9 うちは女性の方が優秀みたいです
僕の話はこれくらいにして家族の話に移ろう。
家族で一番状況が変わったのは一番上のヒルダ姉ちゃんだと思う。
天才的な才能で4年前の時点ですでに戦士が6レベルだったヒルダ姉ちゃんだけど、その後もどんどん強くなって、なんとそれから1年ちょっとでお父さんのレベルを超えてしまったんだ。
そのレベルはなんと15で村でもトップクラスの戦士に成長したんだけど、驚いた事にその年、近所に住んでいる幼馴染と結婚。
そして、すぐに子供を生んでお母さんになっちゃった。
だから今はまったく狩りにも出ず、家でおとなしく主婦してるんだよね。
僕としては才能があるヒルダ姉ちゃんは、もしかしたら冒険者になって村を出て行ってしまうかもって心配していたからちょっと嬉しかったりするけど、同時にもったいないなぁとも思うんだ。
16歳で15レベルなんて僕だったら絶対無理だろうし、そんなお姉ちゃんが誇らしくもあったからね。
次にディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃんだけど、二人とも無事戦士のジョブを習得した。
ただ、後からジョブを得たテオドル兄ちゃんの方が5レベルで、現在3レベルのディック兄ちゃんより強くなってるんだよね。
まぁ、二人とも相手のステータスやレベルを見ることができないおかげで2レベル程度の差なんて解らないだろうからいいけど、見えてる僕からするとこれからもレベル差が開いていったりしたら仲が悪くなったりするんじゃないかって、ひそかに心配しているんだ。
別に貴族様と違って長男だから家を継ぐとか言う話はないからいいと言えば別にいいんだけど、やっぱり長男としてのプライドがディック兄ちゃんにもあるだろうから出来たらこれ以上レベルが開かないといいなぁなんて僕は思ってる。
次は家にいる二人のお姉ちゃん、レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんのお話。
レーア姉ちゃんは狩人のジョブをつい最近得て今は1レベル、キャリーナ姉ちゃんはこの4年間で一般職として見習い神官と見習い狩人を取得した。
13歳で狩人のジョブを取得したレーア姉ちゃんも凄いけど、11歳で2つの一般職を持っているキャリーナ姉ちゃんも凄いと思う。
特にキャリーナ姉ちゃんは見習い神官の一般職を取得したおかげで、骨折のような大怪我は無理だけど打撲とか多少の傷くらいならキュアで治す事ができるようになったから、村では貴重な魔法使いとして大事にされ始めてるんだ。
ヒルダ姉ちゃんもそうだったけど、うちの兄弟はお姉ちゃんたちの方が出来がいいんだよね。
お兄ちゃんたちは二人とも13歳の時点ではまだジョブを持っていなかったし、一般職も見習い剣士だけだったから11歳のキャリーナ姉ちゃんよりもダメって事だもん。
まぁ、僕もキャリーナ姉ちゃんよりも早く魔法の練習を始めたのに見習い神官も見習い魔法使いも習得していないんだから、お兄ちゃんたちの事は言えないんだけどね。
ん、でも待てよ? お兄ちゃんたちと同じ様なペースと考えれば、僕がまだ見習い一般職を習得していないのもおかしくないのか。
うん、僕には魔法職の才能はないのかなぁって思ったけど、あきらめずに練習は続けよう。もしかしたら、もうすぐどちらかの見習い一般職がつくかもしれないからね。
最後にお父さんとお母さんのお話。
ハンスお父さんもシーラお母さんも相変わらず元気に畑や狩りで一日中忙しく働いてる。
レベルはまぁ、怪我をしたら僕たちを食べさせる事ができなくなっちゃうからって無理をして強い魔物を狩らないからお父さんが14レベル、お母さんは11レベルとほとんど変わってないけど、元々がこのグランリルの村でも強いほうに入る二人なので、家はそこそこ裕福だったりするんだよね。
そう言えば魔道具に使う魔石も結構高く売れるって近所のおじさんが言っていたのに僕が魔道具を作りたいというと、気軽に使わせてくれるからなぁ。
この家に生まれた僕は、確かにチート能力はもらえなかったけど案外神様に優遇してもらえてるのかもしれないね。
「ルディーン。お前もいよいよ明日、8歳になるな」
「うん! ぼくもやっとけんのおけいこに、さんかできるよ。たのしみだなぁ」
夕食の後、お父さんにこう声をかけられて、僕は今の気持ちを素直に口に出した。
魔法の練習はこれからも頑張るつもりではいるけど、4年も魔法の練習を頑張っているのに見習い一般職も取得できないから、もしかすると本当に才能がないのかもしれないもん。
将来の選択肢として、武器を使う職業である戦士や狩人のジョブのどちらかを取得できるよう、そちらの方も頑張ろうと思っているんだ。
それに戦士や狩人が主流のこのグランリルの村に転生した事に意味があるとしたら、もしかしてそのどちらかに僕のチート能力が隠されているかもしれないんだからさ、楽しみなのは当然だよね。
……うん、もう解ってるよ、多分僕にチート能力なんてないって事くらいはね。
でも夢くらい見させてくれてもいいじゃないか。
「そんなルディーンに、お父さんからプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかい?」
「ぷれぜんと?」
なんだろう? そう思いながら僕が小首を傾げると、周りにいたお母さんやお兄ちゃんお姉ちゃんたちが僕のその姿を見てニコニコしだした。
う~ん、どうやらみんな、お父さんが僕に何をくれるのか解ってるみたいだね。
と言う事は、8歳になる時にみんなも同じものを貰ったって事なのかな?
そう思い、僕はどきどきしながらお父さんがプレゼントを横においてある箱から取り出す姿を見つめていると、そこから現れたのはなにやら60センチくらいの長さの、布に包まれた棒の様なものだった。
「一日早いが誕生日プレゼントだ。これからルディーンの大切な相棒になるものだから、大事にするんだよ」
「あいぼう?」
受け取ったそれはズシリと重く、その手に伝わる重さは、それが金属でできている事を僕に教えてくれた。
もしかして?
僕は期待に胸を膨らませながらその布を解いて行く。
するとその中から現れたのは、皮の鞘に入った一本のショートソードだった。
「わぁ、けんだ。これ、ぼくのけんだよね? ありがとう、おとうさん。ぼく、だいじにするよ」
「おう。まだ練習を始める前だから刃は研がれていないが、それでも重さだけでも怪我はするからな。扱いは慎重にするんだぞ」
「うん、きをつけるよ」
何しろ初めて手にする僕の武器なんだから、興奮するなと言う方が無理だよね。
流石に家の中だし、8歳になる明日までは剣の練習をする事を村の規則で禁止されているから鞘から抜くことはできないから、その代わりに僕はその鞘に入ったままのショートソードをまじまじと見つめたんだ。
真新しい革製の鞘は硬く、まだなめしたばかりの皮の匂いがするし、持ち手に巻かれた革紐もがっちりときつく巻かれていてけして緩むことはなさそうだ。
これならば手が滑ってすっぽ抜けたり、握り損なったりする事も少ないだろう。
このプレゼントが物凄く嬉しかった僕は、寝る時間が近づくまでずっとその剣を抱えたまま、その日をすごしたんだ。
そして寝る前のひと時、いつものようにMPが無くなるまでライトの練習をしてからベッドに潜り込んだ。
「あしたからけんのれんしゅうだ! うまくできるといいけどなぁ」
そう一人呟いて、僕は目を瞑る。
明日のことを考えるとわくわくしてすぐには寝付く事はできなかったけど、それでも一日中お手伝いや魔法の練習とかで動き回っていた僕は、いつの間にか深い眠りの中に落ちて行った。
そして次の日の朝。
僕は興奮からか、いつもよりも目覚めがよかった。
窓から差し込む日の光が、パッチリと開いた目に心地いい。
窓から差し込む日の光からすると、外は初めて剣の練習をするには絶好の青空のようで、僕は物凄くうれしい気分になったんだ。
「らいと」
そんな上機嫌のまま、僕はいつもの朝の日課であるライトの練習……をっ!?
僕はその瞬間、何が起こったのかまったく解らなかった。
それはそうだろう。
だって今は窓から差し込む日の光によってこの部屋の中は十分明るかったのに、その朝日に負けないほどの強い光が僕の指先から放たれていたのだから。
と言う訳で、少しだけ物語が動きます。
少しだけですけどね。