとバーリマンさんはこのままでいいんだよって言ってくれた。その方が僕にとっていい事だからって。
そうなのかなぁ? 人の話はちゃんと聞かないといけないよってお母さんはいつも言ってるけど……うん、お家に帰ったらお母さんに聞いてみよう。
別にお父さんやバーリマンさんが言っている事が間違ってるなんて思わないけど、やっぱりお母さんにも聞かないとね。もし間違ってたら困っちゃうもん。
「ところで、ルディーン君。さっきから話に出ているジャンプって魔法だけど、魔石はなにに使うの?」
「ジャンプの魔法で飛んでく場所はね、先にそこに行って印を付けておかないといけないんだ。魔石はその印をつけるのに使うんだよ」
ジャンプはレベルが上がるごとに飛べる場所が増えて行くけど、その度にこの作業をしないといけないんだよね。
これをマーキングって言うらしいんだけど、もし違う所に飛べるようにしたいのなら前にマーキングしたところを消してから、その場所まで行ってマーキングする必要があるんだ。
ただ、その時はまた魔石が新しく必要になるから、あんまり頻繁に変えると物凄くお金が掛かっちゃうんだよね。
だから飛べる場所を決める時はきちんと考えないといけないんだ。
「そうなの。だそうですよ、ロルフさん」
僕の話を聞いて大きく頷くと、バーリマンさんはロルフさんの肩を揺さぶりながらそう声をかけたんだ。
「む? なんじゃ、ギルマスよ。わしは今、考え事をしておるのじゃが」
「ええ解ってますよ。ジャンプに魔石をどう使うか考えていたのでしょう? まったく、興味を持つとすぐ考え込むその癖、直した方がいいですよ」
あれ? バーリマンさん、さっき僕に言った事と反対の事言ってる。
そう思った僕は、頭をこてんと傾げてバーリマンさんの事を見てたんだ。そしたら、
「ああ、ルディーン君はいいのよ。小さい内は深く考える事によって知能が発達するだろうし、才能も伸びるもの。でもロルフさんの場合は時と場合に関係なく、この状況になるのが問題なの。今回なんて目の前に知っている人が居るんだから聞けば答えてくれる状況なのに、それをしないで考え込んでしまったんでしょ」
そう言ってバーリマンさんは楽しそうに笑ったんだ。
「おお、そう言えばそうじゃ。魔石の使い方はルディーン君が知っておるのじゃから聞けば済む話じゃったのぉ。つい考え込んでしまったわい」
「ほらね。ロルフさんは頭がいいんですけど、興味を持った物が見つかると人の説明も聞かないで考え込んじゃう癖があるから困りものなんです。ルディーン君はこうなっちゃダメよ」
「うん。解んない事は、ちゃんと誰かに聞いてから考える事にするね」
僕も気をつけないと。
人に教えてもらえる時は最後まで教えてもらってから考えないと、簡単な事にも気が付かないなんて事、あるもんね。
「手厳しいのぉ。しかし、ギルマスの言う通りじゃ。わしもこの癖は直さねばと思っておるのじゃが、昔は誰にも教えてもらえぬようなものばかり研究しておったせいか癖になってしまって、どうにも直らんのじゃ」
そう言って、ロルフさんは笑ったんだ。
「ところで魔石の使い方じゃが、一体何に使うのじゃ?」
あっ、本当に聞こえてなかったんだ。
それが解ってなんとなくおかしくなった僕はちょっとの間けらけらと笑ってたんだけど、その間も辛抱強くロルフさんが待ってくれてたから、さっきバーリマンさんに話した事と同じ話をしてあげたんだけど、
「ふむ。ではジャンプの魔法で飛ぶにはその印をつける必要があるのは解った。じゃが、魔石をどのように使えば印が付けられるのかな? やはり魔道リキッドのように液体にしてその場に付着させるとかなのかのぉ?」
そしたらロルフさんは、長いお髭をなでながらこう聞いてきたんだよね。
そう言えばそれはまだ言ってなかったっけ。
「あのねぇ、まずジャンプの呪文を唱えて魔力の動きを覚えたら、その属性魔石を作るんだ。で、魔法陣を見ながらそれを頭に浮かべて魔力を注ぐとその属性魔石の中に魔法陣が刻まれるから、そしたらそれをジャンプで飛びたい場所に行って、ぽいって投げればマーキングできるんだよ。そしたらそれからは何時でもそこに飛べるようになるんだよ」
「魔法陣を見ながらとな。それはどのような物なのじゃろう、見せてはもらえぬか?」
見せてって言われてもなぁ。
魔法陣が刻まれたっていう魔石を見ても、ステータス画面そのまんまの魔法陣が浮かんでるわけじゃないからそれを見せても意味ないし、その僕のステータス画面も僕にしか見られないみたいだからそれもダメ。
一応魔石でマーキングする時は魔法陣が浮かぶけど、それも一瞬だからなぁ。
「見せてって言われてもできないよ。だって僕、ステータス画面見ながら魔石に魔力を注いでるんだもん。ロルフさん、僕のステータス画面、見れないでしょ?」
「なんと!? いや、そうか。確かにステータス画面にある魔法の欄でジャンプの魔法を知ったと言うのならば、その魔法陣が描かれているのがステータス画面であると言うのも道理か」
「ルディーン君。その魔法陣だけど、羊皮紙か何かに書き写す事はできないの?」
僕が無理だって言うとロルフさんは難しい顔をしながらも納得してくれたんだけど、バーリマンさんはその魔法陣を僕に描けないのかって聞いてきたんだよね。
でもなぁ。
「無理だよ。だっていっぱい記号とか書いてあるし、線もいっぱいだもん。あんなの描けたら僕、偉い画家さんになれると思うよ」
魔法陣って物凄く複雑に描かれてるんだよね。
中に使われている記号の一部は僕の前世でも見た事があるもので確かルーン文字とか外国の記号とかなんだけど中には見たことも無いのも混じってるし、なにより丸とか三角とか四角の組み合わせで模様が描かれてるから、それを書き写すとなるとかなり絵がうまくないと無理だと思うんだ。
「多分僕が描いたら、よく解んない物になっちゃうと思うよ」
でもそう言っただけじゃ納得してくれないかな?
そう思った僕は、いっぱいありすぎて全部は教えられないけどって言いながら魔法陣に描いてある文字や図形をそれぞれ10個ずつくらい羊皮紙に描いて、
「その魔法陣はこんなのが他にもいっぱい使ってあって、それが色んな所に書いてあるんだよ」
って教えてあげたんだ。そしたらロルフさんとバーリマンさんは黙っちゃったんだ。
ねっ、無理でしょ?
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