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98 二つのポーションと笑い転げる僕



「ところで、昨日ルディーンが持ち込んだポーションについてのお話はどうなりました?」


 僕が前世の記憶を持ってるって話を信じてもらえた事に喜んでいると、お父さんがロルフさんにこんな事を聞いたんだ。


 ああそう言えば、錬金術ギルドにはお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションの特許申請ってやつのために来てるんだっけ。


 いけない、いけない。ついつい忘れちゃってたよ。


 もしここでお父さんがこの話をしてくれなかったら、さっきの事が嬉しくってそのままバイバイしちゃってたところだった。


「おおそうじゃった。その話についてはギルマスから説明してもらった方がよいじゃろう」


 そして聞かれたロルフさんはと言うと、自分よりバーリマンさんの方が詳しいからそっちに聞いてって言ったんだ。


 それはそうだよね。だってバーリマンさんは、この錬金術ギルドのギルドマスターさんなんだもん。


 と言う訳で、僕とお父さんの視線がバーリマンさんに移ると、コホンと一度咳払いをしてから話し始めたんだ。


「結論から申し上げますと、この二つのポーションをそのまま錬金術ギルドの特許に乗せる事は出来ません」


「それはあれですか? ルディーンしか作る事ができないからでしょうか?」


「ええ、それもあるのですが、一番の理由はこの二つのポーションが強力すぎるからなんですよ」


 バーリマンさんが言うには、僕しか作れないとか今までに無い商品だとか言う以前に、劇的に肌や髪の毛の状態を改善するこの二つを世に出せば大変な事になる方が問題だって言うんだ。


「う~ん、確かにうちの村の司祭様からもそのような事を言われましたが、それ程の物でしょうか? 確かにうちのシーラも肌のつやや張りが戻ったし、皺もなくなりました。それに髪の毛も出会った頃と同じくらいの状態まで戻っています。でもそれだけですよ? 別にシーラ自身が若返ったわけではないのだから、それ程大騒ぎするような話ではないと思うのですが」


 ただ、それを聞いたお父さんはちょっと信じられないって言うんだ。


 そしてそれは僕も同じなんだよね。だって確かに近所のおばさんたちはちょっと怖いくらいの勢いで僕にお肌つるつるポーションを作ってって言ってきたけど、別に喧嘩なんかしなかったもん。


 ところが、それは物凄く甘い考えだってバーリマンさんは言うんだ。


「確かに平民の間ではそうでしょう。しかし、このポーションの存在が貴族に知れた場合は話が大きく変わるのです。肌や髪の美しさはそれすなわち貴族の令嬢たちにとっての武器になります。それを手に入れる事によって自分たちの家格より上の貴族に嫁入りさせる事ができれば、その家は貴族社会で大きな力を手に入れることが出来るのですよ」


 貴族の女性社会では美容の為に物凄くお金を使うのは当たり前で、中にはより肌の色が白く見えるようにとわざわざ血を抜いたりする人まで居るんだって。


 そんな人たちがこのポーションの存在を知れば、今の所唯一それを作れる僕をなんとか手に入れようとするだろうし、もし誰かが手に入れたらその貴族の優位性を奪う為に、他の貴族が僕を殺そうとまでする可能性があるんだって。


 貴族の女の人って怖いなぁ。


「なるほど。貴族の女性にとって肌や髪の張りつやはそれほどまでに執着する物なんですね。確かにそれではルディーンがこれを作れると言うのが知れ渡るのは少し怖い」


 そう言うとお父さんはちょっとの間黙ってなにやら考え込んで、ちょっとしたらその考えが纏まったのか、お父さんは再度口を開いたんだ。


「う~ん、しかしですよ。ルディーンが作ったポーションはすでにうちの村に出回っています。ですからうちの村の女性たちはほぼ全てがその恩恵を受けているので、そのうちの誰かがこの街を訪れればすぐにこのポーションの存在が明るみに出るのではないですか?」


「ええ。それがちょっと問題なんですよね」


 言われてみるとそうだよなぁ。


 お母さんやヒルダ姉ちゃんだけじゃなく、近所のおばさんたちはみんな僕の作ったお肌つるつるポーションを使ってるもん。


 みんな今までも何度かイーノックカウに来てるだろうから顔見知りの人も居るだろうし、そんな人が今の姿を見たら何があったんだろうって不思議に思うよね。


「ただ存在が知られても、これを作れるのがルディーン君である事を知られるわけにはいかないんですよ。何故なら、このポーションを欲しがるのが女性だけではなさそうだと言う事も解ったのですから」


「えっ!? 男の人もお肌つるつるになりたいの?」


 バーリマンさんのこの発言に、僕はついこう口を出してしまったんだ。


 そしたらバーリマンさんは、ちょっと苦笑いして、


「少し違うのよ」


 って言って、くわしい話を聞かせてくれたんだ。


「これは昨日調べて解った事で、まだ実証実験をしていないから確証は無いんだけど……この髪の毛用のポーション、どうやら髪の毛の状態その物を改善できるみたいなのよ」


 ん? どういう事? 髪の毛つやつやポーションを使うと確かに綺麗になるし、かなり痛んでても元の髪の毛に戻す事はできるけど、それは初めから解っていた事だよね? だから特許申請ってのをしに来たんだし。


 僕がそう思いながら首を捻ってると、隣でお父さんも何が何やら解んないって顔をしてるんだよね。


 そんな僕たちを見てバーリマンさんは自分の言葉が足りなかったんだって気付いたのか、僕たちにも解るように説明してくれたんだ。


「これ、毛生え薬みたいなんです。それも、どんな状態の人にでも効くほど強力な」


「なっ!?」


 バーリマンさんの話を聞いて物凄くびっくりするお父さん。


 でも何で? 髪の毛が生えてきたからって特に問題なんか無いと思うんだけど。


 ところがそれは大間違いだったみたいなんだ。


「それが本当なら確かに不味いですね。下手に知られると最悪殺し合いさえおきそうだ」


 だって、お父さんがこんな事を言い出したんだもん。


「そうでしょう。だからこそ、扱いに困っているんです」


 そしてそんなお父さんの言葉にバーリマンさんとロルフさんの二人は深く頷いてるんだからびっくりだ。


 そっか。僕にはよく解んないけど、きっと大人の人だけが解る理由があるんだね。


 なら僕も大きくなったら解るのかなぁ?



「ところでグランリルでは誰も試さなかったのですか? あれだけ髪の毛が改善されるとなると、試してみようと考える人もいそうなものですけど」


「ああそれはですね、うちの村の男衆は一人を除いて髪の薄い人が居ないんですよ」


「まぁ、そうなんですか?」


 お父さんが言うには魔物を倒して強くなると生命力が強くなるおかげなのか、体が丈夫になったり怪我が速く治るようになるのと同時に髪の毛も薄くならないんだって。


「多分髪の毛も強化されているんじゃないでしょうかね。だから髪が薄くなる人も居ないし、それどころか髪の毛が伸びるのも普通の人たちより早いらしくて、定期的に切らないといけないからちょっと大変なんですよ」


「なるほど。確かに髪の毛が生える場所である毛根が強化されれば、髪が薄くなる事は無いでしょうね」


 お父さんの説明に、バーリマンさんたちは納得する。


 ただ、ふと何かに気が付いたロルフさんが、お父さんにこう聞いたんだ。


「確かにレベルが上がれば体全体が強化されて禿げなくなると言うのは解った。じゃが、先ほど一人を除いてと言っておったのう? その者は何故薄くなっておるのじゃ? グランリルに生まれた者は男女問わず、成長すればすべからく狩りに出ねばならぬと聞いておるのじゃが」


「ああ、その一人と言うのは例外でして。元々がグランリルの住人ではないんですよ」


 その説明を聞いて、ロルフさんはお父さんが言っていた例外の一人と言う人物に気が付いたみたい。


「解ったみたいですね。そう、村に神殿から赴任していただいている司祭様です」


 ああ、そう言えばおじいちゃん司祭様って頭つるつるだよね。


 そっか、他に誰もあんな頭の人が居ないから、お父さんの髭みたいに剃ってるのかなぁって思ってたけど、元からつるつるなんだね。


「なるほど、そうじゃったか。それなら、納得じゃ……」


「ああっ!」


 お父さんの口から答えを聞いて笑顔になりながらロルフさんが話ていたんだけど、それを途中で遮るように大声を上げた人が居たんだ。


「なっなんじゃ、ギルドマスターよ。びっくりするではないか」


「伯爵、それですよ。その司祭様です」


 そう。大声を上げたのはバーリマンさんだったんだ。


 そんなバーリマンさんにロルフさんはちょっと怒りながら文句を言ったんだけど、バーリマンさんはそれどころじゃないみたい。


 ロルフさんの肩を掴んで、その司祭様なら適任です! って叫んでるんだ。


 するとそれを見たロルフさんも何かに気が付いたような顔をして、


「おお! うむ、確かにそうじゃ。その司祭が適任じゃろうて」


 大きく頷いてから、お父さんに視線を向けたんだ。


「実はのう、カールフェルトさん。先ほどギルマスが申した通り、髪の毛用ポーションが本当に毛生え薬の役を成すかの実験がまだなのじゃが、その被験者を誰にするかで頭を悩ましておったのじゃ。何せ、もし本当に髪の毛が生えてきた場合、このイーノックカウに住む者を被験者にすればあっと言う間に話が広まってしまうからのぉ。しかしじゃ、すでにこのポーションの効果が出ている者ばかりであるグランリルで実験するのであれば、何の問題も無い」


「ええ。それに実験に必要なポーションはルディーン君が作れるのですから、これ程適した環境はありませんもの。当の本人に断られた場合は仕方がありませんが、村に戻った時に聞いては頂けないでしょうか?」


「そうか、確かに司祭様なら村から出る事はありませんから、実験で髪が生えても誰かに見られて騒がれることも無いですね。それにルディーンの作るポーションの事も知っていますし」


 ロルフさんたちの提案にお父さんは納得して、村に帰ったら司祭様にお願いするって約束したんだ。


 そんな大人たちの話を聞きながら僕はあることを想像していた。


 ふさぁ~。


 風に揺れる長くて綺麗な髪をかき上げながら、振り返って微笑むお爺さん司祭様の姿を。


 そして次の瞬間、僕がお腹を押さえながらケタケタと大笑いしはじめたもんだから、それに驚いたお父さんたち3人は何事かと話を中断して僕に駆け寄ってきちゃったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。

 

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